第19話 つめあまく



「おー、兄ちゃんおかッハァッ!?」

「ただいま」

「お邪魔します!」


 家に帰ると俺の連れた予想外のゲストに翔太は吐血するんじゃないかと思うほどに咽る。

 翔太はにこやかに挨拶をする麗華を舐めるように見て。


「兄ちゃん、その若さでパパ活はちょっと……」

「悪い。俺の弟は頭にちょっとした障害があってだな……」

「大丈夫、私は僚哉君の家族がどんな人でも受け入れるよ!」

「やめてやめて下さいごめんなさいワタシ普通デス」


 と、適当に冗談を交えた後に二人は自己紹介をする。今回は穏便に、落ち着いて。母親には翔太が速攻で連絡していたから、赤飯か寿司くらい買って帰ってくるかもしれない。

 前回みたいになし崩しで紹介にならなくて良かった。麗華は言い訳が下手くそだから口裏合わせるの面倒だったんだよ。

 と、安心していると翔太は麗華に向かって深々と頭を下げ。


「松井さん、兄ちゃんをよろしくお願いします。」

「おいおい、そんな大層な話じゃねぇから。」

「「え?」」

「えっ?」


 え?

 翔太はともかく何で麗華までその反応なの?

 あれ、俺達別に本当に付き合ってるわけじゃないよね?いつの間にか付き合ってる気になってたの?

 それともあれか、麗華はそこまで深い関係、という体で通すつもりだったのか。

 どうやら後者だったらしく、麗華は自分の『えっ』という失言(失感嘆)にあたふたと動転する。

 相変わらず隠し事が下手な奴だ。しかし今回は俺の詰めも甘かった。そこまで事前に話しておくべきだったか。


「ひ、酷い……!僚哉君、私とは遊びなの……!?」


 そして厄介な事に、麗華は隠し事が下手と言っても嘘のつけない訳ではない。

 嘘の内容が絶望的に面倒なのだ。『なーんて。高校生だからそこまで深く考えてないよね』くらいに言えないのか。


「ハッハッハァ冗談に決まってるじゃあないか。」

「そうですよね!ウフフフ」


 こうしてやっぱり、どんどん外堀が埋まっていってしまう。だから家族には会わせたくなかったのに。







「いやぁいやぁねぇねぇねぇ。本当にいいの?こんなので。嬉しいね、嬉しいねぇ!」

「やかましい……」


 案の定、母親は寿司を買って帰ってきた。それもデパ地下でイイやつを大量に。

 なんでだよ。彼女(という設定)を連れてきただけだろ。大袈裟すぎだろ。それともなに?これは俺がおかしいのか?


「すっごく美味しいです!」

「んもぉ何でも食べるし本っ当にいい子だねぇ!僚哉!幸せにするんだよ!!」

「ぁー、うっす……」


 何でも食べる=いい子ってなんだよ。評価のハードル低すぎだろ。初めて彼女紹介したからってそんなにも喜ぶもんなのか。なんだか申し訳なくなってくる。

 麗華はそんな気分にはならないのかと目で問うてみようと試みたが、完全に寿司しか目に入っていない。


「兄ちゃんと松井さんの馴れ初めってなんなん?」

「あ!それお母さんも聞きたいなぁ!」


 不意に弟が仕掛けてくる。相手はしらんが我が弟も恋する身。そういう所は気になるのかもしれない。……悪いが、百パーセントあてにはならないんだが。


「あ、それはですね!僚哉君もご!?」

「はいあーん、ほら中トロ美味いか?俺大トロより中トロの方が好きなんだけど麗華は?」


 急いで麗華の口を塞ぐ。言い訳においてコイツに先手を打たれてはいけない。

 馴れ初め、馴れ初めか。完全に大嘘でもいいが、ある程度事実が混じっていた方がリアリティがあるか。


「あんまし話したくないんだけどな……まぁ大した事じゃねぇけどしいて言うなら──」


 と、思いつきで取り繕おうとした時。

 ピンポーン、と一度だけ、インターフォンが鳴った。


「あら、なんだろ──」

「俺が、出るよ」


 声が震えそうなのをなんとか堪え、母を牽制する。

 夜の、六時過ぎ。

 この時間の来客と言えば。

 招かれざる客、ではなかろうか。

 恐る恐るカメラに映った姿を見てみると。


「お届け物でーす」

「はー…い、……」


 宅配便の制服を崩さずに着て、帽子を少し深めに被った細身の男。

 一瞬、気が緩んだ。が、これは果たして本当に宅急便だろうか。『死』をお届け、なんて糞寒いうえに笑えないジョークじゃないだろうか。

 しかしどうする。新聞紙で軽く包んだナイフはポケットに忍ばせてある。だが真っ向から出ていくのか?それはあまりにもリスキーではないだろうか。

 どうする。

 あまり考える時間は無い。二人に怪しまれてしまう。

 考えろ、考えろ。

 ここは、ここは──


「あ、と、……」

「何処からですか?」


 と。俺がコミュ障よろしくキョドっていると、いつの間にか隣に麗華が並んでいた。

 麗華の言葉にカメラ越しの男は荷物の伝票を確認するような仕草をして。


「あー……っと、あ!申し訳ありません!住所を間違えておりました!」

「そうですか。わかりました〜」


 男はぺこりと頭を下げて踵を返し、さっさと消え去る。

 今ので、間違いないのだろうか。

 本当に家を間違えていただけという可能性もある。しかし名字くらい普通確認するだろうし、今までこんな事は経験したことがない。

 ならば、今の男が俺の家族を殺した犯人か。


「僚哉君、落ち着いて下さい。呼吸が乱れてますよぉー」

「……っ、あ、ああ、悪い。助かった、マジで。」


 麗華に声を掛けられてようやく我に返る。一先ず危機は回避したと言えるだろうか。にしても、今の俺随分間抜けだったな。麗華がいなかったらどうしていただろうか。


「ね、私だって役に立つでしょ!」


 ニッコリ笑う麗華を見て、情けなくなる。女一人増えても死体が増えるだけ、なんて言っておいて役立たずは俺の方ではないか。


「なにしてんの?二人とももういらないの?」

「いえ、まだ頂きます!」

「女の子でも若いんだから、もっと食べてね!僚哉もほら、なくなるよ!」

「ん、おうよ」


 あんまり格好つけず、頼れる時は頼っていこう。






「お母さん、あの……今日泊まっても良いですか!」

「あらお母さんなんて嬉………?」

「はぁ!?おま、お、は!?」


 晩飯を食い終わった後、そのまま食卓でうだうだ話していると麗華は表情をキリッと真面目顔に変えて『お願いがあるんですが』と一言。そして突拍子もない事を言い出した。


「うちは構わないけど……麗華ちゃんのおうちは大丈夫なの?」

「大丈夫です。一人暮らしの友達の家にしょっちゅう泊まってるんですけど、今日もそこに泊まるって言いました!」

「そっか。おうちが大丈夫ならいいけど…」

「あれあれー?今おうちが大丈夫の内容だったかなぁー???」


 この件に関しては本当に何も聞いていない。麗華の突然の暴走だ。今日が例の事件の日、それにどうした事か責任を感じているらしい麗華は最後まで付き合おうという気なのだろうが、それはちょっと……ね?

 高校生の女の子が男の家に泊まるってのは……別に俺は何もする気がないからいいけど、ご両親からしたらどうだろうか。折角生き延びたのに麗華の父親に刺されたりでもしたらお笑いにもならない。


「俺は構わねぇけどお前の両親とかさ?バレたらどうすんのさ?着替えとかだってないしな?帰れよ、な?」

「大丈夫!両親には佳純の家に泊まるって連絡しましたし、着替えも持ってきてます!」

「泊まる気満々だったの!?」


 聞いてねぇよ!

 麗華が鞄から取り出し高らかに掲げるはパジャマ。学校のジャージでない辺り、確実にその気で家から持ってきている訳だ。

 どうしてそこまでする。


「あーほらでも、うちのお父さんは…きっと反対するよ。なんつーかこう……」

「ヘタレって言いたいんだな、兄ちゃん!」

「コラ!」

「大丈夫よ、ヘタレだからお母さんが良いって言えばそれ以上何も言わないもの。」

「コラ!!」


 本人の居ぬ間に理由なきディスりが父親を襲う。確かにうちの父親はヘタレなのだが、それくらいにしてやってほしい。管理職になっても残業三昧なのはヘタレなのもあるが、部下にばかり押し付けられないという優しさだってきっとあるんだから。


「夜寝るのは一人でリビング、だと寂しいから僚哉と同じ部屋で良い?」

「はい、大丈夫です。」

「兄ちゃん、今日俺はイヤホンつけて早めに寝るよ。」

「勝手に話が進んでゆく」


 一先ず危機は回避したんだし、わざわざ泊まる事ないだろう。何が麗華をそこまで駆り立てるのだろうか。


「僚哉君は、私に泊まってほしくないんですか?」

「うん、まぁ。」

「そんな……酷いっ!私とは遊」

「やかましいわ」

「まぁまぁいいじゃない。もう時間も結構遅いんだし、かわいい彼女を泊めるのにどうして反対なの?」


 んー……。もうこうなったら流されるしかないのか。

 麗華を見ると「どうや」とでも言いたげな迫真のドヤ顔。こんな顔を見せられると尚更折れたくないのだが。


「わかったよ……。」

「やた!」





「さて、どうしましょう?」

「どうって?」


 風呂やら何やらを済ませ、俺の自室。母も翔太も既にベッドに向かい、父はまだ帰宅せず。

 俺が聞き返すと麗華はわざとらしく大きなため息をつく。


「『どぉってぇ?』じゃないですよ!今少し凌いだだけで、何も解決してないじゃないですか!」


 麗華は渾身の変顔を披露しながら俺の真似をする。馬鹿にすんな。似てねえよ。


「まぁ、そうなんだけどなぁ……」


 餓鬼の範疇を超えている。これはいよいよ行政機関のお世話になる必要があるだろうか。

 だが警察に言ってどうしろと?『この前テロを防いだの僕です、命狙われてます助けてください』?

 そんなの、相手にされるのか。


「僚哉君のお父さんになんて話すんですか?本当にヘタ……大丈夫なんでしょうかっ」

「ん、そっち?」


 麗華としては目下そちらの方が心配だったらしい。事実、父には麗華の存在すら未だに伝えてない。

 ……なんで伝えてないの!?泊まるのに!


「そうだな……帰ってきていきなり俺の部屋開ける事は無いし理由もないけどリビングがほんわかいい匂い空間になってると驚くよな……」

「いい匂い空間ってもしかして私ですか?な、そ、やめて下さい!」


 現在、リビングは麗華の影響によってなんだかいい匂い空間になっている。リビングよりも狭く、そして麗華が今現在居る俺の部屋に至っては、言うまでもないだろう。

 存在だけで周囲をいい匂い空間にしてしまう、恐ろしい女だ。


「まぁ暇だしスピードでもやるか」

「ちょっと聞いてますか!?」

「やんないの?」

「やりますよ!」





「くっ……ま、まだ……」

「もうくらっくらじゃん。寝ろ寝ろ」


 結論から言うと、麗華はクソ雑魚だった。なんというか、基本的にトロいんだろう。……バスケ部なのに?

 そして夜にめっぽう弱いらしい。時間は日付が変わってから十分ほど。まだまだ夜は始まったばかりなのだが、『まだ諦めないぞ!』的な事を言いながら船を漕いでいる。


「はいはい、続きはまた今度ね。おやしゅみー」

「わっ、私は、この程度では………くぅー……」


 布団に寝かせて毛布を掛ければ麗華は速攻で落ちる。何がそこまでお前を掻き立てたのだ。スピードか、スピードなのか。


「なーんか腹減ったなぁ」


 この時間のカロリー摂取はデブの元だが、幸い俺はいくら食っても太らない体質。寧ろ勝手に痩せていくくらいだ。俺にとってはこの時間のカロリー摂取は最早必要な栄養補給とさえ言えるだろう。


「ふぉぉ…いただきます」


 たまごももやしもキャベツも入れず、ただの即席ラーメン。

 だがそれでいい。

 世の人間が『お腹空いたぁ!』とか『でもいま食べたら絶対太る』とか言ってるなか食うラーメンは格別にうまい。

 なんとなく耳が寂しかったからテレビを付けると、一つだけニュースをやっているチャンネルがあった。

 芸能人の熱愛報道とか、どこだかの会社の不祥事とか。例のテロのニュースはまだちょこちょこやっているが、かなり数が減った。

 流石にテロは滅多に起きないが、殺人事件や死者の出る交通事故は日々起きている。俺には一大事件でも世間から見たら数あるうちの一事件。時間が経てば簡単に薄れてしまう。


「今となってはその方がいいけどねぇー……」


 『渋谷テロを防いだ謎の男!』みたいな特番を見た時は正直少し嬉しかったけど、それで狙われるのならたまったもんじゃない。


「……歯ァ磨く──」


 歯を磨いてそろそろ部屋に戻るか、と立ち上がった時。

 玄関の外で物音がした。

 ポストを開けた音。きっと父が帰ってきたのだろう。

 あー、そうだ、どうしよう。麗華の事なんて説明しようかな。まぁチッチはヘタレだから今からでも帰らせなさい!とか言うはずもないんだけど。黙ってようかな。ヘタレだし。

 でもな、朝突然遭遇したらびっくりするよな。ヘタレだし。よし、話そう。

 一応、警戒はする。

 ドアロックをした状態で外を覗く。


「……おとっさー……?」


 誰も見当たらないから小さく声を出すが、しかし返事は無い。

 おかしい。確かにポストを確認する音はしたし、日付も変わっているからそろそろ帰ってくる筈なのだ。

 ゆっくりドアを開け、体を半分だけ外に出して周囲を見回す。


「──!」


 玄関の横、裏の庭へと続く細い道の陰から少しだけ、足が見えた。横に倒ているのであろう人間の足。俺の父親と同じ、男にしては小さい、足。


「父さ──!!」


 急いで外に出て足のある方へ回り込むと、そこに倒れているのは確かに俺の父親だった。

 だが、それだけではない。

 昏倒した父の首を今まさに締めている男が、いた。

 少し太り気味の、髪の薄い男。


「お前……!」


 やる事はひとつ。チラシで包んでポケットに入れた安物のナイフ、それを只このクソッタレに───






「──ぁ?」


 リビングから僅かに漏れるニュースの音で目が覚める。いつの間にか眠っていたみたいだ。

 眠っていた?廊下で?

 ええと、確か麗華が寝て、俺は下でラーメン食って、そしたら……。


「……!」


 ガタン、という音と同時に小さな悲鳴が二階から聞こえる。

 そうだ。

 そうだ、まずい。

 まずい!

 アイツらが、アイツらがもう家に入っている……!

 急がないと。

 急いで。


 殺さないと。


「ってぇ……」


 立ち上がろうとして気付いたのだが、俺の頭からはかなり血が流れていた。

 ズキズキする。

 ジンジンする。

 そして痛み以上に、ぼーっとする。

 これがどれくらいの怪我なのかはわからないが、どうして俺は歩けているのだろう。それさえ、わからない。

 わからないけれど、早く上に行かなくちゃならない。

 階段を上がって真正面の部屋、そこが俺の部屋。異物の気配は、そこからした。

 早く、しないと。

 麗華が、危ない。


「……あ?コイツ、まだ生きとったんかぁ?」


 ドアノブに手をかけた瞬間、それ以上踏ん張れずに倒れるように扉を開ける。

 すると少し驚いた様子の男の声。父さんを殺そうとしてたアイツだろうか。いや、もう殺したのだろうか。

 顔を上げてその面を睨みつける気力すらない。

 只、ぼやける視界の先で麗華が血も流さずに人の形を留めていることに、何故か俺は安堵していた。

 もう、どうしようもない。このまま眠ってしまおうか。


「せや山原、おめーコイツの前でそれ犯したれよ。」

「いいんですか!?」


 ……は?

 何、それ。聞き捨てならねぇ。

 痛みを必死で振り払ってそう言う男の方をようやっと見ると、そのデブはゲラゲラと俺を嘲笑う。

 え、なに、そうなるの?


「なん、で」


 絞り出せた声は、たった三文字。だが、俺の疑問はしっかりと通じたようで。


「報復。わかるやろ。おら、俺じゃなくてあっち見ろ」


 何が報復だ。自分がやりてぇだけじゃねえか。そもそも報復も何もハナから悪いのはてめぇらだろうが。

 デブに髪を掴まれ、無理やり顔の向きを変えられる。

 その先では細身の男が丁寧に麗華のパジャマを脱がしていた。

 ああ、だめだ。

 麗華は別に彼女じゃあない。好きな人でも、ない。が、ダメだ。そんな事、あってはならない。

 どうせ死ぬなら一緒とか、なんなら巻き戻るならなかった事になるとか、そういう話じゃあない。

 もう、今回はダメダメじゃないか。

 何もかも、最悪だ。

 なのに、どうして。


 んだ。


 もしかして、麗華はまだ生きているのか?

 気を失っているだけなのか?

 それだと、時間は戻ってくれないのか?

 もしそうだというのなら、もうどうしようも──

──いや、ひとつだけ、あるか。


「あ、ああぁぁぁ!!!」

「うおっ、何やコイツ」


 頭が痛い?ぼーっとする?

 クソが。甘えんな、俺。

 微睡む頭に喝を入れ、震える手足に鞭打って。

 麗華にのしかかる男に渾身の体当たりをくらわす。満身創痍の俺でも最後の力を振り絞った体当たりはそれなりに威力はあったようで、細身の男は派手に吹っ飛ぶ。


「ってぇ……!おい!てめぇ何して……」

「ごめん、ごめん、ごめん」


 俺に残された、最後の手段。

 ナイフは無い。当たり前だ、きっとこの二人が回収したのだろう。

 ならばこうするしかない。


「ごめん、ごめん、今は、こう、するしか、無……だ」


 こんな死にかけだから力が残っていないんだろうか。それとも俺ってこんなに握力なかったんだろうか。

 思い切り締め上げる肉の塊は細くか弱く柔い筈なのに、何故だが力が入らない。まるで込めた力が吸い取られていく様に、力が抜けていく。

 兎に角気持ち悪い、感覚だ。


「俺が、なんとか、するから……。今度は、こんな、目に、あ……わせ、ないから……。」

「ギャハハハ!こいつ頭ぶたれて狂っちまったか!!」


 二人は俺が狂ったと思って邪魔もせずゲラゲラと笑う。そう思うのは当然だが残念ながら俺は全く狂っていない。

 二人が見当違いの勘違いで笑っているのが滑稽で、その事実が唯一俺の気分をやわらげた。


「だから、全部、忘……れ、てく……れ…ぉ、う、ぇっ…うぉぇ……」


 麗華にかからないように、床に戻す。夜中にラーメンなんか食ったのは何処の馬鹿だ。余計なことしやがって。

 気持ち悪い。

 朦朧としていた意識も、どういう事か覚醒してきた。せめてそこは変わらないでほしかった。

 人生で、最凶に、最低で、最悪な気分だ。


「お前には、感謝、して……る。本当に、ありが、とう、な……」


 次第に強烈な睡魔がやってくる。

 それは夜中という時間によるものでも頭を殴られた事による昏倒でもなく──







「帰ったら通信しよーぜ」

「おけまる」


 頭の痛みは、もう引いた。

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