第10話 ちゃくちてん
「お先にいただきまーす」
「はいはい」
満員の電車の中では会話も殆どできない。それにたとえ満員でなくとも電車の中で話すような内容じゃあないだろう。
という事で、俺は松井に連れられてファミレスに来ていた。何の因果か家の方向は逆だが松井の最寄り駅は俺と同じらしく、その駅前店だ。家には「メシ食って帰る」とだけ連絡を入れた。
連れられて、と言っても別に無理矢理ではない。この際、俺の方からある程度のことは話す事にした。
松井は口に含んだパスタを飲み込んでから会話をスタートさせる。
「中武君も、……なんていうんだろう。えっとー」
「うん。くりかえしてるよ。」
「!」
あっさり肯定すると、松井はただでさえ大きな瞳を更に見開く。予想はしていても驚いたのか、もしくは俺が認めたことに驚いたのか。あぶないあぶない。口にパスタが入ったままだったら多分飛び出していた。
松井はオレンジジュースを一口飲むと「気を取り直して」とでも言うように咳払いをする。
「じゃあ、次。なんで私に話しかけたんですか。」
「いや、だからそれは……」
「人違い、はなしですよ。一緒にお弁当食べた時、中武君教えてないのに私の事『松井』って呼んでましたから。」
えっ、そうだっけ……!?
と、思ってしまった時点でそれが事実であろうと嘘であろうと、俺の負けだ。顔に出てしまっていた。話す範囲を予定より少し広げる事になりそうだ。
「わーった話すって。何回もくりかえしてて、途中で偶然松井も同じ状況だって気付いたんだよ。んでまあ、あとちょっとって所でミスって、『次はいけんだろ!』って言おうと思ったらお前が忘れてたんだよ。」
なんて投げやりで適当な説明でしょう。でもそもそも起きている事が意味不明だから仕方がない。
松井も「なるほど」と、初めて納得したように頷く。これで疑いも多少は晴れたか。
「えと、あと……そう、この時間の巻き戻しは何かきっかけとかあるんですか?」
「それは本当に知らん。原因はお前だと思うんだけど……心当たりないの?」
そこは寧ろこっちが聞きたいくらいだ。から、聞いた。
松井は伸びるように椅子に寄りかかって暫く空を眺めてから、「なくはないかも」程度の感覚で。
「その、前回、ですか?私の反応を見た中武君、なんていうかすっごく寂しそうだったから何か悪いことしたかな、もし私が何か忘れてるなら、そうじゃなければどうだったのかなー……なんて。」
は?マジ?
そんな、たったそれだけ?そんなんでいちいちやり直してたらきりないわ。定期試験の度にくりかえしそう。
くりかえしの『スイッチ』は、人が次々轢かれる地獄だったりの松井の深い後悔やトラウマ的な負の感情なのでは、なんて思っていた。しかしこの話では…確かに後悔ではある、のか?にしても軽すぎる。
くりかえしのスイッチが別にあるのか、はたまた松井が何か隠しごとをしているのか。
「こちらシーフードドリアとマルゲリータです」
「ん、はーい」
「ご注文以上でよろしいでしょうか?」
「「はーい」」
ピザカッターを走らせていると、またも松井は質問を投げかけてくる。
「何回くらいやり直してるのか、聞いてもいいですか?」
いいですか?じゃねえ。それもう聞いてるじゃねえか。まあいいや。
最初は普通に遊んで、次も弟と遊んだ。三回目は何もできず、四回目は買い物中に中断。五回目で松井と初めて話し、そして松井は死んだ。六回目は成功したものの少し気が狂い、今は七回目か。
「今のお前が知ってるのも含めて、六回やり直した。七回目だよ。」
「な……そんなに……。」
あの後犯人がどうなったのかは知らない。だが恐らく死者はでていないし、だとしたら刑罰も大して重くはならないだろう。そういう意味では、俺は犯人まで救ってしまった。その一点について腹立たしいが、そこはどうしようもない。
これこそ理想的な解決。もう、戻らないでくれ。
「どうしてそこまで──」
「あのさ」
松井はまたまたまた質問。今一緒に飯を食っているのもその話の為だし、気になる気持ちも十分にわかる。
でももう、終わったんだ。
やっと、終わったんだ。
「飯まずくなるから、もうその話終わりにしない?」
「あ、ご、ごめんなさい……あんまし思い出したくないでうよね……」
松井は小さく縮こまってしまう。
あー、いや、別に怒ってはいないんだけど。
「んー、そうだなぁ」
しかし、その話ばかりしたくないと言ったところで、だったら何の話をするのか。松井とは本来何の接点もない。このくりかえしがなければ、クラス替えで同じにでもならない限り話もしなかったろう。
最初は、随分いびつな出会い方。第一印象も最悪だった。
しかしこうして壊れていない、おそらく本来の松井は話してみれば当然だが普通の女子高生。
そうだ、俺らは互いを全く知らなさすぎる。だったら、まずはする事があるだろう。
「改めて、自己紹介から。」
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