第九章 ―魔女―

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 第九章 ―魔女―


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『ロッジ』に戻った僕は、いつものテーブルのいつもの席にテーブルを背にして反対向きに座った。


「ユキコ」

「はい」


 雪女のユキコが僕の前に来た。

 ユキコは全裸だった。しかも、体が濡れたままだ。

 使い魔たちは、大浴場を出たあと、服を着ていなかった。

 毎度のことながら、何故か指示しないと服を着ないようだ。


「みんな、服を着て」

「ハッ」

「分かりましたわ」

「御意!」

「分かった」

「畏まりました」


 使い魔たちが装備を換装した。


 僕の目の前に立つユキコは、例の白装束姿だ。足には白い草履を履いている。

 ユキコの装備を確認してみる。


『ユキコの装備』


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 服:雪女の白装束

 足:白草履


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 持ち物を確認してみたが、この二つの装備だけでお金やアイテムも持っていなかった。


 僕は目を閉じて、ユキコの装備を作成する――。


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 ・魔布のローブ+100

 ・魔布の隠密クローク+10

 ・グレート・ヘルムのサークレット

 ・フェリアのメイド服

 ・黒のチョーカー

 ・フェリアの腕輪

 ・黒のストッキング&ガーターベルト

 ・アダマンタイトの格闘用ブーツ+10

 ・魔布の黒ブラジャー

 ・魔布の黒Tバックパンティー

 ・回復の指輪


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 上記の装備を作成した。


 そして、装備を設定する。


『ユキコの装備1』


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 額:グレート・ヘルムのサークレット

 首:黒のチョーカー

 服:魔布のローブ+100

 腕輪:フェリアの腕輪

 脚:黒のストッキング&ガーターベルト

 足:白草履

 背中:魔布の隠密クローク+10

 下着:魔布の黒ブラジャー

 下着:魔布の黒Tバックパンティー

 指輪:回復の指輪


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『ユキコの装備6』


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 頭:メイドカチューシャ

 額:グレート・ヘルムのサークレット

 首:黒のチョーカー

 服:フェリアのメイド服

 腕輪:フェリアの腕輪

 脚:黒のストッキング&ガーターベルト

 足:アダマンタイトの格闘用ブーツ+10

 下着:魔布の黒ブラジャー

 下着:魔布の黒Tバックパンティー

 指輪:回復の指輪


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『ユキコの装備7』


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 服:雪女の白装束

 足:白草履

 指輪:回復の指輪


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『ユキコの装備8』


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 指輪:回復の指輪


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 魔術師装備、メイド服、寝間着の4種類を設定した。

 僕は、目を開けてユキコの装備を換装する。


『ユキコの装備1換装』


「あっ……」


 自分の装備が強制的に変更されたためにユキコが驚いたようだ。


「戦闘時は、その装備を基本にして」

「畏まりました」

「装備6がメイド服で装備7は寝間着だから、必要に応じて装備を変更して」

「はい、ご主人様」


 僕は立ち上がり、『ハーレム』の扉の前に移動する。


『夢魔の館・裏口』


『ハーレム』の扉の隣に『夢魔の館』の裏口の扉を召喚した。

 扉を開けて中に入る。使い魔たちも僕の後に続いた。


「ご主人様!」

「「お帰りなさいませっ!」」

「ただいまーっ」


『夢魔の館』の食堂は、満席状態だった。

 6人掛けのテーブルが8台あるので48人は座れるのだが、席はほとんどが埋まっていて、立っている娼婦たちを含めたら、この部屋には50人以上が居るようだ。

 もっと、この部屋を大きく作っておくべきだったかもしれない。

 プライベートルームや大浴場、大きい寝室があっても、基本的にはここで過ごす娼婦が多いということを予測できていなかったのだ。


主様ぬしさま


 レイコがやって来た。


「凄い人だね」

「ええ、この館も娼婦が増えましたから」

「でも、このまま増え続けたら問題じゃない?」

「そうかもしれません」

「部屋割りはしてるんでしょ?」

「はい」

「あまり自分の部屋では過ごさないのかな?」

「夜は部屋に戻る者が多いのですが……」

「なるほど、普通の人間だった頃の慣習だね」

「そうだと思います」

「街に繰り出したりはしないの?」

「遠慮しているのか、あまり外に行くものは居りませぬ」

「レイコのパーティメンバーは?」

「時折、ユミコ殿の店に行く程度ですね」

「お金がないってことはないよね?」

「はい、最初に1万ゴールドを配っておりますし、日々の仕事で収入もあるはずですから」

「娼婦たちには、それとなく気にせずお金を使うように言っておいて。『エドの街』の経済にとってもそのほうがいいし」

「分かりました」


 僕は、レイコにお金を渡しておくことにした。大陸に渡ったらしばらく帰れないかもしれないからだ。


「ああ、そうだ。軍資金を追加しておくね」


『トレード』


 500万ゴールドを渡した。


「主様、以前頂いた資金がまだ十分に残っておりますゆえ……」

「念のため取っておいて」

「畏まりました……」


 僕は、【テレフォン】で聞いた話を改めて聞く。


「それで、『女神教めがみきょう』の教団に行けばいいの?」

「主様を呼びつけるなど無礼千万。無視しても構わないと思いますが?」

「いや、教団には興味があったし、話を聞きに行くくらいはいいよ」

「分かりました」


 そう言ってレイコは、振り返った。


「アンズ!」

「はっ、はい!」

「こちらに来い」

「今行きますっ」


 そういえば、アンズは『女神教』の孤児院で育てられたとか。教団についても詳しいのかもしれない。


「主様、私とアンズが供を致します」

「ユウコさんも一緒に来てもらったらどうかな?」

「良い考えだと思いますが、ユウコ殿は『組合』のほうは大丈夫でしょうか?」

「聞いてみるよ」


 僕は左手で左耳を塞いだ。これは別にしなくてもいいのだが、周囲の使い魔に【テレフォン】中だということをアピールするためだ。


【テレフォン】→『ユウコ』


「ユウコさん」

「……おお、主殿あるじどのではないか」


 一呼吸置いてユウコの声が左の耳元から聞こえてきた。


「これから時間取れないかな?」

「ふむ、問題ないじゃろう。何処へ行けば良いのじゃ?」

「これから、レイコたちと『組合』の広場に向かうから、少ししたら外に出ていてもらえますか?」

相分あいわかった」

「通信終わり」


 僕は、【テレフォン】をオフにする。

 そして、背後の使い魔たちを見る。


『ちょっと、人数が多いかな……』


『フェリス帰還』『ルート・ドライアード帰還』『ルート・ニンフ帰還』『ユキコ帰還』


 フェリア以外を帰還させた。

 護衛は、フェリアだけでいいだろう。


「じゃあ、行こうか」

「「ハッ!」」

「わっ、分かりましたっ。ご主人様っ」


 僕は、【フライ】で飛行して部屋の出口へ向かった。

 扉を開けて、廊下へ出る。昇降場から1階へ移動する。床の穴から1階の廊下へ飛び出して、娼婦たちの控室に移動する。

 控室の扉を開けた。


「ご主人様っ」

「あっ、ご主人さま」

「ご主人さまぁ……」

「……ご主人さま」

「「ご主人様っ」」


 娼婦たちが反応した。


「お疲れ様」

「ご主人様、わたくしたちは貴方様の奴隷です。もっと、尊大な態度で接してくださいな」

「フフフ……罵ってもいいのよ……」


 イズミとアヤカが答えた。


「うーん、僕はそういうキャラじゃないしなぁ……」

「今のままでも可愛いくていいですわ」

「じゃあ、ちょっと出てくるね」

「「はいっ」」


 僕の体が回復系魔術のエフェクトで光った。

 フェリアを見る。

 フェリアは、僕に頷いて『夢魔の館』のエントランスに続く扉を開いた。

 そして、部屋から出る。僕も【フライ】をオフにしてから、フェリアに続いて出た。


『夢魔の館』のエントランスホールは、午前中だというのにかなりの人が居た。お客さんだけでも30人は居そうだ。

 娼婦が増えたため、8つの部屋全てがフル稼働している。それなのに待っている客がこんなに居るとは予想外だった。

春夢亭しゅんむてい』が潰れたことも影響しているのかもしれない。

 見たところ、客の殆どが冒険者のようだった。

 午前中から娼館に来るのは、真っ当な仕事をしている者にはなかなか難しいだろう。

 そうでなくても客は冒険者のほうが多いらしいし。


 客引きをしている午後からのローテーションの娼婦たちが僕に視線を送ってくる。

 僕は、彼女たちに軽く会釈をして入り口に向かった。

 石畳の大通りに出た。

 西門が開通されたことで、人通りは以前に比べるとかなり多い。


 僕たちは、『組合』の広場に向かった――。


 ◇ ◇ ◇


『組合』の前にある広場でユウコが待っていた。


「ユウコさん、お待たせしました」

「主殿、待っておったぞぇ。何処に連れて行ってくれるのじゃ?」

「『女神教』の神殿に行くので付き合って欲しいのです」

「勿論じゃ、この身は主殿の奴隷。好きに命じるが良い」


 ――公衆の面前で何を言い出すんだよ……。


 ここは、冒険者がたむろしていることが多く、周囲には僕たちに注目している冒険者たちも居た。

 ユウコの言葉を聞いて、ヒソヒソと噂話をしているのが分かる。


「じゃあ、行きましょうか。アンズ、案内して」

「はいっ! ご主人様!」


 アンズが元気な声で返事をした。

 これが、また周囲に波紋を投げかけたようだ。


『気にしなければいいのだろうけど……』


 顔の見えないフードを被っているので、まだマシだった。


 それから僕たちは、アンズの案内で『女神教』の神殿へ向かった――。


 ◇ ◇ ◇


『女神教』の神殿は、『組合』から見て南西方向に位置していた。

『組合』から少し南に行ったところを右に曲がって3分ほど歩いたところに『女神教』の神殿はあった。


「ここが『女神教』の神殿です」


 ここまで先頭を歩いて案内してくれたアンズがそう言った。


「ありがとう」

「そんな、御礼なんて必要ないです……」


 大理石で作られたような大きな魔法建築物だった。


『誰が作ったのだろう……?』


 大きな入り口には、階段があり、門や扉はないようだ。

 神殿と聞いてイメージするような建物ではなく、美術館などの入り口のように見える。

『組合』から約5分という商業エリアに位置しており、この立地条件はかなりいいと思う。

 建物のサイズも『組合』に匹敵するのではないだろうか。ただ、天井は高いものの平屋のようなので床面積では『組合』のほうがずっと大きそうだ。


【フライ】


 僕は、魔術師らしく見えるように飛行して移動することにした。


「そう言えば、孤児院は何処にあるの?」


 アンズに尋ねた。


「この建物の裏にあります」

「そうなんだ」


 僕は、そう言って、なだらかな階段を飛行して登った。

 エントランスの階段なので、そう高いわけではない。奥行はあるが、高さだけなら、1メートルもないだろう。


 中に入ると礼拝堂のような場所だった。

 椅子はないが、奥に女神をかたどったと思われる大きな彫像があった。

『女神教』は偶像崇拝を容認する宗教のようだ。


 床は大理石ではなく、街道や大通りと同じような石畳だった。大理石だと滑って危ないからかもしれない。

 広い礼拝堂のような場所には、お祈りに来たと思しき人たちが散見された。

『女神教』は女性ばかりの宗教団体と聞いているが、信者は老若男女ろうにゃくなんにょ問わないようだ。

 とはいえ、この場に居る信者には、若い人は居なかったが。


 僕たちは、注目を集めているようだ。

 僕が飛行しているからかもしれない。だが、これは必要なことなのだ。

『女神教』の教団では、もしかすると魔力系魔術を忌避している可能性がある。

 魔力系の魔術師ということを強調すると、どのような対応をするのか確認したかったのだ。


 女神像の前には教団の人間と思しき白っぽいローブを着た4人の女性が並んでいた。

 僕は、左から二番目の女性の前に移動した。


「何か御用でしょうか?」

「ユーイチと言います。こちらの教団に呼ばれたのですが……」

「えーっと、貴方様をお呼びした者の名前は分かりますか?」


 僕は、レイコのほうを見た。


「『夢魔の館』のレイコだ。主様を呼び出したのは教主という話だぞ」

「ご教主様がですか?」

「使いの者は、そう言っておった」

「畏まりました。こちらへどうぞ」


 案内の女性の後に続いて、僕たちは神殿の中へと移動した――。


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