第5話 成長する冒険者

「……おおう、またかい」


 目が覚めたリョウマの前には、ずらりと魔物たちが並んでいた。

 先日と同様に手には器を構えて、目をキラキラさせながら。

 明らかに先日より魔物の数が多いのは、気のせいではないだろう。

 リョウマが目を覚ましたのに気づいた魔物たちは、どこからか調達してきた食材を置いていく。

 そして作ってくれ、そう言わんばかりの目でリョウマを見つめる。


「ったく、わかったわかった」


 ここまでお膳立てをされては断るわけにもいかない。

 リョウマは大あくびをしながら、調理を開始する。


「ほいよ、出来たぜ」


 リョウマは列をなす魔物たちに豚汁をひたすら注いでいく。

 順番が近づくにつれ魔物たちは色めき立ち、わいわいと叫び声を上げる。


「押すな押すな、量は十分あるからよ」


 その度に増えていくお礼のアイテムの数々。

 全員に注ぎ終わる頃には辺りはまた、アイテムの山になっていた。


「ぴーぎー♪」

「ほい、お粗末さん」


 礼を言っているのだろうか。

 嬉しそうに木の実を手渡してくるジュエルスライムの触手をリョウマは撫でた。


「……さて、本格的にアイテムを消化しないとな」


 木の実に貨幣、そして今回は武具が山盛りだ。

 武具は重いしかさばる為、すでに満杯近いリョウマのアイテムボックスには到底収まり切らない。

 そのランクも低く、リョウマが現在装備しているものよりだいぶ劣っていた。

 だが使い道はある。


「合成するか」


 リョウマは鞘から抜いた刀――――凩コガラシを地面に置き、剣、槍、弓、斧……大小さまざまな武器をそれにかざす。

 すると、眩い光と共にそれらの武具は凩に吸い込まれていった。

 ――――武具合成、冒険者の得られるスキルの一つで、メインとなる武器に他の武器を合わせることでその能力を得られることが出来るのだ。

 とはいえ基本、それで得られる能力は微々たるもので、低レベル魔物の落とす武器程度では切れ味を少し上げる程度だが、中には特殊なスキルを得ることもある。

 今回で言えばこんな感じだ。


 凩

 属性、刀

 レベル3→5

 +闇属性付与(小)

 +火属性付与(小)

 +再生(小)


「ん、それでもいくつかスキルが付いたな」


 リョウマは鑑定で得られたスキルを眺め、機嫌よく凩を鞘にしまう。

 ちなみに鑑定も冒険者スキルの一つで、自身の持つアイテムや、本人の身体能力を数値としてみることが出来るのだ。

 続いて傘に外套、服の下に仕込んだ鎖帷子にも同様に合成を行う。


 傘

 レベル1→3

 +暗闇耐性(小)


 青縞外套

 レベル3→5

 +風耐性(小)

 +水耐性(小)


 鎖帷子

 レベル4→6

 ダメージ軽減(極小)→(小)

 軽量化(極小)→(小)


「ふむふむ、思ったよりもいい武具をくれたみたいだな」


 本来であればスキルつきの装備はかなりのレアアイテムで、数十個に一つあれば運がいいくらいだ。

 それにリョウマ自身のステータスもえらいことになっていた。


 リョウマ

 レベル1

 力36

 素早さ52

 器用さ50

 魔力32


「おお、また増えているな」


 成長の実を、たらふく食べた結果である。

 どうも身体の調子がいいと思ったリョウマは、鑑定で自身のステータスを見たのだ。


 するとこの有様、レベル1冒険者のステータスは平均一桁とされている。

 それを考えるとまさに異常な数値であった。

 リョウマは彼らの感謝の気持ちをひしひしと感じていた。


「今度はもっといいもん食べさせてやらないとな」


 リョウマはそう呟くと、強化された装備を再び身に纏うのだった。


 ――――――――――――――――――


 一方、レオンらは無事、街に帰還していた。

 だが命からがら逃げ伸びてきた彼らに、ギルドの人間の視線は冷たかった。

 のけ者である異国人リョウマをパーティに迎え入れた直後、彼を見捨てて逃げ帰ってきたのだ。

 先輩冒険者は後輩冒険者の面倒をしっかり見る、という暗黙の掟がある。

 ましてや相手は異国人……珍しい物を所持しており、盗賊に狙われる事も多い身だ。

 見捨てた……それどころか、リョウマを殺すために仲間に加えたと取られてもおかしくない。

 少なくとも今レオンの前にいる、ギルドの受付嬢はそう考えていた。


「違うんだッ! 見捨てる気なんてなかった! 本当だ!」

「ですからそれはこちらで詳細な調査をし、決める事です」

「ジュエルスライムが出たんだよ! 皆も見てる! なぁ! メアリス、ルファ」

「本当です! 信じてください」

「えぇ、神に誓って!」


 懇願する三人にも、受付嬢は冷静なままだ。

 鉄面皮のまま、ゆっくりと首を振る。


「そのあたりも含め、追って沙汰を出しますので。今日はこの辺でお引き取りを」

「ま、待ってくれ!」


 書類をまとめ引っ込む受付嬢に縋りつくレオンの後ろからヤジが飛んでくる。


「おいおい、往生際が悪いぜぇ!?」

「女ばっかはべらしてるから信頼ねーんだよ! 受付さんがそういうの嫌いなの、知ってるだろ? レオンちゃ~ん」

「く……貴様ら……」


 ニヤニヤ笑う野次馬を睨み付けるレオンだが、彼らは全く気にしている様子すらない。

 そもそもこの中の誰もがレオンより格上。引き下がるより他、なかったのである。

 すごすごと酒場を追い出され宿へと向かう最中、落ち込むレオンを二人が慰める。


「ったく、あんな言い方ないじゃない、ねー? こっちが下手に出てれば調子に乗っちゃってさ」

「あんなの気にしなくていいわ、元気出してレオン」


 励ますルファの手を、レオンは振り払う。


「お前らに何がわかるッ!」

「れ、レオン……?」


 苛立ちを露わにするレオンに、メアリスとルファは戸惑う。

 しまった。そう気づいたレオンは即座に頭を下げた。


「す、すまない……君たちに当たっても仕方ない事だった」

「う、うん。いいのよレオン。あんな事があったんだものね」

「あぁ……」


 レオンは彼女らが駆け出しの頃から面倒を見ており、それからずっと行動を共にしていた。

 今ではレオンの数少ない理解者である彼女らに見捨てられてしまったら、レオンはもうどうしようもない。


「でも、どうしましょう……あのままではギルドでの活動に支障が出るかもしれません」


 メアリスの言う通り、ギルドからの評価が低ければランク査定に響いてしまう。

 元々、レオンはギルドの印象を上げるべくリョウマらを仲間に引き入れたのである。

 初心者に冒険者としてのあり方を教えれば、ギルドの印象は上がる。

 だが逆に、印象を下げる結果になってしまった。


「ねぇ、ジュエルスライムがいることを証明すればいいんじゃない? 破片とか探せばあるかもよ」

「ふむ……」


 レオンとしてはあのダンジョンにもう一度足を踏み入れるというのはあまり気が進まなかった。

 だが彼女の意見も一理ある。

 ジュエルスライムの破片があれば、自分らの潔白が証明されるではないか……と。

 しばし考えた後、レオンは頷く。


「……そうだな、確かにいい考えだ」

「でしょ!」

「ふふ、当面の目標が出来ましたね」


 先刻までのと打って変わり上機嫌のルファとメアリスを見て、レオンは安堵の息を吐く。


(くそ、リョウマの奴め。全く面倒な奴と関わってしまったぜ)


 怒りに任せ、足元の石を蹴飛ばすレオン。

 全くの八つ当たり、リョウマにとっては理不尽極まるものである。

 だが当の本人は、それを全く意識してはいなかった。


 かくしてレオンは再度赴く。

 命からがら逃げ出した、恐るべきダンジョンへと……

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