11―15
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オークたちとの戦闘は、思ったよりも長引いた。
オークの数が滅茶苦茶多かったのだ。
この地下迷宮には、『オークの砦』や『オークの神殿』よりも何倍も多くのオークたちが棲息しているようだ。
そのため、僕とカチューシャが広範囲攻撃魔法を使っているのに1時間以上掛かってしまった。
これは、オークが奥から近寄ってくる時間がロスタイムとなっていたこともあるだろう。
パーティメンバーを放置して、僕たちが移動しながら倒していけば、もっと早くに終わったと思う。
しかし、それほどまでに多数のオークが棲息しているとは思っていなかったので、近づいてくるオークを順番に倒していったのだ。
そして、大型種を全て倒した後も反対側で戦っていたパーティメンバーに加勢してノーマルオークを倒す手伝いをした。
「ふぅー、やっと終わったぜ……」
「疲れましたわ」
「数えていなかったけど、全部で1万匹くらい居たんじゃないかな?」
「ふむ、こちら側は5千体を少し超えるくらいだった」
レリアがそう言った。
「ノーマルオークが5千なら、大型種はもっと少なかったのかな?」
「いや、主殿が言われる通り、大型種も5千体以上おったぞ」
カチューシャがそう言った。
几帳面なエルフのレリアはともかく、カチューシャも僕たちが倒したオークの数を数えていたようだ。
「おっ、金が7千ゴールド近く増えてるぜ」
「
「あたしは、1万超えたよ」
「私は1万5千くらいだな」
「まーた、レリアの一人勝ちかよ」
「ユーイチは、もっと稼いだだろう」
「ええ、こっち側は、大型種ばかりでしたから。たぶん……」
「それが不思議よね。どうやってあれだけの数が背後から来たのかしら?」
「途中の分岐がオークの拠点と繋がっているのかもしれませんね。そう言えば、アンジェラさんのパーティのエレナさんが、オークが別の通路を使って回り込んできたという話をしていました」
「
「勝ったんだから、いいじゃねーか!」
「ユーイチが居なかったら、
「あたくし、恐ろしいですわ……」
グレースが自分の体を抱くようなポーズをした。
『トレード』→『クリスティーナ』
僕は、【調剤】のスキルで『魔力超回復薬』を6本作ってクリスティーナに渡した。
「飲んでおいて」
「ありがとう」
「ユーイチ。いつもありがとうございますわ」
「ホントだぜ。今度、体で御礼してやるからな」
「結構です」
「ユーイチくん、良かったらあたくしの体も使ってくださいな」
「け、結構です……」
「反応が違うわね」
「そうだな……」
「早く飲んでください。時間が勿体ないので、すぐに移動しましょう」
「えーっ!? 少し休んでいこうぜ?」
「僕たちは、この地下迷宮を隅々まで探索するつもりなんですよ?」
「何日掛かるか分からないので、休むときは、まとめて安全なところで休みましょう」
冒険者は、疲れ知らずなので、魔力――MP――さえ回復していれば休む必要はないのだ。
「わーったよ!」
「……無事だろうか……」
レリアがそう呟いた。
アンジェラのパーティに居たエルフの女性が心配なのだろう。名前は、確かフレイヤだったはず……。
そう思考すると、フレイヤの顔が鮮明に思い浮かんだ。
やはり、刻印には、本人の思考をサポートして記憶を表示させるような機能があるようだ。
そして、僕たちは、地下迷宮の探索を再開した――。
オークが出て来た通路の角を右に曲がり、地下迷宮の奥へと進んでいく。
数百メートルほど移動したところに右に入る通路があった。
もしかすると、来る途中の分岐に通じているのかもしれない。
とりあえず、その分岐点は無視して真っ直ぐに進む。
それから、更に数百メートル移動したところにも右に入る通路があった。
「カチューシャさん、【マニューバ】を起動してこの通路が僕たちが通ってきた通路に繋がっているか調べて来て」
「相分かった」
そう言って、カチューシャは、右の通路へ飛行して入った。
そのまま、かなりの速度で奥に移動していく。
「速ぇー!」
「ホントですわね」
「今のがユーイチが改造した高速版の【フライ】ね?」
「ええ、そうです」
「後であたしにも刻印してくれる?」
「いいですけど、それなりに魔力を食いますよ?」
アリシアのレベルだと結構厳しいかもしれない。
まだ使えない可能性もあった。
【ハイ・マニューバ】ではない普通の【マニューバ】でも【フライ】の十倍の速度に設定してあるので、単純に考えて魔力系レベル4の魔術である【フライ】の十倍の魔力を消費するはずだ。
「使い処を考えないといけないわけね」
「ええ……」
僕たちが歩き始めると、後方からカチューシャの声がした。
「あるじどのぉー!」
【マニューバ】で飛行しながら、高速で接近してくる。
そして、減速しながら僕の胸に飛び込んできた。
速度は十分に殺されていたので、ふわっと抱きつかれたような感じだ。
「うわっ、早かったですね……」
「うむ。やはり、先ほどの2つの分岐の両方が妾たちが通ってきた通路に繋がっておったよ」
おそらく、カチューシャが入った通路は、僕たちが来たときに見た最初の分岐点に繋がっていたのだろう。
そして、そこに出たカチューシャは、次の分岐点を曲がり、この通路の一つ目の分岐から出て戻ってきたのだと思う。
「なるほど……。オークの大型種は、さっきの分岐の両方を抜けて背後から回り込んできたわけか……」
逆に分岐点を曲がってオークの拠点に接近して来た場合は、ノーマルオークが回り込んで挟撃するのだろう。
シンプルだが、なかなかエグい陣形だ。
分岐地点が2つあるのもミソかもしれない。
逃げる場合、運良く近い方の分岐を抜けられても最初の分岐からオークたちが出てきて撤退を阻まれるのだ。
最良の選択肢は、一番最初の分岐を曲がることかもしれない。その場合、大型種に挟まれる可能性が高いので、最良と言えるかどうか分からないが、後方から挟撃してきた敵を抜くことができれば、撤退は可能だろう。
「そう言えば、冒険者の遺体は見ませんでしたか?」
「通路には、何も落ちてはいなかったぞぃ」
――冒険者の死体は何処に消えたのだろう……?
そんなことを考えながら、僕は、パーティメンバーたちに続いて地下迷宮の奥へ移動した――。
◇ ◇ ◇
「うっ……なんだ、この臭いは……?」
『オークの神殿』で嗅いだような死臭がする。
少し先で通路が広くなっているのが見えた。
「酷い臭いですわ……」
「これは、まさか……」
クリスティーナが立ち止まった。
「イヤッ!」
レティシアが顔を背けた。
「うわっ、何だよこれ……」
「ヒィッ!」
グレースが短い悲鳴を上げた。
「うわぁ……死体だらけね……」
「うむ……」
天井の高さは変わらないが、通路が左右に広がっていた。
通路3本分くらいの幅があるので、おそらく30メートルくらいの幅だろう。
そして、その通路の両端に死体が積み上げられている。
白骨化したものもあるので、かなり昔にオークに殺された冒険者の死体も混じっているようだが、多くは、最近、ここを攻略した冒険者たちの死体だろう。
僕は、死体に手を合わせて、冥福を祈った。
「主殿……」
カチューシャが僕を呼んだので、声がしたほうを見ると、彼女は、無言で僕を見つめていた。
用があるわけではないようなので、僕は、パーティメンバーに先へ進むことを提案する。
「先に進みましょう」
「ええ……」
広くなった通路は、数百メートル先まで続いていた。
【テレスコープ】
【テレスコープ】の魔術で視界を拡大してみると、奥に地下へ降りる階段があるのが見えた。
「奥に下りの階段が見えますね……」
「アンジェラ様たちは、その先に囚われているのかしら?」
「おそらく……。今までに僕が見たオークの拠点には、必ず牢屋がありました」
「牢屋ねぇ……?」
「マジックアイテムの牢屋です。オークが持つ鍵が無いと開かないようでした」
「そんなもん、どうやって開けるつもりなんだよ?」
「攻撃すれば、鉄格子は消えます」
「なんだ、楽勝じゃんか」
「でも……。もし、カーラがオークに囚われて、そこに閉じこめられたとしたら、たぶん、自力では開けられませんよ」
「マジかよ!?」
「それなりに強力な攻撃じゃないと消えませんからね。それにオークに囚われた女性は、装備を奪われるので、素手で攻撃して開けるのは相当なレベルじゃないと難しいでしょう。それくらい強かったら、オーク共を殲滅できると思いますし……」
「それくらいの強さがあれば、オークは怖くないってことね」
「クリスたちなら、今のレベルでも通路の角でオークを迎え撃てば一人でも殲滅できると思いますけどね」
「あたくしには、無理ですわ……」
「確かにグレースさんには難しいかも……あと、カーラにも……」
グレースは、回復系の魔術師なので、近接戦闘には向いていないため、ダメージが蓄積していずれ死んでしまうだろう。
そうなると、仮死状態となりオーク・プリーストに【リザレクション】を掛けられて復活するものの、押さえつけられ、拘束されて拠点に運ばれてしまうのではないだろうか。
僕は、アリシアがオークに押さえつけられたシーンを思い浮かべた。
カーラは、近接戦闘が得意ではあるが、防御が弱いためダメージが蓄積していくだろう。
魔力――MP――があるうちはいいが、切れた後にグレースと同じ運命となる可能性が高い。
「な、なんだよ……? お、脅しても無駄だぜ……?」
「グレースは分かりますけど、どうしてカーラもですの?」
「これだけオークの数が多いとダメージが蓄積していき、いずれ倒されてしまうと思います。防御力の高いクリスやレティなら耐えきれると思いますが、カーラは魔力が切れたら、殺されてオーク・プリーストに【リザレクション】を掛けられてから、押さえ込まれて連れ去られるのではないかと……」
「こっ、怖いこと言うなよっ!?」
「ああっ……想像しただけで、あたくし粗相をしてしまいそうですわ……」
そう言って、グレースが僕に抱きついてきた。
「ちょっ……グレースさん……」
「震えが止まるまでユーイチくんを感じさせてくださいな……」
「レリアやアリシアは大丈夫なのね?」
「そうですね。アリシアは、【インビジブル】と【フライ】を使って逃げればいいでしょう。レリアは、普通に戦っても勝てると思いますよ」
「そうだな。以前の私には無理だっただろうが、今の私なら問題ないだろう。ユーイチに刻印してもらった【メディテーション】もあるので、魔力切れの心配も無い」
「レリアにもオークの動きは、だいぶスローに見えてるんでしょ?」
「ああ、正面からなら攻撃を受ける気がしない。ユーイチが見ている世界は、もっと凄いのだろうな……」
「そうですね。【戦闘モード】を起動すると動きが停止して見えるので、先ほどの戦闘では使っていませんでした」
「ホントかよ!?」
「流石ね」
「凄いですわ……」
「ユーイチくん……」
「凄いわ」
『こそばゆいな……』
「じゃあ、先に進みましょう」
「ええ、そうね」
僕たちは、オークの拠点へ向け移動を再開した――。
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