第24話 凍ったコーラの落とし穴


 選定の剣を抜いた俺はウェールズを支配する十人の王、すべてから統一王として認められた。もちろんすんなり決まったわけではない。エルリックだけは最後まで俺が統一王となることに反対したが、自分の推薦するパーシスが選定の剣に選ばれなかったのだから、渋々認めざる負えなかった。


 さらに全員が俺を統一王と認めてすぐのことだ。フランス貴族であり、統一王候補だったパーシスは姿を消した。結局、あの男の目的は分からずしまいであった。


 それから数日が経過し、対デンマーク戦の準備を進めていた俺たちの前に、とうとうヴァイキングの大船団が姿を現した。


 龍の頭を持つヴァイキング船が二〇隻以上、カーデガン湾の上に浮かび、あと数十分もすれば上陸しそうな勢いでこちらに向かっていた。


「旦那様、凄い数ですね」

「ざっと一千人ってところか」


 三千人もいるのなら、船の数はもっと多いはずだ。おそらく他の場所から上陸し、包囲殲滅するつもりなのだろう。


「どう対処されるのですか?」

「あんなに大勢の相手をするのは大変だからな。まずは数を減らそうかな」


 リディアに弓に長けた部下を連れてくるよう命じると、彼女は船着き場に弓兵を集合させた。


「兄者、弓使いを集めたぜ」

「ありがとう。参考までに聞きたいんだが、こちらに向かってくる船を狙えるか?」

「私なら楽勝だ。けど他の奴らは無理だろうな」

「やはり距離が遠いか?」

「距離もあるが、動いている的を狙うのは、止まっている的以上に技術が要求されるからな」

「つまり船が動きを止めれば、リディアの部下たちでも矢を当てられるということだな?」

「止まっているなら楽勝だ。けれど的になるために動きを止めるほど相手も馬鹿じゃないだろ?」

「自分からは止まらないだろうな。だから無理矢理止めてやるのさ」


 そう言って、俺は冷たい海の中に手を突っ込む。あまりの冷たさに、全身に寒気が奔るが、気にもしていられない。


 俺は能力を発動するべく、頭にコーラを思い浮かべる。もちろんタダのコーラでは海が真っ黒になるだけで、船の足止めなどできない。だが俺の能力はコーラそのものでなくとも、コークハイなどのコーラの仲間も生成できる。当然液体のコーラだけでなく、気体や固体のコーラも生成可能だ。


 俺は凍らせたコーラをイメージし、海水に対して能力を発動させる。すると俺の手から広がっていくように、海は冷たく甘いコーラのアイスへと変化していく。当然固体のコーラの海で船が前に進むことはない。


「さすが、兄貴! これなら私以外の奴でも矢を当てられる!」


 リディアたちは長弓を使い、停船したヴァイキング船に矢を浴びせる。矢の雨が降り注ぐ船にはいられないと、デンマークのヴァイキングたちは船から飛び降り、凍ったコーラの上に立つ。


「兄者。あいつら凍った水の上を歩いて向かってくるみたいだぜ」

「阿呆だな、あいつら」


 全員が凍ったコーラの上に降り立ったのを確認すると、俺は能力を再度使用し、凍ったコーラを液体のコーラへと戻す。もちろん液体の上に立てる人間など、イエス・キリストくらいのものだ。凶悪なヴァイキングたちは極寒の海へと落ちていった。


「装備の重さと、この寒さで全員死んだかな」

「やっぱり兄者は凄えっ。たった一人で一千人のヴァイキングを倒しちまうんだからな」


 リディアとその部下たちが俺を褒めたたえる。と同時に、背後で俺の手腕を観察していた十人の王たちも、一千人のヴァイキングを倒したことを喜んだ。


「キモオタ、あんた……」


 あの口の悪い可憐も、俺をいつもとは違う目で見つめていた。まさか、初めての褒め言葉を口にするのかと期待して待つが、返ってきたのはいつも通りの罵倒だった。


「キモオタもこれで地獄行き確定ね。いや、ヴァルハラ行きなんだっけ」

「うるせぇ。俺もやりたくてやったわけじゃないんだ」

「あんたがヴァルハラへ行ったら、きっと死んだヴァイキングたちは、あんたに復讐するんでしょうね。可哀想だわ。私は一人天国に行くけど、あんたの幸せを願っているわ」

「お前も俺と変わらないくらいクズなんだから、天国に行けるわけないだろ」


 というより、こいつ一人だけ天国へ行くなんて、俺が絶対に認めない。


「旦那様、音が聞こえませんか?」


 アルトリアが神妙な面持ちで、山の方角を見つめる。その方角は別の船着き場がある場所だった。


「あ~、確かに聞こえる。これは銃声だな」


 聞きたくなかった最悪な音を耳にし、俺はげんなりとした表情で、銃声の鳴る方角を見つめるのだった。

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