第18話 ちわげんか


 金曜日。

 麗華とカラオケに行って帰りにひと駅歩き、そして母と弟が殺された金曜日。

 今回は遠回りはしても寄り道はせずに帰る。犯人がどう来るかはわからないが、俺がいなくては前回と同じく殺されるだけだろう。

 ……なんだが。


「お前は、ついてくんなって」

「ダメです。ついてきます。」


 最寄り駅についた頃。案の定麗華は俺についてこようとする。

 今回は完全に俺の問題。麗華が関わる必要は無いし、関わってほしくもない。


「おめの助けなんて必要ねぇっつってんの。」

「そんな事ないです!そう言って僚哉君死んじゃったら私どうしたらいいんですか!」


 その時はまたやり直せば…と、この考えは良くないな。また次があるとは限らないのだから。

 それに俺が死んでもし記憶が消えれば、麗華がかつて死んだ事を察してしまうかもしれない。


「それに、ご両親に私を紹介してくれるって約束は……どうなったんですか……?」

「ンな約束してねぇよ。この流れでジョークをぶっこむな。」


 そういえばやり直してしまった今現在、俺の家族は麗華を知らない。もしコイツを家に連れていけば初エンカウントだ。そんな面倒なオプションまでついてくるのかよ。


「俺はお前の事が心配で止めてんだよ。これ以上巻き込まれるな。」

「それは私だって同じです!二人でいた方がいいに決まってます!」


 あー、イライラしてきた。

 俺は麗華の為を思って、もう二度と麗華があんな目にあわないようにこう言ってるのに、どうしてそうも物分りが悪いんだ。


「俺はさ、お前に危険な目にあってほしくないから言ってるんだよ。頼むから引いてくれって。」

「嫌です!私が離れても僚哉君が危険な目にあう事に変わりないじゃないですか!一人で抱え込まないで下さい!私を、頼って下さい!」

「うるせぇな……お前一人来たところでどうなるんだよ!」


 相手が何者かわからない。男か女か、一人か複数かもわからない。ただ人二人を殺せる奴だ。女一人こちらに増えたところで、死体の数が増えるだけ。


「えっ…と……。」


 麗華は目を伏せ、言葉に詰まる。

 最悪だ。麗華だって俺の事を思っての行動だってのに、そんな言い方はあんまりだ。

 最悪。最低。最下層。最下層ってなんだ。

 でも、それで麗華が幻滅して俺から離れてくれるなら……


「とにかく、い、や、で、すぅ〜!実際前回私がついてなかったら僚哉君どうなってました?私がいたから少しは変わったじゃないですか。…それでも、ダメでしたけど。…でも!私だって力になれますぅ〜。」


 麗華は引くどころか、俺に決意の堅さを知らしめるが如く子供のように無駄に語尾を伸ばす。

 んー?麗華ってこんな奴だったっけ…?

 まぁ、何はともあれ。


「わかったから……取り敢えず歩こか」

「え?あっ……」


 田舎でも駅前。人目はそれなりにある。周囲の人から『痴話喧嘩か』とか『他所でやれ』とか。そういう痛々しいものをみるような目で見られていた。


「そ、そうですね……。」


 結局俺が折れ、少し萎んだ麗華を連れて家路へと向かった。


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