6―28
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『ハーレム』から出た僕は、『ロッジ』のいつもの席に戻って座る。
僕の背後に控えたメイド服姿のフェリアとルート・ドライアード以外は、それぞれの席についた。何故か全裸のままだったが……。
「みなさん、装備を着てください」
フェリアたちを除き、レイコのパーティメンバーも含めた全員が
「料理のレシピ持ってる人は、朝食に何か軽いものを出してあげて」
『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』
『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』
僕も自分の場所と左右に『サンドイッチセット』と『コーンクリームスープ』を出した。
「フェリアとルート・ドライアードも一緒に食べよう」
「ハッ!」
「御意!」
メイド服を着た二人が僕の左右に座った。
僕もスープから食べ始めた。
『お腹は減ってないのに、食べ物が目の前にあると食欲が湧いて、かなり食べられるんだよな……』
他のテーブルを見てみると、僕たちと同じメニューを出しているようだ。
手持ちのレシピだと、他には『野菜サラダ』も朝食向きではあるが、手持ちの料理レシピが少なすぎる。
毎日同じものでも飽きないのだけど、何となく貧相に感じてしまう。
『そのうちメニューを増やしたほうがいいかな……』
とりあえず、重要事項ではないので、当分はいいだろう。
そんなことを考えながら、スープとサンドイッチを平らげた。
そして、コーヒーを飲みながら、この世界のことを考察する――。
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この世界のモンスターや妖精などは、何者かに作られた可能性が高い。
それどころか、この世界自体が作られた世界なのかもしれない。
フィクションに登場するようなフルダイブの仮想空間だったとしたらどうだろう?
その場合、いろいろなことに説明がつく。例えば、この『ロッジ』のような異空間なども説明できるし、刻印を刻んだ身体やマジックアイテムなどについてもだ。
しかし、とてもポリゴンで構成された世界には見えないし、生身の身体の人間が作り物だとは思えなかった。
レイコたちを救出に行ったときに見た、馬の内臓と思われる物体や『オークの神殿』で見たバラバラに切り刻まれた死体なども作り物とは思えないリアリティがあった。
元の世界でもVRゲームはあった。HMD――Head Mounted Display:頭部装着型ディスプレイ――とコントローラーの組合せで顔を向けた方向の空間が見えるというものだ。技術の進歩で
しかし、VR―バーチャルリアリティ―なのは視覚と聴覚のみだし、1フレーム当たりに表示するポリゴン数が億を超えたとはいえ、やはり現実とは違うという違和感はあった。特に現実と違って、どこでもピントが合っているので距離感が乏しいのも問題だろう。
そのため、五感の感覚をここまで完全に再現できる仮想空間があるとは思えない。少なくとも元の世界の技術では不可能だと断言できる。
魔法についても、元の世界には存在しない概念だ。
刻印を刻んだ身体になると、魔力というエネルギーが使えるようになる。
【魔術刻印】を刻むことで、対応する魔術を魔力を消費して使用することができるのだ。
魔術には、魔力系・精霊系・回復系の3系統があり、それぞれが、『魔力』・『精霊力』・『神力』という隠しパラメータのようなものにより、術者が使える魔術のレベルなどが決まる。
高度な魔術を使うためには、それらのパラメータを上げる必要がある。それには、強い敵を数多く倒すのが近道だ。そのときに上げたい系統の魔法を使うと効果的なようだ。
刻印のシステムは、武器などを使い近接戦闘を行うと、それに対応したパラメータ――『筋力』・『敏捷性』・『耐久力』――が上がるようだ。しかも、戦闘スタイルにより、上がるパラメータが違うようなのだ。攻撃偏重だと『筋力』が上がり、回避を重視していると『敏捷性』が防御を重視していると『耐久力』が上がるのだろう。
魔法は、刻印を刻んでいない一般人にも作用するものがある。
【ヒール】のような回復魔法や【ダメージスキン】のような補助魔法、【スリープ】などは作用しない。
しかし、【マジックアロー】のような攻撃魔法は、一般人にも作用するようだ。当たり処が悪いと簡単に殺してしまうらしいので気をつけないといけない。また、【インビジブル】のような幻術を使った魔法も一般人に効果がある。
つまり、魔術師自体が普通の人間から見たらモンスターのようなものなのだ。それどころか、刻印を刻んでいる人間全般がモンスターと言ってもいいだろう。魔法を使わなくても、一般人の攻撃は、【戦闘モード】を起動していれば、スローに見えるだろうし、普通の武器ではあまりダメージを負わない。逆に冒険者などの刻印を刻んだ人間は、素手でも一方的に一般人を
勿論、『組合』がそういう人間の存在を許さないはずだが、『組合』が手を出せないほどの武力を持った集団が現れたら非常に危険なことになると思われる。
暦の問題も新たな情報だった。
今日は、5月4日(水)のようだ。元の世界とは、半年くらいの差がある。
年中気候があまり変わらないため、1ヶ月を30日、1年を360日で固定しているようだ。
春分点や秋分点、夏至点や冬至点の通過を観測や計算して暦を調整したりもしていないようなので、惑星の公転周期とは同期していない。そもそも、ここが地球かどうかは分からないので、約365日で太陽のような恒星の周りを公転しているとは限らない。
明確な四季があったら、この方式では混乱しただろう。元の世界でも大昔には、季節がズレたので大規模な修正が行われたという記録が残っているくらいだ。
天候についても、深夜2時~5時頃に雨が降るというのも新たな情報だった。
ほぼ、毎日のように降っているようだ。降る量や降っている時間は、まちまちのようだが、何故、日中には雨が降らないのだろうか?
太陽が南の方角から昇って、あまり高く昇らずに南へ沈むという現象とも関わりがあるのかもしれない。
また、少し北のほうへ行くと太陽が一日中出ない『闇夜に閉ざされた国』があるらしい。
国といっても国家が存在するわけではないだろう。『妖精の国』みたいな地域という意味で使われているのだと思われる。
考えてみれば、この辺りでも太陽はあまり高く昇らないのだから、ずっと北へ行けば、太陽が出ない地域があってもおかしくはない。ここが地球だとすれば、東北地方の辺りだろうか? 北海道だと海を越えないといけないため、調査が難しいので伝承が残っていることに疑問が湧く。
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「ユーイチ様」
考えに
「ああ、そろそろお帰りになりますか?」
「ええ。でも、ユーイチ様の
僕は、『ロッジ』の扉を召喚した。
「では、いってらっしゃい」
「行ってまいります」
スズカが扉を開けて外に出る。
「ご主人様、
『涼香』の女中のタカコがそう言って頭を下げ、スズカの後に続いて外へ出た。
「いってらっしゃい」
扉が閉まるのを確認して、僕は扉を帰還させた。
そして、冷めたコーヒーを飲み干して、食器を片付ける。
『さて、次はどうしよう? この世界は、時間が余りすぎる気がするな……ゲームがやりたい……』
睡眠も必要ないのに基本的にやることが少ないのだ。
これからやらないといけないことを考えてみる。
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(1) 新しい娼館の設計
【工房】である程度、どんなデザインにするか決めておく必要があるだろう。外見的な問題だけではなく、何階建てで、どういう部屋を作るかなどだ。現状、資金が100万ゴールド程度しかないので、実際に作成するのは、トロール討伐を終えてからになる。
(2) 娼婦のサービス
娼婦が客にどんなサービスを提供するかも考えたほうがいいかもしれない。各娼婦にお任せでもいいが、経験のない者にはハードルが高いだろう。元の世界の性風俗店には、ソープやヘルス、ピンサロ、ストリップなどがあった。
僕は、当然そういうお店に行ったことがないので、クラスのエロ博士に聞いた程度の知識しかない。彼のお兄さんは、そういったお店によく行くようで、聞いた話を僕たちに話してくれたことがある。又聞きなのでどれくらい信憑性があるかは分からないが、マットプレイやローションプレイと呼ばれるものがオススメらしい。
(3) 『
新しい娼館が出来たら、妨害工作をしてくる可能性もあるので、早めに『春夢亭』へ行って話をつけてきたほうがいいだろう。不要な娼婦の身請けを約束させておくべきだ。高齢な娼婦や病気に
こちらとしては、最終的に『春夢亭』への娼婦の供給を絶って、全ての娼婦を身請けして、『春夢亭』を潰すつもりだ。
(4) トロール討伐
資金稼ぎと新しい使い魔たちの経験値稼ぎを兼ねて、近々、トロール討伐を行うべきだろう。
問題は、娼婦希望者が毎日増えていく可能性があることだが、娼館が出来た後は、月に1回程度新人を連れてトロール討伐を行うようにすればいいかもしれない。
娼婦を強くする意味があるのか分からないが、念のため、ある程度は鍛えておいたほうがいいだろう。
(5) ゾンビ討伐
娼館の運営が始まったら、西の『ナゴヤの街』方面へゾンビ討伐に行こうと考えている。ドライアードとニンフを大量に動員して【ワイド・レーダー】で探知したゾンビを倒して、死体を【グレイブピット】で埋める。これを西の地域すべてで行うつもりだ。これにより、ここが日本列島かどうかひいては地球かどうかも判別できるはずだ。
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