第2話 ハロウィン到来(本気)!

(あれから2日経って、とうとうハロウィンの日になった。ということはが来たということか…)


祐樹は人知れずに思い悩み、考えていた。


(今更なんてもう、遅いよな?)


『祐樹サ〜ンハロウィンの日になったことデスし、イイ加減願いを教えてくださいヨー。

あ、それともこう言えばいいデスか?

“さぁ願いをイエ。どんな願いデモ一つだ…』


『それ以上言わなくていいからっ!』


シリアスな感じの祐樹に対して、能天気にギリギリなことを言ってきたのは、ハロウィンの妖精?(自称)リーナだった。


(そう言えばリーナあれからずっと居るよな…)


あれからリーナは祐樹の家でテレビを見てこの世界のハロウィンについての情報収集をしたり、祐樹のご飯をご馳走になったり、バラエティ番組で笑い転げたりなんとも普通の人間のような生活を送っていた。


(いい加減面倒だし、ここは適当に…)

そう祐樹が思った瞬間唐突にリーナが口を開いた。


『あ、それと詳しい内容はワカラナイデスが、嘘かどうかは分かるノデ適当言っても無駄デスよ?』


『はぁ?じゃあこの茶番はなんだったんだよ!?』


『コミュニケーションデース♡』


『ふざけんな ♡』


祐樹は色々とかなり言いたいことがあったが、リーナに常識は通用しないと思い、仕方なく話し始めた。


『ったく分かったよ。話すよ…………

実は俺、高1の時に好きな人がいて…おいその顔やめろや。リーナが言えって言ったんだぞ?』


祐樹は驚愕きょうがくで目が見開かれ、笑いを必死にこらえているリーナを制止しながら続けた。


『あーそれでその人まぁ白石さんっていうんだけど、実は白石さんも俺に好意持ってくれてて告白してくれたんだ。俺も好きだったし返事をしようとしたんだけど、その、は初めてのことだったからなんかうやむやになっちゃったんだよ。だから俺はあの日の返事を今更だけどちゃんとしたい!って言うのが望みで。………でももう無理なんだけどな……』


祐樹はどこか暗い目をしてそう告げた。


『?無理と言うのはどういうことデスか?』


リーナはそこだけ質問してきた。


『それが、お父さんの仕事の都合で今日、海外に引っ越すんだよ。だからなんだ』


件の白石さんのお父さんは海外にまで影響がある大手企業の重役なのだ。


『それで祐樹サン。それを知ってて何もしなかったナンテ ……』


『バカなんdeathか?』


『あぁそうだよっっ!!!俺はバカだよ!!

あとお前絶対、語尾おかしいだろ!』


祐樹に残された手段は叫ぶことだけだった。


『海外となると飛行機デスか…祐樹サン、どこの空港トカ、何時のやつかトカ聞いてないんデスか?』


『あ、あぁ一応聞いてるよ。でもねーちゃんが通ってる大学の方、つまり都心の方だからここからじゃ車でも4〜5時間はかかるし、あと飛行機が出るまで1時間半ぐらいしか無い……』


どの道もう無理だ。こうなってしまったのも自分のせいだ。そう祐樹は思っていると、リーナがこんなことを言いだした。


『キツイかも知れないデスが、やれることはやりましょう。ダイジョーブです!このワタシに任せてクダサーイ!』


そう言うとリーナはどこからかスマホを取り出し、クロウに電話をかけた


『もしもし、クロウデスか?をお願いシマース…。』






『うぉおおおおおおおおおおっ ーーーー早すぎんだろぉおおおおーーおいぃぃリィィナァァー!!』


唐突だが、リーナと祐樹は高速道路で風と化していた。向かってくる風がまるで命ある化け物のようなすごい風圧とけたたましい音を立てていた。


『アハハハハ、祐樹サンあんまり喋ると舌かみマスヨ?』


リーナはやはりどこまでも呑気なようだ


『でもリーナ、これって普通のバイクじゃ無いよな?って言うかお前乗れたんだな!?何だよこれ?』


暴風が吹きつける中、祐樹は何とか聞いてみることに成功した。


『はぁい!これはワタシの愛車の“ファントムン”デース!』


『ふぁ、ファントムン?』


(よく聞こえなかったけど確かにそう言ったよな?)


さらにリーナは続けた。


『しかもただのバイクじゃ無いんデスよ?特殊技能【幻影疾走ファントムドライブ】がついてるんデース!なのでどこデモ何デモ法則とかガン無視デ走れマース』


『す、すごいなこのバイク』


大型のレトロな感じのバイクが風に負けずに豪快なエンジン音を立てていた。


(まてよすり抜ける?…………すり抜けるだって!?おいおいまさか…………)


『なっなぁリーナさん?もしかして‥』


『ハイ!急いでいるノデ前のクルマとかそのままゴボウ抜きデーーース!。』


『待て待て待て待て、待ってくださいぃぃ』



祐樹の絶叫は風の一部となり彼方に流れていった。



『し、死ぬかと思った。』


ひどい吐き気と喉の痛みが残ったが、祐樹はギリギリたどり着けた。


『祐樹サン。何だかすごい人だかりデスよ?』


『…本当だな。』


空港内にはかなりの人がいてとても混雑していた。

みるとそこにはテレビ局まできており、スターでも来日しているのかと祐樹は思ったが不意に野次馬からすごいことが耳に飛び込んできた。


『おい、聞いたかよ?離陸前の準備に入ってたT-786便にいきなりハイジャックが入ったんだってよ!』


『マジかよそれ!?でもお前それまだ飛んでねぇから、“ハイ”じゃないんじゃね?』


(な、T-786便だとっ…それって確か白石さんが乗る予定の…)


祐樹は動揺していた。わけが分からなかった


『ナルホド…確かに何か立て込んでマスネ』


そう言うリーナは遠くを見るような仕草をしていた。


『っっリーナ見えるのか?ここから』


『ハイ!』


(どうする?どうすれば?いや俺が悩んだところで何も…………)


己の無力さを改めて感じていた祐樹にリーナはふと、まるでコンビニ感覚で告げた。



え!?


そう言うと祐樹の手を取り外へ出て何やら呪文を唱え始めたかと思うと祐樹の景色は飛行機内へと早変わりしていた。

飛行機内はジャンボなので意外と広く、後方に乗客が固められており前方の空いた空間に男が二人、人質と共に立っていた。

何と人質には……


『し、白石さん!?』


『う、嘘!?嵐山くん!?どうしていきなりここに?』


白石さんもとい白石穂花しらいしほのかは男の腕の中で恐怖と驚きに震えていた。


『な、何だオメーら。どうやってここに入ったんだよ?』

大柄の男が叫んだ。


『そ、そうすっよ一体どうやって?』

大柄というより小太りの子分体の男も訪ねてきた。


『いやそれはこっちのセリフというか…。リーナ一体どうやったんだ?』


祐樹もつられて聞いてみるとリーナは自慢げに答えた。


『フフフッこれこそワタシの、ハロウィン妖精の魔法の一つ【お菓子をトリック貰いに今オア行きますトリート】デース。まぁゲートのようなものデース!』


そう簡単にリーナは言ってのけたが、それって案外かなりすごいことなのではと祐樹は驚いた。


(いや、待てよ…)


『なぁ、そんなのあるんだったらわざわざ“ファントムン”なんかに乗ってこなくても良かったんじゃないのか?』


『はい?そうデスよ?』


これまたさらりとリーナは言ってのけた。


『じゃあそうしろよっっ!』


するとリーナはどこか遠い目をしながら


『たまにあるじゃないデスか。……………

風になりたい時が、ネ。』


と言った。


『なぁお前願い叶えてくれるだよね?

だったら今その時じゃないって考えろよっ』


祐樹が容赦なくツッコんでいると男たちが気になることを口にした。


『チッか一体何のようだ?』


(ん、同業者?どういうことだ?)


祐樹がリーナを見ていると、ゾクリと急に寒気がした。初めて会った時に体験した、リーナから発せられるプレッシャーのようなものだ。


『っっ!』


『あぁ祐樹サンはんデシたね…えいっ』


何事もないようにリーナが指を鳴らすとまるで空間が溶けるように揺らいだ。かと思うと男たちの姿も変わっており…

大柄の男は何かの獣のような姿をしており爪や牙がチラついていた。

小太りの男は縦よりも横に大きく、俗にいうオークのような姿をしていた。


『な、何なんだよこいつら…』


不安にかられ聞いてみるとリーナはそれに丁寧に答えてくれた。


『アレはからやってきたはぐれの魔物デス。きっと恐らくコレも茶番なのでショウ。…………』


『茶番…って?』


『魔物は最終、人を

ことで強大な力を得マスが、それよりも上質な力のミナモトは単純な人間の

なんデスよ。怒り、悲しみ、喜び、そして恐怖とかネ…………』


祐樹は完全に言葉を失っていた。なんというか気持ち悪さとかも込み上げてきて最悪だった。


(そうか、だからこいつら魔物なのに立てこもりなんて。クッソッ)


つまり男たちはより多くの感情、恐怖を得て力とするために人質をとり、人々を恐怖させているということだ。


『アニキ、こいつらもしかして…』


小太りの男が不気味に笑った。


『ああそうだなパットよ。ククッさぁてどちらが傷つけばより多くの恐怖が得られるかな?』


そう言って獣の男は祐樹と穂花を交互に見ていた。


『ひっ…』


(まずいな。知り合いって気づかれたか?白石さんが危ないっ。)


恐怖で震える穂花を見て祐樹は思った。



『おいリーナお前なんとかでき…………』


そう言おうと思った瞬間バタンと鈍い音がした。リーナが倒れたのだ…。


『ど、どどうしたんだ!?大丈夫かっっ?』


祐樹は慌てて駆け寄り訪ねた。


『ハハ、ダイジョーブデース。ちょっと魔力を使いすぎたもんなのデ。スコシ待っててもらえマスか?』


(よかった。特になんともなくて。でもこうしてる間にも白石さんが…)


『へへへじゃあまずこっちからいこうか?』


今にも魔物が白石さんに手を掛けようとした刹那、祐樹は止まってはいられず恐怖にかられながらも走り出していた。


『チックショオオオオオオオオオッッ!!』


(リーナは動けない。なら、俺が行くしかない!)


祐樹は拳を振り上げ跳躍し、肉迫したがやはり簡単に捕らえられ、首を締め上げられていた。


『ぐっ…………がはっこ、このぉ』


『ギャハハ大人しくアニキがやるのをまってりゃ良かったのにヨォ。自分で自分追い込んでやんの』


(も、もうダメだ。意識が…………)


祐樹が死を覚悟し暗闇に閉ざされそうになったその時、急に魔物たちに緊張が走った


『ア、アニキ…』


『ああ。なんなんだこの禍々しい魔力は?』


祐樹は何も感じなかったが二人が焦っていることは分かった。どういうことかと思うと、その矢先倒れていたはずのリーナが立ちあがり……


(よかった。リーナ目が覚め…)


だが目の前の少女は少なくとも祐樹の知るリーナではなかった。


今、非常に頭にきている。

私の顧客クライアントを傷つけて…。手短に言うぞ?選べ!今すぐこんなばかはかしいことやめて立ち去るか、この場で消し炭になるか。前方なら殺しはしない…』


威圧、恐怖、絶望。自分に対してではないと分かっていても祐樹も穂花も恐怖せずにはいられなかった。まるで身体の芯を直接揺さぶられているようだった。


『アニキ、この魔力にあの容姿。俺どこかで見た気が…………』


『へ、へっ構うんじゃねぇ。相手は女でしかもガキだ。ついでにこいつにも一役買ってもらうおうぜ』


『でもよプラッドアニキ…』


『あぁクソ。そんなに嫌ならこいつら持ってろ。 俺が行くっ!』


二人をパットに預け、プラッドがリーナに襲いかかり後方の客までもが悲鳴をあげる最中

リーナはいたって淡々と何んでもないように答えた。


『それはNOと受け取るぞ?』


二人が交差するかと思われた直前、リーナは右手を掲げ素早く正確に詠唱を始めた。


『新月の夜、彼の者を導き、終末の踊りを魅せろ【踊りジャック狂うオー誘い火ランタン】!』


するとリーナの周りに野球ボールほどのが浮かんでいた。と思うと、次の瞬間ヒュンヒュンと音をたて、プラッドとパットに襲いかかった。


『う、わぉあぐふぅあ、熱っ焼けるぅぁあ』


『く、そ、がこんなもんグ、…ガァァアア』


二人は絶叫し、苦しみの悲鳴をあげていた。

(すごいこれ。しかも俺たちに!)


見ると白石さんは既に気を失っていた。祐樹もギリギリだったが消えかけの二人からの言葉を聞き逃さなかった。


『お、思いだしたっっ……す…よ』


『フハハハッ

そうか、この力この威力…………お前は…………いや……』


そう言い残すと二人は完全に消え、祐樹は包まれて行く炎の中で、消えゆく意識の中でリーナを見て思った。


(俺は存在を知っている。やりたい放題でむちゃくちゃで。怖いのにに少し憧れて。絶大な力を振るう…………そう彼女は、)


猛る炎。風に舞う火の粉。その中で見事な金髪を風になびかせる少女の姿はそれこそまさしく【】であった…。





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