11―16
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僕たちは、階段の前に着いた。
「降りるわよ」
階段の手前で先頭を歩くクリスティーナが振り向いて、僕たちにそう言った。
「ええ」
「行こうぜ」
「少し怖いですわ……」
「ユーイチが居れば大丈夫よ」
「ああ」
「その通りじゃ」
「行きましょう」
僕たちは、隊列を変更して階段を降りていく。
階段の幅は、2メートルくらいあるので、二列に並んで移動することが可能だ
先頭にクリスティーナとレティシア、二列目にカーラとグレース、三列目にレリアとアリシア、最後尾に僕とカチューシャという隊列で階段を降りていく。
階段を降りていくと奥から生臭い臭いが漂ってきた。
「うっ、これって……」
「ええ、そうですわ……」
「何ですの?」
「男のアレの匂いだよ。凄ぇキツいけどな」
「うっ……聞きたくありませんでしたわ」
「ユーイチ、敵は居ないのよね?」
【レーダー】を見ると前方に青い光点が並んでいた。
「ええ、囚われている冒険者らしき反応はありますが、敵の反応はありません」
「そう……ありがとう……」
階段を降りると通路が奥に続いていて、突き当たりが丁字路になっているようだ。
――『オークの神殿』に似てるな……。
僕は、レイコたちが囚われていた『オークの神殿』の構造を思い出した。
生臭い臭いは、だんだんと強くなってきた。
「うわぁ……コレは、キツいな……」
「あたくしもこれはちょっと……」
男好きの二人でもこの臭いには、辟易しているようだ。
「妾は、主殿のものしか嗅ぎとうないわ」
「ああん、ユーイチくんのものなら、あたくしも嗅ぎたいですわ」
「馬鹿なことを言ってないで、周囲を警戒しろ」
レリアが不快そうに口を挟んだ。
「周囲に敵はおらぬよ。主殿がそう言われたであろう?」
「くっ……」
「レリアは、仲間のエルフが心配なんですよ」
「そうであったか、無事だと良いがのぅ……」
僕は、【エアプロテクション】を掛けたかったが、意思疎通ができなくなるので我慢した。
「ユーイチ、どっち?」
【レーダー】を見ると、通路の突き当たり付近の左右に青い光点が並んでいる。
「どちらからも反応があります。おそらく、牢屋が並んでいるのでしょう」
「そう……。では、左側から見ていくわね」
先頭のクリスティーナが通路の突き当たりまで移動して左に曲がった。
「うっ……こ、これは……」
「なっ、何ですの!? イヤッ!」
「何だよ? うわっ……これは酷い……」
「ヒィッ!」
「うへぇ……」
「うっ……」
前方でパーティメンバーたちが次々に悲鳴を上げた。
「何じゃ、騒々しい……それにしても臭いのぅ……」
僕たちも左に曲がった。
『オークの神殿』とそっくりな牢屋が並んでいた。
おそらく、作ったのは、同じ人物だろう。
一番近くの鉄格子を覗いた。
中から強烈な臭いがする。
中には、真っ白な堆積物が溜まっていた。
よく見るとその中に人が埋まっているようだ。
白い堆積物は、人型に盛り上がっている。
人を寝かせて、その上にヨーグルトを大量にぶちまけたような絵面だ。
普通の人間なら、窒息しているところだが、刻印を刻んでいるので、この状態でも大丈夫なのだろう。
【レーダー】には、その場所に青い光点が映っている。
「さすがにコレは、勘弁してほしいぜ……」
「あたくしも絶対に無理ですわ……」
カーラとグレースが震えた声でそう呟いた。
「どいてください」
「どうするの?」
「鉄格子を斬ります」
パーティメンバーたちが下がった。
僕は、『アダマンタイトの打刀+1000』を抜いて、軽く鉄格子に押し当てる。
すると、鉄格子が白い光に包まれて消え去った。
【グレーターヒール】
念のため、女性をターゲットにして【グレーターヒール】を掛けた。
白い塊がブヨブヨと動いた。
『触りたくないな……』
――それにしても、いつから囚われているのだろう?
僕は、そんな疑問を抱きつつ、どうするか迷った。
『――――!? そうだ! ホムンクルスに作業させよう』
汚れ仕事をさせるのは可哀想だが、無感情な彼女たちなら気にしないだろう。
『オフェーリア』『オフィリス』
白い光に包まれて、メイド服姿のホムンクルスたちが召喚された。
「お呼びですか? ご主人様」
「ご主人サマ、何なりとお命じくださいな」
「悪いけど、そこに埋まっている女性を『ロッジ』の中に運んでくれる?」
「畏まりました」
「畏まりましたわ」
僕は、振り返って、通路に移動する。
『ロッジ』
そして、壁際に『ロッジ』の扉を召喚した。
オフェーリアとオフィリスが白い堆積物の中から、女性を担ぎ上げた。
女性は、もがきながら、手で顔に付いた半固形物の白い物体を払い落とす。
「ちょっと、こっちに飛ばさないで!」
アリシアが囚われていた女性に文句を言った。
払った付着物が飛んできたようだ。
「な、なに?」
女性が戸惑うように周囲を見渡した。
「あっ……」
オフェーリアとオフィリスが白い堆積物まみれの女性を運んできた。
僕は、『ロッジ』の扉を開ける。
『ロッジ』の中に女性が運び込まれた。
扉を閉めてから一瞬だけ帰還させて再度召喚する。
扉を開けて中に入ると、全裸の女性が床に座っていた。
金髪ショートカットの女性だった。
見たところ、身長は僕と変わらないくらいだろう。170センチメートル前後だ。
戦士系なのか、筋肉質でしなやかそうな体つきをしていて、胸は斜め後ろから見てもかなり大きい。
女性は、振り向いて僕を見た。
「あ、あんたは?」
「暫く中で待っていてください」
僕は、そう言って、外へ出てから扉を閉めた。
扉を帰還させて、次の牢屋へ移動する。
次の牢屋にも先ほどと同じような光景が広がっていた。
刀の刃を鉄格子に軽く当てて、鉄格子を消し去った。
【グレーターヒール】
『ロッジ』
僕は、白い固形物の下に居る女性に【グレーターヒール】を掛けてから、通路の壁際に『ロッジ』の扉を召喚した。
――ガチャ
『ロッジ』の扉を開けた。
先ほどの女性がむせび泣いていた。
外からでは、女性の声は聞こえない。
僕は、何て声を掛けたらいいか分からず、ホムンクルスたちに指示を出す。
「オフェーリア、オフィリス。次の人を運び入れて……」
「ハッ!」
「分かりましたわ」
二人が『ロッジ』から出て、白い固形物の中に手を入れて女性を担ぎ上げた。
女性は、無反応だった。
そのまま、『ロッジ』の中に運び入れられる。
僕は、『ロッジ』の扉を閉めて、一瞬だけ『アイテムストレージ』へ戻してから、再び召喚した。
――ガチャ
『ロッジ』を開けて見ると、床に裸の女性が寝かされていて、最初に助けた女性が寝ている女性に縋り付いていた。どうやら、知り合いだったようだ。
眠っている女性は、最初に助けた女性に比べると小柄でスレンダーな体型だった。
身長は、160センチメートル前後だと思われる。胸は、小ぶりだ。
肩までくらいの金髪セミロングの髪型だった。二人の顔立ちは、似ているので、もしかすると姉妹かもしれない。
僕は、『ロッジ』の中に入った。
「ううっ……良かったぁ……」
「大丈夫ですか?」
僕は、ローブのフードを上げて声を掛けた。
女性が顔を上げて僕を見る。
「あ、あんた。いや、あなたが助けてくれたのですね?」
「ええ、僕たちのパーティでオークを殲滅しました」
「ああ、ありがとうございました。あたしは、ベリンダ・カナリスと言います」
「ユーイチです」
「この
「妹さんですか?」
「いえ、従姉妹です。二つ歳下で妹みたいなものですけど……」
「あなたたちは、いつからここに……?」
「分かりません……ずっと、寝ていました。目が覚めると24時間の睡眠を摂って……」
「その……ずっと、寝たままで……」
「ええ、オーク共に乱暴されて何度も目が覚めるわ。でも、目覚めてもすぐに眠るのよ……」
「それを何十年も?」
「ええ、気の遠くなるくらいの回数、眠りに就く命令を唱えたわ……オーク共に身体を蹂躙されながら……」
「…………」
――ここは、オークの数が多い……
一人で百年近く囚われていたチハヤでもあんな酷い状態ではなかったのだ。
「では、他にも囚われている女性が居ると思うので、助けてきます」
「ええ……」
僕は、『ロッジ』から出て扉を閉めてから、『アイテムストレージ』へ戻した。
そして、次の牢屋へと向かった――。
◇ ◇ ◇
中央の分岐から、左側の牢屋には、更に12人の女性が囚われていた。
そのうち、3人は、ベリンダたちのように大量の体液に埋もれていたが、他の9人は、イザベラの救出作戦に参加して捕まった冒険者のようで、囚われてからあまり日数が経っていないためか、比較的マシな状態だった。
それでも体中が体液まみれで酷いものではあったが……。
「イザベラさんは、居ませんでしたね。」
「アンジェラ様たちもね……」
「フレイヤ……」
レリアがアンジェラのパーティメンバーのエルフの名前を呟いた。
「きっと、反対側に居ますよ」
「そうね」
僕たちは、中央の通路まで戻り、反対側の牢屋へ移動する。
次の牢屋の中にも、白い堆積物が溜まっていた。
「また、これかよ……」
カーラが牢屋の中を覗いてそう言った。
「中央の通路に近い牢屋には、昔に囚われた人が入っているのでしょう」
僕は、鉄格子を消滅させてから、ホムンクルスたちに女性を『ロッジ』へ運ばせた。
次の牢屋にも同じような光景が広がっていた。
僕は、同じ作業を繰り返す。
そして、次の牢屋を見て驚いた。
オークの体液などまるで付着していない綺麗な裸体の女性が牢屋の中で大の字で寝ていた。
それも、銀色の長い髪に褐色の肌、長い耳を持つダークエルフだったのだ。
スラリとしたスレンダーな身体に大きな胸をしている。身長は、170センチメートルくらいありそうだ。
――エルフとはだいぶ違うな……。
僕がそんなことを考えていると、パーティメンバーたちも牢屋の中を覗いた。
「嘘っ!?」
「……ダークエルフ!?」
「ホントかよ!?」
「初めて見ましたわ」
「どうして、こんなところに……」
「…………」
クリスティーナが僕に質問する。
「ユーイチ、どうするの?」
「勿論、助けますよ」
「でも、『組織』の人間かもしれないわよ?」
「クリス、彼女を見た感じ、どうですか? 僕たちよりも強かったらオークに囚われているとは思えないので、危険はないでしょう?」
「そ、そうね……見たところ、今のレリアよりもレベルは低そうだわ」
【グレーターヒール】
回復魔術のエフェクトに包まれてダークエルフの女性の身体が淡く光った。
「うっ……」
ダークエルフが目を開けた。
瞳の色は赤だった。
ダークエルフの女性と目が合う。
僕は、刀を抜いた。
ダークエルフの女性は、飛び起きて身構えた。
「ああ、心配いりません。この鉄格子を斬るだけです」
そう言って、刃を鉄格子に押しつける。
鉄格子が白い光に包まれて消え去った。
刀を鞘に収める。
すると、ダークエルフの女性は、ホッとした表情をして身体を手で隠した。
『ロッジ』
僕は、『ロッジ』の扉を通路に召喚した。
「とりあえず、この中に入っていてください」
そう言って、『ロッジ』の扉を開けた。
「何者だ?」
「この街の冒険者です」
「お前たちだけで、あの数のオーク共を倒したのか?」
「ええ、そうです」
「オークなぞ、主殿に掛かれば何万体居ようとひと撫でじゃ」
「私をどうするつもりだ?」
「別にどうもしませんよ。それともここから出たくはないのですか?」
「そ、そんなわけないじゃない……」
「じゃあ、入ってください」
「分かった……」
ダークエルフの女性は、『ロッジ』の中に入った。
僕は、『ロッジ』の扉を閉めてから、『アイテムストレージ』へ戻した。
そして、次の牢屋へ移動する――。
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