11―14
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「おお、あんたらは、学園の……。今日は、朝から潜るのかい?」
僕たちが地下迷宮の入り口に到着すると、警備の冒険者が声を掛けてきた。
週二回通っているので、警備の冒険者パーティにも覚えられているのだ。
地下迷宮の警備は、いくつかのチームがローテーションで行っているように見える。
「ええ、今日は正規の通行許可証を持っているわ」
そう言って、クリスティーナが『マジックバッグ』から通行許可証を取り出して見せた。
「許可を取ったパーティというのは、あんたたちだったのか」
どうやら、警備の冒険者たちには、『組合』から通行許可証を発行したパーティがあれば連絡が行くようだ。
「今日は、課外活動として地下迷宮に入るのよ」
「そうか、気をつけてくれ。このパーティなら大丈夫だろうが……」
「暫く地下に籠もるつもりなので、戻って来なくても心配しないでください」
「分かった。だいたい、あんたらは、いつも地下から直接学園に戻っているだろう?」
「そのほうが早いもの」
「初めは、警備のパーティがちょっと緊張したらしいぜ」
「モンスターを入り口に引っ張ってこないかと?」
「まぁ、そうだな」
「でも、戻ってこないということは全滅した可能性が高いということでは?」
「あんたが死ぬとは思えないからな……」
警備の冒険者パーティのリーダーが僕にそう言った。
警備の冒険者たちは、レベルが高いので【冒険者の刻印】のスキルによって、僕の強さが分かるのだろう。
「じゃあ、行きましょう」
クリスティーナがそう言った。
僕たちは、地下への入り口へ移動を開始する。
「では、行ってきます」
「おう、気をつけてな」
「行って参りますわ」
「行ってくるぜ」
「今回は、ちょっと緊張するわね」
「何じゃ、お主? 我が主殿を信じられぬのか?」
「そういう意味では……」
「では、どういう意味なのじゃ?」
僕の前でカチューシャがアリシアに絡んでいた。
「カチューシャさん。いつもと違うわけですから、みんな緊張していて当然でしょう」
「ふむ。妾は、主殿の側に
カチューシャは、そう言って、僕の腕に抱きついた。
【ナイトサイト】【フライ】【レーダー】
地下に着いたので、【ナイトサイト】と【フライ】と【レーダー】を起動した。
パーティメンバーたちも【ライト】や【ウィル・オー・ウィスプ】などの明かりを準備している。
「ユーイチ。まずは、オークを攻略するのね?」
「ええ、囚われている女性を助けましょう」
「分かったわ」
そう言って、クリスティーナは先頭を歩き始めた。
パーティの隊列は、先頭にクリスティーナと少し距離を置いた左隣にレティシアが並んでいる。
その後ろにカーラが二人の真ん中くらいの位置でついていく。
カーラの後ろには、グレースが続き、その後方にレリアとアリシアが並び、最後尾に僕とカチューシャがついていくというものだった。
僕たちは、【レーダー】を使っているため、後方を気にしながら移動する必要はないが、普通のパーティでは、少なくとも一人は背後を警戒しながら移動するようだ。
そのため、一般的に最後尾には、軽装戦士など戦士系の冒険者が並ぶという隊列が普通らしい。
後方から奇襲されたときに対応するためだ。近接戦闘が苦手な魔術師系の冒険者だと、すぐにやられてしまう可能性があるのだ。
以前は、その役目をレリアが行っていたようだが、今は僕がやっている。その頃、このパーティの軽装戦士は、カーラ一人だったが、カーラよりも精霊系魔術師のレリアのほうが近接戦闘でも上だったのだろう。元のレベルが違うので当然だ。しかも、レリアは精霊系の魔術で自身を強化することができるのだ。
暫く歩くと、クリスティーナが十字路の手前で止まった。
「じゃあ、オークの棲み処があるほうへ向かうわね」
そう言って、十字路を左に入っていく。
地下迷宮の通路は、幅が約10メートル、高さも約10メートルくらいの広さがあるので、それほど圧迫感は感じない。
石造りで寒々しく感じるが、実際に気温も外よりかなり低い。刻印を刻んでいなければ、厚着じゃないと寒く感じるくらいの気温だ。体感温度では、10~15度くらいだろうか。
【レーダー】に赤い光点が映った。数がどんどん増えていく。
「前方に敵が居る」
「戦闘準備!」
クリスティーナが止まってそう言った。
パーティメンバーたちの身体が白い光に包まれて、僕が与えたアダマンタイト製の装備に換装される。
そして、グレースが回復系魔術のバフを掛け始めた。
それを確認してから、僕は、空中に浮かび上がった。
【レーダー】の光点は、18まで増えたところで打ち止めになっている。
【テレスコープ】
視界を拡大してみると、大型種が6体の集団だった。
大型種のうち2体はオーク・プリーストのようだ。メイスとラウンドシールドを装備しているのが確認できる。
イザベラのパーティを襲ったのと同じ集団かもしれない。
【マジックアロー】
僕は、【マジックアロー】を起動してオーク・プリーストに照準した。
既に射程距離に入っているようだ。
『発射』
僕の1メートルくらい前方の空間から、光の矢が発射された。
50メートル以上先に居るオーク・プリーストの頭に当たり、オーク・プリーストは白い光に包まれて消え去った。
【マジックアロー】
更にもう一体のオーク・プリーストにも【マジックアロー】を発射して倒した。
――ウォオオオーーッ!!
オークたちは、一体目のオーク・プリーストが消え去ったときには、何が起きたのか分からない様子だったが、二体目のオーク・プリーストが消えたときにこちらから狙撃されていることに気付いたようで、叫び声を上げながら、こちらに接近してきた。
「来るわよ!」
「主殿、妾も……」
「今回は、僕たちの出番は無しです」
「そんなぁ……」
その後、クリスティーナたちは、数分でオークの群れを片付けた――。
◇ ◇ ◇
「本当に一発の【マジックアロー】でオークの大型種を倒せるなんて……」
「信じられないわね……あたしじゃ、何十発も撃たないと倒せないと思うわ……」
「では、カーラを一発で倒せるかどうか試してみてください」
「レティ! てめぇ!」
「騒々しいのぅ、何を当たり前のことで騒いでおるのじゃ?」
あれから僕たちは、オークの集団と3度の遭遇戦を行った。いずれも20体未満の集団との散発的な戦闘だった。
通路の分岐点は、これまでに2箇所あったが、どちらも右へ曲がる通路と直進する通路の選択だった。
僕たちは、どちらも直進した。
下手に曲がると迷ってしまい、オークの拠点とは関係がないところへ出てしまう可能性があったからだ。
とりあえず、左手の法則に従ったということもある。
僕たちが長い通路の奥へ移動していくと、【レーダー】に反応があった。
「前方に敵が居るよ」
「戦闘準備!」
クリスティーナが立ち止まってそう言った。
パーティメンバーたちが、セットアップを開始する。
【レーダー】に映る赤い光点は、停止したままだ。
これまでに遭遇したオークの集団とは違いワンダリングモンスターではないのかもしれない。
だとすれば、その先にオークの拠点がある可能性が高い。
「敵は動かないね」
「拠点が近いのかしら?」
「そうかも。それより、おかしいと思わない?」
「何が?」
「前に救出作戦を行った冒険者たちの遺体が無い」
「――――!? 確かに……」
これまで冒険者たちの死体を見かけなかったのは、救出作戦を行った冒険者たちが戦った場所まで辿り着いていないからだと思っていた。
しかし、この先にオークの拠点があるのなら、とっくに冒険者たちが死んだ地点に着いていてもおかしくはない。
武器や防具などの装備が落ちていないのは、冒険者が死んだ時に消えるからだろうけれど、死体は残るはずだ。
「分岐を曲がったのかな?」
「どうかしら? 普通に考えるとこのルートを通ったと思うけど……」
クリスティーナの言う通り、途中で曲がる合理性は低い。撤退して逃げるときもルートが真っ直ぐのほうが分かりやすいからだ。オークは、それほど足が速いわけではないから尚更だった。
しかし、僕たちよりもこの迷宮に詳しい人間がリーダーで、かつ曲がったほうがオークに対して有利だった場合にはその限りではない。
――分岐地点まで戻って、曲がったルートで攻略するべきだろうか?
『いや、罠があるなら食い破ればいい……』
僕は、少し悩んだが、僕たちのレベルならそこまで慎重になる必要はないと考えた。
「ユーイチ、どうするの?」
「進みましょう」
「ええ、分かったわ。みんな、行くわよ!」
「ええ、分かりましたわ」
「行くぜ!」
前衛の3人が奥へ向かって走り出した。
グレース、レリア、アリシアがその後に続く。
僕とカチューシャも一番後ろから飛行してついていった。
【レーダー】を見ていると、オークは右前方に分布しているようだ。
正面奥の通路が50メートルほど先で右に曲がっているからだろう。
「通路が奥で右に曲がっていて、その先にもオークが並んでる。かなりの数だ。100体は居ると思う」
「分かったわ」
「それくらい、屁でもねーぜ!」
「調子に乗りすぎですわ」
実際、彼女たちの実力からすれば、大した数ではないだろう。
ただ、回復されると面倒なので、オーク・プリーストだけは、優先的に狩っておく必要がある。
「カチューシャさん、オーク・プリーストを優先的に攻撃して」
「分かり申した!」
――ウォオオオーーッ!!
――ウォオオオーーッ!!
――ウォオオオーーッ!!
――ウォオオオーーッ!!
――ウォオオオーーッ!!
・
・
・
僕たちが接近すると、オークが叫び声を上げた。
しかも、連動するように奥に居るオークが順に叫び声を上げていったのだ。
そうやって、奥に居るオークたちに侵入者の存在を知らせているのかもしれない。
叫び声は、小さくなりながら、右奥のほうから繰り返し聞こえてきた。
「来るわよ!」
オークたちは、これまでに戦ったワンダリングタイプの集団とは違い、5列に並んで接近してきた。
――ガキン!
――ガキン!
クリスティーナとレティシアがオークの攻撃を盾で受け止めた。
奥を見ると、通路の右から続々とオークが現れた。
しかし、オークたちは、接近して来ない。2メートルくらいの間隔を空けて整列しているのだ。
まるで、統制の取れた軍隊のようだった。
「主殿……」
「うん、オーク・プリーストが居ない……オーク・ウォーリアも……」
オークの集団は、全てがノーマルオークだった。
『オークの砦』などでも最初は、ノーマルオーク、続いてオーク・アーチャー、そしてオーク・ウォーリア、最後にオーク・プリーストと順番に出てくるので、此処のオークもそうなのだろう。
ただ、今のところ、この迷宮内では、オーク・アーチャーの存在だけは確認していない。
コボルトやゴブリンもこの迷宮内では、弓装備のアーチャーを見たことがないので、この地下迷宮にはアーチャータイプのモンスターが存在しないのかもしれない。
オークが5列に広がっているため、レリアとアリシアもそれぞれ1体ずつのオークと近接戦闘で対峙していた。フロントラインを抜かれると囲まれてしまうからだ。
しかし、不思議なのは、すり抜けるスペースがあるのに後方のオークは、前に出てこないことだった。
パーティメンバーが1体のオークを倒すと、繰り上がって次のオークが前に出てくるのだ。
『まるで、時間稼ぎをしているみたいだな……』
「妾も手出しして良いか?」
「そうですね。時間が勿体ないから、僕たちも魔法で攻撃しましょう」
「相分かった!」
――シュボボゴゴォオオオーーー!!
カチューシャが奥の集団に【ファイアストーム】を撃った。
効果範囲内のオークが白い光に包まれて消え去る。
しかし、奥から新手のオークが前進してきて、空白を埋めた。
――シュボボゴゴォオオオーーー!!
カチューシャが同じ地点に【ファイアストーム】を撃ち込んだ。
効果範囲内のオークが白い光に包まれて消え去った。
そんなことを何度か繰り返していると、【レーダー】に新たな赤い光点が現れた。
後方からだ。
光点は、どんどん増えていき、後方から迫ってくる。
「クリス、後方からも敵が来る」
「何ですって!?」
「僕とカチューシャさんで対応するよ」
「分かったわ。お願い」
【ストーンウォール】【ストーンウォール】
僕は、オークに抜かれないように2枚の【ストーンウォール】を壁から少し斜めの角度で中央に数メートルの隙間ができるように設置した。
観音開きの扉を手前に引いて少し開けたような形状だ。
そして、その中央の隙間まで移動する。
カチューシャが僕の左隣に並んだ。
ドタドタと足音を立ててオークが接近してきた。
驚いたことに全てが大型種だ。
しかも、オーク・ウォーリアとオーク・プリーストが混在している。
個々にコンビを組んでいるのかもしれない。
【キューボイド・エクスプロージョン】
僕は、『プリティ・キャット』を設置するために作った【キューボイド・エクスプロージョン】を起動した。
この魔術は、約10×10×3メートルの空間に作用するため、通路にすっぽりと収まるくらいの効果範囲なのだ。
多少、壁の表面を削るかもしれないが、問題はないだろう。
地下迷宮の通路よりも効果範囲がずっと大きな【ハイ・エクスプロージョン】などは、何が起きるか分からないので使えないが、この程度なら大丈夫なはずだ。
僕は、【キューボイド・エクスプロージョン】の効果範囲内に多数のオークを収めてから発動した。
前方に白い光が広がり音もなく爆発した。
前方から強い風が吹き付けてくる。
「あ、主殿!? 今の魔術は、なんじゃ!?」
「僕が【エクスプロージョン】の魔術を改造して作った【キューボイド・エクスプロージョン】です」
「なんと!? まさか、あのような四角い範囲で作用するとは思いませなんだ! ……そう言えば、『ゲート』を設置されたときにも似たような大魔術を使われましたな……」
「あの魔法の効果範囲を狭めたものです。それより、次が来ますよ。魔法は、交互に撃ちましょう」
「畏まりました」
――シュボボゴゴォオオオーーー!!
カチューシャが先頭集団に【ファイアストーム】を撃ち込んだ。
すると、効果範囲内のオークが白い光に包まれて消え去った。
【ファイアストーム】
――シュボボゴゴォオオオーーー!!
――シュボボゴゴォオオオーーー!!
僕とカチューシャは、交互に【ファイアストーム】を打ち込んでいく。
――シュボボゴゴォオオオーーー!!
――シュボボゴゴォオオオーーー!!
・
・
・
僕たちは、迫り来るオークの群れを撃退した――。
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