第七章 ―エルフの里―

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 第七章 ―エルフの里―


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 新しく作った娼館『夢魔の館』の段取りを終えた僕は、【インビジブル】をかけ『夢魔の館』を出て【フライ】で飛行して西門を飛び越え『エドの街』から出た。雨が降っていてもおかしくない時間帯だったが、まだ雨は降っていなかった。


【ワイド・レーダー】


【ワイド・レーダー】を起動して、『エドの街』付近にモンスター――もっと言えばゾンビ――が居ないか確認しながら、フェリアの家へ向かった。


 10分ほどでフェリアの家に着いた――。


「ここに来るのも久しぶりだね」

「はい」

「そうですわね。でも、どうしてうちに戻って来られましたの?」


 フェリアとフェリスが答えた。


「ドライアードやニンフたちにも【テレフォン】の魔術を刻印しておいたほうがいいかと思ってね」

「いい考えだと思いますわ」


 これから、人海戦術でゾンビを駆逐くちくするわけだが、離れて行動する使い魔たちと非常時に連絡が取れた方がいいだろう。強制的に呼び戻すのは、ルートの使い魔を帰還して再召喚すればいいだけだが、使い魔たちが何か発見したり、指示をあおいできたりするかもしれない。


 フェリアが玄関の扉を開けた。


「ご主人様、どうぞ中へお入りください」

「ありがと」


 僕は、フェリアに誘われて家の中に入った。

 この家に入るのも久しぶりだ。

 日数的にはそれほどでもないのだが、レイコたちを助けて、娼婦を集めて、娼館を新しく作るといった濃い日々の連続だったので、特にそう感じるのだろう。


「フェリア、アーシュを召喚してあげて」

「ハッ!」


 馬房ばぼうのあるエントランスでフェリアにアーシュを召喚するように言った。

 白い光に包まれてアーシュがエントランスに召喚された。


「たまには、アーシュもこの馬房で休ませたらどうかな?」

「はい、アーシュも喜ぶと思います」


【商取引】→『アイテム購入』→『リンゴ』


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 ・リンゴ【食材】……0.10ゴールド [購入する]


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【商取引】でリンゴを検索して、とりあえず10個購入した。

 一つを手のひらに実体化して、フェリアに連れられて馬房に入ったアーシュに食べさせてあげた。

 喜んでいるようだ。アーシュもエルフの刻印が刻まれているので、あまり食欲はないのかもしれないが、出された食事は美味しくいただくのだろう。

 その後、僕とフェリアとフェリスの3人でアーシュの世話をした。刻印を刻んでいるので必要ないかもしれないと思ったのだが、フェリアにブラシを借りてかけてあげた。

 厳密に言えば、本物の馬とは違うかもしれないが、元の世界では馬と触れ合う機会がなかったので、いい経験になったと思う。


「フェリア、アーシュをどうする?」


 このまま、馬房で一人さびしく過ごさせていいものかフェリアに聞いてみた。


「そうですね。帰還させておきましょうか」

「じゃあ、お願い」


 アーシュが白い光に包まれて消え去った。

 次に召喚されるまでアーシュは、眠ったような状態となる。

 眠るといっても普通の睡眠ではなく、刻印を刻んだ者の睡眠なので、時間移動……いや、瞬間移動したような感覚だろう。使い魔たちは、召喚されるときに帰還した場所で目覚めるのではなく、起きたら毎回違う場所なのだ。


 僕は、いつものテーブルが4つ置いてある部屋へ入った。

 そして、左の壁際に移動して『ロッジ』の扉を召喚する。

『ロッジ』の扉を開けて中に入った。


「ユーイチ様?」


『ロッジ』の中に居たカナコが声を掛けてきた。


「今、フェリアの家に着いたんだ。これから、他の使い魔たちに【テレフォン】を刻んでおこうと思ってね」

「そうだったんですか」

「ああ、そうだ。レイコに【テレフォン】で連絡してみてくれる? 使い魔同士でも通話できるか確認しておきたいから」

「畏まりました」


 僕は、いつもの席に座った。


「レイコ、聞こえる? 聞こえたら返事をして」


 カナコは、レイコに【テレフォン】の魔法を使って連絡しているようだ。


「…………」


 やはり、【テレフォン】は主人と使い魔の間でしか通話できないのだろうか?


「ユーイチ様の命令で使い魔同士が通話できるか試しているのよ」

「…………」

「うん、分かった。じゃあね」


 いや、どうやらつながったようだ。

 カナコが僕が座っているテーブルの近くに来た。


「レイコと連絡できました。ユーイチ様によろしくお伝えくださいと言ってました」

「ありがとう。ところで、カナコは魔力系の魔術が使えるの?」

「いいえ。あたしには、どの系統の魔術も使うことはできません」

「とすると、【テレフォン】は【基本魔法】ということだね」

「そうだと思います」


 カナコを下がらせて、僕は目を閉じて新しい魔法の開発に取り掛かった。


【魔術作成】→『改造』→【ハイ・ブースト】


 現状、【ハイ・ブースト】は、全てのステータスを上昇させる魔法となっている。

 しかし、魔力消費が激しいので使い勝手が悪い。

 最近では、MPが増えたからか【ハイ・ブースト】の魔力消費も問題はなくなっているが、現実問題として、オールマイティに強くなりたいという場面はあまりない。

 そのため、近接戦闘バージョンと魔法戦闘バージョンの2種類に分けて、ケースにより使い分けたほうがいいと考えたのだ。


 まず、魔法戦闘バージョンから作ってみよう。こちらのほうが使う頻度ひんどが高そうだからだ。

『筋力』・『敏捷性』・『耐久力』のゲージを一番下まで下げる。そして、『魔力』・『精霊力』・『神力』のゲージを【ハイ・ブースト】の2倍に上昇させた。つまり、【ブースト】に比べて4倍に強化される。

 念のため、MPが少なくなったら切れるように自動終了条件を設定しておく。


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  自動終了条件:魔力<10


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[レシピ作成]


 魔法の名前は、【マジカル・ブースト】とした。


【魔術作成】→『改造』→【ハイ・ブースト】


 続いて、近接戦闘バージョンの作成を行う。

『魔力』・『神力』のゲージを一番下まで下げる。そして、『筋力』・『敏捷性』・『耐久力』・『精霊力』のゲージを【ハイ・ブースト】の2倍に上昇させる。


 何故、『精霊力』を下げないのかと言えば、【リジェネレーション】と【メディテーション】が精霊系魔術に分類されているので、『精霊力』のパラメーターが高いほど、HPやMPの回復量が高くなるはずだからだ。

 また、こういった、能力上昇系の魔術も精霊系魔術に分類されているので、『精霊力』のパラメータが高いほど能力が強化されるのではないかと思ったのだ。【ブースト】の元になっている魔法は、【ストレングス】と【アジリティ】の強化版である【グレート・ストレングス】と【グレート・アジリティ】なので、同じことが当てはまると考えても良いだろう。つまり、より熟練した術者が使ったほうが効果が高いということだ。この場合の熟練した術者とは、『精霊力』の高い術者のことを指す。


【マジカル・ブースト】と同じようにMPが少なくなったら切れるよう自動終了条件を設定しておく。


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  自動終了条件:魔力<10


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[レシピ作成]


 魔法の名前は、【フィジカル・ブースト】とした。

 改造した魔法だから、指輪を使ったテストの必要はないだろう。

 僕は、目を開けてテーブルに背を向けて反対向きに座った。


「フェリア、ルート・ドライアード。裸になって背中を見せて。新しい【魔術刻印】を刻むから」

「ハッ!」

「御意!」


 フェリアとルート・ドライアードが白い光に包まれて裸になり、僕の前で回れ右をする。

 そして、屈んで僕に背中を見せた。


【刻印付与】


 僕は、【刻印付与】のスキルを使って、二人に【フィジカル・ブースト】と【マジカル・ブースト】の刻印を刻んだ。


『装備8換装』


「じゃあ、フェリア。僕にも刻んで」

「ハッ!」


 僕は裸になって、フェリアに【フィジカル・ブースト】と【マジカル・ブースト】の刻印を刻んでもらった。


『装備2換装』


『装備2』に換装した後、二人を下がらせて、フェリスとルート・ニンフ、ニンフ1、ニンフ2にも【フィジカル・ブースト】と【マジカル・ブースト】の刻印を刻んだ。

 そして、新しい魔法のテストを行ってみる。


【マジカル・ブースト】


【体力/魔力ゲージ】の動きに注目する。他にも【トゥルーサイト】や【フライ】を起動したままだが、実用上、もっといろいろな自己強化型魔術を同時に起動していることも考えられるので、オフにしなかった。

 計算上は、【ハイ・ブースト】と同等のMP消費量のはずだが、明らかにMP消費が少ない。『精霊力』を上げているので【メディテーション】の効果が高くなっているのだろう。これなら、一時間以上の戦闘にも耐えられそうだ。


【フィジカル・ブースト】


【マジカル・ブースト】をオンにしたまま、【フィジカル・ブースト】を起動してみると、警告のメッセージは表示されずに起動した。バフを調べてみると、【マジカル・ブースト】は切れていた。同時に起動することはできないようだ。おそらく、『精霊力』アップの効果が被っているからだろう。MP消費は、【マジカル・ブースト】とそれほど変わらないように見えるが、ブーストしているステータスが多いので、少しMP消費は高いはずだ。


【マジカル・ブースト】


 そのまま、もう一度【マジカル・ブースト】を起動してみると、視界の真ん中に小さなウィンドウが開いて『起動できません』というメッセージが表示された。

 やはり、ブーストする項目が多い【フィジカル・ブースト】のほうがより上位の魔術と認識されるようだ。


 新呪文のテストに満足した僕は、【フィジカル・ブースト】をオフにして『ハーレム』の扉へ移動する。


「これから、ドライアードとニンフたちに刻印を刻むから、全員、大浴場へ来て」

「「はいっ!」」


 僕は、『ハーレム』の扉を開けて、中に入り廊下を歩いていく。

 大浴場の引き戸を開けて、中に入った。


『装備8換装』


 裸になり、洗い場の一番奥へ行く。


『ラブマット』


 マットを召喚して後ろを向く。


「ドライアードとニンフを全員召喚して」

「御意!」

「分かったわ」


 ルート・ドライアードとルート・ニンフが返事をした。

 大浴場の洗い場が召喚魔法によるエフェクトで白く埋め尽くされた。


「な、何?」

「うわっ」

「凄い……」


 カナコのパーティメンバーが驚いている。


「じゃあ、ドライアードとニンフたちに【テレフォン】と【フィジカル・ブースト】と【マジカル・ブースト】の刻印を刻んで」

「畏まりました」

「御意のままに」

「了解ですわ」

「「いいわよ」」


 それから僕は、フェリア、フェリス、ドライアードとニンフたち、カナコのパーティメンバーと3日以上、母乳を吸ったりして過ごした――。


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