第12話

刑事は一瞬怪訝な顔をしたが、おどしと取ったのか鼻で笑い、手すりに手をかけ、上り切ろうとした。

その時。

「わっ!!! 」

 はしごが大きく揺れた。

 ボルトが抜け、はしごは真田刑事を乗せたまま大きく後ろへ傾き__。

体が先に動いていた。

がしゃっ、と外れたはしごがビルの壁にぶちあたる音がした。

 真田刑事が叫ぶ。

「!? なっ・・・! 」

僕は腹ばいになって両手をいっぱいまで伸ばし、刑事の右手首をつかんでいた。

宙ずりになった刑事が驚愕の顔で僕を見ている。

くそ、手袋じゃ手がすべる。

「つ・・かまれ」

 ずずっと体が前に引きずられながらも、僕は懸命に近くの手すりまで刑事の手を引き上げた。右手を手すりに捕まらせると、彼の左腕を掴み、何とか刑事を引っぱり上げる。


 真田刑事はひざをつき、荒い息をしながら、戸惑った表情で僕を見上げた。

「また、黒の・・・お前、何物・・・」

僕は視線を逸らし、ほこりまみれになった服をはたいた。

「・・・忠告はしましたよ。全く、無茶をする人ですね」

「お前・・・」


バラバラバラ、とヘリコプターの音が近付いてきた。

迎えだ。

「では」

僕は地面に発光弾を叩きつけると同時に、後ろを向いてビルの端まで猛然と走り出した。


「目が! く、くそ、待て! 」

真田刑事の声が背後で聞こえる。


ヘリコプターは目の前に迫っていた。

闇を切り裂くライトに目がくらみながらも、入り口から降ろされた縄梯子が風で大きく揺れているのが見えた。

無線から連絡が入る。

「ブラック、梯子に飛び乗るんだ」

「ラジャー! 」

僕は落下防止の柵の上に乗り、すぐに梯子へ飛び移った。ヘリコプターがゆっくりと上昇する。

 眼下に真田刑事が見えた。盛んに目をこすっている。

「では、御機嫌よう、真田刑事」

「く、くそ」


 ちょうど階段から他の警官達がなだれ込んで来た所でヘリコプターはビルから離れた。

 思わず安堵のため息をもらす。

 今回も、何とか作戦成功だな。

僕は小さくなっていくビルをずっと見つめていた。

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