8―13

8―13


 僕は、吹雪の中を村の入口に向かってゆっくりと飛行していく。吹雪といっても視界が酷く妨げられるほどではない。風速は20メートルくらいありそうだが、雪がそれほどでもないのだ。地表付近は、雪原の雪が舞っているが、降雪量は大したことなさそうだ。

 村から数十メートルの範囲に入ると吹雪が嘘のように収まった。

 まるで異空間に紛れ込んだようだ。もしかすると、【エアプロテクション】のような効果で村の周囲を囲んでいるのかもしれない。


 僕たちが近づいていくと、門番らしき二人の女性が警戒心を露わにした。

 二匹の獣も彼女たちの様子を見て起きあがる。


「お前達は何者だ!?」


 僕たちが10メートルくらいまで近づくと、左側に立った女性が警告をしてきた。


「グルルルゥ」

「グルルルゥ」


 白い獣たちが警戒の声を発した。

 この距離でも威圧感がある。刻印を刻んでいないときなら、生きた心地がしなかっただろう。

 見ると、獣たちは僕たちのことが見えていないようだ。

 そういえば、【インビジブル】を掛けたままだった。女性たちは、【トゥルーサイト】を使っているのか見えているようだが。


 僕は、【インビジブル】を切った。


「あっ……」

「まっ……」


 僕が姿を現すと二匹の獣が僕に向かって飛びかかってきた。

 二人の女性は、白い獣たちの行動が意外だったようだ。制止しようと声を上げた。


 危険を感じてカチリと僕の意識が切り替わる。【戦闘モード】が自動的に起動したのだ。

 その瞬間、二匹の獣が静止したように感じた。コマ送りのようにゆっくりと僕に向かって飛びかかってくる。

 この大きな獣たちからすれば、この程度の距離は二度のジャンプで僕に飛びかかれるだろう。


 左右から僕の前に影が割り込む。


「ご主人様!」

主殿あるじどの!」


 フェリアとルート・ドライアードが僕を護るために割り込んだのだ。

 フェリアは、左側のサーベルタイガーのような獣に盾を下から上に突き上げるような形で叩き込んだ。

 浮き上がった獣の胴体にロングソードが突き込まれる。白いサーベルタイガーの体が白い光に包まれて消え去った。

 ほぼ同時に右側の白いサーベルタイガーは、ルート・ドライアードのハルバードに叩き斬られて消滅した。


 白いサーベルタイガーのような獣たちは、門番の女性たちの使い魔だったのだろうか? それともペットのような存在だったのだろうか?


 門番の女性たちを見ると驚愕した表情をしている。

 あの大きなサーベルタイガーを一撃で倒したことに驚いているのだろう。


 僕は、警戒を解くためにフードを上げて顔を見せた。

 女性たちに微笑みかける。

 それを見て女性たちは、ホッとした表情をした。

 二匹の巨大なサーベルタイガーを瞬殺する者たちが友好的だったので安心したのだろう。

 あの獣たちが暴走してくれたおかげで、有利な立場で会話ができるかもしれない。

 結果オーライというやつだ。


 僕は、門番の女性の前まで飛行して移動する。

 女性たちは、白い薄い着物を着ている。僕が作った白無垢に比べるとかなり薄い。着物の下に着る白装束のようだ。

 そして、髪の毛は真っ白だった。まるで雪女だ。

 身長は、165センチメートルくらいだろうか。薄い白装束に包まれた胸元が艶めかしい。


「初めまして。僕はユーイチと言います」

わたくしたちは、雪女ですわ」

「えっ? ホントに雪女なのですか?」

「はい、私たちは雪女です」

「えーっと、あなた達を『雪女』と最初に呼んだのは誰ですか?」

「ここに人が来たのは初めてです」

「自称ということでしょうか?」

「仰る意味が分かりません……」


 つまり、彼女たちは何者かに雪女として作られたということだろうか。

 ドライアードたちと同じ存在なのだろう。雪女だとしたら、妖精ではなく妖怪なのだが。


「もし、良かったら他の人たちにも話を聞かせていただけますか?」

「勿論ですわ。せっかく来られたのですから、ゆっくりしていってくださいな」

「あの、先ほどの獣たちのことですが……」


 僕がそう言うと、二人の顔がこわばった。


 ――やはりペットか何かで殺しちゃマズかったのだろうか?


「「申し訳ございませんでした」」

「あなた方を襲わせるつもりはなかったのです」


 二人が僕に頭を下げた。

 どうやら、僕たちに獣が襲いかかったことを追求されると思ったようだ。


「いえ、それは問題ないのですが、倒してしまってもよかったのですか?」

「はい、スノーサーベルたちは使い魔ですから、明日には復活します」

「使い魔なのですか?」

「はい、それが何か?」

「どこかで、召喚魔法を使って、そのスノーサーベルたちを使い魔にしたのでしょうか?」

「いいえ、スノーサーベルは、我々が誕生したときから使い魔ですわ」


 彼女たちが作られたときから使い魔として刻印されていたということだろうか。


「誕生したときの記憶はありますか?」

「はい」

「どこで生まれたのでしょう?」

「この村ですわ」

「もしかして、あなた達をかたどった像がありませんか?」

「はい、ございますわ」


 やはり、雪女にも『リスポーン・ストーン』が存在するようだ。


「では、案内してください」

「畏まりました」


 僕たちは、雪女たちの後について村の奥へと移動した――。


 ◇ ◇ ◇


 村は、上からみたところ円形だったので、建物も同心円状に配置されている。

 それほど大きな村ではないだろう。見たところ村の外周の円の直径は数百メートルくらいに見えた。

 予想より大きかったとしても500メートル以内だと思う。


 道幅が3メートルくらいの土を踏み固めたような道を雪女たちの後に続いて歩いていく。

 彼女たちの後ろ姿が目に入る。

 雪女たちは、白い髪をしているが、髪の長さは背中の真ん中くらいまでだった。

 ロングヘアではあるが、この世界で出逢ったロングヘアの女性は、腰まである長い髪の人が多かったので、その人たちに比べると少し短い。狭義のロングヘアというのは、本来これくらいの長さなのかもしれない。


 道の左右には、長屋のようなデザインの住居が並んでいた。

 村の中心に近づくと、数人の雪女たちが通りに出て僕たちを興味深げに見ていた。

 クローン人間のように前を歩く雪女たちと瓜二つだ。

 この辺りは、ドライアードやニンフと同じような存在だからだろう。


 200メートルほど歩いたところで、村の中心部に着いた。

 大きめの建物があった。集会場というほどのサイズではない。

 少し大きめの一戸建て住宅くらいのサイズだ。


「さぁ、こちらへどうぞ」


 右側の雪女が入り口の両開きの扉を開いて僕たちを中へいざなった。

 僕たちは、建物の中に入った。


 扉の中は狭いエントランスだった。部屋の広さは、3×3メートルくらいで、床は土間だ。壁や天井は木製の板張りで、天井には4箇所に回復系魔術の【ライト】のような光源が設置してあった。

 玄関扉から入った3メートルほど先に両開きの扉が一つだけある。エントランスというよりは風除室ふうじょしつに近いかもしれない。この村の中で風が吹くとも思えないのであまり意味が無さそうだが。


「中でお待ちください」


 雪女たちは、その扉を開けて僕たちに中に入るよううながした。

 扉の中は、床の高さがエントランスに比べ15センチメートルほど高くなっている。部屋は、20×20メートルくらいの広い板の間だった。天井の高さは、5メートルくらいだ。

 てっきり、エルフの集会所のようにテーブルや椅子が並んでいるのだろうと予想していたのだが、板の間の上に家具などは何も置いてなかった。

 壁や天井も木製の板を張った空間だ。まるで、剣道などの道場のようだ。

 窓などは存在しない。天井には、一定間隔で【ライト】のような光源が設置されている。室内は、暗くはないが、特別に明るくもなかった。


 僕は、部屋の真ん中辺りに移動した。

 使い魔たちも僕に続いた。

 僕が入り口のほうを向くと、フェリアとルート・ドライアードが僕の背後に移動した。

 僕を中心に背後の左右にフェリアとルート・ドライアードが立ち、僕の左右にフェリスとルート・ニンフが立っている。

 そして、僕の前方の左右には、ニンフ1とニンフ2が立っているので、僕の周囲はグルリと使い魔たちに囲まれた状態だ。


 僕たちは、雪女たちの帰りを待った――。


 ◇ ◇ ◇


 10分くらいが経過した頃だろうか、入り口の扉が開かれて、雪女たちが中に入ってきた。

 続々と中に入ってくる。そして僕たちを取り囲むように移動していく。

 あのサーベルタイガーのような使い魔を召喚していないので、敵対するつもりはないのだろう。

 二人の雪女が僕の前に来た。


「もう暫く、お待ち下さいませ」

「それは構いませんが、何が始まるんですか?」

「ふふっ、それを決めるのはあなたですわ」


 どういうことだろう?

 雪女たちの行動は読めない。

 伝承に登場する雪女は、男を凍り付かせて殺すという妖怪ではなかっただろうか?

 男の妻になるような話もあったと思うが、共通しているのは最後は不幸になるという点だ。

 あまり気を許さないほうがいいかもしれない。


「全員、揃いましたわ」


 周囲を見回すと僕たちをグルリと雪女たちが取り囲んでいた。

 200~300人くらい居る。おそらく、ドライアードやニンフたちと同じ256人だろう。


「初めまして、僕はユーイチと言います。この辺りを探索していたらこの村を発見したので訪ねてみたのです」


 僕は、雪女たちを見回してそう言った。


「ユーイチ様……」


 正面の雪女が白装束に手をかけて胸元を開いた。乳房が丸見えになる。


「わっ、ちょっと何を……」


 僕は見ないように目を逸らした。


「ふふっ、可愛い方……」


 そう言って、僕の方へ近づいてきた。

 僕の前に居たニンフたちは、左右に広がって彼女を通した。

 ニンフたちに裏切られた気分になったが、ニンフたちは女性を通した後、女性の左右から拘束した。

 これは、不審者を近づけないためかと思ったのだが、そうではなかった。


「「さぁ、旦那さま」」


 そう言って、雪女の胸を僕に差し出してきた。

 母乳を吸わせるつもりだろう。

 雪女の乳房は、それほど大きくはないが、形の良い美乳だ。


 僕は覚悟を決めて、雪女たちの母乳を吸うことにした――。


―――――――――――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る