6―34

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『現在時刻』


 現在の時刻は、【09:15】だった。


『ユウコさんたちは、時間はいいのだろうか?』


 僕は、マットの中で身体を起こした。


「あんっ」

「はぁ……ん」


 横で寝ていたフェリスとルート・ニンフが小さく声を上げた。


「ユウコさん!」

「なんじゃ……?」


 ユウコが立ち上がり、こちらに歩いて来た。


「時間は良いのですか?」

「まぁ、わしは問題ないじゃろう」

「ユキさんは?」

「儂が上手く言っておいてやるわ」

「そうですか。出ないといけない時間になったら教えてください」

「うむ。それより、主殿あるじどの。儂の奉仕を受けてみぬか?」

「そうですね。じゃあ、ユキさんと一緒にお願いします」


 僕は、ユウコに連れられて、ユウコが出したマットへ向かった――。


 ◇ ◇ ◇


 その後、元娼婦や娼婦希望者たちを使い魔にして、必要な刻印を刻ませた。ハルカだけは、昨日のうちに【魔術刻印】を刻んでいたが。


 それにより、レイコの使い魔の系譜は、以下のようになった。


―――――――――――――――――――――――――――――


■レイコ

 ●イリーナ

  ◆アザミ

   ・ヨウコ

   ・ハルカ

  ◆マドカ

   ・マキ

 ●カオリ

  ◆イズミ

   ・ミスズ

   ・サヤカ

   ・トモエ

  ◆タカコ

 ●サユリ

  ◆サクラコ

   ・ケイコ

   ・ランコ

   ・メグミ

  ◆ユリ

   ・エミ

 ●ミナ

  ◆アヤメ

   ・チエコ

   ・マユミ

  ◆ユキ

 ●アズサ

  ◆ショウコ

   ・ミチコ

   ・サツキ

   ・ミワコ

   ・ヤスコ

  ◆スミレ

   ・サトコ

 ●ユウコ

 ●スズカ


―――――――――――――――――――――――――――――


 これで、現在の娼婦候補者は、総勢35人となった。

 予定の8部屋の半分、4部屋ならフルで回せる人数だ。

 忙しい時間帯や暇な時間帯など、いろいろあると思うので、全部屋が常に埋まるということはないだろう。

 最初のうちは、臨機応変に対応してもらうしかない。そこは、女将のレイコに丸投げしよう。

 別に経営が上手く行く必要もないわけだし。収益は、仕事をした娼婦がそれぞれもらえばいい。

 二週間で最大金貨20枚が稼げるので、生活していくのに問題はないだろう。


「ぬしさまぁ……」


 抱きついてくるレイコを押しのけて、僕は身体を起こした。

 ユウコたちの後にレイコがやって来たのだ。どうやら、昨日、先に外出してしまったことで僕とマットプレイができなかったことが悔しかったようだ。


『ハーレム』


 僕は、『ハーレム』の扉を一瞬帰還させて、自動清掃機能を発動させた。

 そして、立ち上がり、湯船へ向かう。

 使い魔たちが身体を起こして、僕の後を追って湯船に移動する。

 湯船につかって、目を閉じて入浴を楽しむ。

 使い魔たちが湯船の中を移動する音が聞こえる。

 水音が止まったので、目を開けてみると、僕を囲むように使い魔たちが湯船の中で立っていた。


「座って」


 ――ザバーッ!


 レイコに『春夢亭しゅんむてい』買収の件を聞いておいたほうがいいな。


「レイコ」

「ハッ!」


 ――ザバッ


 レイコが立ち上がり、僕の前に歩いてきた。


「何でしょうか? 主様ぬしさま?」

「『春夢亭』の買収の件だけど、公式回答はもらった?」

「いや、それが……まだなのだ」

「そうなんだ? 勿体もったいつけるね」

「たった一日で結論を出すのは、我が家に失礼だと考えているのでしょう」

「かえって、面倒くさいね」

「その通りですな」

「『春夢亭』の女将とは、話をつけてきたよ。35歳以上の娼婦を身請けする約束もしたし、病にかかった娼婦を身請けする約束もした。あの女将は、僕の使い魔になるかもしれない。とりあえず、昼頃に娼婦を引取に行くから」

「私も一緒に行きましょうか?」

「そうだね。新しい娼館の話もしてあるから、顔合わせをしておいたら?」

「畏まりました」


 僕は、ユウコを呼んだ。


「ユウコさん」

「なんじゃ?」


 ――ザバッ


 ユウコが立ち上がり、僕の方へ歩いてくる。

 レイコの横に並んだ。


「『春夢亭』で過去に性病に罹った娼婦が消されたことがあるようなのですが、これを問題にすることはできますか?」

「ほぅ……有力な証拠があればできるじゃろう」

「女将や娼婦の証言では、証拠になりませんか?」

「証言でも調査はできるじゃろうが、誤魔化される可能性が高いからのぅ……。しかし、女将がこちらにつくなら有力な証拠になると思うぞぇ」

「それで有罪となった場合、どんな処分が下るのですか?」

「そうじゃのう……『春夢亭』は営業停止になるじゃろうな。後は、首謀者が地下牢に幽閉されることになるじゃろう」

「そのときには、お口添えを、お願いしてもいいですか?」

「勿論じゃとも。この身は御身の使い魔なのじゃから……」

「ありがとうございます」


 ちょっと早いが『春夢亭』へ行こうか。


 僕は立ち上がった。


 ――ザバーッ!


 使い魔たちが僕に続いて立ち上がった。

 僕は、使い魔たちの包囲網を脱け出し、洗い場に出た。


【エアプロテクション】『装備2換装』


 装備を身に着け、大浴場から廊下へ出る。

 そして、『ハーレム』の扉を出て、『ロッジ』へ戻った。

 反対側の壁まで歩いてから、後ろを向くと、裸の使い魔たちが扉から出てきている。


「みんな、服を着て。新しく使い魔になった人は、こっちに来て」


【工房】→『装備作成』→『レシピから作成』


 新しく使い魔になった者たちが着る服を作成する。


 ・魔布の白無垢しろむく

 ・竜革の白草履しろぞうり

 ・魔布の黒ブラジャー

 ・魔布の黒Tバックパンティー

 ・魔布のクローク+10


 以上をレシピから10セット作って、目を開ける。


『トレード』


 そして僕は、新しく使い魔になった者たちに白無垢と草履、黒の下着、フード付の外套がいとう、『ラブマット』、『ローション』のレシピ、料理のレシピ、魔法石1個、1万ゴールドを配った。


「じゃあ、それを装備して。『装備』と念じた後、全て装備して、『換装』と念じれば着替えられるから」

「「はいっ!」」


 10人の新しい使い魔たちが白い光に包まれて白無垢の上にフード付の外套を羽織った姿になる。


「外套は、外出するときだけ装備するほうがいいかな。娼婦の仕事をするときも脱いでおいて」

「「はいっ」」


 僕は、レイコの居るほうを向いた。


「レイコ、そろそろ出ようか」

「畏まりました。主様」

「他の人たちは、好きにくつろいでいて。食事がしたければ、【料理】スキルを使って、レシピから作成して」

「「はいっ!」」


 ユウコとユキが出てきた。


「儂らも一緒に外へ出るぞぇ」

「はい、ユウコ様……」

「じゃあ、一緒に出ましょう」

「ありがとうございます」


『ロッジ』


 僕は『ロッジ』の扉を召喚して、外へ出ようとした。


「お待ち下さい」


 甲冑姿となったフェリアが先に外に出た。ルート・ドライアードも甲冑姿となっていた。

 僕は、フェリアに続いて外に出た。すると僕の身体が回復系魔術のエフェクトで一瞬光った。外へ出たのでバフを掛け直してくれたのだろう。


 僕、フェリア、ルート・ドライアード、レイコ、ユウコ、ユキの6人が『ロッジ』から外に出た。

 僕は、扉が閉まるのを確認してから、扉を帰還させる。


 大通りでユウコとユキと別れて、フェリア、ルート・ドライアード、レイコを連れて、『春夢亭』へ向かった――。


 ◇ ◇ ◇


『春夢亭』に到着すると、扉が閉まっていた。

 僕は、ノックをしてみた。


「はーい!」


 中から声が聞こえ、しばらく待つと、扉が開いた。


「『春夢亭』に御用ですか?」


 中から、若い女性が扉を開けて出てきた。

 昨夜の女性よりも更に若そうだ。まだ、十代に見える。


「女将さんは、おられますか? 約束をしていたユーイチと言います」

「少々、お待ち下さいね」


 そう言って、若い女性は奥に入っていった。

 数分待つと、奥から女将のトモコが出てきた。


「まぁ! 旦那様、お待ちしておりましたわぁ~!」

「少し早いかと思ったのですが、時間が空いたので来ました」

「いえいえ、構いませんわ。旦那様なら大歓迎です」


 気持ちが悪いくらいの態度の変化だ。

 正直、前のほうが自然で良かった。ちょっと、この態度は媚びすぎていて身の危険を感じるレベルだ。

 フードを被ったままなので、不快感を顔に出していたとしてもトモコには気付かれないだろう。


「紹介します。こちらが、僕が新しく作る娼館の女将をします、レイコです」

「スズキ・レイコです。以後、お見知りおきを」

「まぁ、スズキ家の方ですか? わたくしは、この『春夢亭』を任されております、トモコと申します」

「じゃあ、女将さん。約束の娼婦は、どちらに?」

「はい、用意させておりますわ。アオイ、エリコ、ナツメを呼んできてちょうだい」

「はいっ」


 先程、対応してくれた若い女性が奥へ呼びに行った。


「旦那様、わたくしも連れていってもらえませんか?」

「店はいいのですか?」

わたくしが居なくても大丈夫ですわ」

「あの、女将さん。その口調は、止めて貰えませんか?」

「フフフ……坊やは、飾らない口調のほうが好きなんだね?」


 立場上、上品な口調も使い分けられるようにしているのだろう。


「まぁ、何というか、そちらのほうが自然な感じがして」

「いいわよ。旦那様のお好きにしますよ」


 奥から大きな荷物を持った3人の背の高い女性が現れた。


「こっちにいらっしゃい。そして、この旦那様にご挨拶しな」


 170センチメートルくらいの栗色の髪でショートカットの女性が前に出る。


「アオイといいます。旦那様、よろしくお願いします」


 年齢は30代後半くらいだろうか。見たところ胸は小ぶりだ。


「ユーイチです。よろしく」


 次に僕よりも少し背の高い長い黒髪の女性が前に出て挨拶をした。


「エリコです。よろしくお願いします」


 エリコは、年齢が30代半ばくらいで身長は175センチメートルくらいありそうだ。着物の下に隠れた胸もかなり大きいように見える。


「ユーイチと言います。よろしく」


 最後に黒髪のショートカットで身長が170センチメートルくらいの女性が前に出た。


「ナツメです。旦那様、末永くよろしくお願いしますね」


 ナツメも30代半ばくらいに見える。胸もかなり大きそうだ。


「ユーイチです。よろしく。君たちは、僕に身請けされるということでいいの?」

「「はいっ」」


 僕は、トモコのほうを向いて、身請けの料金を支払う。


『トレード』


 500ゴールド支払った。


「いいのかい? あたしはもう貴方のものなんだから、気を使う必要はないわよ」

「小遣いだと思って取っておいて」

「フフフ……坊やはホントに気前がいいね。また、たっぷりサービスしてあげるわ」


『ロッジ』


 僕は、店内で『ロッジ』の扉を召喚した。

 女将のトモコは懐柔済みだし、問題ないだろう。

 扉を開ける。


「さぁ、入って」


 身請けした3人の娼婦が荷物を持って中へ入っていく。


「じゃあ、後のことは頼んだよ。あたしのことを聞かれたら、お得意様のところへ行ってると言っておいて」

「分かりました」


 若い娼婦に言付けてトモコも『ロッジ』の中へ入っていった。


「レイコはどうする?」

「一度、実家に戻って、ヤマモト家からの回答はまだか聞いて参ります」

「分かった」


 僕は、『ロッジ』の扉を帰還させる。


 そして、若い娼婦に見送られて『春夢亭』の外に出た――。


 ◇ ◇ ◇


 通りを歩いて、『ユミコの酒場』の近くまで帰ってきた。


「では、主様。私は、ここで」

「いってらっしゃい」

「ハッ!」


 レイコと別れて、路地裏で『ロッジ』の扉を召喚して、中に入る。


「「お帰りなさいませー!」」

「ただいま」


 フェリアとルート・ドライアードが中に入ったのを確認して扉を戻した。

 そして、いつもの席に反対向きに座った。


「さっきまで娼婦だった3人は、こっちに来て」

「「はいっ」」


 3人が僕の前に並んだ。全裸だった。


「フェリス、もしかして『女神の秘薬』を渡してくれた?」

「はい、わたくしが渡しておきましたわ」

「ありがと」

「3人とも、『女神の秘薬』は飲んだよね?」

「「はいっ」」


 見たところ、3人とも十分に魅力的で『女神の秘薬』で若返らせる必要があるのか疑問だった。


『まぁ、熟女は足りてるから別にいいけど……』


「そこの扉が厠だから」

「はい」

「分かりました」

「はい、旦那様」

「君たちは、十分に魅力的だし、早めに刻印を刻むね」

「「えっ?」」

「なに?」

「刻印を刻んでいただけるのですか?」


 エリコが質問してきた。


「そうだよ。その代わり、君たちには、僕の使い魔になってもらう」

「使い魔……ですか?」

「召喚魔法で縛られた奴隷のような存在だよ」

「あたしは、構いません」

「あたしもです」

「あたしも……」

「分かった、じゃあ席に戻って。フェリス、彼女たちになにか食べさせてあげて」

「はいですわ」


 見るとフェリスも全裸だった。


『フェリスは、裸族なのだろうか……』


「アザミとトモコさん、こっちに来て」

「はい」

「ええ」


 アザミとトモコが僕の前に来た。

 二人とも全裸だった。

 正確には、トモコは最初から全裸で、アザミはここに歩いてくる途中で全裸に換装したのだ。


『まぁ、裸のほうが都合が良いか……』


「アザミ、トモコさんをテイムして」

「はい」


 トモコの身体が光に包まれて消え去った。


「召喚して」

「はい」


 トモコが光に包まれて出現した。


「じゃあ、必要な【魔術刻印】を刻んであげて」

「分かりましたわ」


 そう言って、アザミは、僕が座っている長椅子を踏み台にして、テーブルの上に登った。


『ここで刻めと言ったわけじゃないんだけど……』


 向こうの席で刻んでもらうつもりだったのだが、言葉が足りなかったようだ。

 フェリスがいつも、このテーブルで【刻印】を刻んでいるので、その流れなのかもしれない。


「ここで寝てくださいな」


 何だか、口調もフェリスに似ている。

 外見は、全然違うのだが。


「フフフ……坊やに見られながらというのも興奮するね」

「あなた、ご主人様に失礼な口の利き方をしちゃ駄目よ」

「ああ、別にいいんですよ。僕がそう頼んだので」

「あら? そうなの? ごめんなさい、早とちりしちゃったわ」

「勿論、あたしも旦那様には敬意を持ってますよ」

「トモコ、君はもう僕の命令には逆らえない! 分かった? 君は僕の使い魔になったのだから……」

「ああぁ……はい、あたしは旦那様の奴隷ですぅ」


 念のため強い口調で釘を刺しておいた。こんなに信用ならない使い魔は初めてだからだ。

 寝首をかれる心配はないと思うが不確定要素ではあるだろう。

 ジロウの側に付く可能性が無いとは言い切れない。

 今のところ、それはゼロに近いと思うが、召喚魔法の強制力がどれくらいなのか分からない。

 トモコを監視して試すという手もあるが、あまり疑心暗鬼になるのも余計な問題が起きそうだ。


 アザミがトモコに【魔術刻印】を刻んでいく。

 それを眺めながら、トモコに質問する。


「元娼婦に聞いた話では、性病に罹った娼婦を消したことがあるそうだね?」

「……はい……」

「何とも思わなかったの?」

「あたしも元は普通の娼婦でした! 思わないはずが……ありませんわ……」

「じゃあ、時期が来たらそれを『組合』で証言できる?」

「旦那様のご命令でしたら、どんなことでもいたしますわ」

「このことは、ジロウには秘密だ。いいね?」

「はい、勿論です」


 ジロウは、監視しているから、もしトモコが秘密をらしたら分かるので、この件は踏み絵になるだろう。

 もし、トモコが僕の情報をジロウに流したらどうしよう? つまり使い魔も裏切るということになってしまう。

 勿論、他の使い魔は信用できると思うが、トモコはかなり悪女っぽい。ジロウの影響でそうなったとも言えるが、信用できない人種なのは間違いない。

 危険人物と分かったら、アザミに言って半永久的に帰還させるしかないかもしれない。召喚するときには、監視付きで行動させればいいだろう。


 ――ガチャ


 扉が開く音が聞こえたので、そちらの方を見ると、レイコが部屋の中に入ってきたところだった。

 そして、僕のところまで歩いてきた。


「主様」

「どうだったの?」

「ヤマモト家からの回答がきておりました」

「駄目だったんでしょ?」

「はい、予想通り。断られました」

「じゃあ、計画通りに新しい娼館を作ろう」

「畏まりました」


 僕はレイコを下がらせた――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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