6―40

6―40


 僕は『ロッジ』に入り、いつものテーブルのいつもの席に座った――。


 使い魔たちもそれぞれが、いつもの場所に向かう。

 レイコたちは、まだ帰っていないようだ。

『ロッジ』の扉は、帰還させずにそのままにしておいた。


 明日は、5月7日(月)だ。この日が『夢魔の館』の営業開始日となる。


 ――娼婦のローテーションはどうしよう?


 週ごとに交代で行うため、奇数週と偶数週に人員を分ける必要がある。

 現在の娼婦の人数が41人だが、トモコはまだ店に出せないので、20人ずつに分割すればいいだろう。


 明日が営業開始日だが、全く宣伝もしていない初日なので、午前0時から営業を開始するわけにはいかない。

 午前中に『組合』の前の広場でビラでも配って、昼の12時から営業を開始すればいいのではないだろうか。

 明日10~11時頃に『組合』の前でビラ配りをさせよう。これは、12時から店に出るメンバーで行うべきだ。

 ただ、『夢魔の館』には、あまりキャパシティがないので、大量の客が来ても帰ってもらうことになってしまう。その辺りを配布するチラシにも書いておくべきだろう。


 では、娼婦のローテーションだが、まず、偶数週――今週は、第二週なので――の人員を考えてみよう。

 客の多い時間帯は、夕方~深夜にかけてではないだろうか?

 少ない時間帯は、おそらく午前中だろう。

 娼婦をやらせるのが可哀想な若いメンバーや、娼婦の仕事が苦手そうな者を午前中に配置するのがいいだろう。

 客が多そうな時間帯は、経験豊富な元娼婦を多めに配置しよう。

 また、ユウコやユキ、スズカやタカコは、他に仕事があるので夜中のローテーションにしか入れない。

 時間帯別の人数は、午前中は一番少ないと思われるので4人、午後は5人、夕方から深夜にかけては、一番多いと思われるので6人、深夜から朝は5人で、合計20人になる。また、8部屋あるので、最低でも4人は配置しておく必要がある。翌週のメンバーがヘルプに入るわけだが、最低4人居ないと全ての部屋が使えなくなるからだ。


 一番最初のローテーションは、明日の午後、つまり12時~18時だが、ここは、ビラ配りでインパクトを与えるメンバーがいいだろう。つまり、レイコは外せない。レイコのパーティメンバーが娼婦をやるというのを前面に出すと冒険者たちには効果的だと思われるからだ。

『レイコ』と『イリーナ』の冒険者コンビ、『サクラコ』と『ユリ』の母娘おやこ、そして商家しょうかの娘だった『サヤカ』の5人を最初のローテーション娼婦とする。


 とりあえず、以下のようなローテーションを組んでみた――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ■偶数週


 ◆0時~6時

 ・ユウコ

 ・ユキ

 ・ミワコ

 ・エミ

 ・チエコ


 ◆6時~12時

 ・スミレ

 ・アヤメ

 ・イズミ

 ・アヤカ


 ◆12時~18時

 ・レイコ

 ・イリーナ

 ・サクラコ

 ・ユリ

 ・サヤカ


 ◆18時~0時

 ・サユリ

 ・ショウコ

 ・ケイコ

 ・ミチコ

 ・ミスズ

 ・マユミ



 ■奇数週


 ◆0時~6時

 ・スズカ

 ・タカコ

 ・メグミ

 ・ヤスコ

 ・マキ


 ◆6時~12時

 ・アズサ

 ・リエ

 ・ランコ

 ・サツキ


 ◆12時~18時

 ・カオリ

 ・ミナ

 ・アザミ

 ・マドカ

 ・トモエ


 ◆18時~0時

 ・ヨウコ

 ・ハルカ

 ・アオイ

 ・エリコ

 ・ナツメ

 ・サトコ


―――――――――――――――――――――――――――――


 レイコのパーティメンバーは、レイコ・イリーナ・サユリが偶数週、カオリ、ミナ、アズサが奇数週に分けた。

 彼女たちには、他の娼婦たちと違い、戦闘要員としても活躍してもらうことになるかもしれないので、3人ずつに分けたのだ。戦力的にもバランスはいいだろう。今となっては、この街では一騎当千なので戦力バランスを気にする必要はないだろうが……。

 他の娼婦たちも戦えばかなり強いはずだが、戦闘に慣れていないので、何かあったときには、元冒険者の彼女たちが頼りだ。


 また、オフの娼婦たちには、ローテーションが同じ時間帯に控室で待機してもらう予定だ。客が多いときには、対応してもらう必要がある。

 どれくらいの客が来るかは未知数だが、出来ればメインの顧客は冒険者にしたいところだ。一般庶民に比べると商家の出身で金を持ってるだろうし、最悪食べなくても問題がないので、身持ちを崩しても問題がないからだ。


 とりあえず、このローテーションで回してみて、問題があるようなら、レイコに組み替えてもらおう。


【工房】→『アイテム作成』


 僕は、目を閉じて、明日配ってもらうチラシを作成することにした。

 書籍が作成できるくらいなので、チラシのようなものも作成可能だろう。

【工房】のウィンドウに『作成するアイテムをイメージしてください』と表示されたので、『チラシ』とイメージしてみた。

 視界にA4サイズくらいの用紙のような白いイメージが表示された。まるでDTP――Desktop Publishing:デスクトップパブリッシング――ソフトのようだ。

 娼館なので、白地は清潔すぎるので、夜空のような藍色あいいろにする。

 そして、用紙の上部に店の玄関にある看板と同じようなタイトルを入れる。サキュバスのシルエットの上に赤色で『夢魔の館』の文字だ。

 次に用紙の一番下に地図を入れる。『組合』から『夢魔の館』までの経路を描いた地図だ。

 用紙の中央付近には、レイコの写真を入れ、その左右にパーティメンバー全員の写真を並べる。

 写真と言っても僕の脳内でイメージされたものだ。戦闘用の装備を身に着けた冒険者らしい写真にしておく。

 その写真の上下に文字情報を入れる。

『本日、昼12時開店! 24時間営業!』、『レイコのパーティメンバーもお相手いたします』といったあおり文句の他にサービス時間が1時間20分であることや、料金が1ゴールドであること、1度に8部屋なので、混んでいるときには、待たないといけないことなどの注意書きも下のほうに書き込んでおく。

 本当は、マットプレイについて書いたほうが、反響は大きいかもしれないが、あまり多くの客が来ても回せないので、その辺りは口コミでジワジワ広がっていくほうがいいだろう。


 マジックアイテムではない普通のアイテムとして[作成]を行う。アイテム名は、『娼館のチラシ』にした。

 レイコが帰ってきたら、このチラシのレシピを渡しておこう。


『レシピから作成』


 僕は、目を開けてレシピから作成を行う。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・娼館のチラシ×100【アイテム】・・・0.01ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


 銅貨1枚の価格で100枚のチラシが作成できるようだ。

 チラシを実体化する場所のガイドが表示されたので、テーブルの上を指定した。


 100枚のチラシがテーブルの上に実体化された。

 1枚を手にとって、内容に問題がないか確認する。

 見ると、使い魔たちが興味深げに僕のほうを見ている。チラシが気になるのだろう。


「ルート・ニンフ、このチラシをみんなに配ってあげて」

「分かったわ」


 ルートニンフが立ち上がってテーブルの上のチラシを持って行く。


「レイコさんたちが広告塔ですのね」


 フェリスが手に取ったチラシを見ながらそう言った。


「この街の冒険者の間では、それなりに名が通っているだろうからね」

「どうして、この服装ですの?」


 フェリスは、暗に「もっとエッチな写真を入れたほうが効果的では?」と言っているのだろう。


「元冒険者というのを強調するためだよ。そこにステイタスを感じる人も居るだろうからね」

「フフッ、流石ですわね」


『さて、次は何をしようか? 娼館経営は、大まかな指示だけ出して、後はレイコに任せておけばいいだろうし……』


 次は、ゾンビ討伐に行く予定だ。今日の夜中には出発できるようにしておこう。

 その後は、レイコたちと別れて行動することになる。

 通信用のマジックアイテムを作っておいたほうがいいかもしれない。

 また、魔法が使えない者に【レビテート】が使えるマジックアイテムを渡せるようにしておいたほうがいいだろう。仮に魔力系の魔術が使える素質があり浮遊魔法や飛行魔法の【魔術刻印】を持っていたとしても、刻印を刻んだばかりでは発動させることができないので、『夢魔の館』の階を移動することができないからだ。


【工房】→『装備作成』


 僕は、目を閉じて、それらの装備の作成を始めた。

 まずは、【レビテート】が使える指輪を作成しよう。この作業は、既にある魔術を指輪に付与するだけなので、すぐに終わるからだ。

【魔術作成】で『レビテートの刻印石』を作成してから、魔力系魔術の素養を持たないものや未熟な者でも使えるように魔法石を1つ追加して指輪を作成する。1つの魔法石が持つエネルギーで何時間くらい浮遊できるのか分からないが、階を移動するために使う程度で魔力が切れることはないだろう。

 アイテム名は、『レビテートの指輪』とした。念のため20個作っておく。


 次に使い魔と通信する手段だが、どんなものがいいだろう?

 携帯電話のようなアイテムを作ることはできるのだろうか?

『密談部屋』のように空間をつないで行き来できるアイテムが作れるくらいなので、原理をイメージすれば作成は可能だろう。

 携帯電話だと電波を使うためエリアごとに基地局が必要となる。通信可能エリアも限られてしまうので、この世界では使い勝手が悪いだろう。


『密談部屋』のような方法で通信機の中に小さな開いたままの扉を設置して対応する2台で会話するというものは出来るかもしれない。送信受信の概念がなく、壁に空いた穴の向こう側とこちら側で会話するようなアイテムだ。いっそのこと、直径15センチメートルくらいの穴にしてしまえば、通信相手と握手をしたり、小さな物品を受け渡したりすることも可能なのだが、この方式では、アイテムを常に出しておかないと会話ができないのがネックとなる。対応したアイテム同士でしか通信ができないのも問題だ。使い魔の数だけアイテムを用意しないといけなくなるし、それを常に出しておかないと緊急用の通信手段としては使えないのだ。間に交換機のようなものをませれば、通信相手を切り替えることもできるかもしれないが、大がかりなものになりそうなので、今ここで簡単に作れるようなものではないだろう。


 ――では、他人と通信する魔法を作ることは出来るのだろうか?


 僕は、試してみることにした。


【魔術作成】→『作成』


『使い魔の耳元に声を送る』


 ダメ元で念じてみた。すると、エラーメッセージは表示されなかった。

 この魔法は、イメージした相手に発動すると、こちらの声が相手に聞こえるというものだ。魔術タイプは、自己強化型魔術とする。術を発動している間、常にMPが消費される魔法になるが、使った後にリキャストタイムが発生しない。

 両耳の耳元で聞こえるのは、具合が悪いかもしれないので、電話のように左の耳のみとイメージで指定しておく。


 僕は、ここで一旦魔法の作成を中断して、新たに魔法の作成を念じる。


『刻印を刻んだ者の耳元に声を送る』


 不特定多数の人間に対して声を送ることができるか試してみると、『その魔法は作成できません』とエラーが表示された。


『【エルフの刻印】を刻んだ者の耳元に声を送る』


 対象を【エルフの刻印】を刻んだ者に限定してみたが、結果は同じだった。

 やはり、使い魔というのがポイントなのかもしれない。使い魔とあるじは、召喚魔法の刻印を通じて繋がっているからだ。


 使い魔にしか使えないことが分かったので、もう一度、先ほどのウィンドウに戻る。


 ――この魔法で、使い魔から主へ声を送ることもできるのだろうか?


 原理的には、同じことのように思えるが、『使い魔の耳元に声を送る』とイメージしてしまったので、逆はできないかもしれない。

 駄目なら、逆の魔法も作ればいいだけなので、この魔法のレシピを作成する。名前は、『テレフォン』と名付けた。

 そして、『テレフォンの刻印石』を作成して【工房】を起動する。


【工房】→『装備作成』


『テレフォンの刻印石』から指輪を作成する。以下の条件を付加しておく。


―――――――――――――――――――――――――――――


 追加条件1:分解不可

 追加条件2:譲渡不可

 追加条件3:使い魔にのみ譲渡可


―――――――――――――――――――――――――――――


[作成]を行い、名前を『テレフォンの指輪』にした。

『念話の指輪』にしようかとも思ったのだが、心の中で会話をするイメージの念話とは違い、術者が実際に言葉を発して、相手の耳元の空気の振動でこちらの言葉を届ける魔法なので、電話のほうがイメージに近いのだ。


『装備2』


―――――――――――――――――――――――――――――


 武器:アダマンタイトの打刀+100

 服:魔布のローブ+100

 脚:魔布のスラックス+10

 腕輪:アダマンタイトの腕輪+10

 足:竜革のブーツ+10

 背中:魔布の隠密クローク+10

 下着:魔布のトランクス+10

 左手人差し指:グレート・ピットの指輪

 左手中指:ストーンフロアの指輪

 左手薬指:回復の指輪

 左手小指:テレフォンの指輪

 右手中指:フラット・エクスプロージョンの指輪


―――――――――――――――――――――――――――――


『装備2換装』


 左手は、親指以外が指輪で埋まってしまった。

 それはともかく、実験をしてみよう。


『テレフォンの指輪』


 目を開けて、左手小指に装備された指輪の魔術を起動する。

 視界に開いた小さなウィンドウに『相手をイメージしてください』と表示された。


『フェリア』


 とりあえず、フェリアを指定する。しかし、フェリアは、すぐ後ろに居るので、普通に話したら、声が聞こえてしまうだろう。


「フェリア、メイド服に換装して」


 ささやくような小声で言ってみた。


「ハッ!」


 背後からフェリアの声が聞こえた。

 振り返ると、メイド服姿のフェリアが居た。


『耳がいいから、直接聞こえたのかもしれないな……』


 僕は、『テレフォンの指輪』をオフにする。


【工房】→『装備作成』


 レシピからもう一個作成した。


『フェリアの装備6』


―――――――――――――――――――――――――――――


 頭:メイドカチューシャ

 首:黒のチョーカー

 服:フェリアのメイド服

 腕輪:フェリアの腕輪

 脚:黒のストッキング&ガーターベルト

 足:竜革のブーツ+5

 下着:白のブラジャー

 下着:白のパンティー

 左手薬指:回復の指輪

 左手小指:テレフォンの指輪


―――――――――――――――――――――――――――――


『フェリアの装備6換装』


 フェリアの身体が一瞬白い光に包まれた。


 僕は立ち上がる。


「新しい魔術の実験をするから、フェリアはここに待機してくれ」

「ハッ!」

「じゃあ、ルート・ドライアードだけついてきて」

「御意!」


 僕は、『ロッジ』の扉から『夢魔の館』のリビングに出た。

 安全な場所に召喚してあるので、扉は出したままだったのだ。

 もしかしたら、『夢魔の館』の入り口から、ユウコなどが入ってくるかもしれない。

 そういえば、ユウコたちは、『組合』の仕事が終わったら『ユミコの酒場』へ行くのだろうか?

 この魔法の実験が成功したら、メッセージを送ってみよう。


 僕は、『ロッジ』の扉を帰還させた。


『テレフォンの指輪』


 もう一度、『テレフォンの指輪』を発動させて、フェリアをイメージする。


「フェリア、聞こえる? 聞こえたら、『テレフォンの指輪』を起動して返事をして」

「ご主人様の声が聞こえますわ」


 左耳の耳元でフェリアの声がした。


「良かった、実験は成功だよ」

「おめでとうございます」


『ロッジ』


 僕は、『テレフォンの指輪』をオフにしてから『ロッジ』の扉を召喚して中に入った。

 ルート・ドライアードが続いて入ってくる。

 扉はそのままにして、僕は自分の席に座った。

 ユウコにメッセージを送ってみよう。向こうからの返事は聞こえないので、一方通行の通信となるが。


『テレフォンの指輪』→『ユウコ』


「ユウコさん、聞こえますか? そちらからの声は聞こえないので、一方的な会話になりますが、『ユミコの酒場』でレイコたちと合流してから帰ってきてください」


 それだけ話して、指輪の魔法をオフにする。

 相手からの言葉が聞こえないので、ちゃんと伝わったか不安になる。

 結果は、そのうち分かるだろう。

【テレフォン】に関しては、指輪よりも全員に刻印を刻んだほうがいいだろう。


 ――刻印と言えば、『夢魔の館』にも【エルフの刻印】を刻める人間が居たほうがいいのではないだろうか?


「フェリス、レイコや元村人たちに【刻印付与】の刻印は刻んであるの?」

「いいえ、指示されなかったので刻んでおりませんわ」


 僕は、立ち上がって元村人たちを呼ぶ。そして、テーブルと反対向きに座った。


「『シモツケ村』出身の8人は、こっちに来て」

「「はいっ」」


 8人の元村人が僕の前に並ぶ。


「今から、あなた達に【刻印付与】の刻印を刻むよ。自分の持っている【魔術刻印】や【エルフの刻印】を他人に刻めるようになるけど、本来は『組合』で大金を積んで刻んでもらうべきものなので、みだりに他人に刻印を刻まないように注意して」

「「はいっ」」

「娼婦希望者に【エルフの刻印】を刻む場合には、意志が固いことをよく確認してから刻むように。年齢が40歳を超えている人には、『女神の秘薬』を与えた後、12時間くらい経ってから刻むようにして」

「「はいっ!」」


 僕は、振り返ってフェリスに指示を出す。


「フェリス、この8人に【刻印付与】の刻印を刻んであげて」

「分かりましたわ」


 フェリスが立ち上がり、何故か裸になって僕の前に来た。


「ご主人サマ、失礼いたしますわ」


 そう言って、いつものように長椅子を踏み台にしてテーブルの上に登った。


「さぁ、裸になって順番にテーブルの上に寝てくださいな」


 元村人の8人は、白い光に包まれて全裸になった。


 そして、一人ずつフェリスと同じように長椅子を踏み台にしてテーブルの上に登り、フェリスから【刻印付与】の刻印を授かった――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ガチャ


 元村人たちへの【刻印付与】が終わった後、暫くしてレイコの『密談部屋5』の扉が開いた。

 レイコを先頭にミナ以外のパーティメンバーとユウコ、ユキが中に入ってきた。今日は、娼婦希望者は居なかったのか、知らない人間は入って来なかった。


「おかえり」

「ただいま戻りました。主様ぬしさま

「「ただいま戻りました」」


『夢魔の館』について相談しないといけないことがあるので、レイコを呼ぶ。


「レイコ」

「ハッ!」


 レイコは、僕が座っているテーブルにやって来た。


「今日は、娼婦希望者は来なかったんだね?」

「はい、日曜だということもあるでしょうな」


 ――日曜は、基本的に休日だから、仕事探しをする人が少ないということだろうか?


 それはともかく、本題に入ろう。

 僕は、先ほど考えた娼婦のローテーションなどを伝えた。


「なるほど、我々娼婦は、20人ずつ奇数週と偶数週に別れて仕事を行うわけだな」

「とりあえず、さっき言ったローテーションでやってみて、問題があったらレイコの判断で好きに変更してくれていいから」

「分かりました」

「もう24人、娼婦が増えたら、常に全ての部屋を回せるんだけど、現状ではオフの人にも協力してもらうしかないね」

「それは問題ないでしょう。丸一日休みをもらっても困ってしまう者が多いだろうからな」


 ――この世界の人は、ワーカホリックなのだろうか? それとも使い魔になったから?


 普通は、休日は嬉しいものだと思うけど、使い魔になったせいでそう感じるのだとしたら、罪悪感を感じてしまう。


『トレード』


 僕は、『娼館のチラシ』のレシピと『レビテートの指輪』20個をレイコに渡した。


「そのチラシを明日の10時から11時の間に『組合』の近くに来た冒険者に配って。指輪は、娼婦希望者が来て刻印を刻んだ後、階を移動するときに使うものなので、【レビテート】などの魔法が使えるようになるまで貸し与えるように」

「ハッ!」

「あと、娼婦希望者には、『魔布の白無垢しろむく』、『竜革の白草履しろぞうり』、『魔布の黒ブラジャー』、『魔布の黒Tバックパンティー』、『魔布のクローク+10』を【工房】で作成して与えておいてくれ。『ローション』のレシピと料理のレシピも一緒に渡すように。マットは、別にいいと思う。練習するときは、マットを持っている者が出してあげて」

「畏まりました」

「渡した資金が減ってきたら言ってくれ」

「そう簡単にはなくならないでしょう?」

「いや、娼婦用の装備は、一人3万ゴールド以上かかっているから、30人も増えたら100万ゴールド近くかかるはずだよ」

「な……そんなにかかるのですか?」

「『魔布のクローク+10』を作るのに1万4千ゴールドかかるからね。これが地味に大きいと思う」

「もっと安いものに変更されては?」

「娼婦の安全を考えれば必要な装備だよ。元々、戦闘用に作った装備なので、魔法攻撃によるダメージをかなり軽減してくれるはずだし。心配しなくても、その程度はすぐに稼げるから」

「分かりました」

「じゃあ、時間になったらミナたちを迎えに行って」

「ハッ!」


 レイコは、自分の席に帰って行った。


主殿あるじどの、先ほどの声は何だったんじゃ?」


 僕とレイコの話が終わるのを待っていたのか、ユウコが近づいてきて疑問を口にした。


「新しい魔法です」

「声を飛ばす魔術なんぞ聞いたことがないぞぇ?」

「この魔法は、使い魔とその主の間でしか使えないようです。使い魔同士で使えるかどうかは、まだ検証していません」

「ほぅ、そんなことが可能なのかぇ?」

「おそらく、召喚魔法は、刻印により主と使い魔が結ばれているからではないかと」

「なるほどのぅ……」

「後で、全員にこの魔法を刻印するつもりです」

「それは楽しみじゃのぅ」


 ユウコを帰して、暫く経った頃、レイコが席を立った。


「主様、ミナたちを迎えに行って参ります」

「いってらっしゃい」


 僕はレイコを見送った――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ガチャ


 レイコは、15分ほどで帰ってきた。

 ミナとスズカ、タカコの他にもカナコとそのパーティメンバーが続いていた。


「ただいま戻りました」

「おかえり」

「久しぶり、ユーイチ! 最近、ユミコさんの酒場に来ないから、こっちから押しかけちゃったわ」

「お久しぶりです、カナコさん」


 ――何しに来たのだろう?


「新しい娼館が出来たそうじゃない?」

「ええ、これからは、娼館のほうに希望者を連れてきて貰えますか?」

「いいわよ」


 僕は、テーブルの上に残っていた『娼館のチラシ』を1枚取ってカナコに渡した。


「何これ、凄いじゃない。あははっ! レイコたちが娼婦だって! あたしもレイコを買いに来ようかしら?」


 冗談だと思うが、カナコは女性もいけるタイプなのかもしれない。


「ユキさん」

「はい、何でしょうか? ご主人様?」


 ユキが近くに来た。


「娼婦募集の件ですが、希望者は『ユミコの酒場』から『夢魔の館』に来てもらうように変更しておいてください。訪問時間は、24時間いつでも可能で」

「分かりました」


 ユキを帰した後、ミナを呼んだ。


「ミナ」

「なに?」

「『ユミコの酒場』で娼婦希望者を待つのは、今週一杯でいいよ」

「分かった」

「食事に行ったりするのは、自由にしてもらっていいけどね」

「ええ、そうするわ」


 僕は、カナコに向き直る。


「それで、カナコさんたちは、娼館を見に来たんですよね?」


 娼館内を案内したほうがいいだろうか?


「その……あたしたちもユーイチの傘下に加えてほしいのよね」

「傘下って……?」

「レイコたちは、ユーイチの奴隷なんでしょ?」

「正確には、使い魔ですが……」

「あたしたちも、ユーイチの奴隷にしてっ!」

「どうしてまた?」

「ユーイチは、冒険者が命を落としやすいことを知ってるわよね?」

「そう聞いています」

「レイコたちもあなたが居なかったら死んでいたでしょう……?」


 死んだも同然という意味ではそうかもしれない。実際には、僕たちが助けなくても何年か何十年か何百年後か分からないが誰かに助けられた可能性はある。一般人だったサクラコたちは死んでいた可能性が高いが。


「娼婦をするつもりですか?」

「それは……あまり、やりたくはないけど、それが条件なら飲むわ」

「僕としては、カナコさんたちには、今まで通り娼婦希望者を集める仕事をして欲しいのですが……カナコさんたちが辞めれば、他の人に頼む必要がでてくるので……」


 他の女性冒険者パーティを探すのが面倒くさい。女性ばかりのパーティなら、『ユミコの酒場』か『女鹿亭めじかてい』で探せば見つかるだろうけど。


「よかった。あたしは別にいいんだけど、マミとか可哀想だし」


 マミというのは、カナコのパーティメンバーの軽装戦士だろう。カナコの背後を見ると目が合った。ツインテールのまだ十代に見える女の子だ。実年齢は、30歳くらいなのかもしれないが、刻印を刻んだ年齢が若かったのだろう。アズサなんかもそうだが、何故、そんなに若くで刻印を刻んだのか……。


「ちょっと、聞いてもいいですか?」

「なぁに?」

「マミさんのような十代に見える女性は、何故そんなに若く刻印を刻んだのですか?」


 刻印を刻むと子供が作れなくなってしまうわけだが、婚期を逃したわけでもないのに刻印を刻む理由が分からない。


「ユーイチは、商家の生まれじゃなかったわね。マミのような、若くで刻印を刻んだ娘は、妾腹しょうふくの子が多いのよ」

「つまり、子供が作れないように刻印を若くで刻んでしまうということですか?」

「そうよ。お家騒動の原因になりかねないとか言ってね」


 カナコは、怒ったような表情をしている。

 そういう商家の体質が腹に据えかねているのかもしれない。


「なるほど」

「それでも、刻印を刻むお金もないよりは、ましなんだけどね」


 最近、使い魔になったトモエなどは、そのパターンだろう。ユウコやユミコも刻印を刻むのが遅かったようだ。


 カナコたちを使い魔にするなら、早くしないと朝になってしまう。

 僕は立ち上がり、『ハーレム』の扉の前に移動した。


「じゃあ、全員ついてきて」

「「はいっ!」」


 扉を開けて『ハーレム』の中に入り、【フライ】の魔法で廊下を移動する。大浴場の引き戸を開いて中へ入る。


『装備8換装』


 裸になって、洗い場の一番奥へ移動する。


『ラブマット』


 マットを洗い場の床に召喚した。


「フェリア、マットに来て」

「ハッ!」


 フェリアをマットに寝かせた。


【刻印付与】


【テレフォン】の魔法を右脇の空いた場所に刻印した。交代して僕の身体にも刻んで貰う。

 その後、フェリス、ルート・ニンフ、【刻印付与】を持つ元村人たち8人にも刻印した。


「ルート・ニンフ、ニンフたちを戻して再召喚して」

「分かったわ、旦那さま」


 洗い場に光に包まれて、くノ一のような格好をしたニンフ1とニンフ2が出現した。


「ニンフたちは、裸になってこっちに来て」

「「ええ」」


 ニンフ1とニンフ2にも刻印した。


「じゃあ、今刻印した【テレフォン】の魔法を他の使い魔たちに刻んできて」

「ハッ!」

「御意!」

「分かりましたわ」

「「分かった」」

「「はいっ!」」


 僕は、隅のほうで全裸で小さくなっているカナコのパーティメンバーを呼ぶ。


「カナコさんたちは、こっちに来て」


 カナコとミドリ、ユリは、身体を隠していないが、アキコ、エリ、マミの3人は恥ずかしそうに胸と股間を手で隠していた。

 ユリは、サクラコの娘のユリと同じ名前だ。珍しい名前ではないので、こういう偶然が起きるのも仕方がないが、僕の使い魔になるとなるとユリだけではどちらを指すか分からない。とりあえず、サカモト・ユリとフルネームで呼ぶことにしよう。


 カナコは、レイコとよく似た体格だ。胸の大きさや形も心なしか似ているように見える。レイコはポニーテールだが、カナコは栗色の髪を首の後ろのあたりで結んだ髪型だ。

 ミドリは、身長が170センチメートルくらいのスラリとした体つきで胸も小ぶりだ。

 ユリは、巨乳で肉感的だが、重装戦士だけあって、身体や動きがしなやかな印象だ。意志の強そうな瞳も猫科の猛獣のようだ。今も肉感的な身体を僕に見せつけ挑発するような目で見ている。

 アキコは、恥ずかしそうに小ぶりな胸を隠している。カナコの妹で、姉のカナコと同じ栗色の髪をしている。髪型は、セミロングだ。

 エリは、長い黒髪で155センチメートルくらいの身長だが、片腕で隠している胸はかなり大きい。

 マミは、ツインテールで外見年齢は、女子高生くらいに見える。隠している胸も小さそうだ。


『ローション』


 僕は、『ローション』を一つ実体化させて、カナコに渡した。

 使い方を説明する。


「じ、じゃあ、ユーイチ。あたしがご奉仕してあげるわね……」


 少し声が震えている。あまり慣れていないのかもしれない。


 僕は、カナコたちの奉仕を受けた――。


―――――――――――――――――――――――――――――


『現在時刻』


 現在の時刻は、【02:21】だった。


 あの後、カナコたちを使い魔にして、【テレフォン】も含め、娼婦たちと同じ【魔術刻印】を施した。

 カナコたちは、レイコのパーティメンバーに一人ずつテイムさせた。

 割り当ては、レイコ→カナコ、イリーナ→サカモト・ユリ、カオリ→エリ、サユリ→ミドリ、ミナ→アキコ、アズサ→マミだ。


―――――――――――――――――――――――――――――


■レイコ

 ●イリーナ

  ◆アザミ

   ・ヨウコ

   ・ハルカ

   ・トモコ

  ◆マドカ

   ・マキ

   ・ナツメ

  ◆サカモト・ユリ

 ●カオリ

  ◆イズミ

   ・ミスズ

   ・サヤカ

   ・トモエ

  ◆タカコ

  ◆エリ

 ●サユリ

  ◆サクラコ

   ・ケイコ

   ・ランコ

   ・メグミ

  ◆ユリ

   ・エミ

   ・エリコ

  ◆ミドリ

 ●ミナ

  ◆アヤメ

   ・チエコ

   ・マユミ

   ・アヤカ

  ◆ユキ

  ◆アキコ

 ●アズサ

  ◆ショウコ

   ・ミチコ

   ・サツキ

   ・ミワコ

   ・ヤスコ

  ◆スミレ

   ・サトコ

   ・アオイ

   ・リエ

  ◆マミ

 ●ユウコ

 ●スズカ

 ●カナコ


―――――――――――――――――――――――――――――


『ハーレム』


 僕は、『ハーレム』の扉を一度帰還させて、自動清掃機能を発動した。

【フライ】でマットから浮かび上がる。

 そして、湯船の方へ飛行した。


 湯船につかる。

 使い魔たちも次々と湯船に入ってきた。

 使い魔たちが僕を取り囲んで止まるのを待ってから座るように命じる。


「座って」


 ――ザバーッ!


 僕は、今後のことを使い魔たちに話しておくことにする。


「いよいよ明日……といっても時間的には、もう今日ですが……僕が作った娼館『夢魔の館』の営業開始日です。責任者は、レイコなのでレイコの指示に従ってください。明日の10時から11時に『組合』の前でレイコ、イリーナ、サクラコ、ユリ、サヤカの5人は、ビラ配りをしてください。そして、昼の12時から営業を開始しますので、その5人はサービスを行う部屋の前でお客様を誘導して時間になったらサービスを開始してください」

「「はいっ!」」

「12時からは、18時からローテーションに入る、サユリ、ショウコ、ケイコ、ミチコ、ミスズ、マユミの6人がエントランスで客の整理などを行ってください。サービス内容の説明や、現在の待ち時間、トイレの場所など説明してください。娼婦希望者が来た場合は、控室に待機している娼婦に引き渡して娼婦希望者の部屋へ連れて行って貰ってください」

「「はいっ!」」

「控室には、翌週の同じ時刻のローテーションメンバーがヘルプ要員として待機します。明日の12時から18時は、カオリ、ミナ、アザミ、マドカ、トモエが控室で待機をします。詳しいローテーションについては、レイコから聞いてください」

「「はいっ!」」

「僕たちは、このあと、この街を離れます」

「「――――!?」」

「主様、明日から『夢魔の館』は営業を開始するのですよ?」

「段取りは終わっているから、後はレイコに任せるよ」

「そんな……」

「何か問題があったら、【テレフォン】を使って連絡してくれればいい。週に1回程度は、戻るつもりだし」

「そういうことでしたら……」


 レイコが思い出したように言葉を続ける。


「主様、我々に娼婦の仕事をするよう命じて貰えますか?」

「分かった。じゃあ、この中で娼婦の仕事をする者たちは、娼婦として働いてください。これは命令です!」

「「はいっ!」」


 一際大きな声が広い浴場に響いた。

 ユウコが話掛けてきた。


「主殿、ゾンビ討伐に行かれるのかぇ?」

「そうです」

「なるほどのぅ……西門が使えるようになれば、この辺りも活気づくからのぅ」

「そこまでは考えていませんでしたが、『シモツケ村』の一件を考えると、もう東側に村を作るのは危険だと思いまして」

「確かにそうじゃのぅ」


 僕は立ち上がった。


【エアプロテクション】『装備2換装』


 湯船から出て、服を着る。

 そして、『ロッジ』に戻った。


『娼館の裏口を試してみよう』


 僕は、『夢魔の館』の裏口が機能するか試してみることにした。『ロッジ』内からなら使えるはずだ。


『夢魔の館・裏口』


『ロッジ』の扉の隣に『夢魔の館・裏口』の扉を召喚した。


 扉を開けてみると、娼館の地下の『ロッジ』のようなテーブルが並んだ部屋に出た。

 正面にある扉まで移動して、扉を開けたら寝間だった。


「ここは……?」


 振り返るとレイコが不思議そうに部屋の中を見ている。


「ここは、『夢魔の館』の地下だよ」

「そうでしたか」

「後でサクラコたちにでも案内してもらうといい。レイコには、娼婦たちの部屋割りも考えてほしいからな」

「部屋割りと言いますと?」

「2階から上の階は、娼婦たちの個室になっているので、誰がどの部屋を使うか割り当てて欲しいんだ」

「畏まりました」


 見ると全員が『夢魔の館』に出たようだ。

 僕は、『夢魔の館・裏口』と『ロッジ』の扉を帰還させた。


「じゃあ、みんな服を着て」


 使い魔たちは、まだ全員が裸だったのだ。

 白い光に包まれて、使い魔たちが装備を着た姿になる。多くが白無垢姿だ。


 僕は、寝間の扉を閉めて、廊下へ続く扉の前に移動して、廊下へ出た。そして、昇降場へ移動する。

 カナコのパーティメンバーは、ここを登ることができないだろう。

 丁度良い、『レビテートの指輪』の効果を試してみよう。


「レイコ、カナコさんたちに『レビテートの指輪』を渡して」

「ハッ!」


 レイコは、カナコたちに『トレード』で『レビテートの指輪』を配っている。

 カナコが話かけてきた。


「ねぇ、ユーイチ様。あたしのことも呼び捨てて頂戴。あたしもユーイチ様の奴隷なんだから」

「分かった」


 レイコと扱いが違うのが不満だったようだ。

 丁寧な言葉遣いだと他人行儀に感じるのかもしれない。


「じゃあ、カナコ。その指輪を発動して天井に空いた穴から1階へ移動してみて」

「ええ、いくわよ」


 カナコがレビテートで上昇した。

 天井の穴をくぐり抜けた。

 僕も【フライ】で上昇して穴をくぐって1階の廊下へ出た。

 次々に使い魔たちが穴から出てくるので、僕は控室のほうへ移動した。

 扉を開けて控室に入る。

 そのまま、エントランスの扉の前まで移動してから後ろを向いた。


 僕の身体が回復系魔術のエフェクトで光った。

 フェリアが【グレーターダメージスキン】と【グレート・リアクティブヒール】を掛けてくれたようだ。


「じゃあ、僕とフェリア、ルート・ドライアード、フェリス、ニンフたちは、【インビジブル】をかけて外に出るよ。ああ、それから、全員【トゥルーサイト】を常にかけておくこと。カナコたちは、まだ使えないから仕方ないけど」


 近いうちにカナコたちを連れてトロール討伐に行こうか。いや、このままゾンビ討伐に連れていったらどうだろう?


「カナコ、君たちはこのあと他の仕事が入っているの?」

「いいえ、ユーイチ様の仕事の報酬が良いから他の仕事はしていないわ」

「じゃあ、このままゾンビ討伐に一緒に行ってくれる?」

「ええ、貴方は命令するだけでいいのよ」


『ロッジ』


『ロッジ』の扉を召喚する。


「じゃあ、カナコたちは、この中に入って」

「分かりました」


 カナコとそのパーティメンバーは、『ロッジ』の中に入った。

 それを確認して扉を閉めて帰還させる。


「じゃあ、僕たちは行くけど、娼館のことはレイコに任せるね」

「畏まりました」


【インビジブル】【ナイトサイト】


 姿を消して、エントランスへの扉を開く。フェリアが僕をかばうように前に出た。

『夢魔の館』のエントランスには、人の気配は無かった。玄関の扉は開けっ放しなので、誰か入り込んでいるかと思ったが、もう深夜なので入っていた者が居たとしても帰ったのだろう。


 そのまま、玄関の開口部を抜け、大通りで上昇して西門の上まで飛行する。

 深夜ということもあり、通りには人気ひとけが無かった。


 そして、僕たちは『エドの街』を離れた――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 第六章 ―夢魔の館― 【完】


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