第27話 どこまでも



 散策やら早めの昼食やらを終え、帰りのロープウェイ。ここもやはり、麗華と二人きりだった。


「なーんかあっという間ですね。もう後は車で帰るだけですよ。」

「まぁ、麗華が学校から帰るの待って出発して今もまだ昼飯食った頃だし、実際短い時間だからな。」

「それもそうですね〜」


 金曜日。

 13日でもない、金曜日。

 それをどうしても家で過ごしたくないが為の、逃避。

 その日をようやっと乗り越えた。

 しかし、また戦わねばならない。


「いい眺めですねぇ〜」

「それ行きにも言ってたよな」


 俺の軽口に麗華は不満そう、ではなく不思議そうに首を傾げる。


「やっぱり何か変ですよ、僚哉君。いつもなら『お前の方が綺麗だよ』とかイケボキメて言うのに。」

「そりゃ、お前の方が綺麗だと思ってないから出てたんだろ。」

「はぁ!?サラッと酷い!」


 そのテのおふざけはおふざけだからできる事。年齢だったりシチュエーションもあるだろうが、そういう台詞を大真面目に吐ける人間は尊敬する。


「……ん?じゃあ今は私の方が綺麗だと思ってるからその台詞が出ないんですか?」


 麗華はニヤつきながら「お?どうなんだ?お?」と俺の前で左右にステップを踏む。


「ああ、そうかもな」

「……え。な、何ですか、急に。そ、そういうおふざけは怒りますよ!」


 大真面目な顔で言うと、麗華は向かいに座り直して少し顔を赤く染める。ほう、こういうのには弱いのか?

 まぁ、大真面目な顔も何も、今のは大真面目だ。

 なんだか、麗華の事が前よりも。


「な、何ですか!今はちょっと……見ないでください!」

「いや、そんな顔もかわいいなって」

「──っ!?あの!だからそういうのは本当に怒りますよ!」

「ふははは」

「笑ってんじゃねぇー!」


 行きとは反対に麗華の顔が紅潮する。

 俺は、そんな顔も可愛い、なんて本気で思うようになってしまった。






 どうやら麗華曰く、『今日は私佳純の家に泊まってる事になってて』らしく、更に『今日はこのまま本当に佳純の家に泊まりに行くんです』という事らしい。麗華の友達のあの子、高校生で一人暮らしとか凄いな。

 家に帰るには遠回り、というか通り過ぎるのだが、麗華をその友達宅に送りがてらショッピングモールで買い物に寄る事となった。

 買い物、と言っても服を見る訳ではない。晩飯の買い物程度だ。


「麗華ちゃん、買い物っていうのは?」

「あ、佳純の家に晩御飯の具材とお菓子とか適当に買っていこうと思いまして。」

「じゃあ欲しいのじゃんじゃん入れてね!うちも食料品くらいしか見ないから。」

「えっ、いやそれは……」

「いいからいいから!」


 ショッピングモールに着き、食料品売り場。母と麗華がそんな会話をしている時。


「いいから入れちま──」


 特に何の意味もなく。

 何の気なしに。

 何気なく。

 振り返ると、それが視界に入った。

 金曜日に俺の家に侵入する筈だった、二人組が。

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