11―13

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 あれから僕は、アリーナ、マイア、ローザの3人から授乳され、最初にアリーナをトウコの使い魔にした。

 アリーナは、回復系の魔術しか使えなかったので、トロールがリスポーンする時間にフェリアたちを召喚して、トロール狩りに行ってもらった。

 その際、約半数のトロールを殲滅したら連絡するよう指示しておき、連絡のあった時点で必要な刻印を施されたアリーナがマイアとローザの二人をテイムした後、残りのトロールを殲滅させた。


 そのため、マイアとローザも召喚魔法が使えるようになったので、『アスタナの街』の教団から、既に刻印を刻んでいる残りの教団幹部から、希望者を『夢魔の館』へ連れて来てもらった。

 希望者と言っても15人全員が希望したということだったので、本人たちに再度、意志を確認した後、母乳を吸ってマイアとローザの使い魔とした。


 更に『アスタナの街』の教団員の中で、今現在、年齢が40歳以上の教団員の中から希望者を連れてきてもらい、フェリスに【エルフの刻印】を刻んでもらったあと母乳を吸った。彼女たちは、クセニアから渡された『女神の秘薬』を飲んでいたため、見た目は三十代でも通りそうな容姿だった。

 そして、マイアとローザの使い魔となった15名の教団幹部に【サモン】の【魔術刻印】を8個ずつ刻印しておいてもらい、次のトロール狩りの後に召喚魔法が使えるようになったら、彼女たちをテイムするよう指示しておいた。僕に授乳したことで、使い魔フラグが立ったと思うので、僕が居ないところでも使い魔にすることが可能なはずだ。

 ちなみに40歳以上の教団員の希望者の数は、11人だった。全員が刻印を希望したようなので、11人しか居なかったのだろう。思ったよりも数が少なかったので、理由を聞いてみたところ、『アスタナの街』では、入団希望者が年に1人居るか居ないかの割合でしかないようだ。それほど大きな街ではないということもあるだろう。


 また、教団を引退した人たちや病人に『女神の秘薬』を与えるようクセニアに指示しておいた。ここ数年で引退した教団員と、ここに居る刻印を授かった40歳以上の教団員であまりにも待遇に差が出てしまうのは問題だと思ったのだ。本人が希望するなら引退した人たちにも刻印を刻んでもいいと考えていた。

 しかし、どこかで線引きをする必要はあるだろう。際限なく刻印を施していては、エルフのように滅びの道を歩むことにもなりかねない。

 今回の件は、教団員に口止めするよう指示しておいた。40歳まで教団で働けば、刻印が授けられると分かれば、入団希望者が殺到して『アスタナの街』に多大な影響を及ぼす可能性があるためだ。

 教団員は、生涯独身を貫くため、少子化により将来的に街の経済や機能に影響が出るだろう。


「はぁ……」


 僕は、湯船の中で息を吐く。


『先週よりも疲れた気分だな……』


『アスタナの街』の教団の幹部たちを使い魔にすることが気疲れに繋がったのかもしれない。

 目上の女性たちに囲まれているという状況は、僕にとって緊張の連続だったのだ。

 使い魔にする相手がドライアードやニンフ、雪女たちの場合なら、彼女たちは、モンスターと同じ存在でホムンクルスのように何者かによって造り出された魔法生物のようなので、それほど緊張しなくても済んだのだが、初対面の人間で教主や幹部などの肩書きを持った偉い人を相手にすると、やはり緊張してしまう。

『ウラジオストクの街』の教団のときもそうだったが、相手が外国人ということもあるかもしれない。ただ、『ウラジオストクの街』の教団は、最初に敵対的だったことや、教団員を食い物にしているようなところがあったので、僕の方も遠慮しなくてもいいという気分だった。

『アスタナの街』の教団も『ウラジオストクの街』の教団と同様に娼館を運営していたり、街の有力者とコネがあるという話だったが、背に腹はかえられないような状況だったことも分かるし、周辺の村や貧困層への支援など、教団としてやるべき事をやっているようなので、『ウラジオストクの街』の教団を傘下に加えたときのような気分にはなれなかったのだろう。つまり、開き直れなかったということだ。


『いろいろと経験が足りていないんだろうな……』


 しかし、元の世界でこのような経験をすることはあり得ないので、多少の社会経験があったとしてもあまり変わらないかもしれない。


「主様……」


 耳元でレイコの声がした。


 僕は、目を開けてそちらを見る。

 すぐ側にレイコが居た。


「何?」

「次は、いつ来ていただけますか?」

「たぶん、一ヶ月以上先になるかな……」

「今度は、うちの店に来てくださいな」


 少し離れた位置からウメコがそう言った。


「そのときは、あたしたちも行きますね」

「お待ちしておりますわ。ご主人様」


 リョウコとリリアが援護射撃のつもりか口を挟んだ。


「あたしたちも時間が合えばいいんだけど……」

「そうだな……」

「そうですわね……」


 レーナたちも話に参加した。


「たまには、露天風呂でゆっくりするのもいいかもしれませんね……」

「ええ。ご主人様に来ていただければ、うちのたちも喜びますわっ」

「そ、そんな……」


 ウメコが喜びの声を上げ、レイコは意気消沈した。


「レイコは、最近どうしたの?」

「何がでしょう?」

「レイコらしくないよ」

わたしらしくないとは……?」

「僕の中では、レイコって、女騎士みたいにキリッとしてるイメージなんだけど……」


『ドMな性癖の……』


 心の中で付け加える。


「そうですか……。主様の中では、私はそんな印象なのですね……」


 やはり、歯切れが悪い感じがする。


「レイコは、娼館の経営が辛いの?」

「まさか! 主様に与えられた仕事に不満を抱くなどあり得ませぬ!」

「じゃあ、娼婦の仕事が嫌なの? これだけ、娼婦が増えたのだから、レイコは店に出なくてもいいんだよ?」

「いえ、私に付いている客も居りますし、女将である私が率先して仕事をするべきでしょう」


『真面目だなぁ……』


 この生真面目な性格が問題なのではないだろうか。


「別にこの館の売上とかは気にしなくてもいいんだよ? だから、もっと肩の力を抜いたほうがいいんじゃないかな……?」


 人生経験の浅い僕が言っても説得力がないと思いつつ、レイコを諫めてみた。

 レイコの年齢は、少なく見積もっても35歳以上だと思うので、僕の約2倍の人生経験があるはずだ。

 正確な年齢が知りたいところだが、女性に年齢を尋ねるのはマナー違反な気がして、レイコたちの年齢を聞いたことはなかった。


「ぬしさまぁーっ!」


 ――ザバッ!


 突然、レイコが膝立ちになり僕を抱きしめた。


「うぷっ、ちょっ……レイコ……」

「ああぁ……こうしていると癒されます……」


『レイコも大変なんだろうな……』


 娼館の運営という不慣れな仕事を任され、自身も看板娼婦として店に立つことでプレッシャーを感じているのかもしれない。


 僕は、暫くの間、レイコの抱擁に身を任せた――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 その後、僕たちは、『ローマの街』へ戻り、先週と同じような日々を繰り返した。

 月曜日と水曜日に地下迷宮に行き、火曜日と木曜日には『オークの砦』で狩りを行った。

 課外活動のある最終週の前の週にクリスティーナが「地下迷宮の探索」という課題をジュリエッタ先生に提出したところ、最初は反対されたようだが、最終的に僕たちの実力なら大丈夫だということで承諾してもらったようだ。


 その後、『組合』に行って、地下迷宮への通行許可証を取得した。

 申請書を受け取った受付嬢は、僕たちが学園の生徒だと知って怪訝そうな顔をしていたが、ソフィアに根回しをするよう頼んでおいたので、翌日にはすんなりと発行してくれた。


 そして、今日は、8月26日(日)だ――。


 8月の最終週の始まりの日であり、課外活動として地下迷宮の攻略を開始する前日でもある。

 地下迷宮への入り口は、『キアーナ亭』からよりも『プリティ・キャット』からのほうがずっと近いので、僕たちは、夕方から『プリティ・キャット』へ来ていた。


 今日は、暇つぶしに『ローマの街』の商業地区をブラついて、帰りにバルネアで入浴した後、『プリティ・キャット』へ来たのだ。

 ここのところ、ソフィアは、『プリティ・キャット』に泊まってはいないようだ。

『組合』の女性職員たちを連れて昼前に訪れ、夕方に一緒に『組合』へ戻っているらしい。

 女性職員たちを送迎するため、一緒に戻っているのだろう。

 その代わり、毎日、店に来ているようで、店に滞在している時間帯もだいたい同じのため、伝言はしやすくなった。

 その時間帯に『プリティ・キャット』の店員に【テレフォン】で連絡して伝えてもらえばいいからだ。


 僕が『プリティ・キャット』の地下にあるリビングで食後のコーヒーを飲みながら、回想に耽っていると、アデリーナが僕の側にやって来た。


「ユーイチ様」

「ん? なに?」

「今日は、あたしたちと一緒にお風呂に入ってもらえませんか?」


 少しモジモジしながら、メイド服姿のアデリーナがそう言った。

 どうやら、僕に授乳したいようだ。


「別にいいけど?」

「ありがとうございます!」

「じゃあ、少し早いけど、お風呂に入ってから寝ようかな……」

「そうね。明日から、課外活動ですものね」


 僕の独り言に右隣に座っていたクリスティーナが返事をした。


「うん」


 僕は、そう答えて席を立った――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 眠った瞬間に目が覚めた――。


「ほぉおおおぉおおおぉーっ、おりぇ、もぉらめぇー!!」

「あたくしぃ、あたくしぃいいいー、もぉおおおー!」


 起きた瞬間にカーラとグレースの嬌声が聞こえてきた。


『ルート・ニンフ帰還』


「へっ?」

「はぇ?」


 ルート・ニンフを帰還させると、二人は気の抜けた声を発した。


 目を開けると僕を覗き込んでいるオフェーリアと目があった。

 オフェーリアは、裸だったので、僕は、目のやり場に困った。


「おはようございます。ご主人様」

「お、おはよ……」

「ご主人サマ、おはようございますわ」


 下の方からオフィリスの声がした。

 見ると、オフィリスは僕のお腹に抱きついている。

 彼女には、僕の貞操を守ってもらっていたのだ。


「おはよう。そろそろ起きるからどいて」

「はいですわ」


 オフィリスが僕の上で身体を起こした。

 彼女も裸なので、僕は目を逸らす。


「んんっーっ、あるじどのぉ……」

「ごしゅじんさまぁ……」


 僕が動くと左右の腕に抱きついていたカチューシャとナディアが反応した。

 寝言を言うとは思えないので、目を閉じているだけだろう。


「あんっ」

「あっ……」

「ご主人様?」

「ユーイチ様?」


 僕が体を起こすと周囲の使い魔たちが呻いた。


【エアプロテクション】【フライ】


 僕は、【エアプロテクション】を一瞬だけ発動した後、【フライ】で空中に浮かび上がり、マットの上から湯船に移動する。


 ――ザバッ!


 空中で胡座をかいた姿勢のまま湯船に着水した。

 そして、【フライ】を解除する。


 ――ザバッ、ザバッ


 左右の背後で水音がした。

 オフェーリアとオフィリスが僕に続いて湯船に降りたようだ。


「ふぅ……」


 僕は目を閉じて息を吐く。


「あ、二人とも座って」

「ハッ!」

「はいですわ」


 ホムンクルスの二人が湯船に腰を下ろしたようだ。


 昨夜は、店員やパーティメンバーたちと一緒にお風呂に入り、全員から授乳された。

 その後、僕は二階の個室で寝ようとしたのだが、店員たちにマットプレイをせがまれ、洗い場で彼女たちの奉仕を受けたのだ。

 パーティメンバーたちにも『ローション』を渡して、カーラとグレースには、数人のニンフたちをあてがった。


 ――ザバッ、ザバザバザバザバザバ……


 他の使い魔たちも湯船に入ってきたようだ。


「座って」


 湯船の中を歩く水音が収まるのを待ってからそう言った。


 ――ザバーッ!


 使い魔たちが一斉に座ったため大きな水音がした。


『現在時刻』


 時刻を確認してみると、【06:04】だった。

『朝の6時まで睡眠』と念じて睡眠を摂ったのだ。起きた時刻が間違っていないことにホッとする。

 刻印自体が誤動作することがあるのかどうかは分からないが、『東の大陸』との間を行き来しているので、時差に気をつけないと間違った時刻まで寝てしまうことがあるかもしれない。


 僕は、目を開けた――。


 僕の正面には、アデリーナ母娘が湯船の中に座っていた。

 僕は、入り口に背を向けて座っているので、彼女たちの向こうには、浴場の奥の壁が見える。


「ユーイチ様、昨夜はありがとうございました」

「ご主人様。あたし、とても癒されましたわ」

「そっ、それは良かったです……」


 僕は、恥ずかしくて少しどもってしまった。

 面と向かって礼を言われると恥ずかしかったのだ。


「また、お願いしますね」

「え、ええ……」


 僕は、熱くなった顔を誤魔化すため、振り返って反対側を見た。

 クリスティーナを見つけたので、彼女のほうを向いて話し掛ける。


「クリス。ここを出るのは、7時頃でいいんだよね?」

「ええ、そうよ。地下迷宮への入り口は、朝の7時に開くから、それくらいでいいでしょう」

「他に地下迷宮へ潜るパーティは居ないかな?」

「最近は、地下迷宮へ行くパーティが少ないそうよ。入るために通行許可証を取得しないといけないし、街道の警備と違って危険ですもの」


 平日は、一日おきに地下迷宮へ潜っているが、他の冒険者パーティと出会ったことはなかった。

 単に僕たちが潜る時間帯が遅いからだろうと思っていたのだが、地下迷宮で狩りをするパーティが少ないことにも原因があるようだ。

 確かに閉鎖空間で逃げ場が少ないし、トレインの危険もあるため、モンスターの狩り場としては、あまり人気にんきがないのだろう。


「あるじどのぉ……。今日は、妾の活躍を見ていてくだされ……」


 カチューシャが僕の左腕に抱きついてそう言った。


「そうだね。たぶん、クリスたちだけでも楽勝だとは思うけど、時間を掛けたくないから、カチューシャさんにも頑張ってもらおうかな?」

「フフフ……妾にお任せあれ!」


 ――ザバーッ


「カーラが湯船の中を移動して僕の近くに来た」

「ユーイチぃ……」


 そう言って、僕に抱きついてくる。


「ちょっ、カーラ……」

「カーラ、何をやってますの!」


 すかさず、レティシアがカーラをたしなめた。

 しかし、カーラはそれを無視して言葉を続ける。


「いいところでニンフを消されたから、オレもぅ我慢できねぇよ……」

「【戦闘モード】を起動してください」

「あのなぁ……それじゃ面白くないだろ」

「どういう意味です?」

「そんな、いつも冷静な状態でお前は楽しいのかよ?」

「今は、そんなときじゃないでしょ?」

「まだ時間はあるじゃねーか?」

「ありませんよ。一時間後には、地下迷宮の探索が始まるのですよ?」

「そうですわ。そんなに我慢できないなら、オークに連れ去られたらいいと思いますわ」

「そうね。地下迷宮のオークを退治したら、カーラはオークの棲み処に置いてこようかしら」

「待て!? 止めろよ?」

「一週間後に助けに行きますよ」


 僕も話を合わせた。


「脅しても無駄だぜ? どうやってオレをオークの棲み処に置き去りにするつもりなんだよ?」

「何処かに縛り付けておけばいいのですわ」

「それより、オークが復活するまで眠り続ける長時間タイプの【スリープ】を掛ければいいと思いますよ」


 実際、【スリープ】を改造すればそういう長時間タイプの【スリープ】を作ることは可能だろう。


「ちょ、ユーイチ! マジで止めろよ!?」


 本気にしたのか、カーラが酷く狼狽した様子でそう言った。


「じゃあ、【戦闘モード】を起動して離れてください」

「わ、分かったぜ……」


 カーラが僕から少し距離を取った。


 僕は、それを確認したあと、目を閉じて入浴を楽しんだ――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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