6―35

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 午後は、『エドの街の発祥 ~マレビトは実在した~』を読んで過ごした。

 それほど、重要な情報は書いていなかった。それどころか、ますます混乱しただけだった。

 やはり、時系列のジレンマが、どうしても気にかかってしまう。この世界の書籍には、奥付おくづけがないので、この本がいつ頃、書かれたものなのかも分からないし、いつ改訂されたのかも分からないのだ。つまり、書かれている情報がどこまで正しいのか分からない。


主様ぬしさま


 レイコに呼ばれたので、そちらを見る。


「ああ、『ユミコの酒場』へ行く時間?」

「そうです」

「じゃあ、せっかくだから、みんなで行ってきたら?」

「と言われますと?」

「僕たち、旧メンバーとトモコと3人の元娼婦を除いた全員でだよ。あまり大人数だとユミコさんに迷惑かな?」

「いや、それは喜ばれると思うが」

「じゃあ、みんなで行ってきて」

「分かりました」


『ロッジ』


 僕は、『ロッジ』の扉を召喚した。

 僕とフェリア、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、トモコ、アオイ、エリコ、ナツメを除く全員が『ロッジ』から外へ出た。

 30人以上が部屋から居なくなったので、『ロッジ』の中が広く感じる。

 僕は、『ロッジ』の扉を帰還させた。


「じゃあ、元娼婦の3人は、こっちに来て」

「「はい」」


 僕は、長椅子にテーブルとは逆向きに座った。

 身請みうけした3人の元娼婦が僕の前に並ぶ。

 あれから4時間くらいしか経過していないが、『女神の秘薬』の効果はかなり出ているようだ。

 3人とも20代でも通るくらいに若返った。


「フェリス、3人に刻印を刻んであげて」

「分かりましたわ」


 昼からずっと裸で過ごしていたとおぼしきフェリスが僕の前に来た――。


 ◇ ◇ ◇


 3人への【エルフの刻印】と【魔術刻印】の付与が終了するのを待ってから立ち上がった。

『ハーレム』の入り口へ向かう。

 フェリアとルート・ドライアードは、僕の後をついてくる。


「じゃあ、全員ついてきて」


 僕は、『ハーレム』の扉を開けて中に入った。

 大浴場の洗い場にマットを敷いて『ローション』をレシピから実体化する。


『ラブマット』『ローション』


 そして、トモコと3人の元娼婦たちに必要なものを渡す。


『トレード』


 4人に『ラブマット』、『ローション』のレシピ、料理のレシピ、魔法石1個、1万ゴールドを渡した。


「こんな……戴けませんわ……」


 アオイが遠慮がちにそう言った。


「受け取って、これは命令だよ。必要なものだから」

「……分かりました」


 僕は、ローションプレイの手順を説明した。

 そして、先ほど実体化した『ローション』をトモコに渡す。


「じゃあ、僕を娼館の客だと思って、順番に奉仕してみて」

「フフフ……こんなに早くまた旦那様と楽しめるなんて、嬉しいねぇ……」


 僕は、マットの上に仰向けに寝た。


「さぁ、坊や。たっぷり可愛がってあげるからね……」


 トモコは、そう言って、僕にまたがった――。


 ◇ ◇ ◇


『現在時刻』


 時刻は、【18:23】だった。

 レイコ達が帰ってくるかもしれないので、そろそろ出たほうがいいだろう。


 僕は身体を起こして、『ハーレム』の扉を一瞬戻して自動清掃機能を発動させた。

 僕たちに付着していたローションや水滴、体液などが消え去る。

 僕は立ち上がり、湯船に入った。

 腰を下ろして振り返ると、フェリアとルート・ドライアードが僕の正面から歩いてきて、僕の背後へ回り込んだ。

 フェリア、ルート・ニンフ、トモコ、アオイ、エリコ、ナツメも湯船の中を歩いてくる。

 そして、僕を囲むように立った。命令するまで座らないようだ。


「座って」


 ――ザバッ


「ああっ、ここは素晴らしいねぇ……」


 トモコが湯船につかりながらそう言った。


「この街には温泉はないの?」

「高級旅館に行けばありますよ」

「へー、高級旅館には行ったことがないなぁ……今度、行ってみようかな?」

「フフフ……坊やには必要ないと思うわよ。そういう旅館には、女の三助さんすけが付いて奉仕してくれるんだけど、坊やには必要ないだろう?」

「ああ、高級旅館で付く女中て三助なのか。娼婦なのかと思ってた」

「娼婦でも間違いじゃないよ。好きに使っていいんだから」

「そういう女性は、歳を取ったらどうなるんでしょうね?」

「身請けしてもらえなきゃ、娼婦と変わらないと思うよ。まぁ、娼婦よりはましだろうけどね……」

「料亭の女中と同じようなものなのかな」

「ああ、この街じゃ女が生きていくのは大変なのさ……」

「そういう、女中たちを身請けしていくことはできないかな? 僕の娼館で働かせたらどうかと思うんだけど?」

「刻印も刻んで貰えるし、ここは天国さね。あたしが交渉して来ようか?」

「じゃあ、頼むよ。ジロウに言い訳するために仲介料を取っていいから」

「フフフ……抜け目がないねぇ」


 他にも気になることを思いついたのでトモコに質問してみる。


「この街に銭湯はあるの?」

「ああ、あるよ。こんな贅沢ぜいたくなものじゃないけどね。町人が利用する銭湯は、蒸し風呂さね」


 そういえば、江戸時代の銭湯は蒸し風呂だったという話を聞いたことがある。混浴だったという話も聞いたような……?


「その銭湯は、混浴なの?」

「いいや、湯場ゆばは別れてるよ」


 この世界では、建物を建てるコストが意外と低いのか混浴にはなっていないようだ。

 風紀の乱れや疫病えきびょう蔓延まんえんなどを防ぐためかもしれない。

 現在の『エドの街』は、エルフの初代組合長が作ったようだし。『組合』がいろいろなルールを決めているのだろう。


 そして、僕は『ハーレム』から『ロッジ』へ戻った――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ガチャ


『ハーレム』から戻り、『ロッジ』のいつもの席に座っていたら、レイコたちが帰ってきた。


「あ、おかえり」

「ただいま戻りました。主様」


『密談部屋』の扉から、レイコを先頭にミナを除いたレイコのパーティメンバー、元村人、元娼婦、スズカ、タカコ、ユウコ、ユキといった使い魔になったばかりの者たちが続いて出てくる。


「「ただいま戻りました」」


 最後に知らない女性が2人出てきた。

 一人は、どうみてもまだ10代半ばくらいで、身長は150センチメートルもなさそうだ。髪型は、セミロングで歳の割に胸が凄く大きい。


『僕より若く見えるけど、まさか合法ロリとか?』


 もう一人は、逆に背が高い。180センチメートルくらいありそうだ。年齢は、20代後半くらいで長い黒髪の美人だが、表情がすごく暗い。陰のある美人という感じではなく、陰気で目つきが恐い印象だ。怯えた感じではなく、気が強そうだからそう見えるのかもしれない。

 着物の胸元もかなり膨らんでいるのに陰気くさい表情が、その女性の魅力を半減させてしまっているように見える。


 僕は立ち上がって、テーブルとは反対向きに座った。

 レイコとおそらく娼婦希望者だろう二人が僕の前に来た。


「主様、この者たちが、今日の娼婦希望者です」

「分かった。ありがとう」

「私に礼など不要です」


 僕は、二人の娼婦希望者を見る。

 そして、小柄な女性に声を掛ける。


「君は、二十歳はたちを超えているのかい?」

「……いえ、あたしは十五です」

「一応、募集は二十歳以上だから、二十歳になるまで待ってくれる?」

「お願いします! 何でもしますから、あたしを買ってください!」

「何か理由があるんじゃ?」

「はい、お父さんが怪我で寝たきりになってしまったんです。それで生活していけなくなって……」

「じゃあ、僕が君に『女神の秘薬』をあげるから、それを持って帰ってお父さんに飲ませてあげて」

「はい、ありがとうございます!」


 僕は、少女に『女神の秘薬』を渡した。


「レイコ、悪いけど、このを家まで送ってあげて。あと、いくらか生活費を渡しておいて」

「畏まりました」


 レイコは、少女を連れて『密談部屋5』の扉へ入って行った。

 僕は、もう一人の背の高い女性を見る。


「こんばんは、ユーイチと言います」

「アヤカです……」

「アヤカさんは、娼婦になりたいのですか?」

「娼婦になりたいわけじゃない……1万ゴールドが欲しいの……」

「えっと、1万ゴールドは渡しますが、代わりに僕の使い魔になってもらうのですが、いいのですか?」

「いいわ」


 アヤカは、ニヤリと笑った。全く愛想のない女性がこういう笑みを浮かべると不気味に感じてしまう。


「フェリス、アヤカさんに刻印を刻んであげて」

「分かりましたわ」

「――――っ!? こっ、刻印っ!?」

「ええ、僕の使い魔になるためには、刻印を刻む必要があるのです」

「嬉しい……ぐすっ……」


 アヤカは、そう言って涙ぐんだ。

 その間に裸のフェリスが、僕の前まで来た。


「服を脱いでくださいな」


 アヤカに服を脱ぐよう指示する。

 意外にもアヤカは、平然と服を脱ぎ始めた。

 身長は、イリーナと同じくらいだが、イリーナのようにガッチリはしていないので、かなり背が高く見える。

 細身だが、胸はかなり大きかった。


「ご主人サマ、失礼いたしますわ」


 フェリスは、いつものようにテーブルの上に上がり、アヤカを呼ぶ。


「さぁ、テーブルの上で寝てくださいな」

「ええ」


 アヤカが長椅子を踏み台にしてテーブルの上に登った。

 テーブルの上に横たわる。

 フェリスがまたがり、大きな胸の間に手を置いた。

 アヤカの身体が白い光に包まれる。


「フェリス、ついでに【魔術刻印】も付与しておいて」

「分かりましたわ」


 フェリスがアヤカの身体に他の【刻印】を刻み始めた――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ガチャ


 レイコが帰ってきたようだ。

『密談部屋5』の扉を見ると、レイコと先程の少女が『ロッジ』に入ってきた。


『何か問題が起きたのかな?』


 僕は立ち上がり、レイコの側へ歩いていく。


「ただいま戻りました」

「おかえり。何か問題があったの?」

「それが、どうしても主様のものになりたいと言い張りまして……」

「あたし、リエって言います。お願いします! どうか、あたしをもらってください!」

「君が二十歳になって、それでもまだそう思っていたら、ここに来ればいいよ」

「嫌です! そんなに待てません!」


『元の世界なら犯罪だよ……』


「いいではありませんか」


 ショウコが口を挟んだ。


「でも、こんな子供を娼婦にするなんて……」

「あら? スミレと一つしか変わりませんよ。胸は、その子のほうがずっと大きいみたいですし」

「そうです、主様。アズサも16で刻印を刻んでおります」

「それに何が起きるか分かりませんわよ? ご主人様の庇護ひごを受けていたほうがずっと安全ですわ」


 僕は、リエに向き直る。


「リエちゃん、君には好きな人は居ないのかい?」

「それは、ご主人様です」

「えっと、僕とは会ったばかりだし、昨日までに好きな男の子は居なかったの?」

「居ません。男は、みんなあたしの胸をいやらしい目で見てくるだけだし……」

「でも、そんな男たちの相手をすることになるんだけど?」

「ご主人様のものになれるなら、どんなことでもします!」

「嫌々させるのは、気が引けるからなぁ……」

「いいえ、喜んでします! ですから、どうかお願いします!」

「分かった。じゃあ、こっちに来て」


 僕は、リエを僕が座っていたテーブルに連れて行った。


「フェリス、このにも刻印をしてあげて」

「はいですわ」


 ◇ ◇ ◇


 リエは、フェリスに【エルフの刻印】と【魔術刻印】を刻まれた。

 僕は、アヤカとリエに『ラブマット』、『ローション』のレシピ、料理のレシピ、魔法石1個、1万ゴールドを渡した。


「レイコ、そろそろミナを迎えに行ってあげて」

「畏まりました」


 レイコが『密談部屋5』の扉から出て行く。


「じゃあ、新しく刻印を刻んだ2人は、こっちに来て」


 僕は、『ハーレム』の扉を開けて中へ入った。

 大浴場へ入って、裸になり、一番奥にマットをく。

 アヤカとリエ以外の使い魔も全員、大浴場に入ってきた。


 僕は、アヤカに『ローション』を渡して、使い方を説明した。


「じゃあ、僕を娼館の客だと思って奉仕してみて」

「……はい」


 僕は、マットの上に仰向けに寝ころんだ。


「ハァハァハァ……」


 アヤカが荒い息をきながら、近づいてきた。


『イリーナみたいだな……』


 違いは、イリーナは好色だが明るいのに対して、アヤカは暗いことだ。

 ローションを塗ったアヤカが僕に跨った。


 僕は、彼女たちの奉仕を受けた――。


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