第24話 またにげて



 病院には、毎日通うことになっている。あくまで傷の治療で、心の治療はしていない。意味ねぇよ、と俺から断った。


「いやぁ〜僚哉にもねぇ、いやぁ〜」

「この歳んなりゃそんくらい当たり前だべ」

「へぇ〜?」


 病院の帰り。麗華の事について母からの無限の質問が車内を飛び交う。ちょいちょい昨日麗華とも話したらしい事も混じっているから引っ掛け問題をやらされている気分だ。


「でもあんなかわいくていい娘はなかなか捕まんないからね。離すんじゃないよ!」

「はいはい……ぁ?」


 自分で切り刻んだ手の治療、という所はおいておくとして、母と息子の彼女の話、なんてありふれた日常の一コマに、それはいた。

 家の近く、大して人通りもない住宅街。その端に路上駐車された一台のバン。

 なんとなしに視界に入ったそのバンに、見覚えがあった。

 そして、思い出した。

 あれは、父が外で殺されていた時に、そして俺がその場で倒れた時に。

 家の前に、停まっていたバンだ。


「僚哉?」


 ヤバイ。

 ヤバイヤバイヤバイ。

 もしかしたら、勘違いかもしれない。

 しかし、一度そうと思ったらその考えを、払拭出来ない。


「ねぇ、ちょっと僚哉!」


 奴等はすぐそばにいる。いつでも俺等を狙っている。

 帰宅時に遠回りしても。

 家に引きこもっても。

 それは変わらない。

 いつまでも逃げていたって隠れていたって、出てくるのを待っている。


「僚哉!!」

「─っ……!」


 名を呼ばれて我に返る。

 ああ、もう、ここで一人焦ってても何も変わらねえだろうが。


「……ねえ、本当に大丈夫なの?」

「ん、ああ……うん。」


 その大丈夫には、色々な意味が詰まっているのだろう。命の危機は、入っていないと思うが。


「大丈夫。」


 大丈夫な筈はない。

 そして、俺は。


「急で悪いんだけど、金土で一泊旅行でも行けないかな?」


 また、逃げる道を選ぶ。




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