希望の星
言葉も出ない。
あまりの衝撃に臆病者たちは気を失ってしまった。
今は冒険家がそれぞれを担いでくれている。
私ももう少し気が弱ければ同じように意識を手放してしまっていたことだろう。
私以上に狼狽えているのがリーダーである。荒唐無稽な現実を突き付けられ、思考が現実に追い付けていない様子である。
しかし、どのようにして私たちは洞窟(今更パンと呼ぶのも違和感がある)に迷い込んでしまったのだろうか。
曖昧模糊として現在に至る経緯を思い出すことが出来ないでいる。
冒険家たちは口を揃えて「偶然」「不運な事故」などと他人事な言葉を並べる。
食品に虫が混入することを私たちの国では毛嫌いする。
外国に目を向ければ屋台の鍋の縁には爪先ほどの大きさの虫が羽休めに立ち寄り、清掃前のテーブルには両手を擦り合わせる虫が残飯に群がっている。
日本人は些細なことに気を取られ過ぎなのだ。虫を食べたからといって死ぬわけではない。むしろタンパク質を摂取できたと思えば得をした気分になれる。一つの命を奪っておきながら、混入事件だと騒ぎ立てる人間は横暴で、命を軽んじている。
生態系の頂点に君臨しているのは自分たちだという自負が、かけがえのない小さな命を散らしてなお、死者を冒涜する存在へと変容させたのだろうか。
あまりにも身勝手である。
しかしそれは仕方のない事だと冒険家たちは語る。
身勝手な人間たちの御蔭で食うものにも困らない、と。危険を冒せば見返りに一生をかけても消費することのできない食料の山にありつける。
日本に生まれたのは運がなかったと思って諦めるんだな、と笑う。
冒険家たちは原材料に紛れ込んで洞窟へと潜入したらしい。
原材料に紛れ込む段階で見つかってしまったらどうなるのか、想像に難くない。
危険を冒すからこそ冒険家なのだと胸を張る彼らは一つしかない命を最大限に活用し、横暴な人間たちに一矢を報いている我々の希望の星なのかもしれなかった。
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