第15話 そのしんい
今回のスタート地点は、前回よりもいくらか進んだ地点。しかしまたも恭太と勇正が一緒だ。コイツら呪われてんじゃねえのか。
本来ならば麗華がこの教室に飛び込んでくる、その直前。しかし今回は来ないだろう。
「あーわり。俺約束してたわ」
「お、そっか。」
「はいはいまーた麗華ちゃん麗華ちゃんですねー」
二人は「しっし」と手を振って快く別れる。相変わらず理解が早くて何より。でも最近二人の事をないがしろにしすぎな気もするから、気を付けよう。
廊下に出ても麗華は見当たらない。まだ教室に居るのだろうか、と隣のクラスへ入ってみると。
「!中武君!なんか、麗華が……!」
教室には黒板を前とすると右側の前側後ろ側二つの扉がある。麗華はその後ろの扉の近くで両手で顔を覆うようにして項垂れ、その場にへたり込んでいた。
心配してそれに寄り添っていた麗華の友達の佳純、だったかが俺に気付く。きっとこの時間に戻ってきた時の座標があそこで、麗華はその場でへたり込んだのだろう。
「おーい麗華、大丈夫かー?」
「ごめんなさい、ごめんなさい……私が、私が……」
俺の方がショック受けるべきだっつーのに、なんで俺が慰める側みたいになってんだよ。お陰、と言っては何だか俺が割と冷静でいられるのはそのせいなのだろうか。
しかしここでまた皆に見られながらうだうだやっても仕方がないな。
「うーし、回収しますよー。おら、立てっか?」
「え、ちょっと……」
「あー悪いね。こっちの話なんだ。」
麗華がその場に落とした鞄と麗華を抱えて教室を出る。その間もずっと何かブツブツ謝っている。「うっせ黙れ」と言っても聞かないから、諦めた。
麗華は学校の敷地を出た頃には支えなくても一人で歩けるようになったが、やはりまだフラついているから肩を支えて歩く。傍から見れば、お熱いカップルだろう。
今こそ、『少し歩きたい気分』じゃないだろうか。少なくとも俺はそうだ。
駅とは少し違う方向へ当てもなく歩いていると、途中で寂しそうに佇む小さな公園を見つける。鉄棒とぶらんこがあるだけの公園。近所の子供は家で遊んでいるのか、閑散としていた。
そこのベンチに座ると、いつの間にか静かになっていた麗華も黙って横に座る。お互い、少し考える時間が必要だった。
「麗華」
麗華は黙ったまま。しかしちらとこちらを見たから、話を聞く気はあるようだ。
「私のせいとかごめんなさいとか、意味わかんねぇよ。どう考えたってお前のせいじゃないだろ。アリバイはあるし。」
「そうじゃ、なくって……」
麗華は今にも消えてなくなってしまいそうな程弱々しく。
「だって、心配、してたのに……なのに、そこまで気が回らなくて……」
「何の話だって。あんなの、どうにか出来るもんじゃないだろ。麗華はなんにも悪くないから。」
「そうなるかもって事くらい、考えられたのに……!」
……は?考えられた?俺の家族が殺されるかもって?
「何でだよ。殺されるような怨み買った覚え無いんだけど。」
「あるじゃ、ないですか。宗教団体から。」
麗華はやはり弱々しく口調のまま、しかし確信を持っているかの如くはっきりと言う。
もしかして、あのテロを起こした犯人所属の団体から?
「いやいや、学校にも警察にも多分バレてないし、それにわざわざこんな普通の高校生とその家族とか殺しに来るか?さすがにそれは、ねぇだろぉ」
「元々無差別殺人する程頭がおかしいんですから!理屈なんて通じませんよ!顔が割れてるかどうかだって、事件の時メンバーが近くにいたのかもしれないじゃないですか!」
麗華は初めて、声を荒げる。少し元気出てきたかな。……なんて、呑気に言うタイミングじゃねえか。
確かに、仲間が近くにいた可能性はあったな。失敗だった。激安の殿堂で馬面マスクでも買っておくべきだったか。
しかし、そんな事に気をかけていたとは。
「もしかして俺の事一人にしない為にくっついてたの?」
「!………そうです。」
なるほど、通りでここの所俺に付きっきりだった訳だ。別に俺の事好きになったってんじゃあなかったのね。
しかしまあ、くっついてまわるその理由を事前に聞いていれば「ないない」と笑っていたが、現実に起きてしまった。
もしも犯人が通りすがりの快楽殺人犯とかでなく例のテロ関連の者だったら、本来の標的は間違いなく俺。俺がいないから代わりに家族を殺したか、もしくは弟を俺と間違えたか。
どちらにせよ、犯人の息の根を止める必要がある。
「俺が、用心不足だったのかな。麗華、お前は暫く離れてろよ。危ないから」
「ダメです!」
また、麗華をあんな目に合わせたくない。その思いからの言葉だったのだが、快く却下される。
「僚哉君、私がついてなかったら一緒に殺されてたかもしれないんですよ!一人になんて出来ません!」
「それはそうだけど、事前に心構えできてれば違うだろ?」
「そんな……確信もなくあやふやなの……兎に角ダメです!」
また、麗華は引いてくれない。でも、こればっかりはそんな簡単な話じゃない。帰りに寄り道とか、ひと駅歩くとか、そんな話じゃ、ない。
それに一人で大丈夫だ。麗華が記憶をなくした時だってそうして乗り越えられた。
犯人の目的が俺ならば、麗華を連れれば麗華が巻き添えを食う可能性だってある。俺の家族が、そうなったように。
「だから大丈ー夫。お前は関係ないんだから、寧ろ関わるなって」
「でも!」
「うる、せー、よっ」
「いたっ」
でももだってもありません。容赦ない渾身のデコピンを繰り出して麗華はようやく大人しくなる。こっちの指が痛いくらいだ。
「関わるななんて言われたって、出来るはず、ないじゃないですかぁ……」
「え、おいちょっと」
デコピンで滲んだ涙が呼び水となったかのように、麗華の目から止めどなく涙が溢れる。
「私は!私は僚哉君が危ないと思って!死んじゃったらヤだから必死で!」
「麗華……」
「それなのに、それなのに一人で大丈夫とか、言わないで!大丈夫なんかじゃないんだから!」
「れ、麗華?」
そこまで言って冷静になったのか、麗華は「ごめんなさい」とまた謝って黙ってしまう。
麗華は、そこまで本気で俺の命が狙われると考えていたのか?実際にそうなってしまったから文句も言えないが、神経質すぎないか?
「お前心の整理ついてないし、とりあえず今日は帰ろう。」
「はい……」
俺達が帰る頃も、その公園には誰もいなかった。
「じゃ、今日からはついてくんなよ。」
「そんな……!」
今日も俺を家まで送るつもりだったらしく、駅を出てから麗華はついてこようとする。
心配してくれるのは有り難いが、本当に巻き込みたくないんだ。もし麗華が襲われたりした時に抵抗できる武術の達人とかだったのなら、また話は別かもしれないが。
「嫌です!何が何でも私、」
「ついてくんなっつてんだろ!」
少し声を荒げると、麗華はビクリと肩を震わせて縮こまる。
「大丈夫、ちゃんと回り道すっから。」
手を振りながら踵を返すと、少し目を伏せる麗華はそれ以上ついてこようとはしなかった。
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