魅惑の食べ物

@rena_natsuko

第1話 シャウエッセン

 買ってみたいけども、お財布の事情や食卓での活用方法を考慮すれば「やっぱり今は買わずにおこうかな…」となってしまうものはないだろうか。そして「やっぱり」が重なり、買い物の際に目はいくけれども結局一度も買わないまま。そんなものが誰しも一つ二つはあるんじゃないだろうか。少なくとも私は結構ある。(だって少しでも多く友人との外食に回したいんだもの。友人との外食ほどおいしく感じる食事はない。)

 私の中ではその筆頭がシャウエッセンだった。少なくともここ数か月は、ちらっと見ては”400円”の文字にたじろいで諦めるということを繰り返してきた。なんでここまで引っ張ったかというと、私があんまりソーセージを食べる習慣がないので、無くても全然平気だったから、というのが大きい。豚肉や鶏肉ほど料理における汎用性が高いわけでもなく、またメインというほど存在感があるわけでもなく、どっちかと言えばレストランやホテルの朝食バイキングで出てくる付け合わせというイメージがあり、特にソーセージというものに重要性を感じなかった。

 しかし、200円ほどの安いソーセージを鍋に入れて食べた時、あまりの食べごたえの無さに驚いた。自分でもびっくりするほど、そのソーセージにがっかりしたのである。なんせ皮がなく、魚肉ソーセージでも食べてるような感触だった。まあそのソーセージを食べなれてる人なら「当然だろ」というような感想なのだが、なんせそれまで食べたソーセージと言えば、買い物好きな父が気が向いたときに買ってくるスパイスの効いたおいしいやつだったり、チーズフォンデュ用に買った普通の皮つきのやつだったりと、普段食べる機会がなかった分、出るときのクオリティーがやたら高かったのである。

 そんなわけで、あまりのふにゃふにゃウインナーに失望した私は、「今度はシャウエッセンでも買うか!」と思ったわけだが、ぶっちゃけお高いソーセージを入れる程鍋に気合いを入れたいわけでもなく、あとそんなに使い道ないし…と、なんやかんやで買わずにいた。それでいつの間にか数か月経っていたのである。


 そんなある日、某会社のクレジットカードを作った際に、特典として電子マネーに換金できるポイントをたんまりゲットした。そして脳裏に浮かぶシャウエッセンのパッケージ。料理としての使い道は少ないかもしれないけど、少なくともお金の問題は解決したぞ、と思った。けれど醤油が切れたから買わないといけないし、人生初の粉コーヒーだって買ってみたいし、あと日用品がもろもろ、と、結局また保留になった。誰にでも買うか微妙なものがある、とは言ったが、私のこれは単なる優柔不断の行き過ぎなのかもしれない。

 

そして電子マネーもそろそろ無くなりそう…といったところで天啓を得た。食堂でカレーを買って帰ったのである。


いつも使っている食堂で使える、一日1000円まで食べ放題のカードを持っているのだが、食費を浮かすためよく利用していた。そしてそこは夜になるとカレー以外あんまり私好みのメニューがないのである。とはいえ、そのカレーもがっつりレトルトのもので、正直美味しくはない。そこで私は買って帰っては家で卵やらチーズやらを乗せて食べているのだが、帰り道の途中でひらめいたのだ。


「ここにシャウエッセンをトッピングしたら、コ〇イチもびっくりな豪華なカレーになるんじゃね?」


そこからはもう早かった。早速近所のスーパーに寄り、わき目もふらずシャウエッセンの置いてあるコーナーに向かい、冷蔵庫に所狭しと並ぶシャウエッセンを手に取った。ついでにいろいろ必要なものもカゴにぶち込み、レジへと向かった。一体この動作をするのに何か月かかったのだろう。私はついにシャウエッセン(380円)を手に入れたのだ――――――。


 帰ってとりあえずよくわからないので適当に炒めて、待ちきれずにカレーに乗せる

前に一口食べた。


やっっべえ。


皮つきでパキッという音がリアルに鳴るソーセージの味わいは、安物の食材しか出てこない我が家(一人暮らし)にとって、底なしに深い物だった。

ジューシーで、燻製の香りが口のなかにいっぱいに広がり、噛むだけおいしさがじゅわりじゅわりと滲み出て、もはやカレーをおかずにしてシャウエッセンを食べていた。なんだこの食べ物は。なんという美味しさなのだ。ほんとうにお誕生日が来ちゃったみたいな美味しさじゃないか。

裏面に「黄金の3分間ボイル」なる茹で方も書いてあったので試してみたが、まあすごい。炒めた時はつい待ちきれず、しっかり熱くなる前に食べてしまったのだが、茹でることで中まで火が通り、あっつあつなのだ。しかもジューシーさがさらに桁違い

になっている。これだけで一袋食べきれてしまえそうな美味しさである。もはやおかずとか要らない。この美味しさだけ味わいたい。そんな魅力が如何なく発揮されていた。


ソーセージはメインになりえない、と私は冒頭付近で書いていた。単体でも美味しいが、確かにメインディッシュにするにはコスパがやや悪いかもしれない。だが、普段の料理の満足度を倍増させてくれる頼もしさがソーセージにはある。

多分これからも買うかどうか悩むのは続くだろうが、今までの葛藤に比べたら、その選択もずいぶん前向きなものになるだろう。シャウエッセン万歳。

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