第22話 らいきゃく
「はぁーー………。」
待合室、というよりはラウンジと言ったほうが正しいだろうか。ふかふかのソファーと自販機がいくつか、そして心を落ち着けるようなBGM。
俺は、心療内科に連れてこさせられた。
今、この場にいるのは俺一人。弟は学校、親は医者とお話し中。他の患者もいない。
昨日。
弟の連絡によって両親は飛んで帰ってきた。手の傷はかなり縫って、全治ともなると数カ月かかるらしい。幸い、神経に問題はなかった。何やってんだか。
で、翌日になって学校を休み、両親と心療内科に。一応、麗華には今日は休むとだけ連絡した。
「ンなとこ来ても意味ねぇんだけどなぁ。」
自分の子供がこんな事をしたら心療内科に連れてくるのは当たり前。それはわかっている。しかし俺がこれをやった原因は自分でわかってるし、話すつもりはさらさらない。
ひたすら『大丈夫です』『構わないでください』を連呼しただけだった。
こう言っちゃなんだが、わかったような口をきかないでほしい。そこらの鬱とはレベルが違う。
俺はこの数週間、大勢の人間が挽肉になるのを見て、見知った人が刺されるのを見て、そして犯人を殺しかけ、殺され、家族を殺され、また家族と友人を殺されかけた挙げ句に自分の手で友人を、殺した。
それで苦しんでる人間には悪いが、『辛い事』とか『イジメ』とか、そんな軽い話じゃないんだ。
麗華を友人と呼ぶのかどうかはおいておくとして、こんな俺の気持ちを誰か理解できるというのか。もしも同じ経験のある人がいるのなら一晩お話を伺いたい。
これは、誰にも頼らず、自分で解決するしか道がないのだ。
「ただいま。」
「おう、おけーりー」
途中で病院にも寄って帰宅する。入院するような傷らしいが、家を空ける気にはなれないから無理言って通院にしてもらった。
今日、両親共に仕事を休んだ。俺を一人にしたくないのか、録画した映画でも観ようと言われリビングに縛り付けられていると弟が帰宅する。
「あー、それ俺も見たかったのに」
「つけたばっかだから最初っからにしたら?なんか……俺はいいや」
「え、ちょっと……」
まだ最初のニ十分程度だが、俺はあまり好きでない類の作品だった。上に行こうとすると家族全員が俺を止める。
「大丈夫だから。」
「でも……」
あまり気を遣われるのも疲れる。ひとりになりたかった。
「ふーー……堪えろ、堪えろぉ……」
俺の部屋。
ここにアイツらがいたのも、俺が麗華を殺したのも、全て『起こりうる未来』でしかない。実際に起こったことでは、ない。
「ぅぅぅーん………」
取り敢えずベッドに寝転んで顔を埋める。鼻をつく胃酸の臭いも、不快な鉄の臭いもしない、普通の部屋。なんらおかしくはない。
ここは事件現場でもなんでもない、俺の部屋。自分にそう、言い聞かせる。
──ピンポーン
「──んハッ……!?」
気が付いたら、小一時間ベッドに意識を奪われていた。おいおい、気にしてたんじゃねぇのかよ、俺。
いや、今はそれどころじゃない。俺の目覚ましとなったのは、インターフォン。今日はまだ来る筈がない。来る筈が無いが。
急いで階段を駆け降りると、まさに母が玄関の戸を開けようとしていて──
「あ、お、俺が──」
「僚哉、何よこんなかわいい娘隠して!」
「あ、り、僚哉、君……」
突然の来客は、俺の彼女だった。
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