10―23

10―23


「ユーイチ、明日は日曜だけど、何処か行きたい所はある?」


 クリスティーナにそう質問された。


「日曜は、休日みたいですけど、各自が自由に行動するものなのですか?」

「そうね……。基本的には、各自が自由に行動してもいいのだけれど、隊の結束を高めるために一緒に行動するパーティが多いわね。わたくしたちもそうしてきたわ」

「じゃあ、皆さんに合わせますよ」

わたくしたちには、特に予定が無いのよ。だから、ユーイチが行きたいところに案内するわよ」

「それじゃ、闘技場コロシアムに行ってみたいかな……?」

「おっ! 気が合うじゃねーか!」

「じゃあ、明日は、闘技場に行きましょうか?」

「分かりましたわ」

「あたくしも楽しみですわ」

「私も異存はない」

「闘技場かぁ……。久しぶりだな」


 パーティメンバーは、闘技場へ行くことに賛成のようだ。


「そういや、フェデリコのパーティに誘われてるんだけど、どうする?」


 カーラが何の脈絡もなく、そんなことを言い出した。


「あたくしは、付き合っても構いませんわよ」


 グレースがそう答えた。


「「…………」」


 クリスティーナとレティシアは、カーラの問いには答えず無言のままだ。


「クリスとレティは、堅すぎるんだよ」

「放っておいて頂戴」

「そうですわ。それにわたくし、今夜は見張り番ですの」

「レリアは……行くわけねーか」

「当たり前だ」

「ユーイチはどうする?」

「何がです?」

「同じクラスにフェデリコって奴が居るんだけど、そいつのパーティに今夜、遊びに来ないかって誘われてるんだよ」

「行って何をするんです?」

「何をって決まってるだろ? 向こうのパーティは3人が女だから、オレたちが行くと男3人、女5人になっちまうからな」

「遠慮しておきます」

「何だよ、付き合い悪いな」

「明日は、9時過ぎに此処を出るから、遅刻しないでよ?」

「わーってるって!」

「分かりましたわ」


 カーラが話題を変える。


「そろそろ飯にしねーか?」

「そうね……」

「食堂に行くのですか?」

「食堂は、平日の昼間しか開いてないのよ」

「普通は、外に食いに行ったりするんだけどな。オレたちのパーティには、【料理】持ちのレリアが居るから、外に出なくてもいいんだよ」

「なるほど……」

「そういえば、ユーイチも【料理】スキルを持ってるんだよな?」

「ええ」

「今日は、ユーイチに作って貰ったらどうだ?」

「ユーイチ、どうかしら? 【料理】に掛かるお金は支払うから、出してくれない?」


 クリスティーナに頼まれた。


「ええ、構いませんよ。それにお金も結構です」

「それは、駄目よ」

「いえ、大した金額でもないので、お近づきの印に奢りますよ」

「おっ、気前いいな!」

「クリス、ここはユーイチくんの好意に甘えましょ」

「楽しみですわ」

「私の出す料理は、味が薄いと不評だからな」

「不味くはねーんだけど、冒険者好みの味じゃねーんだよな。エルフの味付けは、上品すぎるぜ」


 僕は、立ち上がり、部屋の奥に移動した。


『野外テーブルセット』


 空いているスペースに『野外テーブルセット』を召喚する。


「おおっ、凄ぇじゃねーか」

「じゃあ、このテーブルに座ってください」

「マジックアイテムのテーブルセットか、便利そうね」

「ふふっ、ユーイチくんって凄いのね」

「このデザインは……」

「デザインの原形は、『エルフの里』の集会所で使われているテーブルですね」

「なるほど、だがサイズは大きいのだな」

「人間は、エルフほど華奢じゃないので……」


 パーティメンバーが席に着いた。

 席順は、教室と同じだった。


『野菜サラダ』『野菜サラダ』『野菜サラダ』『野菜サラダ』『野菜サラダ』『野菜サラダ』


『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』


『野菜サラダ』と『コーンクリームスープ』をそれぞれの席に出した。


「まずは、『野菜サラダ』と『コーンクリームスープ』をどうぞ」

「おっ、本格的だな」


 パーティメンバーたちが食べ始めた。


 僕も『野菜サラダ』と『コーンクリームスープ』を食べた――。


 ◇ ◇ ◇


 全員が食べ終わったのを見計らって、全ての食器を片付ける。


『牛ヒレ肉のステーキ』『牛ヒレ肉のステーキ』『牛ヒレ肉のステーキ』『牛ヒレ肉のステーキ』『牛ヒレ肉のステーキ』『牛ヒレ肉のステーキ』


 そして、『牛ヒレ肉のステーキ』をそれぞれの席に召喚した。


「おお、こりゃ美味うまそうだぜ」

「ホント、美味しそう……」

「美味しそうですわ」


 パーティメンバーたちが食べ始める。


「うめぇー! こんな美味い料理は初めてだぜ!」

「本当に……凄く美味しいわ……」

「ふむ……この肉は、初めて食べるな……」

「良かったら、あとでレシピを渡しますよ?」

「いや、結構だ。これは、ユーイチが苦労して作ったものだろう? 何の対価もなく貰うわけにはいかない」


 レリアは、料理レシピにも知的財産権のようなものを感じているらしい。

 この料理レシピを使って大儲けができるのならともかく、それほど価値があるとは思えない。

 彼女は生真面目な性格のようだ。

 ちなみに『牛ヒレ肉のステーキ』は、4ゴールド近くするので、例え商家の人間であっても、それだけの金を払ってまで食べようとは思わないだろう。


 そんなことを考えながら、僕も『牛ヒレ肉のステーキ』を食べた――。


 ◇ ◇ ◇


 僕は、食器を片付けてから、デザートを出す。


『いちごのショートケーキ』『いちごのショートケーキ』『いちごのショートケーキ』『いちごのショートケーキ』『いちごのショートケーキ』『いちごのショートケーキ』


『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』


『エスプレッソコーヒー』『エスプレッソコーヒー』『エスプレッソコーヒー』『エスプレッソコーヒー』『エスプレッソコーヒー』『エスプレッソコーヒー』


「おおっ、デザートも美味そうだな」

「これは……コーヒーね? それにしても何て良い香りなの……」


 こちらの世界にもコーヒーはあるようだ。

 コーヒーについて質問したいところだったが、僕がマレビト――異世界人――ということがバレてしまうかもしれないので、質問するのは諦めた。

 この街に住んでいれば、そのうち飲む機会もあるだろう。


「このケーキも凄く美味しいですわ」

「コーヒーも信じられないくらい美味いぜ」


 僕は、『いちごのショートケーキ』を一切れ口に入れた。


「これからは、毎日、ユーイチに飯を作って貰おうぜ?」

「カーラ、厚かましいわよ」

「金払えばいいじゃねーか」

「ユーイチ、あなたさえ良ければ、また料理を出して欲しいのだけれど?」

「ええ、いつでも言ってください。大した金額じゃないので、お金も結構ですし」

「そんな……悪いわ……」

「仲間からお金を取るつもりはありませんよ」

「ホント、太っ腹だな。じゃあ、オレの分は、身体で返すぜ?」

「いえ、それも結構です」

「何だよ! オレの身体じゃ不満なのか!?」


 僕の真向かいに座っていたカーラが立ち上がって抗議した。


「いえ、魅力的だと思いますが、僕には心に決めた女性が居るので……」

「まぁ、素敵……」


 カーラの隣に座ったグレースがそう言った。


「今どき、そんなの流行らねーぜ。冒険者なんかやってたらいつ死んじまうかわからねーんだし。楽しめるうちに楽しんでおけよ」

「えっと、別にその女性だけに貞操を捧げようと思っているわけではないのですが、最初は絶対にその女性と決めているので……。それに、まだ僕にはそういうことは早いと思います」

「ふふっ、可愛いわね。その女性ひとと結ばれたら、あたくしも抱いてくださいな」

「ちょっ、グレース、抜け駆けはズルイぜ!」


 僕は、ため息を吐いてから、デザートを食べた――。


 ◇ ◇ ◇


「そろそろ、オレたちはフェデリコの部屋へ行ってくるぜ」

「失礼いたしますわ」


 ――ガガッ、ゴゴゴゴゴゴゴ……


 カーラとグレースが入り口の扉を開けて部屋を出て行った。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ……


 扉が自動的に閉じていく。

 僕は、その音を聞きながらデザートの食器類を片付けた。


「ユーイチ、コーヒーのお代わりを貰えるかしら?」

「あ、わたくしにもお願いしますわ」

「私にもくれ」

「はい」


『エスプレッソコーヒー』『エスプレッソコーヒー』『エスプレッソコーヒー』『エスプレッソコーヒー』


 自分の分も含めて、4つの『エスプレッソコーヒー』をそれぞれの席に出した。


「「ありがとう」」

「すまないな」

「いえ」


 レリアが話し掛けてくる。


「そういえば、ユーイチは、【刻印付与】ができると言っていたな」

「はい。何か刻みましょうか?」

「ふむ……。では、ユーイチに任せよう。必要なら料金も支払おう」

「いえ、お金は結構です。刻印を刻むのには、魔力が少し必要なだけですから」

「精霊系の魔術も刻印できるの?」


 クリスティーナが質問してきた。


「はい。一応、『組合』で売ってる刻印は、全て刻んでありますから」

「じゃあ、回復系も?」

「ええ、勿論」

わたくしも刻んでおいて貰おうかしら……」

「いいですよ」


 僕は、テーブルに背を向けて反対向きに座り直した。

 レリアがテーブルを迂回して僕の前に来た。

 彼女が身に着けている装備は、フェリスたちと似たようなエルフの標準的なものだ。

『竜革の胸当て』に『魔布のミニスカート』、『竜革のブーツ』、インナーには『魔布のボディスーツ』だろうか。現在は、武器や篭手は外している。

 また、フェリスが装備しているようなニーソックスやマントを装備しているところは、今のところ見ていない。


「では、何処に刻む?」

「そうですね。結構、数がありますので、背中がいいと思います」

「了解した」


 白い光に包まれて、レリアがボディスーツ姿になった。

 レリアは、身長も体格も胸のサイズもフェリスと同じくらいに見える。

 部屋の中は、クリスティーナが天井に設置した【ライト】の光源だけなので、薄暗いのだろう。

 しかし、僕は【ナイトサイト】の魔術を起動しているので、曇りの日の昼間くらいの明るさで周囲が見えていた。

 薄いボディスーツでは、大事な部分が透けてしまっているのが確認できる。


「わっ……」


 僕は、慌てて目を逸らした。


「ふっ、いい反応をするじゃないか……。さぁ、気にせず刻印を施してくれ」


 そう言って、レリアは反対向きになり、ボディスーツを下にずらしてから、僕に背中が見えるように屈んだ。

 この黒いボディスーツは、後ろから見るとTバックになっているので、後ろ姿も色っぽい。


 レリアの背中に顔を近づけると女性らしい体臭を感じた。

 刻印を刻むと体臭は薄くなるが、全く無いわけではない。

 少しずつ臭いの原因物質が身体や装備に付着していくからだ。

 おそらく、彼女たちは、何日もの間、入浴すらせずに、この学園で過ごしているのだろう。刻印を刻んでいない普通の人間なら、かなり臭くなっていてもおかしくない状態だと思われる。

 僕は、レリアに女性を感じてドギマギしてしまったが、【戦闘モード】を一瞬発動して、冷静さを取り戻した。


【刻印付与】


 僕は、【刻印付与】の魔術を発動させた。

 見たところ、レリアの背中には刻印が刻まれていないようだ。


 まず、【メディテーション】を肩甲骨の間に刻んだ。

 視線を感じて左を見ると、クリスティーナとレティシアがこちらをじっと見ていた。


『やりにくい……』


 半裸の女性に手を触れるという行為は、端から見たらセクハラのように映るかもしれない。

 僕は、【ストーンウォール】【ファイアボール】【ライトニング】【ファイアストーム】【ブリザード】を7個ずつ、レリアの背中の空いた部分に刻んだ。

 背中に36個も刻印を刻んだので、彼女の背中は【魔術刻印】だらけになってしまった。


「終わりましたよ」

「そうか……。すまない……」


 レリアの反応は薄かった。

 人間の男に身体を触れられるのは嫌だったのかもしれない。


「ふむ……。同じ魔術をこんなに……。それに【メディテーション】とは一体……」


 レリアが僕の前で向こうを向いて屈んだまま、そう呟いた。


「【メディテーション】は、魔力を自動回復する魔術です。【リジェネレーション】の魔力版だと思っていただければいいかと……」

「なんだとっ! そんな魔術は聞いたことがないぞ!?」


 レリアが僕のほうへ振り返って、僕に掴み掛かってきた。

 ボディスーツが下へずらしてあるため、乳房が丸出しになっている。


「わっ!」

「どうやってそんな魔術を作ったのだ!?」

「知り合いのエルフに刻んで貰った【魔術刻印】なのです」

「なん……だと……」

「……それよりも胸を仕舞ってください」

「んっ……?」


 レリアは、下を向いて、自分の胸が丸見えなことに気付いた。

 バッと両手で胸を隠した。

 そして、向こうを向いてボディスーツを上げている。


「んんっ……」


 咳払いをして、こちらを向いた。


「その知り合いというのは何者だ?」

「どうして、そんなことを知りたがるのですか?」

「どういう原理で魔力を回復しているのか知りたいのだ」

「それは、体力を魔力に変換しているみたいですよ」

「何だと!? それでは、体力が減っていってしまうのではないか?」

「【リジェネレーション】と連動して発動するようです」

「――――!? なるほど! そういうことか!?」


 レリアは、今の説明で納得したようだ。

 体力――HP――と魔力――MP――は、互いに変換することが可能なのだろう。回復系魔術の【ヒール】などの回復魔法や精霊系魔術の【リジェネレーション】や【エレメンタルヒール】は、MPを消費してHPを回復しているという見方もできる。

 また、それらの魔法は、単にMP1に対してHP1の回復を行うわけではない。神力や精霊力といったステータスにより同じMPを消費しても効果が違ってくる。同じ【ヒール】でも新米冒険者が使うよりも熟練冒険者が使ったほうが効果が高いのだ。それは、【リジェネレーション】や【エレメンタルヒール】でも同じことだ。【メディテーション】も【リジェネレーション】の効果に比例してMPの回復量が増えるので、精霊力のステータスの影響を受けている。


「……取り乱して済まなかった」

「いえ……」


 そう言って、ボディスーツ姿のまま、席に戻って行った。


『何で服を着ないんだよ……?』


 エルフには露出癖でもあるのだろうか……?


「では、わたくしの番ね」


 クリスティーナが立ち上がって僕の前に立った。

 白い光に包まれて、白の下着姿になる。

 そして、ブラを外して、上半身裸になった。

 クリスティーナは、両手で胸を隠す。

 チラリと見えた乳房は、形の良い美乳だった。


 ――自分で脱いでいるということは、クリスティーナの下着は、装備品ではないのだろうか?


「クリスの下着って、装備品じゃないの?」

「ええ、下着まで装備にする冒険者は少ないわ。付けていない人も多いのよ……」


『そういえば、レイコたちも下着を着けていなかったな……』


 刻印を刻んだ体なら、素肌の上に金属製の鎧を身に着けても何の問題もないだろう。

 ただ、慣れないと着心地は悪いと思う。

 クリスティーナに装備品の下着を『トレード』で渡そうかと思ったが、今日会ったばかりの女性に下着をプレゼントするとか、僕には敷居が高すぎた。


「じゃあ、向こうを向いて背中を見せて」

「ええ」


 クリスティーナが向こうを向いて屈んだ。

 彼女が身体を回すと花のような香りがした。


 ――髪に付いたシャンプーの匂いだろうか? それとも香水のようなものを付けているのだろうか?


 クリスティーナは、髪が邪魔にならないよう、右肩から前に下ろした。

 彼女の背中は、エルフのレリアに比べると凄く広く感じる。

 ただでさえ、クリスティーナは、僕よりも背が高くガッシリした体格だった。


【刻印付与】


 僕は、クリスティーナの背中に【魔術刻印】を刻んでいく。

【ヒール】と【ライト】、【フラッシュ】、【ホーリーウェポン】を7個ずつ、【リアクティブヒール】と【グレーターダメージスキン】を1個ずつ、【ミディアムヒール】と【リザレクション】、【グレーターヒール】、【エリアヒール】を8個ずつ刻んだ。

 背中だけでは足りなかったので、腕や立って貰ってから太ももなどにも刻んだ。回復系の魔術は、何処に刻んでも発動するので気が楽だ。


「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」


 クリスティーナの息が荒くなっている。

 裸同然の格好で僕に触れられて興奮したのかもしれない。

 クリスティーナは、体つきはレイコに似てるが、言葉遣いが上品だし、清楚な印象だが中身は同類なのだろうか……?


「あの……。終わりましたよ?」

「えぇ……ありがとう……」

「いえ……」

「ユーイチ。暫くの間、向こうを向いていてくれるかしら?」

「はい」


 僕は、テーブルに座り直した――。


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