9―29
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僕たちは、『ウラジオストクの街』の『女神教』神殿を後にした。
アナスタシアには、夜には戻ると伝えておいた。
この後、『ゲート』の件が片付いたら、ここに戻ってくるつもりだ。
時間が惜しいので、レーナたちとトウコ、カナコは、『ロッジ』で待機してもらった。
僕と使い魔たちは、【インビジブル】と【マニューバ】を使い『ウラジオストクの街』の上空を飛行している。
『ゲート』の場所は、
大きな建造物のようなので、すぐに見つかるだろう。
『ウラジオストクの街』には、街の西側に街道に繋がる大通りがあり、その通りを北へ向かった街はずれに『ゲート』があるようだ。
僕たちは、【マニューバ】で飛行して『ゲート』へ向かった。
徒歩だと教団の神殿からは、1時間半くらいかかるようだが、【マニューバ】で飛行したため、ものの数分で到着した。
『ゲート』は、僕が想像していたものと形状が少しだけ違っていた。
巨大な門というのは、想像通りだったが、門の開口部がほぼ正方形だったのだ。
僕は、「門」と聞いて想像するような縦方向に長い長方形の巨大な門を想像していた。
しかし、実際には縦横約5メートルの開口部を持つ、両開きの門だった。
扉は、常に開かれているのか、夜になったら閉まるのかは分からない。
『ゲート』の周囲は高さ2メートルくらいの塀で囲まれ、中には関所があり通行税を徴収しているようだ。
道幅は広いものの、商隊の荷馬車が『ゲート』内ですれ違うのは難しいだろう。
商隊は、交互通行なのかもしれない。
それとも、『ゲート』は一方通行で2箇所にあるのだろうか?
少なくとも近くに他の『ゲート』は、見当たらなかった。
考えてみれば、商隊が日に何度も行き来するとは思えないので、交互通行の可能性が高そうだ。
『ゲート』付近には広場があり、屋台のような店が建ち並んでいる。
広場を行き交う人は多いが、『ゲート』へ入っていく人や『ゲート』から出てくる人は見あたらなかった。
高度を落として、開口部を正面から見ると向こう側に別の街が見える。
驚いたことに、向こうの街には、地面に雪がうっすらと積もっていた。
ここよりも寒い地域に繋がっているようだ。
ゲートの入り口付近に近づいてみたが、寒さは感じない。
もしかすると、『ゲート』には、空気の流れを遮断する【エアプロテクション】の魔術が掛けられているのかもしれない。
そういえば、この『ゲート』が何という街に繋がっているのかは聞いていなかった。
向こうに見える建物からして、『ウラジオストクの街』とは違った文化を持った街のようだ。
丸みを帯びた屋根の建物が多く、何となくトルコっぽいイメージだ。
側面に回って見ると、『ゲート』の厚みは、1メートルくらいだった。
強い風が吹けば倒れそうな印象だが、マジックアイテムのため、その場所に固定されており、強風が吹いても地震が来ても問題ないだろう。
また、この手のマジックアイテムは、強いダメージを受けた場合には、一時的に消失して、約24時間後に復活する。
僕は、『ゲート』の後ろに回り込んだ。
裏側は、側面と同じレンガ模様の壁になっていた。
手で触ってみると、自然石のようなザラザラした感触だった。
では、これと同じデザインの『ゲート』を【工房】で作ってみよう。
【工房】→『アイテム作成』
僕は、【工房】のスキルを起動した。
現実の空間に設置する魔法建築物としては、『夢魔の館』を作成したことがあるので、同じ要領で内部で空間が接続された、2つの『ゲート』をイメージする。
デザイン等に僕なりのアレンジを加えようかとも思ったのだが、デニスの実家の商人に販売するなら、見分けがつかないくらいのほうが良いだろうと考え直して、目の前の『ゲート』をよく観察して、イメージ映像をそれに近づけていく。
ほぼ同じものが作成できたので、[作成]ボタンを押すイメージをして作成をする。
『魔法石が51個必要です。よろしいですか?』と表示されたので、【商取引】で51個の魔法石を購入して作成した。
アイテム名は、空間が接続された2つのアイテムなので、『ゲート・表』と『ゲート・裏』という名前にした。
設置場所に関しては、デニスに指示してもらう必要がある。
ただ、材料費だけで51万ゴールド掛かったので、不要だと言われる可能性もあった。
デニスが乗り気でも商家のほうで必要ないと判断するかもしれない。
そのときは、分解して魔法石に戻すなり、どこかに設置して、旅の扉として個人的に利用すればいいだろう。
少し早いが、デニスの家に行ってみることにした。
場所を知らないので、レーナたちに聞く必要がある。
『何処か人目に付かないところで『ロッジ』の扉を召喚しないと……』
僕は、周囲を見渡し、『ゲート』から東の方角にある山の中に移動した。
麓から離れた木々の生い茂った森に下りる。
『ロッジ』
森の中の草むらに『ロッジ』の扉を召喚した。
扉を押し開けて中に入る。
僕に続いて、使い魔たちが全員入ったところで扉を閉めた。
「ご主人様……?」
「え? 何処?」
「ご主人様は、【インビジブル】を使ってるのよ」
レーナたちは、【トゥルーサイト】の刻印は持っているが、まだ使えないため、僕たちの姿が見えないのだ。
僕は、【インビジブル】を解除した。
「「あっ!」」
「ただいま」
「「お帰りなさいませ」」
僕たちが見えていたカナコとトウコも立ち上がって出迎えに来た。
「レーナ、『ゲート』は作ったから、次はデニスさんの家に行きたいんだけど、どの辺りにあるの?」
「ボンネル家の本家は、教団の神殿から東に10分くらい行ったところですよ」
「じゃあ、神殿の少し東まで移動してから、もう一度この『ロッジ』の扉を開けるから、そこから案内して」
「分かりました」
ついでに『ゲート』が何という街に繋がっているのか聞いてみよう。
「そう言えば、あの『ゲート』は何ていう街と繋がっているの?」
「アスタナの街ですわ」
オリガがそう答えた。
『アスタナの街』というところに繋がっているらしい。
聞いたことがない地名だった。おそらく、ウラジオストクのようにロシアの何処かにある地名なのだろう。
僕たちは、『ロッジ』から外に出て移動した――。
◇ ◇ ◇
「あっ!?」
「ご主人様、どうかなさいましたか?」
僕が声を上げたので、フェリアが後方から速度を上げて僕の隣に並んだ。
よく考えたら、『ロッジ』を出さなくても【テレフォン】でレーナに聞けば良かったのだ。
彼女たちは、もう僕の使い魔になっているのだから。
「いや、大したことじゃないよ。デニスさんの家の場所は、【テレフォン】で聞けば良かったと気づいただけ」
「そうでしたか……」
僕たちは、そんな会話をしながら【マニューバ】で移動する。
『ゲート』付近の大通りを南へ移動して、先ほどの『女神教』の神殿を目指す。
神殿の近くで高度と速度を落とした。神殿前の通りを地上から5メートルくらいの高度を保ってゆっくりと東のほうへと移動する。
『ウラジオストクの街』は、『エドの街』と違って、市街地が広々としている。
『エドの街』は、小さめの建物が密集していた印象だが、『ウラジオストクの街』は、高い塀で囲まれた庭付きの大きな敷地を持つ屋敷も多く、見渡すと空き地のような空白地も所々にみられた。
この辺りは、閑静な住宅街のようで、門の前に警備の者が立っている屋敷はあるものの、通りに人影は見当たらなかった。
「ご主人様!」
神殿から少し東へ移動して、何処に『ロッジ』を出そうかと考えていたら、フェリアが警告を発した。
フェリアとルート・ドライアードが僕の前に出た。
彼女たちは、上を向いている。
視線を上げると上空から小柄な女性が舞い降りて来た。
黒っぽいゴスロリ風ファッションの金髪少女だ。
エルフのような輝く金髪は、肩よりも少し長く、サラサラのストレートヘアだった。
身長は、155センチメートルくらいだろうか。
年齢は、妹の優子よりも少し年下に見える。
胸のサイズも慎ましい。
まるでお人形さんのような金髪美少女だった。
「お主らは、何者じゃ? 凄まじい力を感じるぞぇ?」
金髪美少女は、そう話し掛けてきた。
ユウコさんみたいな喋り方だ。もしかすると、結構な年齢なのかもしれない。
また、この少女は、見ただけで僕たちの力を見抜いた。つまり、冒険者としての実力も高いのだろう。
見たところ危険人物とも思えなかったので、僕はフェリアとルート・ドライアードの間に割り込んだ。
「旅の者です」
「
「時間が惜しいからです」
「もしや、お主らがデニスが言っておった者か?」
「デニスさんのお知り合いですか?」
「デニスは、
「では、あなたがカチューシャさんですか?」
「その通りじゃ。よく分かったのぅ?」
「『ニイガタの街』から乗ってきた船の名前がデニスさんのお祖母さんから取った名前だと聞きましたので……。僕は、ユーイチと言います」
「改めて、カチューシャじゃ。見知りおくがよい。それでは、我が家へ参られよ」
「ありがとうございます」
僕たちは、地表付近まで降りてから【インビジブル】を解除して、デニスの祖母カチューシャの後についていった――。
◇ ◇ ◇
デニスの家は、カチューシャに出会った場所からすぐだった。
通りには、高い塀と大きな門がある家が並んでいるが、その中でも一際大きな屋敷だ。
カチューシャが門番と話をする。
大きな西洋風の門が開かれ、僕たちは中へ招かれた。
塀の中も『エドの街』の商家の敷地に比べて広かった。
土地が広いということもあるのかもしれないが、ガーデンと呼ぶのが相応しい広い庭があり、その奥には物語に登場する貴族の屋敷のような建物が建っている。
僕たちは、広い玄関から屋敷に入ると執事っぽい初老の男性にエントランスから続く豪奢な応接室へ案内された。
カチューシャは、応接室へ案内してくれた男性にデニスを呼んでくるよう指示をした。
「そちらにお座りくだされ」
「はい」
僕は、外套のフードを上げてからソファーに座った。
使い魔たちは、ソファーの後ろに並んだ。
「ほぅ、声から予想しておった通り、見た目は若いのぅ」
「歳は17です」
もう、そろそろ満17歳になるはずだが、こちらでは数え年が基本なので17歳と答えた。
「本当か? デニスが言っておった通り、物凄い力を持っておられるようじゃが……?」
「物凄い力はともかく、年齢は本当ですよ。刻印を刻んだのは、数ヶ月前のことですし……」
「とすれば、尋常ならざる素質を持っておられるのか……」
――ガチャ
「失礼します!」
デニスが応接室に入ってきた。
「おお、待っておったぞ」
「お婆様には、ご機嫌麗しゅう……」
「堅苦しい挨拶なぞよい。こちらのユーイチ殿がお前の言っておった御方なのじゃな?」
「はい。その通りです」
「なるほどのぅ……」
「ユーイチ殿もよくおいでになりました」
「デニスさん、こんにちは」
僕が挨拶を返すと、デニスはカチューシャの隣のソファーに腰掛けた。
「それで、『ゲート』の件は如何でしたでしょうか?」
「はい。【工房】にて作成しました。材料となる魔法石が51個必要でしたので、材料費が51万ゴールドです。作業料は1000ゴールドほど頂ければ結構です」
「よろしいのですか?」
「ええ、構いませんよ」
「では、お言葉に甘えさせていただきます。ただ、料金のほうはすぐにお支払いすることができないのですか……?」
「それでしたら、後日レーナたちにお渡し頂ければ結構です」
「レーナたちにですか?」
「ええ、彼女たちは、既に僕の使い魔になっていますので……」
「――――!? そなたは、召喚魔法が使えるのかい?」
「召喚魔法をご存じなのですか?」
「うむ。エルフの秘術じゃろう?」
「エルフの間では、成功率が低いので、欠陥魔術として失伝しかけていたようです」
「ほぅ、実際にはそうであったか……」
カチューシャは、見た目は若いがデニスの祖母なので、実年齢はかなり高齢のはずだ。
数少ない【冒険者の刻印】を刻んだ魔力系魔術師でもあるので、魔法に関する知識はかなり持っているようだった。
しかし、召喚魔法に関しては、人間の魔術師の間では、かなり誇張されて伝わっているのかもしれない。
雪女のようにスノーサーベルのようなモンスターを召喚することができると知れば、恐るべき魔術と思われていても仕方がないだろう。
「デニスさん、『ゲート』は何処に設置されますか?」
「この近くの空き地を『組合』で購入してあります」
「では、『ナホトカの街』の『ゲート』はどうされます?」
「向こうは、港の近くに我が家が所有する土地がありますので、そこに設置していただけますか? 場所は、レーナたちも知っていますので」
「分かりました。では、この街の設置場所に案内してください」
「了解いたしました」
そう言って、デニスとカチューシャが立ち上がり、出口のほうへ歩いていく。
僕も立ち上がり、デニスの後を追った――。
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