6―25

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 椅子いすに座った僕の前には、8人の全裸の女性が並んでいた。女性経験の無い高校生の僕には目に毒な光景だ。今さらだが……。

 一番左には、料亭『涼香すずか』の女中タカコ、次に料亭『涼香』の女将のスズカ、そして、名前は分からないが、小柄なショートカットの女性、セミロングで巨乳な女性、意志の強い目をした170センチメートルくらいのスラリとしたポニーテールの女性、165センチメートルくらいのショートカットで巨乳な女性、妖艶ようえんな雰囲気の『組合』の刻印魔術師ユウコ、175センチメートルくらいの長身で巨乳な『組合』の受付嬢の8名だ。


 僕は全員を見渡してから、娼婦の仕事について話し始めた――。


「僕の名前は、ユーイチです。娼婦の募集をしたのは、この街で娼館の経営を行うことにしたからです。今日は、ヤマモト家と交渉して『春夢亭しゅんむてい』の買収交渉を行いました。しかし、交渉は決裂する可能性が高いので、そのときは、土地を購入して新しい娼館を建てます」


 僕は、ここまで言って一息入れる。全裸で並ぶ女性たちの反応は様々で、驚いたような顔をしている人も居る。『春夢亭』を買収しようとしたことに驚いたのだろう。


「募集した娼婦については、1万ゴールドで身柄を買います。これは、文字通り僕のものになってもらうということです。他にやりたいことがある人は、ここから去ってください」


 もう一度、女性たちを見回すと、多くが真剣な表情で僕を見つめ返してきた。


「では、具体的な説明をします。まず、あなた方には既に刻印を刻まれているユウコさんとスズカさんを除いて、【エルフの刻印】を刻んでもらいます」


「「えっ?」」


 驚きの声が次々に上がる。

 刻印を刻んでもらえるとは思っていなかったのだろう。

 無視して言葉を続ける。


「そして、最終的に僕の使い魔になって貰います」


 疑問に思ったのだろうユウコが聞いてきた。


「待て! 坊やは回復系魔術師なのじゃろう? どうやってわしらを使い魔にするつもりじゃ? それに召喚魔法は、エルフの間でも失伝しつでんしたと聞いておるぞ」

「実は、僕は魔力系の魔術師だったのです。それが、フェリアの母乳を飲んでいるうちに回復系魔術が使えるようになりました」

「なんと、そんなことが……」

「ご主人様は、魔力系・精霊系・回復系の全ての系統が使えるようになった初めての魔術師なのです」


 フェリアが誇らしげに言った。


「フェリアのおかげだけどね」

「ご主人様の素質あってのことです」


 話を戻す。


「知らない人が多いと思うので説明しておくと、使い魔というのは、召喚魔法で捕獲されたモンスターのことで、実はモンスター以外にも刻印を刻んだ人間も捕獲することができるのです。ちなみに召喚魔法で捕獲することをテイムすると言います。テイムされた使い魔は、一旦消え去り、召喚魔法を使った術者が必要に応じてび出す存在となります」


『フェリス帰還』


 フェリスが白い光に包まれて消え去る。


「このように、あるじの命令ひとつで帰還させることもできます。フェリスは、今は刻印を刻んだ者が睡眠を取っているような状態にあり、僕が次に呼び出すまで眠ったままです。もし、僕が死んだら、永遠に眠り続けることになるでしょう」


『フェリス召喚』


 フェリスが白い光に包まれて出現する。


「また、使い魔は、死んでも一時的に消えるだけで、約24時間後には再召喚することができます。フェリスは、死んでも僕が生きている限り復活することができるというわけです」


 ユウコがまた質問してきた。


「そんなに何人もの使い魔を一人で持っても大丈夫なのかぇ? あの刻印は、召喚魔法のものだったのじゃな?」

「いえ、僕が刻印している召喚魔法は8個だけです。後は、使い魔の使い魔という形で階層構造で使い魔を持っているのです」

「なんと、そんなことが可能であったか……」

「ですから、あなた方には、レイコの下に連なる使い魔になってもらいます。レイコは、娼館の女将にするつもりなので」

「分かった。しかし、召喚魔法は成功率が低いと聞くが、大丈夫なのかぇ?」

「これは、フェリアの持論なのですが、召喚魔法を受ける者が召喚魔法を行う術者に忠誠を誓っていれば、召喚魔法は必ず成功するということです。実際に今まで失敗したことがないので、大丈夫だと思います」

「じゃが、絶対の忠誠など、すぐに得られるものではなかろう?」

「そこは、秘策がありますので、ご安心ください」

「ほぅ、それは楽しみじゃのぅ」


『言えない……おっぱいを吸ってとりこにするなんて……』


 僕は、話を戻した。


「では、娼婦の仕事についてですが、仕事は一日6時間、一週おきに娼婦の仕事をしてもらいます。つまり、今週娼婦をした人は、来週は一週間休みです。休日は、好きなことをしていただいて結構です」


「「なっ」」


 女性たちの驚く声が聞こえたが、無視して話を続ける。


「客へのサービスは1時間20分とします。客の交代など前後の準備を入れて1時間30分です。0時から6時までと、6時から12時まで、12時から18時まで、18時から0時までの4つのシフトで回すつもりです」


 料亭『涼香すずか』で言ったことと同じことをもう一度言った。


「つまり、『春夢亭』のような宿ではなく、性的なサービスを短時間提供する店ということです。娼婦には、1日に最大4人の客を相手にしてもらいます。あと、この娼館を大繁盛させる必要はないので、気楽に仕事に励んでください」


 また、ユウコが質問をしてくる。


主殿あるじどのは、金儲けのために娼館の経営を行うのではないのじゃな?」

「まぁ、道楽ですね。娼館そのものがこの街から無くなれば、夜鷹よたかのような売春婦や『春夢亭』のような売春宿が新しく作られるだけでしょう。そういったサービスを必要としている顧客が居るわけです。しかし、売春婦の晩年は悲惨なものだと聞いています。ですから、刻印を刻んで、娼婦の待遇を良くすればいいと思ったのです」

「それで、主殿には何の得があるのじゃ?」

「僕にも使い魔が増えるというメリットがあります」

「なるほどのぅ……しかし、娼婦の使い魔が何の役に立つのじゃ?」

「そうですねぇ……情報収集とか他に何か事業をするときの従業員にしたりもできますし……」


 娼婦の使い魔を他の何かに役立てようとは考えていなかったが、適当に思いついたことを回答した。


「ほぅ? 他にも何か商売を始めるつもりなのかい?」

「今のところ何も考えていませんが、娼婦が増えすぎたら、何か仕事を与える必要があるのではないかと思いまして。ただ、この街の他の商売と競合してしまうのは問題かなと」

「どうしてじゃ? 商売も弱肉強食じゃろう。競争が無くては、腐ってしまうぞぃ」

「それは、健全な競争だから成り立つ話で、僕のように他の商家しょうかが使えないような手段で競合するのは問題でしょう」

「考えすぎじゃと思うがのぅ……主殿が事勿ことなかれ主義者だということは分かった」


『ばっさりだな……確かにその通りなんだけど……』


 僕は、目立ちたくないと思っているので、事勿れ主義になるのは仕方がない。


「では、何か質問はありますか?」


 一人の女性が手を挙げて前に出た。


「あたし、ヨウコと言います。あの……友達を誘ってもよろしいですか?」


 ヨウコと名乗った女性が質問してきた。ショートカットで大きな胸をしている。年齢は、20代半ばくらいだ。


「娼婦にですか?」

「はい、そうです。こんな好待遇なら、きっと応募してくれると思いますっ!」

「無理強いはしないでください。募集は、ずっと続けますので早い者勝ちというわけでもありませんし……。本来は、人生に挫折して立ち直れないような人を募集しているのです。若く未来がある人は、好きな人と所帯を持つほうがいいでしょう?」

「私たちのような町人は、商家の人にでも見初みそめられないと、いい暮らしはできないんです」

「同じ町人の男の人では駄目なのですか?」

「町人同士で所帯を持つ人のほうが多いですが、あたしはもっといい暮らしがしたくてここに来ました」


 ヨウコは、上昇志向が強い女性のようだ。


「刻印を刻むことはあまり吹聴ふいちょうしないでください。『組合』に目を付けられても困りますし」


 ユウコが口を挟む。


「儂が刻むと問題になるじゃろうが、【エルフの刻印】をそこのエルフが刻むのなら何の問題もないじゃろう」

「しかし、あまり簡単に刻印を刻めるという噂が広がるのもマズいでしょう?」

「確かにそんなお手軽に刻印を刻まれるのは問題じゃな」

「でしょう?」


 ヨウコが答える。


「分かりました。刻印については黙っています」


 僕は、女性たちを見渡した。


「では、他に質問はありませんか?」

「「…………」」


 全員が沈黙した。


「無いようですね。じゃあ、娼婦になるのを止めるという人は居ますか?」

「「…………」」

「ここに並んでいる全員が娼婦になりたいということでいいのですね?」

「「はいっ!」」


 僕は、フェリスの方を向く。


「じゃあ、フェリス。刻印を刻んであげて」

「分かりましたわ」


 そう言って、僕の前を横切り、僕が座っている長椅子を踏み台にして、僕の左側からテーブルの上に登った。


「さぁ、順番に来てくださいな」


 フェリスは、並んでいる女性に向けてそう言った。


「じゃあ、私から行きますね」


 そう言って前に出たのは、長身の受付嬢ユキだった。

 フェリスが登った位置から、テーブルの上に登る。


「仰向けに寝てくださいな」

「は、はいっ」


 フェリスがエルフなので緊張しているようだ。

 僕が振り向くと、フェリスが寝ころんだユキの上にまたがっていた。

 ユキの大きな胸の谷間に手を置く。

 その瞬間、ユキの身体が白く光った。

 フェリスが立ち上がる。


「終わりましたわ」


 僕が前を向くと、ヨウコが前に出た。


「次は、あたしが行かせてもらいますね」


 そう言って、テーブルから降りてきたユキと交代する。

 僕は、ユキに声を掛けた。


「あの、ユキさんだったよね?」

「は、はいっ! ご主人様」


 突然、声を掛けられて驚いた様子だ。


「どうして娼婦の募集に応募したの? 『組合』はどうするの?」


『組合』の事務員なら、元の世界の公務員みたいなものなので、収入が安定した良い職場なのではないだろうか?


「応募したのは、1万ゴールドという破格のお金に釣られたのと、ご主人様のものになりたかったからですわ。『組合』は、辞めるつもりです」

「ユウコさんは辞めないんだし、別に続けたかったら続けてもいいよ?」

「続けたいわけではありませんが、いきなり辞めるのも『組合』に迷惑がかかるでしょうから、しばらくは勤めさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「勿論、でもどうして僕なんかのものになりたいと思ったの?」

「それは、ご主人様が難度Aの依頼を達成されたからですわ。強い男性の庇護ひごを受けたいと思うのは女ならば誰もが思うことです」

「なるほどねぇ……」


 ユキと話しているうちに次の女性に交代した。


「では、次はわたくしが……」


 そう言って前に出た女性は、気が強そうな目をした170センチメートルくらいのしなやかな身体をした女性だ。髪型は、黒髪を頭の後ろで束ねたポニーテールだ。年齢は、20代後半くらいか。落ち着いた雰囲気が見た目以上に年齢を感じさせた。胸のサイズは、大きくも小さくもない美乳だった。

 レイコほど、ガッシリとした体格ではないが、雰囲気が似ている。

 言葉遣いが上品で、町娘とは思えない。


 その女性は、刻印を刻み終わった後に、僕の前に立った。


挨拶あいさつが遅れて申し訳ございません。ご主人様、この度はまことにありがとうございました」

「いえ。あなたは、もしかして商家の出身ですか?」

「今は違いますが、元は商家の娘ですわ」

「どこの家か聞いてもいいですか?」

「はい、タカギ家を出奔しゅっぽんしたサヤカと申します」

「ユーイチです。よろしく」

「こちらこそ、末永くよろしくお願いします」


 そう言って、サヤカは元の場所に戻っていった。


「あのぅ、ご主人さまぁ?」


 そう言って、サヤカに代わって僕の前に立ったのは、のんびりした口調の女性だった。身長が160センチメートルくらいで、年齢は、20代半ばくらいだろう。髪型は、セミロングで、雰囲気も含め全てが柔らかい印象の女性だ。胸も大きく、身体もなんとなく柔らかそうだ。


「はい、なんですか?」

「ご主人さまにぃ、ご挨拶をしたいと思いましてぇ……あたしは、ランコと言いますぅ」

「ユーイチです。あなたもこの街で生まれた町人ですか?」

「はい、家はぁ、南地区ですぅ」

「漁師の家系なのですか?」

「いえいえ、うちはぁ、果樹園で働いていますぅ」

「どうして、娼婦になろうと?」

「あたしぃ、のんびりしていてぇ、あまり仕事に向いてないんですぅ。娼婦ならできるかなぁって、思ってぇ……迷惑でしたかぁ?」

「いや、全然問題ないですよ。確かに娼婦なら、のんびりしていても大丈夫だと思うし……」

「ありがとうございますぅ。可愛いご主人様のためにぃ、一生懸命働きますぅ」

「ありがと」


 そう言って、ランコは列へ帰っていく。


「…………」


 見るとランコの次に刻印を終えた女性が立っている。

 身長は、150センチメートルくらいだろうか。小ぶりな胸をしたショートカットの女性だ。年齢は、よく分からない。二十歳くらいに見えるが、小柄な感じが実際の歳よりも若くみせているのではないかと思う。


「えっと、あなたは?」

「サツキ……」


 どうやら、サツキは無口なようだ。


「なんですか?」

「挨拶……」

「ああ、初めまして、ユーイチです」

「初めまして……ご主人様……」


 年齢を聞いてみる。20歳を超えていないと問題だ。


「若く見えるけど、おいくつですか?」

「25……」


 やはり、実年齢よりも若く見えただけのようだ。

 普通に考えて十代の娘が『組合』の募集を見て娼婦になろうとは考えないだろう。

 問題は、親などが怪我や病気で『女神の秘薬』が必要になり身売りする十代の女性だろう。そういうケースは特別に了承するしかないだろう。別に『女神の秘薬』だけ渡してもいいし。


「若く見えますね」

「……いえ」


 そう言って、サツキは列へ戻って行った。

 若く見えるというのは、普通の女性にはめ言葉かもしれないが、サツキにとっては、逆効果だったかもしれない。若く見える容姿にコンプレックスを持っていた可能性がある。

 正直な感想を口にしただけなのだが、デリカシーに欠けていたかもしれないと反省する。


「ご主人様……」


 見ると、タカコが立っていた。


「タカコさん、本当に良かったのですか?」

「勿論ですわ。まさか、刻印をいただけるなんて……」


 うっとりとした顔でタカコが目を閉じて涙ぐむ。

 タカコの左目の下にあった泣きぼくろは消えていた。

 肌が綺麗きれいになったことで、少し若返った印象だ。これなら20代と言っても十分に通用するだろう。


 僕は、涙ぐむタカコを列に戻して、目を閉じた。


【工房】→『装備作成』→『レシピから作成』


 娼婦希望者たちが身に着ける装備を作成する。


 ・魔布の白無垢しろむく

 ・竜革の白草履しろぞうり

 ・魔布の黒ブラジャー

 ・魔布の黒Tバックパンティー

 ・魔布のクローク+10


 以上をレシピから8セット作って、目を開ける。


『トレード』


 全員に白無垢と草履、黒の下着、フード付の外套がいとう、1万ゴールドを配った。


「では、それを着て席へ戻ってください。『装備』と念じれば装備画面が出るので、そこで『全て装備』と念じて、次に『換装』と念じると装備を変更できます」


 娼婦希望者たちが、白い光に包まれて白無垢の上にフード付きの外套を装備した格好になった。


 僕は、娼婦希望者たちを席に帰した――。


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