第4話

その日は学校にいるのが嫌になるような、五月晴れのいい天気だった。グラウンドの上を涼やかな風が渡っていく。

「藤堂、お前体操やってるのか」

 体育の授業が終わった後、同じクラスで親友の田中や、他のクラスメイト達にせがまれバク転を披露していた僕に、体育の顧問が声をかけてきた。

「あ、はい、昔に。中二ぐらいまでやってたんです。受験とかで辞めちゃったんですけど」

「それで運動神経がいいんだな。足も速いし。今日やった基礎体力テストな、お前がダントツだよ」

「あ、はあ」

「期待してるぞ。ああ、そうそう、お前らこれから教室に戻るだろ。このプリントを北島先生に渡してくれ。担任だろ」

 じゃあ、とプリントを渡され、僕と田中達は教室へ帰る事にした。

 期待してるって何だろう。まさか体育祭・・じゃないだろうな。第一担任じゃないし。

 悶々と考える僕に田中が声をかけた。

「藤堂、そのプリント何? 見せて」

「いいけど、つまんないよ。安全衛生のお知らせとかって・・・あっ」

 プリントを彼に手渡そうとした時、強い風が吹いた。紙が僕達の手をすり抜け後方へ飛ばされる。

あわてて振り返ると、丁度僕達の後ろにいた背の高い上級生が紙を拾い上げた。端正な顔がにっこりと笑い、僕に紙を差し出す。

「はい」

「あ、ど、どうも」

 彼が通り過ぎるのを待って、クラスメイト達が小声で囁く。

「今の生徒会長だよな。あの人、かっこいいよなー」

 僕も強く頷きながら、生徒会長の後ろ姿を見送った。


学校が終わって家へ帰ると、玄関に見慣れないダンボールが置いてあった。見ると、紙パックのお茶がワンケース分も入っているようだ。

ダンボールの上には二つ折りの真っ赤な紙が貼られている。

これってもしかして。

ぴんと来た。

急いで中を開けると、印刷の文字で

「赤の男爵」

とだけ書いてあった。

さすが赤の男爵だ。

あの時からまだ三日しか立っていないのに。

思わず顔がにやけてしまった。

その時の僕に、これから起こる事がどうして予測できただろう。

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