焦燥Ⅰ
「おい、何か聞こえる」
リーダーの声に私たちは足を止める。
水の音だ。
壁面を隔てた先に水がある。ついに洞窟から出られる。私とリーダーは顔を見合わせ頷き合う。
しかし、冒険家たちは顎に手をやりなにやら思案する。その様子はロダンの考える人のポーズを彷彿とさせる。私も冒険家たちが何を考えているのか推察しているうちに
自然と顎へと手が伸びていた。
リーダーは一人やきもきしていた。
普段は慎重に計画を練るタイプであるが、完璧主義者であるが故に冒険家という自身よりはるかに優秀(場数を踏んでいる者たち)の出現に焦っているようだ。
慎重に行動しようと告げた冒険家に、「ああ……」と素気ない返事をするのが精一杯のようである。
「まぁ、仕方ないよな。いきなり現れた得体の知れない連中に指図されて気分のいい奴なんていないからな」と寛大な心で冒険家はリーダーの失礼な態度を許してくれる。
骨の髄までリーダー気質が染み込み、融通の利かない面もあるが、几帳面故の小心者だと割り切っているらしい。
私たちが彼をリーダーと呼ぶのも彼自身の特質があるからだ。
ただ、自分が一番という自負が彼の柔軟性を損なわせているとは常々思う。
長所を誇り、短所には目を瞑ってしまう。不完全がために抱く親近感。決して口にはしないが、多くの短所が長所を際立たせていると私は思うのだが彼は認めないだろう。
リーダーたるものは完璧でなくてはならない、それが彼のリーダー像なのだ。
アンタも大変だな、と冒険家の一人が耳元まで口を持ってきて言う。
私は、そうですねと愛想笑いと共に返す。
そのまま冒険家は私の返答とは全く関係のない話題を持ち出し語り始めた。
特に私が心を惹かれる話はなかった。
それでも私の知らないことは多く知識欲という面では多少惹かれた部分もあったかもしれない。
語られる話の内容以上に私たちの住まいでは起こりえない事象について何度か質問をした。
新たに得た知識を頭の中で反芻しながら歩いていると自然と歩幅は狭くなり、歩調は緩やかになる。
冒険家たちは私の速度に足並みを揃えた。集団のペースは一気に落ちる。
終始一定のペースを保ち黙々と歩き続けるリーダーが孤立しつつある。
冒険家も他愛ない会話を止める気はないようで語ることを止めようとはしない。
痺れを切らしたリーダーが、「軽口を叩くのは止めろ」と叱責した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます