3-11.継承権返上
「では、良いのだな?」
「はい。王族を殺そうとする人魚を持つ者が、玉座に相応しいとは思いません」
王位継承権を返上する旨を述べたヘルベナに、父親である王は最初は思いとどまらせようとしたが、意思が固いことを知ると、遂に諦めた。
「ローテムの容態は?」
「お医者様の話では、先ほど起き上がって軽い食事を召し上がった後に、もう一度寝たそうです。数日で良くなるでしょう」
「そうか。正妃の子ではないとは言え、あれも立派に継承権を持った王族だ。人魚に殺させるわけにはいかない」
ヘルベナの傍にラディアナの姿はない。
広間から逃げ出してしまった後の行方が掴めず、城の兵達が探し回っているが、未だに何の知らせもなかった。
「しかし、姫よ。今日はいつもと様子が違うな」
「そうでしょうか?」
「普段は……そのぅ、他人任せなところがあったが、今日は実に頼もしい。本当に王位継承権を返上することを残念に思う」
平素は声の大きな父親が萎んだような声で言うのに、ヘルベナは少し心が痛むのを感じたが、一度決定したことを覆すことはなかった。
「……確かに私は人任せでした。けれどもここ一年ほどは、それが余計に酷かった気がします。まるで私のダメな部分を、誰かが無理矢理引き出したような」
「何を言っている?」
「戯言です。お聞き逃し下さいませ」
ヘルベナは一度深々と礼をすると、謁見室から出るために王に背中を向ける。
「姫よ」
「……戯言ついでです。倒れたのがローテムお兄様でなければ、私は此処までしなかったでしょう。それではお父様、おやすみなさい」
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