6―33

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『現在時刻』


 時刻は、【06:44】だった。

 今日の日付は、5月5日(木)のはずだ。


 ここは、『ハーレム』の大浴場だ。

 僕たちは、洗い場にマットを敷いて、その上で寝ていた。


 フェリアとルート・ドライアードとトモコが僕にべったりとくっついて目を閉じている。

 寝ているわけではないだろう。

 そろそろ、起きようと僕が体を動かすと、3人が目を開けた。


「んっ……ご主人さまぁ……」

「ああっ……主殿あるじどのぉ……」

「あぁ~ん……旦那さまぁ……もっと吸ってぇ……」


 トモコは、僕を娼婦で鍛えた手練手管てれんてくだで落として、みつがせようとしていたようだが、僕に母乳を吸われて逆に堕ちてしまったようだ。

 このひとは、ジロウの愛人なので、使い魔にするのは気が進まなかった……。


「いや、もう朝だから『春夢亭しゅんむてい』に戻らないと……」

「そんなぁ……また逢いに来てくれますよね?」

「僕の言うことを聞いてくれたらね」

「はい、何でも言ってください」


 言葉遣いまで変わってしまっている。


「じゃあ、四十歳になった娼婦は、僕が100ゴールドで身請けするから僕に売ること」

「はい、そんなことでしたら」

「30代の娼婦は、それなりに売れてるの?」

「30代後半だと、あまり売れませんね」

「じゃあ、35歳以上の娼婦も買い取っていいかな?」

「勿論です。旦那様の好きになさってくださいませ」

「それから、病にかかった娼婦も100ゴールドで買い取るよ」

「えっ? よろしいのですか?」


 トモコは、僕が出した条件に驚いている。


「うん。性病だけではなく、客が取れないような病気に罹った娼婦が居たらゆずって」

「こちらとしても嬉しい限りですよ」

「実は、僕は新しい娼館を建てるつもりなんだけど、ヤマモト・ジロウに妨害したりしないよう言っておいて」

「はい。旦那様は、新しい娼館を建てるおつもりなのですか?」

「うん。知ってると思うけど、『春夢亭』を買い取るつもりだったんだけど、どうやら買収は失敗したようだし」

「……ジロウは手放さないでしょうね」

「『春夢亭』は、遠からず潰れると思うから、それまでに全ての娼婦を身請けするつもりだよ」

「なっ……どういうことでしょう?」

「僕は、娼婦を1万ゴールドで集めているからね。『春夢亭』に行く娼婦は居なくなるよ」

「そんな……」

「あなたも身の振り方を決めておいたほうがいい」

「ああっ……わたくしを貴方様の娼館で働かせていただけないでしょうか?」

「ジロウを裏切ってもいいの? あなたは、ジロウの愛人なんでしょう?」

「あんな男は、どうでもいいです。もう、旦那様でしか満足できませんわ」


『女の人って恐い……』


 トモコがジロウを裏切るのは、僕にジロウよりも財力があると考えたからだろう。

 武力があることも伝えておこう。これで、簡単には裏切らないはずだ。


「トラブルは避けたいけど、僕が本気になれば、この街を簡単に壊滅させられるからね」

「そ、そんなに凄いのですか?」

「『組合』のユウコも僕の使い魔だから」

「タムラ家のユウコ様が……」

「ユウコさんって、そんなに有名なの?」

「はい。噂では、この街で一番強いと言われています」

「魔力系魔術の使い手は、ユウコさんだけではないよね?」

「はい。ヤマモト家にも居るようですが、ユウコ様は桁が違う使い手と言われています」

「『組合』の刻印魔術師だけのことはあるわけか」

「ええ」

「じゃあ、少し湯船につかってから、『春夢亭』に戻ろう」

「分かりました」


 僕は、マットから降りて立ち上がった。

 湯船に移動して腰を下ろした。

 フェリア、ルート・ドライアード、トモコが僕のあとをついて湯船に入ってきた。

 3人は立ったままだ。トモコは、他の2人が座らないので自分だけ座ってもいいものか思案しているようだ。


「座って」


 3人がゆっくりと湯船に腰を下ろした。


「はぁ~、旦那様は凄いですねぇ……」

「何がですか?」

「こんな豪邸を持ってる商人は滅多にいませんよ」


 家というわけではないのだが、この大浴場を見ると豪邸に見えるのかもしれない。


 ◇ ◇ ◇


 そろそろ、『春夢亭』に戻ろう。


 僕は立ち上がって、湯船から出た。


【エアプロテクション】『装備2換装』


 洗い場で服を着て、廊下へ出る。

 奥の扉から『ロッジ』へ戻った。


「あら、ご主人サマ。おはようございますわ」

「おはよう、旦那さま」

主様ぬしさま、おはようございます」

主殿あるじどの、おはようでござる」

「「おはようございます」」


『ロッジ』に居た使い魔たちが次々に挨拶してきた。


「みんな、おはよう。『春夢亭』に行ってくるから待ってて」

「「はいっ」」


『ロッジ』


『ロッジ』の扉を召喚して、『春夢亭』に戻った。

 僕、フェリア、ルート・ドライアード、トモコの4人が『春夢亭』の2階にある狭い部屋の中に並んだ状態だ。

 フェリアが僕に回復系のバフをかけてくれた。おそらく、切れていたのだろう。


『フェリアの装備2換装』『ルート・ドライアードの装備2換装』

『フェリア帰還』『ルート・ドライアード帰還』


 フェリアとルート・ドライアードを全身鎧の甲冑装備に換装してから帰還させる。『ロッジ』の扉も『アイテムストレージ』に戻した。

 部屋を出ようと振り返ると、トモコは裸のままだった。


わたくしは、着物を着てから戻りますので、お先にお帰りくださいませ」

「今日の昼に身請けする娼婦を取りに来るから準備しておいて」

「分かりましたわ」


 僕は、鍵を外して扉を開けて廊下に出た。

 扉を閉めて、廊下を移動して階段を降りた。


「あっ、旦那様。女将さんはどうされました?」


 昨夜の客引きの女性が声を掛けてきた。


「部屋で服を着てるよ」

「そうなんですか」

「僕は、用があるから先に帰らせてもらった」

「そうですか。では、いってらっしゃいませー!」

「はい」


 僕は、『春夢亭』を出た。

 人気ひとけのないところで、フェリアたちを召喚する。


『フェリア召喚』『ルート・ドライアード召喚』


「ご主人様」

主殿あるじどの

「じゃあ、戻ろう」


 僕たちは、『ユミコの酒場』の近くの路地へ戻った――。


 ◇ ◇ ◇


『ロッジ』


『ロッジ』の扉を召喚して中に入る。

 フェリアとルート・ドライアードが中に入った後、扉を帰還させた。


「「お帰りなさいませ」」

「ただいま」


 僕は、いつもの席に反対向きに座った。


「レイコ、昨日はあれからどうだった?」

「はい、ミナとユウコ殿たちとスズカ殿たちと合流して帰還しました。新しい娼婦希望者は来なかったようです」


 遅い時間から来る人は少ないだろうな。

 例えば、面接の時間が午後6時からとなっているのに午後10時に行く人はあまり居ないだろう。


 僕は、昨日渡せなかったレイコとユウコ、ユキ、スズカ、タカコの5人に『ラブマット』と『ローション』のレシピ、料理のレシピと魔法石1個を『トレード』で渡した。


「おおっ、何じゃこれは?」

「娼館で行うサービスを練習するためのアイテムです」

「なかなか楽しそうじゃな」

「時間があるときにでも練習してください」

「そうじゃ、用地買収の件じゃが、明日には購入できそうじゃぞ」

「ありがとうございます」


 5月8日(火)の予定だったので、2日短縮された計算となる。

 資金を稼がないといけないので、今日の夜中にトロール討伐に行くことにしよう。


「ルート・ニンフ、ユウコさんとスズカさん、タカコさん、ユキさんの4人に【魔術刻印】を刻んであげて」

「分かったわ。旦那さま」


 レイコにも指示を出す。


「レイコ、昨日『女神の秘薬』を飲んだ人たちを順番に連れてきて」

「畏まりました、主様ぬしさま


 最初に元娼婦の太った女性が来た。昨日に比べるとだいぶ若返って痩せたように見える。というか、裸だった。フェリスが脱がせたのだろう。

 昨日よりは痩せているが、まだ段腹熟女という感じだ。

【大刻印】を刻めば、更に痩せるとは思うが、完全にスマートな体つきには、ならないんじゃないだろうか?


「旦那様、昨日はありがとうございました。あたし、メグミと言います」

「ユーイチです。お気になさらず」


 フェリスに【エルフの刻印】を刻むように指示する。


「フェリス、刻印を刻んであげて」

「分かりましたわ」


 裸のフェリスが僕の前に来た。


「では、ご主人サマ。失礼いたしますわ」


 そう言って、僕の横から長椅子に足を掛けてテーブルに上がった。


「さぁ、テーブルの上に寝てくださいな」

「は、はい」


 メグミもテーブルに登った。

 そして、仰向けに寝そべった。


『トドみたいだな……』


 失礼なことを考えてしまった……。


 フェリスがまたがり、大きな胸の間に手を置くとメグミの身体が白い光に包まれた。

 今までで一番劇的な変化を見たように思う。

 白い光に包まれてシルエットが変わったのだ。

 メグミの太った身体は、プロポーションが良い魅力的なボディに生まれ変わった。長身なのでファッションモデルのようだ。


「これが……あたし……」


 フェリスが立ち上がった後に起きあがったメグミ自身も自分の身体の劇的な変化に驚いているようだ。

 おそらく、昔はこんな容姿だったのだろう。


 僕は、元の体勢に座り直した。

 すると、目の前にあの顔を殴られてらしていた女性が全裸で立っていた。腫れていた顔は、すっかり普通の顔に戻っている。現在の外見年齢は、40歳前後くらいに見える。痩せてはいるが、昨日に比べると少しふっくらした印象だ。胸は、痩せた身体に不釣り合いなくらいに大きい。


『『女神の秘薬』の効果は絶大だな……』


 そういえば、ボサボサだった髪が短くなっていた。僕が『春夢亭』に行っていた間に誰かに切ってもらったのだろう。


「あ、あの……ご、ご主人様……あ、あたし、ミワコと言います。昨日は、ありがとうございました……ぐすっ」


 ミワコは、涙ぐんでそう言った。臆病な性格なのだろうか、言葉の端々に怯えが見えた。


「ユーイチです。気にしないで下さい」


 フェリスがテーブルの上からミワコに声を掛ける。


「次の方は、テーブルの上に来てくださいな」

「は、はい……」


 ミワコがテーブルの上に登って行った。


 次にせきをしていた女性が目の前に来た。

 今日は、『女神の秘薬』のおかげか、すっかり治っているようだ。

 この女性も髪型がショートカットになっている。元々、こういう髪型だったのかもしれない。

 ミワコもそうだが、2人はかなり痩せていた。栄養が足りていなかったのだろう。

 しかし、今日は、昨日ほど痩せぎすという風ではない。『女神の秘薬』は、栄養失調まで治療してしまうのだろうか?

 この女性は、ミワコのように痩せた身体に大きな胸という感じではなく、小ぶりな胸をしていた。こちらのほうがバランスが取れているように思う。


「ああ、旦那様。あたし、ヤスコと言います。昨日は、本当にありがとうございました。ううっ……」


 ヤスコは、涙を流しながら礼を言った。病気が辛かったのだろう。


「いえいえ、お気になさらず」

「そんなぁ……旦那様の奴隷としてあたしを好きにお使いください」


 フェリスがテーブルの上でヤスコを呼ぶ。


「はい。では次の方、どうぞですわ」

「はい。旦那様、失礼します」


 そう言って、ヤスコはテーブルの上に登っていく。


 ヤスコと入れ替わるように30代後半くらいに見える女性が目の前に立った。

 昨日は、50歳くらいに見えた女性だ。髪型は、肩より少し長いくらいのセミロングになっている。身長165センチメートルくらいの巨乳で娼婦として人気が出そうな身体をしている。


わたくし、エミと申します。ご主人様、本当にありがとうございました」

「いえ、気にしないでください。こちらとしてもメリットはありますので。それで、僕が新しく作る娼館で働いてもらうということでよろしいのですか?」

「はい、勿論ですわ」

「分かりました」


 フェリスがエミを呼んだ。


「さぁ、次の方は、テーブルに上がってくださいな」

「はい」


 エミは、僕が座っている長椅子を踏み台にしてテーブルに登った――。


 ◇ ◇ ◇


 元娼婦たちの後に娼婦希望者のマキ、チエコ、サトコ、マユミ、トモエがフェリスにより【エルフの刻印】を受けた。


「ユーイチ様」


 料亭『涼香すずか』の女将スズカに呼ばれた。


「ああ、そろそろお出かけになりますか?」

「申し訳ございません」

「いえ、お気になさらず」

「今日は、予約が少なそうなので、早めに戻って参りますわ」

「分かりました」


『ロッジ』


『ロッジ』の扉を召喚する。


「ご主人様、わたくしも行ってまいります」


 女中のタカコがスズカに続いて出て行く。


「いってらっしゃい」


 二人が出て行った後に扉を帰還させる。

 そして、僕は立ち上がり、『ハーレム』の扉の前へ移動した。


「じゃあ、刻印を刻んだばかりの人はついてきて」


 それに対して、レイコが聞いてきた。


「主様、我々も連れていってもらえませぬか?」

「別にいいけど、それぞれでマットプレイの練習をするだけだよ?」

「構いませぬ」


 僕は、『ハーレム』の扉を開けて中に入り、大浴場へ移動した。


『装備8換装』


 裸になって、洗い場の奥へ移動する。


『ラブマット』『ローション』


 マットとローションを実体化する。

 振り返るとフェリア、ルート・ドライアード、フェリス、ルート・ニンフに続いて、元娼婦のメグミ、ミワコ、ヤスコ、エミ、マキ、チエコ、サトコ、マユミ、トモエ、ハルカの10人が僕を扇状に取り囲んでいた。

 僕は、メグミに『ローション』を渡した。


「じゃあ、順番に僕を娼館の客だと思って、マットの上で奉仕してみて」

「「はいっ!」」


 僕は、マットの上に仰向けに寝て、使い魔候補者たちの奉仕を受けた――。


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