11―3

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【テレフォン】→『クセニア』


 僕は、左耳に左手を添えてから、クセニアに向けて【テレフォン】の魔術を起動した。

 手を添えるのは、周囲の者たちに【テレフォン】の魔術を使っていることを知らせるためだ。それにこうしないと、ブツブツと独り言を言っているように見えるので、僕のほうも体裁が悪いということもある。


「もしもし、クセニアさん?」

「…………」


 返事がない……。


「クセニアさん? 聞こえますか?」

「……あっ、ごっ、ご主人様!?」


 数十秒の間を置いて慌てた様子のクセニアから返事があった。

 どうやら、返信に手間取ったようだ。

【テレフォン】の魔術は、送信しかできないため、受信側が返事をするためには、【テレフォン】の魔術を送信側に向けて使う必要があるのだ。


「お久しぶりです。お元気でしたか?」

「ええ、それはもう。ご主人様も『ローマの街』でご活躍の様子で安心いたしましたわ」


 クセニアは、ターニャから僕の近況を聞いていたようだ。


「ターニャから聞きましたが、僕に何か用があるみたいですね?」

「はい。ご主人様からご命令のあった、アスタナの教団との話がまとまりましたわ」

「そうですか。ありがとうございます」

「いいえ、礼など不要ですわ。わたくしは、ご主人様の奴隷なのですから……」

「じゃあ、『アスタナの街』の教団員で僕の使い魔になりたいという人を『夢魔の館』へ連れて行って貰えますか?」

「はい。ですが、その『夢魔の館』というのはどちらにあるのでしょう?」


『そういえば、クセニアには『密談部屋』も『移動部屋』も渡していなかったな……』


「では、お手数ですが、クセニアさんだけ、『ローマの街』へ来て貰えますか? 各街の『ゲート』を経由して来てください。『テルニの街』からは、駅馬車を利用する必要があります」

「はい。畏まりました」

「『ローマの街』に着いたら、ターニャに連絡を取って『プリティ・キャット』という店で待っていてください。一週間後の日曜に僕も行きますので、それまでに来てもらえば結構です」

「了解いたしました」


 クセニアに【ハイ・マニューバ】で飛行して『ローマの街』へ来るよう命じるか『密談部屋』を持った使い魔かホムンクルスを『アスタナの街』へ迎えに行かせれば、数時間後にはクセニアと会うことができるのだが、そんな密入国のような方法で移動させるのは問題だと思い、正規のルートで来てもらうことにした。

 それほど急ぐ話でもないし、クセニアにも旅行気分を味わってもらえるだろう。お金に関しては、使い魔になった時に1万ゴールドを渡しておいたので『ゲート』や駅馬車の料金も大丈夫な筈だ。


「では、何か問題が起きましたら、遠慮なく【テレフォン】を使って連絡してきてください」

「畏まりましたわ」

「通信終わり」


 僕は、そう言って【テレフォン】の魔術をオフにした。


「では、ご主人様。失礼いたします」


 クセニアもそう言って【テレフォン】の魔術をオフにしたようだ。

 僕は、左耳に添えた左手を降ろした。


「主殿、話は終わったようじゃな?」


 左隣に座るカチューシャがそう言った。


 ここは、『プリティ・キャット』の地下にあるリビングだった。

 僕たちは、あれから暫く店内で歓談したあと、店の地下へ移動したのだ。

 まだ、店が閉まる時間ではないので、店員の元村人たちは此処には居ない。

 今日は、日曜日なので全員が店に出ているのだ。


「ええ……」


 僕がそう答えるとカチューシャは隣の席で立ち上がった。

 そして、白い光に包まれて生まれたままの姿となる。


「ちょ、カチューシャさん!? こんなところで何を……」


 僕が抗議の声を上げている最中にカチューシャは僕の前に移動して、僕が座った席の前にあるテーブルに腰を降ろした。


「さぁ、主殿。妾の乳を吸ってたもれ……」


 そう言って、僕の頭を抱き寄せる。


「うぷっ……。ちょまっ……」


 カチューシャは、グイグイと僕の顔面に小さな乳房を押し当ててくる。

 どうしても吸わないと納得しないようだ。

 僕は、仕方がなくカチューシャの胸を吸った。


「うっ……んっ……これじゃ……この感じ……あぁ……あるじどのぉ……」

「うわぁ……ユーイチの奴、あんなことしてやがるぜ。ホントに童貞なのかよ……?」

「ああっ、あたくしもユーイチくんに胸を吸われたいですわ……」


 テーブルの向こうに座るカーラとグレースがカチューシャに授乳される僕を見てそう言った。


「ちょっと、ユーイチ!? こんなところで何をしていますの!?」


 レティシアが抗議の声を上げた。


「何じゃ? 貴様ら、主殿に乳を吸われたことがないのかえ?」

「あるわけありませんわ!?」

「なるほどのぅ……。確かに吸われておったら、今頃は、主殿の奴隷になっておるじゃろうからな」

「な、何を言って……」

わたくしもユーイチ様に母乳を吸われて、ユーイチ様の奴隷になりましたわ」


 僕の右側に座っているソフィアがそう言った。


「何じゃと!? 貴様は、主殿に乳を吸われたのに使い魔になっておらぬのか!? 主殿!? 此奴こやつ、やはり信用できませぬ!」


 ――チュパッ……


 カチューシャの抱擁が少し弱くなったので、僕はカチューシャの胸を吸うのを止めて、少し頭を後ろに移動させた。


「ソフィアには、何か理由があるのでしょう。確かに全幅の信頼は置けませんが、悪人には見えませんし……」

「主殿、善人面して近づいてくる悪人もおるのじゃぞ?」

「仮にソフィアがそうだとしても今のところ僕に危害を加えるそぶりはありませんからね。カチューシャさんは、どうすればいいと思われるのですか?」

「主殿の側に侍らせるのを止めるべきじゃ」

「そ、そんな……カチューシャ様。わたくしは、ユーイチ様の奴隷ですわ。ですから、ユーイチ様に危害を加えることはあり得ませんわ」

「フン、口では何とでも言えるからの」

「カチューシャさん、ソフィアは別に僕の側に侍っているわけではありませんよ? ですから、そんなに危険はありません」

「主殿がそう言われるのなら、従うしかないのぅ。じゃが、このおなごが居るときには、妾も同席させていただく!」


 カチューシャは、僕とソフィアを二人きりにしないようにと考えているようだ。


「カチューシャさんは、いつまでこの街に滞在するつもりなのですか?」

「妾は、主殿の側にずっと侍らせていただくつもりじゃ」

「えっ!? マジですか?」

「うむ……マジじゃ……」


 カチューシャは、僕の側にずっと居ると言っているが、現実問題として学校に行っている間は、この店で待っていて貰うしかないだろう。


「分かりました。カチューシャさんの好きにしてください」


 使い魔とはいえ、僕に彼女の行動を制限する権利はない。

 それにカチューシャがソフィアに対するお目付け役になってくれるのなら、僕も安心できる。

 カチューシャは、フェリアのような初期の使い魔に比べると少しレベルが低いが、先ほどの母乳の味から判断するとソフィアとは同じくらいの強さに感じた。

 仮にソフィアが敵対したとしても十分な戦力となるし、抑止力にもなるだろう。


「では、主殿。続きをしてくだされ……」


 そう言って、カチューシャは小さな乳房を差し出した――。


 ◇ ◇ ◇


 ――チャポン……


「ふぅ……」


 あれから、店を閉めて戻ってきた店員と一緒に夕食を食べた後、全員で『プリティ・キャット』の地下にある浴場へ移動した。

 そして、カチューシャに続いて、ソフィアと店員たちから授乳された。

 カーラやグレースも僕に授乳したがったが、使い魔になってしまうと困るのでやんわりと断った。


 クリスティーナたちは、僕がソフィアや使い魔たちに授乳されるのを遠巻きに見ていた。

 浴場に入ってから既に3時間ほど経過しているが、彼女たちは風呂から上がろうとはしなかった。


 ――ザバーッ……


 僕が最後にロリサの母乳を吸い終わり、目を閉じて一人で入浴を楽しんでいると、カーラが僕の隣に移動してきた。


「ユーイチよぉ……お前がしてくれないから、オレ、もぅ我慢できないぜ……」

「じゃあ、後でニンフを貸してあげますよ」

「うっ……ニンフは刺激が強すぎるんだよなぁ……。でも、頼むわ……」


 そう言って、僕の肩に手を回す。

 カーラが肩を組んでくるのはいつものことだが、裸で肩を組まれるのは刺激が強すぎる。


「カーラ、離れて……」

「ちょっと!? カーラ、何をやってますの!?」

「何だよ。ユーイチなんて、女の乳を吸いまくってたじゃねーか!?」

「授乳は神聖な行為ですから……」

「じゃあ、オレの乳も吸ってくれよ」


 そう言って、カーラは左手で右の乳房を掴んで僕の顔の側に差し出してくる。

 先ほどまでロリサの薄い胸を吸っていたからか、カーラの乳房が凄く大きく感じた。


「さっきも言ったように僕は、使い魔になりたい人以外の母乳は吸いません」

「じゃあ、オレがユーイチの使い魔になりたいと言えば、吸ってくれるのかよ?」

「ええ、本当にその覚悟があるのなら……」

「それで、その使い魔とやらになったら、オレをどうするつもりなんだ?」

「それは、分かりません。本人の希望もある程度聞きますけど、僕の気分次第で何をさせられるか分かりませんよ?」

「くっ……面白ぇじゃねーか……」

「でも、カーラたちはパーティメンバーですから、使い魔にするつもりはありません」

「どうしてだよ?」

「パーティメンバーとは、対等な関係で居たいですからね」

「対等ねぇ……オレたちは、ユーイチの強さが分かるようになったから、お前には逆らえないんだぜ?」

「それは、レリアに対しても同じことだったでしょ?」

「いや、前はレリアの強さも間接的にしか分からなかったから、レリアを怖いと思ったことはないぜ」

「僕のことは怖いのですか?」

「ああ、ちょっと前までは思わなかったけど、今じゃこえぇよ。でも、同時にゾクゾクするぜ……こんな強い男に抱かれたらどうなっちまうんだろうってな」


 カーラのセリフを聞いて、僕の右斜め前に座っていたカチューシャが口を挟む。


「主殿、そのおなごの言う通りじゃ。妾も主殿に抱かれたいと思ぅとるのじゃ……」

「……ごめんなさい。その……まだその時期ではないと思うので……」

「うむ。主殿の好きにすればよい。しかし、時が来れば妾を抱いてたもれ……それまでは、乳を吸われるだけで我慢しようぞ」


 ――ザバッ


 そう言って、カチューシャは立ち上がり僕の前まで来て屈んだ。


「カチューシャ様、狡いですわ」


 ――ザバーッ


 ソフィアも前に来る。


「貴様は、主殿の使い魔になる気が無いのじゃから、主殿に乳を吸われる権利はなかろう」

「そんなことありませんわ。わたくしも時が来ればユーイチ様の使い魔になりますわ」

「フン、調子の良い……」


 二人が不毛な争いを始めた。

 このやり取りは、既に5回目なので、いい加減うんざりだった。


「ねぇ、二人とも静かにしてくれない? 僕は、ゆっくりと入浴を楽しみたいんだけど?」

「――――っ!? すまぬ! 主殿! 考えてみれば、今日は十分に吸っていただいたからの……」

「ユーイチ様。騒がしくしてしまって、申し訳ございませんわ……」


 二人が恐縮しながら、少し下がった。


「……凄ぇな……」


 左隣で右腕を僕の首に回したままのカーラが耳元でそう言った。


「カーラも暑苦しいから離れてよ」

「なっ!? お前なぁ、裸の女がくっついているのにそれはないだろ……」

「カーラにくっつかれても迷惑なだけですわ」


 レティシアが少し離れたところからそう言った。


「あのな……」


 ――ザバッ!


 カーラが何か言いかけたところでクリスティーナが湯船で立ち上がった。

 一瞬、その裸体に見蕩れた僕は、慌てて目を閉じる。


 ――ザバザバザバザバ……


 風呂から上がるのだろうか、クリスティーナが湯船を移動する音が聞こえる。

 音は大きくなり、僕の前で止まった。

 目の前に人が立っている気配がする。目を閉じていても視界に影が射すと分かるし、息遣いや体温を感じるのだ。


「ユーイチ……」


 呼ばれたので目を開けると、湯船の中で僕の目の前に立つ全裸のクリスティーナが居た。


「わっ、ちょっとクリス!」


 僕は、慌てて目を閉じる。


「クリス! 何をやっていますの!?」


 ――サバッ!


 ――ザバザバザバザバ……


 レティシアもこちらへ来たようだ。


「ユーイチ。わたくしの母乳を吸ってくれない?」

「ど、どうしてですか!?」


 目を閉じたままクリスティーナの質問に答える。


「ク、クリス! 何を言ってるのよ!?」

「先ほど、ユーイチがソフィア様や店員たちから授乳されるところを見たわ。皆様、凄く幸せそうだった……わたくしもユーイチに授乳してあげたいの……」

「オイ! クリス! 順番を守れよ。オレが先にコナ掛けたんだぜ?」

「カーラは、断られていたじゃない」

「そうよ」

「ぐっ……」

「あ、あの……カーラにも言った通り、パーティメンバーとはそういう関係になりたくないので……」

「別に使い魔にしてくれなくてもいいわ」

「うーん、何というか、今までのパターンでは、僕に授乳すると使い魔になりたくなるようなんですよ……」


 ――しかし、ソフィアは使い魔にならなかった。


 考えてみると、今まで僕に授乳して使い魔になった女性たちは、妖精や雪女、魔女のようなイレギュラーな存在を除けば、僕に対して恩義を感じている人たちばかりだったように思う。

 ソフィアのように超高レベルかつ僕に恩義を感じていない人は、授乳されても使い魔にならないのかもしれない。

 使い魔にしたくないのなら、召喚魔法を掛けなければいいだけだし、試しにクリスティーナから授乳されてみるのもいいかもしれない。


「分かりました。使い魔にはしませんが、母乳を飲ませて貰います」


 そう言って、僕は目を開ける。

 正面に全裸のクリスティーナ、その左側に全裸のレティシアが立っているのが見えた。


「キャッ!」


 レティシアが短い悲鳴を上げて身体を手で隠し、横を向いた。


 ――ザバッ


 クリスティーナが湯船に膝をついた。

 そして、僕の頭の後ろに腕を回して、形の良い乳房へ抱き寄せる。


「さぁ、ユーイチ……」


 そして、僕はクリスティーナから授乳された――。


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