第12話 地上エンジョイ…の果てに
時は少し戻って正午頃。
天使ミカエルとガブリエルは堂々と街の上空を飛び、尚且つ気になった地点は地上に降りてその周辺を足で回って調査も行っていた。
無論騒ぎにならないように空を飛ぶ時は
「はふはふ~このピザまん美味しいよガブリエルちゃん! 一口どう?」
「要りません」
「おすすめですって言うだけあって本っ当に美味しいのに要らないのお~?」
コンビニコーヒー片手のガブリエルから鬱陶しそうに睨まれたので彼は口をつぐんだ。無論彼女のは砂糖一切なしのブラックである。
さすがに物を買う時は普通の人間にも見える姿になったミカエルは、味覚センサーの赴くままにデパ地下へと行くと両手一杯に飲茶を購入していた。
そこから移動して今は二人揃ってとある公園のベンチである。
そこは奇しくもサクラが寝ていた植え込みのある公園だったが、そんな事を二人が知る由もない。
「全く、熱々飲茶それで何個目です? 食べる毎にこっちに訊いてくるやめて下さいよ。……というかミカエル」
「
「あなたは天使の自覚があるんですか? え? その飲茶といいさっきからクレープだのたこ焼きだのと何地上を満喫しているんです? ええ? 目的をすっかり忘れていますね?」
「ふゅっ……!?」
ミカエルとは違って先程から一口も固形物を口にしていないガブリエルが絶対零度の眼差しを同僚に向ける。
と、熱々だったピザまんが一瞬で凍りついた。
時に天使の眼差しとは物理的に作用する。
「うえええええっ! ピザまんっ僕のピザまんがあああっ!? 極地の氷漬けマンモスみたいに冷たくなってるよおおおっ! ああああ~っ!」
それでも涙目で冷え冷えピザまんというか最早氷を
その間、
「……正直引くレベルですね」
彼から並々ならぬ食物への執念を感じ取ったガブリエルが気味悪そうに両腕を抱いた。
天使は人間の食物を食べても平気だが基本的に必要としないので、食欲という概念や言葉は知っていても、直接的にそれを感じる事はない。
「……と、されているんですけどねえ。まあ地上生物にもあるくらいですし、突然変異の天使がいても不思議ではないかもしれません」
ミカエルはこの調子で、天界でも特にスイーツなどの甘い物を好んで食べる傾向にある。全て地上の食べ物だ。主に彼に仕える下っ端天使が買ってきて献上している。ただ、献上と言っても天使達はどこか嬉しそうで、その手のカフェで愛玩動物に餌付けしている人間達の姿をガブリエルに連想させたものだ。
「到底理解できませんね。やはりバカにはバカと言われるだけあって何らかのまだ未知なる部分が……?」
ミカエルを横目に半ば本気でその思索に耽るガブリエル。
彼女の横には可愛い顔の赤い目の大きなうさぎさんと、青い目の熊さんのぬいぐるみがお行儀よく並んでいた。
彼女は彼女でちゃっかり趣味に走っていたりする。
自分は非難されても相手には突っ込まないミカエルの方が、実は大人なのかもしれなかった。
天使たちの間でミカエルは「可愛いけどおバカちゃんだよね」と言われ、ガブリエルは「理想の上司だし美人だけど、隠してる乙女趣味駄々漏れだよね」と言われている。
だが幸いにもガブリエル本人は知らない。
皆から密かに相性ピッタリの良いコンビと認識されているのも、とても幸運な事に知らなかった。
知れば間違いなく機嫌を損ね……いや神殿を半壊させただろう。
一度この二人が不仲になれば、転生業務や魂管理が連携不足で滞り、果ては業務がパンクしかねない。
どうせならこの地上派遣でくっ付いて来い、と天界では大半が思って送り出したくらいだ。
……実のところ、くじ引きは仕組まれたものだった。
まあともかく、公園で漫才をしているような二人だが、天使としての感覚は遮断していない。
ふと、彼らは同時に顔を上げた。
ミカエルはピザまん氷を完食している。
何とも強靭な歯と顎の持ち主だ。
「何か妙な気配ですね」
「……妙、かなあ?」
感じ方はそれぞれ異なれど、何か普通じゃない気配が二人のいる公園に近付きつつあるのは確かだった。
地上に来て初めて感じた異常だった。
じっと息を殺すようにして待つ天使ズ。
そして道の向こうにその影は小さく見え始めた。
段々と大きくなる。
人間だ。
おそらくは女性。
おそらくは生者、おそらくは……。
「ぴぎゃあああああああーっ! おおおおお化けだよおおおっガブリエルちゃあああん!!」
横のガブリエルに抱き付いてミカエルは泣き喚いた。
抱き付かれたガブリエルの方も全身を固くしてその現れた人物を見つめている。
鼻水がくっ付いているのにも気が回っていないようだった。
――――サダコ。
地上の人間ならほとんど例外なくそう認識した事だろう。
けれど天界の二人は地上での人気ホラー映画を知らなかった。
黒髪を前にまで垂らしふらふらと歩いているその女性を、天使ズは天使という立場も忘れ、それが視線先の路地をのろのろと通り過ぎていく様を、ただただ呆然と見つめていたのだった。
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