第11話 ちゃくちてん?



「おい僚哉」

「ちょっと聞きたいんだけど」


 んー。

 視界にねじ込むように見せられたスマホの画面には、衝撃的な動画が映っている。少年が以下略!

 んーーー。


「これ、お前だろ。」

「ん゛ーーーー!!」


 もう!もう!

 この、文明の利器が!お前は、お前はいつもそうだ!

 前回と同じ輩の仕業かはわからないが、やっぱり撮影されていた。しかし幸い、またもある程度距離があったお陰でその動画からは顔を判別は出来ない。

 しかし俺はひとつ、ミスを犯していた。

 『全くもって嬉しくない話だが、この一連の流れに若干慣れつつあった。』

 そう、慣れすぎていたのだ。一度家に帰った俺は、同じ前と服を着ていてしまっていた。この二人も知っている服だ。これによって『他人の空似』という言い訳ができなくなってしまった。

 因みに弟にはばれたが、ネットに疎い両親にはバレていない。今回の事件は地上波でもかなり取り上げられている。事件を未然に防いだ謎の男も同様に。しかし例の映像は少々ショッキングである為、直接テレビに映ることはなかったのだ。精々が再現CG。

 …で、どうしよう。こいつらにどう言い訳しようか、全く思いつかない。

 ……。

 ………ッ


「うわあああん!僕知らない知らない知らない!」

「ちょ、おい!」

「恭太!追うぞ!」


 昼飯は基本こいつらと食っているが、今はだめだ!

 弁当だけ持って兎に角走る。


「来ーるーな!俺は松井と一緒にメシくうんだ!」

「コイツ……ッ!」

「恭太……絶対に逃がすな」


 二人の追跡は、心なしか厳しくなる。





「うーん、どうしましょうか……」


 どうにか二人を撒き、俺は松井に頼んでまたも女バスの部室で昼飯を食っている。あくまであの二人から隠れるためだ。下心なんて微塵もない。

 現状を取り敢えず松井に説明してみたが、まあ良い案は浮かばない。


「大体なんでローション(18禁の方)なんてつかうんですか!言い訳のしようもないですよ!」

「うるせえな!おま、お前なんか他に方法浮かぶのかよ!」


 俺の離れた後。案の定というかなんというか、犯人は起き上がって数人を切りつけたらしい。折角ナイフ遠くに蹴っといたのに、周りの奴はカカシかよ。とはいえ弱っていたのもあってすぐに取り押さえられ、死者はでなかった。素晴らし。

 一方、ネットでは俺の正体さえ不明でも、俺がした事は最早完全にばれてしまっている。ローションを使った事だって。シャンプーにしとけばよかったかなあ。


「大体、そんな友達との事で私巻き込まないでくださいよ!」

「はぁ!?そもそもこのクソめんどくせえのに巻き込んだのお前だろうが!」

「そ、それは原因が私かはわからないじゃないですか!」

「あのなぁ、お前は覚えてないだろうけど──」


 その時。何かに肌を撫でられるような、気持ちの悪い感覚。全身に鳥肌がたつ。まるで部屋の空気の流れが変わったようだった。

 というか、実際に空気の流れが変わっていた。俺の背後に位置する部室の引き戸が開いたのだ。

 ここは女子バスケットボール部部室。ここに来る者と言えば、女子バスケットボール部だろう。まあ、俺の全身に鳥肌が立ったのもそういう事だ。

 嗚呼、俺、終わったな──

 ……と、思ったがそういえば松井が一緒にいた。それを思い出すと少し冷静になれる。恐る恐る振り向くと、それは同学年の女バス部員。


「体操服忘れてたから、取りに来たの。」


 そう言うと体操服をさっさと取り、そそくさと扉の位置まで戻る。

 そして暫く黙って俺と松井を交互に見たのち、にやりと笑って。


「痴話喧嘩~?仲良くしなよ?あ、あとこの時間滅多に人来ないだろうけど、だからって一線超えちゃダメだよ~」

「ちょ、違!」


 それだけ言うとその部員は「いいからいいから」と出てってしまう。

 うーん、まあこんな所で隠れて昼飯一緒に食ってれば、そう思われるかなあ。


「いや、スマンね。なんなら後で一緒に誤解解きに……」

「いや」


 そんな勘違いされるのは嫌だろう、と思ったのだが、しかしそれはどういうことか否定される。

 松井は食い終わった弁当をまとめると一言。


「いっそ、付き合ってる事にしましょうか」

「えっ……?いや、ちょ」

「そうですよ!それで万事解決じゃないですか!これから一緒に行動する事もあるかもですし!」

「ちょ、ちょと!?」


 それが、現状何の解決になるのか。

 そう聞く前に、松井はさっさと部室を出て行った。





「と、いうわけっす……」

「ですです。」

「まさかそんな……お前こんな上玉を……。」

「は?で?」


 五限が終わり、放課後。どういう事か俺は、恭太と勇生に彼女を紹介していた。

 勇生、上玉とか本人の前でそんな言い方はやめなさい。

 恭太。スマン。その気持ちはわかる。求めてた話と全然違うよな。そのいら立ちは正しいよ。


「渋谷は、私が行きたいって言ったんです!」


 松井は自信満々に、えっへん!と胸を張る。

 いや、確かに俺は都内まで遊びに行くようなガラじゃないからあそこにいた説明にはなるけど、それだけじゃん。それ以外の説明には全くなっていない。…もしかして、これで話が済むとでも思ってんのか?


「で、どうしてあんな事ができたかって話だけど。」

「確かにそこにいた理由にはなるけど、大量のローションなんてなんで持ってたんだよ!」

「うっ……」


 案の定、松井は言葉に詰まる。別に俺としては、「性処理道具用に買おうと思ったんだけど迷っちゃって結局全部買った」みたいな言い訳で構わなかった。この二人ならそのくらい構うことはないし、実際そう話せば「あっそ」くらいで終わるだろう。

 しかし下手に二人でいたことを話してしまえば、その言い訳もできない。わざわざデートでそんな買い物、しないだろう。

 ここは松井の気転に期待しよう。

 松井は「えーとえーと」と迷いに迷った挙句、意を決してその眼差しを鋭くする。そして─


「それは、中武君と一緒に使おうと思って」

「だーまーれえええええ!」


 よもやここまでの阿呆とは。俺は即座に松井の口を塞ぐが、時すでに遅し。それ以降、二人がこの事件について聞いてくることはなかった。




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