第7話
学長に早速翌日から地下室へ来るよう言われた僕は、次の日部活が終わった後部屋へ直行した。
「いきなり大任だぞ、藤堂」
やけに嬉しそうな北島先生が地図をテーブルに広げて待っていた。D市博物館と周辺の地図が描かれている。先生が博物館を指差した。
「まず簡単に説明するぞ。今度の標的はD市博物館だ。近くだから藤堂も一度は行った事があるだろう。うん、そこの小さな置物を盗むわけだが、それは赤の男爵がやる。藤堂には、男爵が盗んだ後、彼の逃亡の手助けをして欲しい。そこでだ」
先生は地図の上に別の紙を広げた。博物館とその敷地内の拡大図になっており、先生は博物館の一つの窓を示した。
「男爵はここの窓から出て東へ逃げるから、君は少し離れた茂み、この辺だね、に潜んで彼が行ったら西へ逃げる。警察を分散させる為にね。つまり」
「囮ですね」
僕は先に答えた。学長から男爵の影に、と言われた時から何をするかは薄々分かっていた。先生が頷く。
あれ、でも囮だったら、もしかして・・。
僕の疑問を見透かしたように、先生がにやりと笑った。
「そう。もちろん、藤堂も赤の男爵の扮装をしてもらう」
「ほ、本当ですか!? 」
「厳密に言えば男爵の変装、だけどね。・・・大変な役だが、がんばって欲しい」
「は、はい」
憧れの男爵に近付けるだけではなく、自分も、例え偽者でも男爵になれるんだ。これは頑張らないと。
それからの一ヶ月は怒涛のように過ぎた。
僕は毎日地下室に通いつめ、先生達とD市博物館の写真や地図を見ながら何度も逃亡手順を確認したり、博物館のセキュリティーを調べたり、男爵が使う道具の使い方を教えてもらったりした。コンピューターで博物館周辺の情報収集をしたり、休日には実際にこっそり一人で博物館まで行って逃亡経路を確認したりもした。
その間に赤の男爵も何度か地下室を訪れ、情報収集等をしていたが、彼はいつでも男爵の扮装をしていてそれを解く事はなかった。周りの先生達も一向に気にしている様子はない。最初は黙っていようかと思ったが我慢ができなくなり、遂に僕はある放課後北島先生に聞いてみる事にした。
「あの、先生」
周囲を見渡し、小声で北島先生を呼ぶ。
「ん、何だ」
他の先生達はデータと睨み合いをしていてこちらの様子に気付いていない。
「あ、あの、赤の男爵って誰がやっているんですか」
言ってから思わず周りを見回す。
今日は赤の男爵は来ていなかった。
先生も身をかがめ、小声になって答える。
「藤堂、その質問はここでは禁句だ。・・・赤の男爵の正体はわからないんだ。先生もここは長い方だけど、学長を始め数人の先生方しか知らない。味方にさえ教えないのはフェアじゃない、と思うかもしれないけどね、赤の男爵はここの最重要機密だ。わかるか? 知ってる人はできるだけ少ない方がいい。例えパートナーでもね」
「そうなんですか・・・」
何となく予想していたとは言え、少しがっかりした。北島先生が笑いながら写真を差し出す。
「そんな顔するな。正体がわからなくても、君が尊敬する人物には変わりはないわけだろ。それでいいじゃないか。それより、この人物に注意していてくれ」
僕は気を取り直して写真を受け取った。
少し伸びた黒髪と日に焼けた精悍な顔が印象的な男性が写っている。
「彼は真田刑事と言ってまだ若いんだが、赤の男爵の事件は彼が担当でね。これがまあ、熱血漢でどこまでも追いかけてくる。一番の要注意人物だよ。赤の男爵の、最大のライバルだな。君もくれぐれも気をつけるんだよ」
ふうん。
僕は写真をじっと見つめた。
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