8―14

8―14


 僕は、差し出された乳房を吸った。


「あっ……」


 母乳の味が口の中に広がる。

 雪女の母乳は、初見しょけんとしてはかなり美味しかった。ドライアードやニンフの母乳を最初に吸ったときよりも美味しく感じる。

 トロールよりも強そうな使い魔を従えているだけあって、雪女はかなり高レベルなのだろう。


 左右の乳房から約5分ずつ交互に母乳を吸った。

 僕に母乳を吸われた雪女を見ると、かなりトロンとした目つきになっている。


【サモン6】


 その雪女をターゲットにして召喚魔法を発動した。


 召喚魔法を受けた雪女は、白い光に包まれて消え去った。

 その雪女は、フェリア、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、レイコに続く6番目の使い魔となった。


 ――ざわっ、ざわざわ……


 使い魔となった雪女が消えたのを見て、僕たちを取り囲んでいる雪女たちに動揺が走る。


【サモン6】


 僕が召喚魔法を発動しようとしていることを察してニンフたちが少し下がった。その空いた場所を指定する。


『雪女召喚』


 白い光に包まれて雪女が現れた。はだけていた着物は、元に戻っている。


「ご主人様……」

「君は、僕の6番目の使い魔だよ」

「ああっ、嬉しいです……」

「他の雪女と区別するため、君のことはユキコって呼ぶことにするね」

「畏まりました」


 ルート・ユキオンナというのは語呂が悪いから止めておいた。

 そして僕は隣に立つフェリスを見る。


「フェリス、ユキコに必要な刻印を刻んであげて。召喚魔法は2つだけでいいよ」

「分かりましたわ」


 フェリスがそう言った瞬間にフェリスの体が白い光に包まれて、フェリスは全裸になった。


「さぁ、こっちに来てくださいな」

「はい」


 フェリスがユキコを連れて雪女たちの輪の外へ行く。


「では、次の方どうぞ」


 そう言うと、最初に出逢った雪女のうちのもう一人と思われる雪女が僕の前に来た。

 雪女は、両手で白装束の前を開いて、はだけさせた。

 僕は、雪女の乳房に顔を近づけて乳首を吸った。


「あっ……」


 それから僕は、使い魔にするために雪女たちの母乳を吸い続けた――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 数えてみたところ、雪女たちはやはり256人だった。

 一人当たり約10分母乳を吸って、全員の乳房を吸い終わるのに丸二日くらいかかった。

 母乳を吸った雪女は、刻印が刻まれた雪女にテイムさせた。雪女たちは、かなり高レベルな魔力系魔術師だったらしく、最初から召喚魔法が使えたのだ。誕生したときから、スノーサーベルという強力な使い魔を持っているということからもそれがうかがえる。

 雪女たちには【サモン】の刻印を2つずつ刻ませたので、基本的にそれぞれが2人の雪女を使い魔に持っていることになる。

 2人ずつのツリーなので、これまでよりも階層が深くなった。

 1―2―4―8―16―32―64―128だと255人なので、余った一人はルート・ユキオンナであるユキコに刻印を追加で刻んでテイムさせた。


 雪女の系譜は、以下のようになった――。


―――――――――――――――――――――――――――――


■ユキコ

 ●雪女1

  ◆雪女3

   ・雪女...

   ・雪女...

  ◆雪女4

   ・雪女...

   ・雪女...

 ●雪女2

  ◆雪女5

   ・雪女...

   ・雪女...

  ◆雪女6

   ・雪女...

   ・雪女...

 ●雪女255


―――――――――――――――――――――――――――――


 丸二日以上、立ったまま雪女たちの乳房を吸い続けたので、何だか疲れた気分だった。

 普通の人間だった頃なら苦行以外の何物でもなかっただろう。

 こういうときに刻印を刻んだ体は、こういったルーチンワークを苦にしないことがよく分かる。

 途中で多少面倒臭くは感じたが、嫌だとか辛いとは思わなかった。


『ユキコ帰還』


 ルートであるユキコを帰還させたことで、ユキコを含む雪女たちが全て白い光に包まれて消え去った。


『ユキコ召喚』


 そして、ユキコを再召喚した。


「ご主人様……」

「雪女をかたどった像があるって言ってたよね? 見せてくれる?」

「畏まりました」


 そう言って、ユキコは部屋の出入り口のほうへ向かった。

 僕たちも後に続いた。


「みんな、服を着て」

「はいですわ」

「「分かった」」


 フェリスやニンフたちが裸のまま歩いてきたので、服を着るように言った。

 彼女たちは、雪女たちに刻印を刻むときに裸になっていたのだ。

 フェリアとルート・ドライアードだけは、甲冑姿のまま僕の背後に立っていた。

 考えてみると、何もせずにずっと立ってるだけというのも辛かったのではないだろうか。後でねぎらってあげたいところだ。


 ユキコは、雪女たちの集会場のような建物を出た後、右から時計回りに建物をグルリと回るように反対側へ移動した。

 建物の反対側には、手摺りと地下への階段が設置されていた。


「こちらです」


 そう言って、階段を降りていく。


【フライ】


 僕は、【フライ】を起動して飛行しながら階段を降りた。

 階段は、途中で右に直角に曲がっていた。更に降りるとドライアードやニンフの住処で見たような空間に出た。

 薄暗い石造りの空間には、雪女を模った像があった。僕が『リスポーン・ストーン』と名付けた魔法装置だ。

 自然体の体勢で雪女が石化しているかのように見える。

 近くに移動して触ってみた。ヒンヤリとしていて石のような感触だ。


 これを破壊したら、どうなるのだろうか? 雪女たちが消滅する? いや、もう刻印に取り込んでいるのでそれはないだろう。

 そもそも、マジックアイテムなので破壊しても翌日には復活するはずだ。


 僕は雪女の『リスポーン・ストーン』から離れて、地下の空洞の壁際に移動する。


『ロッジ』


 壁際に『ロッジ』の扉を召喚した。

 扉を開けて中に入った。

 使い魔たちも続けて入ってくる。

 全員が入ったところで、扉を閉めて『アイテムストレージ』へ戻した。


 僕は、いつものテーブルのいつもの席に座った。


「ユキコ」

「何でしょうか?」


 雪女のユキコを右隣の席に呼んだ。


「ここに座って」

「畏まりました」


 僕は、ユキコを隣の席から眺める。

 見たところ、髪の毛が白いという以外は、刻印を刻んだ人間の女性にしか見えない。

 耳に掛かった髪の毛を手で除けてみる。


「あっ……」


 ドライアードやニンフのように耳も尖ってはいない。

 そのまま、白装束の中に手を入れて腋の下を触ってみる。


「ああっ……ご主人様……」


 胸を吸っているときに気付いたのだが、雪女の体温は低い気がしたのだ。

 やはり、少し体温が低いように感じる。


「ルート・ドライアード」

「ハッ!」

「メイド服に着替えて、こっちに来て」

「御意!」


 メイド服姿となったルート・ドライアードが僕の背後に来た。

 僕は、体を捻ってルート・ドライアードのメイド服の中に手を入れ腋の下を触る。


「ああっ、主殿あるじどの……」


 やはり、ルート・ドライアードのほうが温かい。

 僕は、ルート・ドライアードのメイド服の中から手を抜いて、もう一度、ユキコの白装束の中に手を入れて腋の下を触る。


「んんっ……」


 冷たいというほどではないが、体温が低そうな感じだ。

 ユキコに話し掛ける。


「ねぇ、雪女って体温が低いみたいだね」

「そうなのですか?」

「うん、今ドライアードと比べてみたけど、明らかに体温が違うよ」

「その……それはご主人様にとっては、いけないことなのでしょうか?」

「いや、全然。単に生態の違いを調べてるだけだから」


 ゾンビは、刻印を刻んだ人間と体温などは変わらなかった。

 ドライアードやニンフも体温は人間と変わらない。

 だとしたら、雪女は単に刻印を刻んだ人間に準じて作られていないのだろうか。

 それでも死体のように冷たくなくて良かったと思う。


 ――お風呂に入ったりしても大丈夫なのだろうか?


 ――もしかしたら、ダメージを受けるとか?


 それは後で検証してみることにした。


「雪女には、スノーサーベルの他には使い魔が居ないの?」

「はい」

「一体だけ?」

「はい」

「他に何か特殊な能力とかある?」

「吹雪のブレスを吐くことができます」

「え? マジで? ちょっとやってみてよ」

「はい」


 そう言ってユキコは、誰も居ない方向を向いて吹雪のブレスを吐いた。


 ――ヒュオーッ、ビューーッ……


 風切り音がして室内の温度が急激に下がった。

 フィクションに登場するドラゴンのブレスほど広範囲に攻撃する威力はなさそうだが、小規模なブリザードくらいの威力はあるのではないだろうか。


「ありがと。他には何か能力はある?」

「他には、いくつかの魔術が使える程度です」

「どんな?」

「【マジックアロー】【ナイトサイト】【スリープ】【トゥルーサイト】【シールド】【レーダー】【マジックシールド】【アイスバレット】【ブリザード】が使えます」


 雪女がデフォルトで所持する魔法は、魔力系と精霊系の一部の魔術のようだ。


 次に雪女が食事をすることができるか確認してみることにした。


『コーンクリームスープ』


 テーブルのユキコの席の前に『コーンクリームスープ』を一つ出した。


「ユキコ、それを飲むことができる? 無理はしなくていいから、飲めそうなら飲んでみて」

「畏まりました」


 そう言って、ユキコは『コーンクリームスープ』を飲み始めた。


「どう?」

「美味しいですわ」


 どうやら、雪女も普通に飲食が可能なようだ。


「これまで何か食べた経験はある?」

「いいえ、食事をするのは、これが初めてですわ」


 食事の手を止めてユキコが答えた。


「ああ、食べながらでいいよ」

「はい」

「あのとき、どうして胸をはだけたの?」

「何か間違っていましたでしょうか?」

「集まって何をするのか質問したときに僕次第と言ったよね?」

「この里に辿り着いた男性と結ばれるのが我々の存在理由なのです」

「それを決めたのは誰?」

「誕生したときから、そう決められておりました。誰かに決められたわけではございません」


 雪女を作り出した存在がそういう風に彼女たちを作ったということだろう。

 そもそも、こんな北の果てに人が来ることを想定しているというのも変な話だ。


 ここでは、常に夜なので日にちの感覚がないだろう。妖精達と同じでどれくらいの年月生きているのか分からないのではないだろうか。


「生まれてからどれくらい経ったか分かる?」

「分かりません。非常に長い間、里に居ましたわ」

「毎日、何をして過ごしていたの?」

「交代で村の警備をする以外は、寝ておりました」

「その……雪女同士でエッチなこととかは……?」


 恥ずかしい質問だったのでゴニョゴニョと口ごもってしまった。


「ふふっ、たまにあの部屋で宴を開いておりましたわ」

「もしかして……?」

「ええ、そうですわ。わたくしたちは、いつもの宴のつもりでしたの」

「使い魔になるつもりはなかった?」

「いえ、望んだからこうなったのですわ。この方が良かったです」


『密談部屋3』


 僕は、壁際に『密談部屋3』の扉を出した。


「じゃあ、ルート・ドライアードとルート・ニンフは、トロール討伐に行ってきて」

「御意のままに」

「分かったわ」

「分かってると思うけど、ドライアードとニンフたちを召喚してから戦って」

「御意!」

「ええ」


『密談部屋3』の扉にルート・ドライアード、ルート・ニンフ、ニンフ1、ニンフ2が入っていった。


 僕は、立ち上がった。

『ハーレム』の扉の前まで移動する。


「じゃあ、お風呂に入ろう」

「ハッ!」

「分かりましたわ」

「畏まりました」


 フェリア、フェリス、ユキコが返事をした。


 僕は扉を開けて中に入った。

【フライ】で大浴場の入り口の扉まで飛行する。

 大浴場の引き戸を開いて中に入った。


 使い魔たちも入ってきた。


「フェリス、エルフたちを召喚して。ユキコは、雪女たちを召喚して」

「はいですわ」

「畏まりました。ご主人様」


 大浴場の中が召喚魔法のエフェクトで白く光った。

 300人を超えるエルフと255人の雪女が出現した。


「フェリアは、ユリコとチハヤを召喚して」

「ハッ!」


 光に包まれてユリコとチハヤが出現する。


「…………」

「ご主人様?」


 僕は二人に頷いた。


「じゃあ、お風呂に入ろう」

「「はいっ」」


『装備8換装』


 僕は、裸になって湯船まで飛行した。

 湯船の端で着地する。同時に【フライ】を解除した。

 振り返る。

 使い魔たちは、既に全員が裸だった。

 全く同じ容姿の雪女たちは見分けがつかない。


「ユキコは、こっちに来て」

「はい」


 雪女の一人が返事をして、僕のほうへ歩いてきた。


「お風呂に入っても大丈夫か分からないので、ゆっくり入ってみて。もし、ダメージを受けるようなら言って」

「畏まりました」


 僕が先に湯船で腰を下ろした。

 ユキコは、僕の右隣から湯船に入ってきた。

 そして、ゆっくりと腰を下ろした。

 普通に考えたら、この程度の温度でダメージを受けるはずがない。

 刻印を刻んだ体と同等の存在なので、普通の人間よりもずっと頑強だからだ。

 しかし、何か特殊な条件が付いている可能性も否定できない。


「大丈夫?」

「はい、何も問題ありませんわ」

「熱かったりしない?」

「ええ、心地よいです」


 雪女は普通に入浴を楽しむことができるようだ。


 僕は、振り返って使い魔たちを呼ぶ。


「じゃあ、みんな入ってきて」

「はいっ」


 使い魔たちが次々に湯船の中に入ってきた。

 僕を中心に半月状に並んだ。

 500人以上居るので圧巻だ。


「座って」


 ――ザバーッ!


 使い魔たちが腰を下ろした水音が大浴場の中に響いた――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 それから、僕は約7日間、使い魔たちと過ごした。

 エルフ、ドライアード、ニンフ、雪女たち全員の母乳を吸ったり、マットで奉仕されたりしたのだ。

 時間が勿体ないと思わなくもなかったけど、働かせてばかりじゃ可哀想なので、たまにはこうやって労ってあげたほうが良いのではないかと思ったからだ。

 念のため何人かの使い魔に意見を聞いてみたら、こういう機会があるのは嬉しいそうなので、それはそれで良かったのだが、結局のところは僕の自己満足に過ぎないのだろう。

 フェリアに言わせると使い魔は道具と同じなので道具として使うのが正しいということだ。

 道具もたまには手入れをしないといけないんじゃないかと思わなくもないが、この世界ではマジックアイテムは壊れない。使い魔はマジックアイテムのようなものなので、気にする必要はないのだろう。


 ――そろそろ、『エドの街』に一旦帰って、次は『ニイガタの街』へ行こう……。そして、その後は中央大陸だ。


 僕は湯船に浸かりながら、そんなことを考えていた。


『現在時刻』


 時刻を確認してみると、【10:47】だった。

 今日は、何日だろう? おそらく、6月の半ばくらいのはずだ。ざっと計算してみる。

 たぶん、6月14日(水)だろう。


【テレフォン】→『レイコ』


「もしもし、レイコ」

「ハッ! 主様ぬしさま

「そっちはどう? 問題ない?」

「はい。いえ、一つだけございます」

「なに?」

「先日、『女神教めがみきょう』の者が主様がお帰りになられましたら、神殿までご足労いただけないかと訪ねて参りました」

「何か問題なの?」

「それが、娼婦希望者の中に教団の幹部だった者が数名おりまして……」

「そのことについての抗議なのかな?」

「分かりませぬ……」

「じゃあ、昼までには帰るよ」

「ハッ! お待ちしております」

「通信終わり」


【テレフォン】をオフにする。


 そして、湯船から立ち上がる。


 ――ザバーッ!


 使い魔たちも一斉に立ち上がった。


「フェリア、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、ユキコ、使い魔たちを戻して」

「ハッ!」

「分かりましたわ」

「御意!」

「ええ」

「畏まりました」


 湯船の中で1000人以上の裸の使い魔たちが白い光に包まれて消え去った。


【フライ】


 僕は、大浴場の入り口まで飛行する。


『装備2換装』


 魔術師スタイルの装備に換装した。


 大浴場の扉を開けて廊下に出る。


 廊下を移動し、突き当たりの扉を開けて『ロッジ』に戻った――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 第八章 ―雪女― 【完】


―――――――――――――――――――――――――――――

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