7―2

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 ――久々に疲れた気分だ……。


 500人以上の使い魔たちと約3日間、母乳を吸ったりマットで奉仕されたりしていたのだ。

 何故、こんな時間のかかることをしたかと言えば、ドライアードとニンフたちにもマットプレイをさせてあげないと不公平かと思ったのだ。彼女たちから見れば、『妖精の国』を出てから、そう時間は経っていない感覚なのかもしれないが、戦闘の時にだけ呼び出す道具のような使い方をしているので、たまにはこうやってねぎらってあげたほうがいいと考えたのだ。

 思った通り、ドライアードとニンフたちは、マットプレイが気に入ったようだ。


『夢魔の館』も放っておけないので、ゾンビ討伐は一週間で終える予定だったのだが、こっちの一週間は5日なので既に半分以上が過ぎてしまったことになる。


『現在時刻』


 時刻を確認してみると、【08:34】だった。

 今日は、5月10日(木)だろう。


 こちらの世界の暦は、一月ひとつきが30日で一週間は5日だ。週は、日曜日から始まり木曜日で終わる。1と6の付く日付が日曜で5と0の付く日付が木曜となる。つまり、今日は5月第2週の最終日ということだ。

 明日から、『夢魔の館』のローテーションが変わるはず。今日の夜中にでも一度、『夢魔の館』へ顔を出して何か問題がないかレイコに確認しておいたほうがいいかもしれない。


 僕は、四肢ししまとわりついているニンフたちを引きがした。


「「あんっ」」

「そろそろ、ここを出よう」


『ハーレム』


『ハーレム』の扉を一瞬帰還させて、自動清掃機能を発動する。

【フライ】で湯船の上に飛行して、広い湯船の真ん中あたりで湯船に入る。


「ふぅー……」


 ――ザバッ、ザバザバザバザバ……


 振り返ると使い魔たちが次々と湯船の中に入って、こちらに歩いてくる。

 ざっと520人くらい居るので、ちょっと怖いくらいだ。

 そして、僕の周囲を囲んだ。


「座って」

「「はいっ」」


 ――ザバーッ!


 大きな水音がして、水嵩みずかさが少し増えたように感じる。

 僕は、目を閉じて10分ほど入浴を満喫した。


『そろそろ、行こう』


 僕は、目を開けて、【フライ】で湯船の上を飛行して、大浴場の入口まで行く。


【エアプロテクション】『装備2換装』


 服を着て振り返る。

 カナコたちを除いた使い魔たちも【フライ】で洗い場まで飛行して僕の後ろに並んだ。


「全員、服を着て」

「「はいっ」」

「じゃあ、ドライアードとニンフは、一度帰還させて」

「御意!」

「分かった」


 白い光が大浴場にあふれた。

 500人以上の使い魔が消え去る。


 僕は、引き戸を開けて廊下に出た。

『ハーレム』の扉まで飛行して、扉を開けて『ロッジ』に戻る。

 そして、いつものテーブルの、いつもの席に座った。


「フェリア、フェアリーとピクシーを召喚して」

「ハッ!」


 光に包まれて裸のフェアリーとピクシーが現れた。

 どうやら、前回帰還したときに裸だったようだ。


「あっ、ユーイチ様」

「ユーイチッ!」


 二人は、僕の顔に飛びついてきた。


「ぶっ」


 僕は、二人を引き剥がす。


「刻印を刻むから、テーブルの上でじっとしていて」


【刻印付与】


 二人に【テレフォン】と【フィジカル・ブースト】と【マジカル・ブースト】の刻印を刻んだ。


「二人とも服を着て」

「分かったわ」

「ハーイ」


 フェアリーとピクシーが白い光に包まれて服を着た。

 フェアリーは清楚な白いワンピース姿で、ピクシーはセパレートの水着のようなものを着ている。


『あとは……ケット・シーにも刻んでおくか……』


「フェリア、ケット・シーも召喚して」

「ハッ!」


 白い光に包まれてケット・シーが召喚された。


「あ、ご主人さまにゃん」

「ケット・シー、こっちに来て」

「はいにゃ」


 ケット・シーにも【テレフォン】と【フィジカル・ブースト】と【マジカル・ブースト】の刻印を刻んだ。


「ここに座って」


 ケット・シーを僕のテーブルの左隣に座らせた。

 その席の前には、書籍『エドの街の発祥 ~マレビトは実在した~』が放置してあった。

 その書籍を手に取って、フェリアに渡す。


「フェリア、この本を『倉庫』にしまっておいて」

「畏まりました」


 フェリアは、『倉庫』の扉を召喚して中へ入っていった。


『牛ヒレ肉のステーキ』


 ケット・シーの前に『牛ヒレ肉のステーキ』を出した。


「おおっ、いただいてもいいのかにゃ?」

「どうぞ」

「ありがとにゃん」


 ケット・シーは、夢中で食べ始めた。

 たまに食べさせてあげる約束で使い魔にしたのだ。

 僕は、約束を守れてホッとした。


 見ると、カナコたちがこちらを見ていた。

 お腹が減っているのかもしれない。


「カナコ、お腹が減っているなら、【料理】スキルで好きなものを食べていいよ」

「あっ、そうね。【料理】の刻印を刻んでもらったことを忘れてたわ。それで、その料理は何ていう料理ですか?」

「『牛ヒレ肉のステーキ』だよ」

「ありがとうございます」


 カナコたちも『牛ヒレ肉のステーキ』を召喚して食べ始めた。

 みんなが食べているところを見ていたら、僕も食べたくなってきたので、『牛ヒレ肉のステーキ』を出して食べた。


 食後の『エスプレッソコーヒー』を飲みながら、フェアリーたちに聞いてみる。


「君たちは、何か食べたいものはないの?」

「食事をしたことはないわ」

「あたしもっ!」


『フルーツの盛り合わせ』


 果物なら食べられるんじゃないかと、『フルーツの盛り合わせ』を召喚して勧めてみる。


「よかったら、食べてみて」

「ええ、じゃあ」

「食べてみるっ!」


 二人は、フルーツを食べ始めた。


「甘酸っぱくて美味しいわ」


 フェアリーは、イチゴを食べていた。


「わっ、なにこれ酸っぱくて苦い~!」


 ピクシーは、グレープフルーツを食べたようだ。


 フェアリーは、人間の半分くらいの身長しかない。体積は約8分の1なので、体重も8分の1くらいだ。

 おそらく、フェアリーは、身長約80センチメートル、体重は6キログラムくらいだろう。

 更にピクシーは、フェアリーの半分くらいの身長だから、その8分の1とすると人間の64分の1くらいの体重ということになる。

 ピクシーは、身長約40センチメートル、体重は1キログラム弱だと思う。

 そんな二人にとっては、少し大きめの小鉢に入った『フルーツの盛り合わせ』でも多かったようだ。

 それでも、二人は残さず全部食べてしまった。僕が出したものだから無理して食べきったのだろうか? だとしたら悪いことをしたかもしれない。


「どうだった?」

「美味しかったわ」

「うん! 酸っぱくて苦いの以外はねっ!」

「無理して全部食べる必要はないんだよ」

「あれくらい大丈夫よ」

「そうそう」

「だったらいいけど」


 僕は、ケット・シーのものも含め、全て食器を片づけた。


『何か忘れてることはないかな……?』


 ――そうだ!? ついでに地形やモンスターの棲息地を記した地図を作ろう!


『自動的にマッピングする魔法とか作れるのかな?』


 僕は、目を閉じて魔法の作成に取りかかった。


【魔術作成】→『作成』


『自動的に地図を作る魔法』と念じてみた。『その魔法は作れません』と表示される。

 どうやら、そんな都合が良い魔法は作れないようだ。こちらが具体的なイメージをしていないのが問題なのではないだろうか? 漠然としたイメージで新しい魔法を作ることはできないからだ。『改造』の場合は、元の魔術があるので、原理まで考える必要はないようだが、元の魔術の改造できる範囲でしか改造することはできない。


『上空から紙のようなものに見た地形を書き込んでいくか? いや、それは面倒臭い……』


 とりあえず、距離を測定する魔法が作れないか試してみよう。

『距離を測定する魔法』と念じてみる。レーダーという魔法があるくらいなので、その原理を利用できないかと考えてみた。

 今度は、エラーメッセージは表示されなかった。


 具体的にどういう動作をさせるか考える。

 視線で確定した2点間の距離を測るものにする。

 A点を視線で指定、その後B点を指定すると2点間の距離が表示されるという魔法だ。

 単位は、メートルで小数点第二位まで表示させる。つまり、センチメートル単位まで測れるということだ。


[レシピ作成]


 魔法の名前は、【スケール】とした。『メジャー』と迷ったが、『メジャー』はメジャーリーグとかのイメージが強いからだ。『スケール』もうろこという意味の単語と被っているが、こちらは『スケイルメイル』とかでしか使わないので、単独で『スケール』なら距離を測る道具というイメージのほうが強いと思う。

 魔法石を使い『スケールの刻印石』を作っておく。


【工房】→『装備作成』


『スケールの刻印石』を使って指輪を作成する。

『スケールの指輪』が出来た。


『装備2』


―――――――――――――――――――――――――――――


 武器:アダマンタイトの打刀+100

 服:魔布のローブ+100

 脚:魔布のスラックス+10

 腕輪:アダマンタイトの腕輪+10

 足:竜革のブーツ+10

 背中:魔布の隠密クローク+10

 下着:魔布のトランクス+10

 左手人差し指:グレート・ピットの指輪

 左手中指:ストーンフロアの指輪

 左手薬指:回復の指輪

 右手中指:フラット・エクスプロージョンの指輪

 右手薬指:スケールの指輪


―――――――――――――――――――――――――――――


『装備2換装』


 右手の薬指に装備した。


 ――試してみよう。


 僕は、目を開けてテーブルと反対向きに座り直した。


「フェリア、僕の前に来て裸になって」

「畏まりました」


 壁際に立っていたフェリアが僕の前に移動して裸になった。


「背筋を伸ばして直立して」

「ハッ!」


『スケールの指輪』


 僕は、右手薬指に装備した指輪の魔術を発動した。

『A点を指定してください』とメッセージが表示される。フェリアのかかと付近の足下の床をA点に指定する。

 次に『B点を指定してください』というメッセージが表示された。立ち上がって【フライ】で少し浮き上がり、フェリアの頭の天辺てっぺんをB点に指定した。

 すると、『1.68』という数字が表示された。つまり、168センチメートルということだろう。

 僕と同じくらいの身長だ。見たところ、フェリアの身長は僕と同じくらいなので、ある程度信用できる数字に見える。


「フェリア、ありがとう。服を着て下がって」

「ハッ!」


 フェリアは、甲冑姿に戻り壁際に下がった。

 その後、他のメンバーの身長も調べてみた。


 ・フェリス: 1.65

 ・ルート・ドライアード: 1.66

 ・ルート・ニンフ: 1.66

 ・フェアリー: 0.80

 ・ピクシー: 0.40

 ・ケット・シー: 0.70

 ・カナコ: 1.76

 ・アキコ: 1.62

 ・エリ: 1.54

 ・ミドリ: 1.72

 ・マミ: 1.61

 ・サカモト・ユリ: 1.66


 という結果になった。


 しかし、2点間の距離が測れてもそれだけで地図が作成できるわけではない。

 魔法で距離が測れることが分かったので、今度は地図を作成する魔法を考えてみる。


【魔術作成】→『作成』


 目を閉じて魔法の作成を開始した。

 飛行する自分を飛行機に置き換えてみる。飛行機には、航法装置というものが搭載されていたはずだ。

 この世界では、GPSが使えないので、この惑星上の位置情報を知ることはできない。


 ――魔法で方角を知ることができないだろうか?


『自分が向いている方角を表示する魔法』


 と念じてみると、エラーメッセージは表示されなかった。

 方角を調べることはできるようだ。

 魔法の作成を中止して、やり直す。


【魔術作成】→『作成』


『この惑星上で自分の居る位置が分かる魔法』


 駄目元で念じてみると、『その魔法は作成できません』というエラーメッセージが表示された。

 やはり、GPS的な魔法は無いのだろうか……。

 やり方が間違っているのかもしれないと考え、別のパターンを試してみる。


『この惑星上の自分が居る位置をマジックアイテムのメモリに記録する魔法』


 魔法石をメモリにして、白紙の縮尺を変更可能な画面に自分が居る位置を記録する魔法をイメージする。今度は、エラーは表示されなかった。


 具体的なイメージを固めていく。

 画面の中央が自分が居る現在位置で北は上だ。そして、上空から見た映像が白紙のマップに自動的に記録されていく。

【スケール】の魔法でマップ上の距離を計ることもできるようにする。

 また、自分のイメージをマップに書き込むこともできるようにする。

 例えば、『エドの街』などの注釈をマップ上に記入することができる。

 モンスターの拠点情報なども記入していけば、後で役立つかもしれない。


 ただ、僕一人でマップを作るのは時間がかかりすぎる。

 使い魔の位置や使い魔の見た情報も記入させることはできないだろうか?

 あるじと使い魔は、刻印を通じてつながっているので、そういう芸当も可能かもしれない。


『使い魔の位置と使い魔が見た上空からの映像を記録する』


 とイメージしてみたら、問題なくできそうだ。

 また、上空の定義は、地表から30メートル以上とした。


[レシピ作成]


 この魔法の名前は、【マップ】とした。

 魔法石を使い『マップの刻印石』を作っておく。


【工房】→『装備作成』


『マップの刻印石』を使って指輪を作成する。メモリとなる魔法石を100個追加する。

 1個でどれくらいの情報量を記録できるか分からないので、念のため多目に追加しておいた。

 画像情報とはいえ平面の情報なので、それほどメモリは食わないはずだ。

『マップの指輪』が出来た。


『装備2』


―――――――――――――――――――――――――――――


 武器:アダマンタイトの打刀+100

 服:魔布のローブ+100

 脚:魔布のスラックス+10

 腕輪:アダマンタイトの腕輪+10

 足:竜革のブーツ+10

 背中:魔布の隠密クローク+10

 下着:魔布のトランクス+10

 左手人差し指:グレート・ピットの指輪

 左手中指:ストーンフロアの指輪

 左手薬指:回復の指輪

 右手人差し指:マップの指輪

 右手中指:フラット・エクスプロージョンの指輪

 右手薬指:スケールの指輪


―――――――――――――――――――――――――――――


『装備2換装』


 右手の人差し指に装備した。

 僕は、目を開けて立ち上がる。


「じゃあ、そろそろ行くよ」

「「はいっ」」

「カナコたちは、もう少しここに居て」

「分かったわ。ユーイチ様、お気をつけて」

「ありがとう」


 僕は、『ロッジ』の扉を開けてフェリアの家に戻る。

 全員出たのを確認してから、『ロッジ』の扉を戻して、玄関へ続く扉を開けて馬房のあるエントランスへ移動した。

 フェリアが先に出たがるだろうから、彼女に先に行くよううながした。

 彼女は、僕にうなずいて、僕に【グレーターダメージスキン】と【グレート・リアクティブヒール】を掛けてから、玄関の扉を開けて外へ出た。

 僕は、フェリアの後に続いて外に出る。時刻は、まだ午前10時前なので外は明るかった。


『マップの指輪』


『マップの指輪』を起動する。視界に真っ白なウインドウが表示された。視界をさまたげるので、左下に小さく表示させる。常に起動していないとマップが作成されないので、外で活動する際には常に起動させておくことになるだろう。


「じゃあ、ドライアードとニンフたちを召喚して」


 僕は、全員が外に出て、フェリアが玄関の扉に鍵をかけたのを確認してから、ルート・ドライアードとルート・ニンフに指示を出した。


 フェリアの家の前に500人以上の使い魔たちが召喚される。

 召喚魔法の白い光のエフェクトで木陰が白く染まった。


「じゃあ、これから行う作戦の内容を説明するね」


 そう前置きして、僕はゾンビ討伐の作戦概要を使い魔たちに伝えることにした――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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