第4話 よそうがい
「ごめん、俺今日予定あるんだ。二人で遊んで。」
「そっか、わかった。」
「じゃまた今度お前も来いよ!」
今回は焦らず、心地よく二人と別れる。
今まで『夢』と言っていたこの現象。夢なんかでは無いだろう。あの人々の緊張、悲鳴、体が壊れる鈍い音。あのリアルな現場を、『夢』だなんて軽い言葉では例えられない。そもそも五感だってちゃんと機能している。俺はきっと、『やりなおし』ているのだ。
だが、これが最後かもしれない。この『やりなおし』のチャンスが。回数の限られているかもしれないチャンス、一回一回をないがしろには出来ない。
「もうやだ!やめて!話しかけないで!」
さっそく出発しようと教室を出たちょうどその時。隣のクラスから怒号が漏れる。怒号、と言うよりもそれは悲鳴に近かった。と同時、その声の主と思しき女子生徒が飛び出してきた。
「うわっ、と」
「あっ…ご、ごめんなさいっ」
俺にぶつかった彼女は振り替えって早口に謝ると、すぐに踵を返して走り去ってしまった。
何だ、今の……!?
友達や彼氏と喧嘩した程度で無いのは明らかに見てとれた。
一瞬だけ合った彼女の瞳。光すら抜け出せないのではないかと思わせる程、この世界が見えているのかと心配になる程に暗い瞳。あんな目は見たことがない。いや、もしかしたら前回の最後、へたれ込んだ俺の目はあんな風だったかもしれない。
兎に角、まさに絶望を目の当たりにした、そんな瞳だった。一体彼女に何があったのか。
「……いや、それどころじゃないよな。」
前回とは違う。今は車と犯人、さらにはナンバーだって分かっている。今回こそ事件を止める。同じ轍は踏まない。悪いが知らない女子生徒の為に割く時間は持ち合わせていない。
誰から言われたでもないが、事件を阻止すればループはきっと終わる、そんな気がしていた。俺は早く、このループを抜け出すんだ。
只それでも先の女子生徒の事は気になっていた。彼女のヒステリックな叫び。あんなイベントは今まで一度も発生していなかったのだから。
さて、事件を阻止するための作戦だが、まずは下準備。ぶらりと途中で下車してホームセンターへ向かう。なんでもはないけどなんでもありそうな場所、ホームセンター。男児ならきっと誰しもがワクワクする場合であろう。ここならばトラックだって止めうる手段が掃いて捨てる程転がっている。
ホームセンターに付くやいなや、ネットで調べて目星を付けていた物を次々カゴに放り込む。
「うし、うし……うし!イケる。イケっぞこれ!」
自分で言うが、素晴らしい計画性。今までとは違う、今回は絶対に失敗してやるものか。自分を奮い立たせるように声をだし、慌てて周りの人がいないことを確認する。普段来るような場所では無いが一人で喋っているのを見られるのは流石にキツイ。
あのムカつく野郎のイカれた笑顔を一発ぶちのめしてやろう、そう考えると足取りは軽くなる。その足でレジへ向かうその時。俺の昂った気分は一気にドン底へと叩き落とされた。
──強烈な、睡魔。
おい、おいおいおい!ちょっと、何でだよ!?何で、どうして、このタイミングで……。何がいけなかったというのか。
手の皮をつねっても、必死に目を擦っても堪えられない。薬を盛られたように押し寄せる睡魔。
そして俺はそのまま床に倒れ伏し。
「おーい僚哉?」
戻ってきてしまった。
「……ん。ああ、ごめん。今日は予定あるんだ。」
「そか。わかった。」
「じゃ、また今度遊ぼうなー。」
だが焦るな。思い当たる節はある。例のヒステリックレイプ目少女だ。
まずひとつ、ループにおいて自分以外の人間の動向は殆ど変わらないにも関わらず彼女は今までと大いに違う動きをした。そしてもうひとつ、あの絶望の色一色に染まった瞳。彼女もまた俺と同じような苦しみを味わったのかもしれない。
全く考えていなかったが、俺以外にも『くりかえし』ている人間がいるかもしれないのだ。
兎に角、彼女がこのループに何らかの形で関わっている可能性は高い。どうしても接触したい所だが、どうしたものか、俺は彼女との接点が一ミリも無い。ので。
「ところで突然なんだけどさ、隣のクラスのうっすら赤みがかったマッシュショートの女子、知ってる?」
取り敢えずこの二人に聞いてみる事にした。すると恭太は「ああ、話したこと無いけどかわいいよねー」と同意を求めてくる。確かにかわいい、多分そうなのだろうがあの表情でエンカウントしてしまうと素直には同意しかねる。というかそうじゃない。
しかし、使えない恭太の一方勇正は神の一手を放った。
「松井さんだろ?女バスの。俺同じ保険委員だから知ってるよ。」
「でかした!じゃぁあばよ!」
名字だけでなく所属する委員までわかるとは、予想外の収穫。善は急げ、俺は隣のクラスへと向かって教室を飛び出した。
「予定って……ナンパ?」
「いやぁ、あいつそんな奴だったっけ?」
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