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【エアプロテクション】『装備4換装』


【エアプロテクション】を起動して体に付着した水滴を消し去ってから、弓装備に換装する。

 装備を換装するだけでも体に着いた水滴は消え去るのだが、つい癖で【エアプロテクション】を発動してしまったのだ。


 そして、大浴場から食堂へ出た。

 大浴場の扉を見ると、使い魔たちが次々と出てくる。

 彼女たちは、みんな裸だった。中には濡れたままの人もいた。おそらく、【エアプロテクション】が使えないか、使うことで水滴を消し去れることを知らないのだろう。


「みなさん、服を着てください」

「「はいっ」」


 裸の女性たちが白い光に包まれて服を着た。多くが白無垢姿だ。


 レイコにことづける。


「後のこと頼むね」

「ハッ! お任せください」

「じゃ、行ってくる」

「「いってらっしゃいませ」」


 使い魔たちに見送られて『夢魔の館・裏口』の扉へ向かう。

 扉を開けて、『ロッジ』に戻った。


 僕に続いて、フェリア、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、ニンフ1、ニンフ2が『ロッジ』に入ってきた。

 扉を閉めてから、『夢魔の館・裏口』の扉を『アイテムストレージ』へ戻す。


『密談部屋3』


『密談部屋3』の扉を『ロッジ』の中に召喚する。

 扉を開けて中に入った。使い魔たちも続いた。


「ルート・ドライアード」

「御意!」


 ルート・ドライアードが『密談部屋3・裏口』の扉を召喚した。

 僕の体が回復系魔術のエフェクトで光った。

 フェリアを見る。

 彼女は、既に全身鎧に換装していた。

 僕に頷いてから、扉を開いて外に出た。

 続いて僕も外に出る。夜だったが、月明かりでうっすらと周囲が見える。


【ナイトサイト】


 暗視の自己強化型魔術を起動したあと、【フライ】でトロールの洞窟の入り口まで移動する。


「フェリス、エルフたちを召喚して」

「分かりましたわ」


 僕たちの背後に300人を超えるエルフが召喚された。


「フェリア、いつものようにトロールをおびき寄せて。僕が再召喚したら使い魔たちを召喚して」

「畏まりました」


 フェリアが洞窟の中央へ向かって飛行する。


【戦闘モード】【マジカル・ブースト】【グレート・シールド】【グレート・マジックシールド】


 戦闘準備を行う。


 フェリアが洞窟の中央に差し掛かったとき、トロールたちが一斉に巣穴から飛び出してきた。

【戦闘モード】を起動した僕には、非常にゆっくりとした動きに見える。


 弓は、使わないときには背中にセットされていたが、使おうと思った瞬間に左手の中に転送された。

 弓は、割と大きく、かなり重い。この弓は、アダマンタイト製なので青っぽい黒の金属製だが、形状はロングボウに分類されるのだろうか?


【射撃】


【射撃】のスキルを起動して、移動しているトロールへ向けて弓をつがえた。

 すると、矢の飛ぶ軌道が視界に表示された。【マジックアロー】や【マジックミサイル】を撃つときに出るガイドに似ている。同じような原理で表示しているのだろう。


『未来位置に撃たないと駄目なんじゃ?』


 そう思ったが、とりあえず適当なトロールを狙って撃ってみた。外れたとしてもこれだけ密集していれば、他のトロールに当たるだろう。


 矢は、凄いスピードで飛んでいき、狙ったトロールを貫いた。そのトロールは白く光って消え去ったが、矢は止まらずにそのまま貫通して背後のトロールも貫いた。そして、そのトロールも白く光って消え去る。そして斜線上のトロール全てを貫いて奥に消えた。

 トロールが消え去るエフェクトでよく見えなかったが、10体くらい倒したのではないだろうか。

 凄まじい弾速だった。高速で移動しているトロールの未来位置に撃ち込まなくても当たるくらいなのだ。


 フェリアがトロールに囲まれた――。


『フェリア帰還』


 フェリアを帰還させて、僕の右斜め前に召喚する。


『フェリア召喚』


「ご主人様」


 僕は、フェリアに頷く。

 フェリアは、アーシュ、フェアリー、ピクシー、ケット・シー、ユリコ、チハヤを召喚した。


 トロールたちが、こっちに向かって来た。


【射撃】


 次の矢をつがえて先頭のトロールを射る。


 軸線上のトロール達が消え去った――。


【射撃】


 軸線上のトロール達が消え去った――。


【射撃】


 軸線上のトロール達が消え去った――。


【射撃】


 軸線上のトロール達が消え去った――。


【射撃】


 軸線上のトロール達が消え去った――。


【射撃】


 軸線上のトロール達が消え去った――。


【射撃】


 軸線上のトロール達が消え去った――。


 次の矢をつがえようとしたら、矢筒に矢が残っていなかった。

 8発撃ち尽くしてしまったようだ。


『装備4換装』


 これで矢筒に矢がリロードされる。


「じゃあ、【ファイアストーム】で焼き尽くして」


【ファイアストーム】


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ――シュボボゴゴォオオオーーー!!


 ・

 ・

 ・


 使い魔たちが次々に【ファイアストーム】を放った。

 瞬く間にトロールは殲滅せんめつされた。


 弓は、強力な武器だが、使い処が難しい。

 強力すぎて、流れ弾が使い魔に当たったら殺してしまうかもしれない。

 少なくともトロールにはオーバーキルだったようだ。

 ドラゴンのような強力なモンスターには有効だろう。

 おそらく、どんな魔法の一撃よりも強力だろうと思われた。


 ――そういう強敵が現れるまで、この装備は封印しておこう。


 僕はそう思って『装備2』に換装する。


『装備2換装』


「フェリア、フェリス、使い魔たちを戻して」

「畏まりました」

「分かりましたわぁ」


 そして、【フライ】で『密談部屋3』の裏口まで移動して中に入った。

 全員が中に入った。


「ルート・ドライアード」

「御意!」


 ルート・ドライアードが裏口の扉を帰還させた。

 僕は、『密談部屋3』の扉から『ロッジ』へ戻った。

 全員が『ロッジ』に入ったところで、『密談部屋3』の扉を『アイテムストレージ』へ戻す。


『密談部屋1』


 代わって『密談部屋1』の扉を召喚する。

 扉を開けて『密談部屋1』へ入る。


「フェリア」

「ハッ!」


 フェリアが『密談部屋1』の裏口の扉を召喚した。

 この扉の先は、『闇夜に閉ざされた国』に続いている。


 僕は、フェリアに扉を開けて外に出るよううながした――。


 ◇ ◇ ◇


『闇夜に閉ざされた国』に設置してあったフェリアの持つ『密談部屋1』の裏口の扉からフェリアが外に出た。

 それに続いて僕も外に出る。


 雪原に雪がチラついていた。

 空を見ると分厚い雲がかかっている。

『夢魔の館』へ戻る前は星空が広がっていたのだが、『闇夜に閉ざされた国』でも時間帯によって天候が変わるのだろうか?

 こんなに寒いところでは、雪になったら溶けないと思うので、海水は元の世界に比べたら少ないのかもしれない。


 ――南極に氷が無いかも?


 地軸が傾いているのか分からないが、太陽は年中かなり南のほうにあるようなので、夜の来ない場所があるかもしれない。

 南極のほうもかなり暑い地域の可能性が高いので、南極大陸には雪や氷が無い可能性が高い。


「ご主人様?」


 そんなことを考えていたらフェリアが遠慮がちに声を掛けてきた。


「寒いからみんな【エアプロテクション】を掛けておいて」

「ハッ!」


【エアプロテクション】


 一気に北海道まで移動しよう。


【ハイ・マニューバ】


 僕は、【ハイ・マニューバ】を起動して上空へ舞い上がる。


 そして、【マップ】を見ながら目的地へ向かって飛行を開始した――。


 ◇ ◇ ◇


 雪で視界が悪いため、あまり速度を出さずに飛行している。これなら、【マニューバ】でも良かったかもしれない。

 北へ進むにつれ、雪はだんだんと本降りになっていった。飛行しているので分からないが、吹雪いているのかもしれない。

 30分以上飛行したところで、津軽海峡らしき場所に着いた。

 速度を落として空中から海峡を見る。やはり吹雪いているようだ。

 意外なことに海峡付近の海は凍ってはいなかった。もしかすると、海流の影響かもしれない。


 幻想的というよりは、酷く寂しい景色だ。

【ナイトサイト】により、曇りの日くらいの明るさで周囲が見えるのだが、殺風景な雪に包まれた土地と暗い海、そして吹きすさぶ吹雪。見ているだけで寒くなってくる。


「ご主人様」


 ドライアードから【テレフォン】で連絡があった。


【テレフォン】


 僕も【テレフォン】を起動して応答する。


「何か見つけた?」

「いえ、探索が終了いたしました。次はどうすればいいでしょうか?」


 ドライアードの声に被さるようにニンフの声が左の耳元で聞こえる。

【テレフォン】の魔術は、排他制御の機能がないため、同時に聞こえてしまうのだ。


「旦那さま」


 とりあえず、ドライアードに指示を出す。


「そのまま待機して、帰還させるから」

「畏まりましたわ」

「通信終わり」


【テレフォン】をオフにしてから、再度起動する。


【テレフォン】


 ニンフに対して応答する。


「今、ドライアードから連絡があったよ。探索が終了したんだね?」

「そうですわ」

「じゃあ、【マップ】を確認してから帰還させるね」

「分かったわ」

「通信終わり」


 僕は、視界の隅に表示されている【マップ】を確認する。

 拡大して北海道の全体像を見る。

 北側や東側は、海が凍り付いているためか真っ白な領域が多く、僕の記憶にある北海道の形とは違っている。

 しかし、函館から札幌にかけての地形は記憶にある通りだ。


【テレフォン】→『ドライアード』


 もう一度、先ほどのドライアードに連絡を入れる。


「ドライアード」

「はい、何でございましょう?」


 左の耳元にドライアードの声が聞こえる。ルート・ドライアードと同じ声だが口調が丁寧だ。

 本来のドライアードは、こういう丁寧な喋り方をするのだ。

 ルート・ドライアードは、フェリスからもらった本の影響で武士のような男前な喋り方をするようになったらしい。妖精にも個性があるということだろう。いや、外部の影響で個性が作られたというのが正確な表現だと思う。


「村を見つけたらしいけど、それ以外にはモンスターの拠点なんかは無かった?」

「はい。拠点はございませんでしたが、モンスターは広範囲に棲息しております」

「どんなモンスター?」

「モンスターは2種類です。大きな牙のある白い獣と白い熊のようなモンスターです」

「間違いなくモンスターなんだね?」

「はい」


 普通に考えて、この辺りで野生動物は生きていけないだろう。環境が過酷すぎるのだ。

【ワイド・レーダー】で確認していた限りでは、『闇夜に閉ざされた国』の境あたりには緑色の光点――野生動物――がそれなりに見られたが、『闇夜に閉ざされた国』を進むにつれ見られなくなった。

『エルフの里』から『闇夜に閉ざされた国』までの間に居たオーガたちは、野生動物を襲わないのかもしれない。

 もしそうなら、オーガの棲息地域から『闇夜に閉ざされた国』の間は、動物たちにとって人間に狩られない比較的安全な領域ということになる。


「ありがとう、通信終わり」

「はい」


 僕は【テレフォン】の魔術をオフにした。


【テレフォン】→『ルート・ドライアード』


「ドライアード達を帰還させて」

「御意!」

「通信終わり」


【テレフォン】→『ルート・ニンフ』


「ニンフ達を帰還させて」

「分かったわ」

「通信終わり」


 ドライアードとニンフを帰還させるよう指示を出した後、【マップ】を見ながら村がある場所に再度飛行を開始する。


 10分とかからずその場所が見えた。数百メートルの距離を置いて空中に停止する。


【テレスコープ】


 視界を拡大して観察する。

 小高い丘の上にぐるりと円形の壁で囲まれた場所がある。

 不思議なことに村の周囲には雪が積もっていない。


 左から回り込むように周囲を観察していくと、壁に一箇所だけ空いた場所がある。

 門のようだが、門扉がない出入り口だ。

 その出入り口の左右に白い着物を着た白髪の女性が立っていて、その女性の隣にはそれぞれ大きな白い獣が座っている。

 ドライアードの報告にあった大きな牙を持つ獣だろう。

 大きさは、ダイアウルフと同じくらいのサイズだ。犬のお座りのようなポーズで座っているのに隣に立つ女性よりもずっと頭の位置が高いのだ。体長が3メートル近くあるのではないだろうか。

 白い狼のようなダイアウルフに対して、こちらはまるで白いサーベルタイガーだ。ちなみにサーベルタイガーというのは、一般的にスミロドンという絶滅したネコ科の大型肉食獣を指すことが多いようだ。正確には、スミロドンを含む剣歯虎けんしこをサーベルタイガーと呼ぶらしい。


【ワイド・レーダー】


 僕は、【ワイド・レーダー】でその女性やサーベルタイガーのようなモンスターを見てみる。

 どちらも黄色の光点だった。妖精たちと同じだ。

 おそらく、人間に友好的なモンスターと同じ存在ということではないだろうか。


 僕は、彼女たちの話を聞くために【エアプロテクション】を切ってから、ゆっくりと近づいていった――。


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