人間の世界

 人間の住まい――


 私たちが立ち入ることの許されない世界。

 即ち、ここは死地なのである。


 洞窟を真っ二つに引き裂いた人間の大きな口が見える。

 その口へと洞窟だったものが運ばれていく。


 リーダーがいる! 白色に一点の黒。

 間違いない。どうしたらいい。このまま見ていることしかできないのか。拳を握る。


 見捨てる?


 見捨てない?


 助ける?


 助けない?


 見捨てない!


 助ける!


 そう思うよりも速く体が動いていた。

 脱兎の如く駆け、人間に姿を晒す。


 気付けば冒険家たちも気を失っていた者たちまでもが私と共に死地へと飛び出していた。


 生きることを諦めたわけではない。


 私は――私たちは、死地に活路を見出したのである。


 総勢六匹――私たちの姿を発見した人間はその大きな目玉をぎょろぎょろと動かし、手にしたパンへと黒目を移す。一点の黒を目にしたと同時にパンは宙を舞った。


「くそッ! 虫が入ってやがる」


 人間は汚いモノを扱うように二つに裂かれたそれを極力触れないよう、最小面積で摘み上げるとゴミ箱へと放り投げた。


 放り込まれた深淵の中で私が最後に聞いたのは、黒い魔法の箱の中にいる小人の声だった。



「昨日、○×県□△市で購入されたパンの中から体長、二ミリから三ミリの虫が混入していたことが判りました。

 今月に入って同様の報告が数件あったとのことです。

 報告の上がっているパンは全て○×ベーカリーで製造、出荷されたものだと言うことです。○×ベーカリーは今回の件に対して、『混入原因の調査を直ちに行い、混入経路を特定いたします』と声明を発表。

 商品についても自主回収を始め、購入済みの商品についても返金に応じるとのことです」

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