第10詩 目覚めの世界



車に乗り込む


エンジンをかけ オーディオをオンにする


その音楽には羊の笑い声が流れている


ゆっくりと安全運転


目的地へ 羊と共に向かう


隣の助手席を見る 羊ではなく女が座っている


知らない人間はオーディオを消す


テレビのスイッチをオンにすると羊の鳴き声が流れてくる


外を見る


羊が鶏を食べていた


もう一度助手席を見た


女は車からいなくなっていた 開けっ放しのドア


手を伸ばしてそのドアを閉める 聞こえる羊の声


ビル群の間を車は通り抜ける 光の線が車を横切っていく


誰もいない


ただ明かりが点いているだけの街 機能はしているようだ


信号機がずっと青のままなのは幸運だった


止まることのない車 


羊の鳴き声がうるさいのでテレビを消す


静寂 


トンネルに入る 中は真っ暗だ


急ブレーキを踏む


羊が一匹 通せんぼをしていた


羊が鳴く


車を急発進させる


羊は車のフロントに乗り上げて勢いよく後ろに吹っ飛ぶ


トンネルを出る


もう 羊を見ることはなかった


隣の助手席を見る ドアは閉められている


いなくなった知らない人間 あれは幻だったのだろうか


運転席の窓を開け 風を中に取り込む


風の音だけが聞こえる


その事だけは とても幸せに思えた



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