6―29
6―29
僕は目を閉じて、新しい娼館の設計を始めた――。
【工房】→『アイテム作成』
まずは、建物のワンフロア当たりの床面積をどうするかだ。50メートル×20メートルの敷地を用意してもらうように『組合』には申請してあるが、敷地面積ギリギリのサイズの建物を建てるわけにはいかないので、
敷地内なら、何階建てでも良いという話だったが、何階建てくらいにすればいいだろう? マジックアイテムなので、おそらく、空間固定のような感じで地震などで倒壊する危険は低いはず。また、地下に施設を作ることはできないのだろうか?
詳しそうなユウコに聞いてみよう。
「ユウコさん」
「なんじゃ?
僕は、作業を中断して目を開けてユウコを呼んだ。
ユウコは僕が座るテーブルまで来た。
「お聞きしたいのですが、この街の建物は敷地内の地下に施設を作っても大丈夫なのですか?」
「それは問題ないじゃろ。『組合』にも地下に牢屋があるからのぅ」
「地下付きの建物は、どうやって造ったのでしょう?」
「さぁのぅ……地面を掘って設置したのではないじゃろうか?」
グレイブピットの上位魔法を作って一気に掘って、その穴に【工房】で作った娼館を入れたらどうだろう?
「ありがとうございました」
「礼など不要じゃ。この身は主殿の使い魔なのじゃから」
ユウコは席に帰っていった。
僕は、再び目を閉じて、作業を再開した。
『何階建ての建物にしよう?』
サービスを行うのは、1階がいいだろう。2階より上の階は、娼婦たちのアパートにしようか。
最終的に何人くらいの娼婦が住むことになるのか分からない。
『
2階より上の階には、何部屋くらいの部屋が必要だろう? そして部屋は2人部屋がいいだろうか、それとも1人部屋がいいだろうか?
……プライベートルームだから、小さくてもいいので1人部屋にしておこう。そうすると、廊下を除いて何部屋くらいのスペースが取れるだろう?
一部屋は3畳くらいでいいだろう。
娼婦たちは、【刻印】を刻んでいるから、睡眠は特に必要ないし、【商取引】や【料理】の【刻印】があれば、この世界では満たされた生活が送れるだろう。魔法通貨は必要だが、当面は最初に渡す1万ゴールドで問題ないと思う。【工房】で装備なんかを作り始めると1万ゴールドくらいじゃ全然足りないかもしれないが。それでも安い素材を使った装備なら問題ないかもしれない。素材がコットンなら一つ1ゴールドなので、着物を作っても5ゴールドくらいで済むだろう。
そのため、部屋はそれほど広くなくても大丈夫なはずだ。据え付けの家具は、ベッドとクローゼットでいいだろう。3畳だと、半分くらいはそのスペースに取られてしまいそうだが、「立って半畳寝て一畳」という言葉もあることだし、そんな
建物の階数は、余裕を見て10階建てにしておこう。プラス地下1階だ。地下は、大浴場などの施設を作ろう。地下は、客ではなく、娼婦たちが使う空間とする。そして、裏口の扉を僕が持っていれば、いつでも『エドの街』へ戻ってくることができるようになる。
1階は、客へのサービスを行う施設がメインとなる。
『何部屋くらい必要だろうか?』
『春夢亭』では、小さな部屋がいくつもあったが、ああいったせせこましいのは、僕の好みではない。
お客さんも1時間20分という限られた時間の中で娼婦にサービスして
一部屋で1日最大16人の客を回転させられるわけなので、10部屋あれば160人まで対応できる。流石にそんな客は来ないだろうから、5部屋から8部屋くらいでいいだろう。
一般人の客も居るから、1階にはトイレが必要だろう。男子トイレだけでいいだろうか?
誰かに聞いてみよう。僕は目を開けた。
「元娼婦の人に聞きたいんだけど、娼館に女性客って来るの?」
左のテーブルからケイコが答える。
「いいえ、
「高級旅館だと、そういうこともあるみたいですよ」
ミチコがそう発言する。
「そうなんだ?」
「はい、前に女将さんがそんなことを言ってました」
その辺りの話は、スズカに聞いたほうがいいかもしれない。
「
レイコが補足した。
「それって、女性が女中の性的サービスを受けるってことだよね?」
「その通りだ」
「この世界では、そういうレズ行為は普通にあるの?」
「刻印を刻んだ女の中には、好んで女を相手にする者も居るようだ。いや、男女問わずといったところか……」
「もしかして、男同士も……?」
聞きたくないのに、好奇心に負けて聞いてしまった。
「うむ、
『うほっ……じゃなくて、うげっ……』
衆道というのは、戦国武将とかの男色のことだったはず。
「もしかして、レイコもパーティメンバーと?」
「いや、私はないが……」
サユリが話に割り込んできた。
「ハーイ! お姉さんは、あるわよぉ~」
「そうなんだ。誰と?」
「パーティメンバーだと、カオリとイリーナとミナね」
「ぽっ……」
「恥ずかしい秘密を主殿に知られてしまったでござる……ハァハァ」
「あれは、サユリ姉ぇが無理矢理……」
『結局、肝心なことは分からなかったな……』
そして、僕は座ってから、再び目を閉じて娼館の設計に戻った。
『男子トイレだけで良さそうだけど、面接に来た娼婦希望者のための女子トイレは用意したほうがいいかな』
僕は、娼館の一階をイメージする。
玄関の大きな扉――24時間営業なので、基本的に開いたまま――をくぐったら、奥に5~8の扉があり、その扉の前にそれぞれ、長椅子が2組置いてある広い空間に出る。右奥の扉は、男子トイレだ。左奥の扉は、事務所に通じていて、扉の近くに案内をする店員を置く。娼婦希望者などは、その店員にその旨を説明すると、奥に通される。
店を利用する客は、それぞれの扉の前の長椅子で順番を待つ。
一人1時間30分かかるので、何人も待っていたら、何時間もかかってしまう。そこまで人気が出るかどうか分からないが、混む時間帯にはそういうこともあるかもしれない。そうなると、順番待ちで客同士が揉める可能性もある。
それに指名制ではなく、ローテーション制なので、好みの娼婦を指名できないのは、問題になるかもしれない。
となると、部屋ごとに似たタイプの女性でローテーションしたほうがいいかもしれない。
例えば、一番左の部屋は、40代以上の熟女系の部屋で、その隣の部屋は、10代に見えるロリ系の部屋といった具合に部屋ごとに属性を決めておくわけだ。
ただ、2週間で8人の女性を同じ部屋で回す必要があるので、最低でも8人は同じ属性の女性が必要になる。現状では、とてもそんなに確保できないだろう。ドライアードやニンフを穴埋めに動員すれば娼婦不足は解消できるが、この街の女性の雇用を奪うことになるため、その手段は使わない。あくまでもレイコの下に連なる使い魔で対応すべき問題だろう。
部屋のサイズだが、
48メートルの建物なので、8部屋でも問題はなさそうだ。奥行きは、10メートルとする。18メートル中の10メートルだから、待合室のスペースも十分に取れるだろう。
その幅5メートル、奥行き10メートルの部屋に何を置くかだが、入り口付近を脱衣所にする。
その奥は浴室にする。洗い場には、大きなマットを置く。そして広い湯船を一番奥に用意する。
マットプレイをした後に入浴するというサービスでいいだろう。
そういえば、この世界にローションは存在するのだろうか?
【商取引】→『アイテム購入』
『ローション』で検索をかけてみたところ、『該当する商品が見つかりません』と出た。
【工房】で作れるのだろうか? いや、こういうときにこそ【調剤】を使ってみるべきだろう。
僕は、後で【調剤】を使ってローションを作ってみようと思った。
8部屋で回すなら、最低64人の娼婦が必要となる。勿論、全ての部屋をアクティブにする必要はない。
客が少ない時間帯などは、閉鎖していてもいいのだ。
ただ、娼婦のローテーションを考えた場合、計画的に回すことが難しくなる。
客同士の揉め事が起きたときにどうするのかという問題もあるし、案内役の店員を誰がやるかという問題もある。
『いっそのこと、次のローテーションの娼婦を部屋の前に立たせたらどうだろう?』
そうすることで、好みな娼婦の前に並ぶことができるというメリットがある。
問題は、娼婦の労働時間が2倍になってしまうことだ。
6時間立ち番をした後、6時間客の相手をしないといけないのだ。【刻印】を施してあるので、体力的には、それくらいは余裕だろうけど、可哀想かな……?
僕は、目を開けて聞いてみることにした。
「レイコ」
「ハッ! 何でしょう? 主様?」
レイコが立ち上がって、こちらのテーブルに歩いてくる。
「娼婦のローテーションの件なんだけど、仕事の前に、待合室で立ち番を6時間して、そのあと、6時間娼婦の仕事をするのは、キツいかな?」
「その程度、何でもありますまい」
「刻印を刻んでいるから、体力的には大丈夫だと思うけどね」
「主様のために働くと思えば、喜んで仕事をこなせます」
僕は、先ほど考えた娼館のデザインをレイコに話して意見を聞いてみる。
「……というような娼館を考えているんだけど?」
「素晴らしいと思います。しかし、莫大な金額がかかるのではないでしょうか?」
「それは、トロール退治で
「それでマットプレイでしたか? 主様、それがどのようなものか詳しく教えていただけないか?」
「確かローションっていうぬるぬるした液体を娼婦が身体に塗って、大きなマットの上に寝た男に全身を擦りつけて奉仕するプレイだよ」
「な……なんという……。想像しただけで興奮してしまう……」
「あとでローションを【調剤】で作ってみようと思ってるんだ」
「それで主様に奉仕することができるのだな?」
「これは女同士でもできるから、娼婦になる者たちがパートナーを作って交互に練習すればいいと思うよ」
「そんなぁ……主様に奉仕させてくだされ……」
「あと、客からお金を受け取るのは、娼婦がサービスの前に直接客から金貨を受け取り、それをマジックアイテムの金貨袋などに入れて保管すればいいと思うんだけど、どうかな?」
僕は、レイコの言葉を無視して話を続けた。
「……うむ、それで問題ないでしょう。それで、いくら徴収すればいいのだ?」
「分かりやすいし、1ゴールドにしようかと。『春夢亭』は、1.5ゴールドだったからね。まぁ、向こうは、素泊まりの料金が含まれていて、娼婦のサービス時間も長いけど」
「保管した金貨は、最終的に誰が管理するのだ?」
「獲得した金貨は、それぞれの娼婦の小遣いにするつもりだよ」
「なんだと!? 主様、それでは何のために娼館を作ったか分からないではないですか」
「使い魔たちが働く場所を作ったつもりなんだけど? それにこういった性風俗の店は必要だからね。無いともっと劣悪な売春業が出来てしまうよね?」
「分かりました。しかし、施設の維持費などは、娼婦たちから徴収すべきでは?」
「まぁ、将来的には、そうかもね。とりあえず、10年分の税金は『組合』に前納しておくつもりだから、その後は、娼婦たちから徴収して納めさせよう。その他の維持費は、魔法建築物として造るから、必要ないはず」
「まさに、至れり尽くせりだな。主様の娼婦たちは幸せだ」
人間のままなら、辛いと感じるかもしれないが、ルーチンワークを苦にしない刻印を刻んだ身体なら、ずっと娼婦と続けていても、それほど辛くはないかもしれない。その上、使い魔なので命令すれば喜んで娼婦を続けるだろう。そのうち娼婦の数が増えすぎたら、別のことをやらせるかもしれないが、ずっと先の話になると思う。
『現在時刻』
時刻は、【08:49】だった。
「そろそろ、出る時間じゃない?」
「あ、そうですね。では、我々は出ます」
「レイコの『密談部屋』は、『ロッジ』の中に召喚しておくから」
「了解いたしました」
僕は立ち上がって、『ロッジ』の右奥に行く。
『密談部屋5』
レイコの『密談部屋』の扉を壁際に出した。入り口から入って右に行った奥の壁際だ。
『ロッジ』
そして、『ロッジ』の扉を召喚する。
「では、
「はい、ユウコ様」
「では、主様。行って参ります」
「いってらっしゃい」
「主殿、行ってくるぞぇ」
「ええ、いってらっしゃい」
「ご主人様。私もいってきますね」
「いってらっしゃい」
レイコ、ユウコ、ユキの3人が『ロッジ』から外へ出た――。
―――――――――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます