6―10
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僕は、トレイをカウンターに返して席へ戻る。
「ご主人さまぁ……」
戻る途中でアザミに
彼女は、酔っているようだ。
刻印を施された身体が酔うとは思えないので、雰囲気に酔っているのだろう。
「なに?」
「こちらのテーブルにも来てくださいよぉ」
アザミは、僕の腕を取って、村人たちが座っているテーブルへ誘った。
大きな胸が右腕に押し付けられる。
「さぁ、ご主人様。ここに座ってください」
彼女が座っていた席に座らされる。
そして、僕の後ろに立ち、後ろから抱きしめられた。
後頭部にアザミの大きな胸が当たって柔らかい感触に包まれる。
「ちょっと、恥ずかしいよ……」
アザミの左右には、フェリアとルート・ドライアードが立っている。常に僕の背後に付き従うのが任務だと思っているようだ。
アザミの席の左隣は、マドカの席だった。右隣は、イズミの席でその向こうがアヤメの席だ。
反対側は、左から、ショウコ、スミレ、ユリ、サクラコが並んでいる。
また、村人たちは、全員外套を外した白無垢姿だった。
「ご主人様、ありがとうございます」
サクラコが礼を言ってきた。
「何が?」
「全てがです。ここ最近は、夢のような生活ですわ」
「この店が気に入ったのなら、ちょくちょく食べにくれば?」
「『エドの街』に暫く
「そうだけど、サクラコたちにはこの先もずっとこの街で生活してもらおうと思ってる」
「そうなのですか?」
「娼館の買収がどうなるかで多少変わるけど、この街に拠点を作っておこうと思ってるんだ。そこにレイコたちと一緒に住んでほしい」
『
「何なりとお申し付け下さいませ。私たちは貴方様の奴隷なのですから」
「何もせずにそこに待機しているだけじゃ、つまらないだろうから、何か仕事はしてもらおうと思ってる」
「娼館で働かせていただきますわ」
「それも一つの案だけどね。店でも開いたらどうかなとも思ってるんだ」
「まぁっ、どんなお店ですの?」
「いや、決めているわけじゃないんだけど、いろいろと問題があるし」
僕が道楽で店を出したとして、それによって競合する店が潰れるかもしれない。そういった悪影響をこの街に与えたくはない。
「どのような、問題があるのですか?」
話を聞いていたのか、ショウコが質問してきた。
知的な印象の彼女なら何か妙案を出してくれるかもしれない。
「例えば、こういった飲食店なら【料理】のスキルを使えば簡単に料理を提供できるけど、単価が上がってしまうよね。かと言って、普通の食材を仕入れるためには、取引先を探したりと面倒なことが多い。食材が安定供給されるかどうかも分からないし……。レイコたちのコネを使って、その点をクリアしたとしても、道楽で始めた店が他の店と競合して客の取り合いになってしまうのは好ましくない」
「つまり、ご主人様は競争相手が存在しない商売を始めたいのですね?」
「どうなんだろう? 動機は、君たちの働き口を作りたいってだけなんだけど」
「そうでしたら、娼館だけでいいではありませんか」
「でも、あまり娼館では働きたくないでしょ? スミレなんかは可哀想だよ」
「いいえ、オークに犯された
「喜んで働きたいってことはないでしょ?」
「そんなことはありません。ご主人様のお役に立てると思うと喜んで働きますわ」
「分かった。でも、
「それでしたら、
「どういうこと?」
「ご主人様は、娼館で働く娼婦にも刻印を施して、
「娼婦たちがそう望むならね」
「それは、間違いなく望むでしょう」
「好きな男性と添い遂げたいって
「全く無いとは言いませんが、まずご主人様の奴隷になることを選ぶと思いますわ」
「それで?」
話が脱線しているので戻した。
「はい、更に娼婦を募集するのです」
「そんなに娼婦ばかり増やしてどうするの?」
「ご主人様の奴隷が増えますわ。その者たちを使ってご主人様がやりたいことをなさればよろしいかと」
「あまり目立ちたくないんだよなぁ……それに無料で刻印しまくっていたら、『組合』に目を付けられてしまうかもしれない」
「最初にお金を払って娼婦を買い上げる形にすればいいのですわ。買った娼婦に刻印を施すのは、ご主人様の勝手ですし、ご主人様が目立ちたくないのでしたら、レイコ様を責任者にしては如何でしょう?」
『なるほど、大商家の生まれであるレイコなら、商売を始めても怪しまれないだろうな……』
レイコを責任者にするという案は、採用しようと思った。
娼婦の件も、本人が納得する金額で身柄を買い取って、刻印を刻むという方針でいいだろう。
「娼婦の募集は、『組合』で依頼すればいいのかな?」
「そうですわね。娼婦になる者が『組合』の掲示板を見るとは思えないので、娼婦を募集する仕事を冒険者に依頼されては如何でしょう?」
『組合』には、職安のような機能があると勝手に思っていたが、基本的には冒険者のための機関のようだ。
「一般人に仕事の募集や斡旋を行うようなところはないの?」
「それも『組合』で行っておりますが、娼婦のような仕事は募集されないのではないでしょうか」
「なるほど、だから娼婦になってもいいという女性が見に行くことはないということか」
「しかし、募集されておいてもいいと思いますわ」
「どうして?」
「普通の仕事を探しに来た女性が目にするでしょう」
「でも、応募はしないよね?」
「でしょうね。しかし、将来は分かりませんし、知り合いにその情報を伝えるかもしれません」
「なるほど、やっておいても損はないということか」
「はい、掲載にお金がかかるので、その価値があるかどうかはご主人様が判断されればよいかと」
娼婦として働かせるのにどれくらいの金額を積めばいいのだろう?
『女神の秘薬』代と同程度なら1000ゴールドでいいはずだが。
適正金額が分からないのでショウコに聞いてみる。
「娼婦は、どれくらいの金額で雇ったらいいかな?」
「ご主人様、娼婦は雇うのではありません。身柄を買うのです。それには、1000ゴールドは必要でしょう」
「そんなに安くていいの?」
「はい、あまり高額だと回収できませんから」
「別に回収する必要はないんだけどね」
「ご主人様、物事には相場というものがございます」
「いや、ここはあえてバランスを壊したほうがいいと思う」
「どうしてでございますか?」
「他の店に娼婦が供給されるのを止められるでしょ?」
「……流石はご主人様です。この街の娼婦を一手に牛耳るおつもりですね?」
『え? そんな意図は全くないんだけど……異世界で風俗王とか呼ばれるのは勘弁してよね……』
「牛耳るつもりはないけど、どうせ娼婦になるなら、ウチに来たほうが娼婦たちも幸せという環境を作りたいだけさ」
サクラコが口を挟んだ。
「あぁ……ご立派ですわぁ……」
「ホントに……素晴らしい方ですわ」
二人からの賞賛に居心地の悪さを感じていたら、入口の引き戸が開かれて客が入って来た。
銀色の胸当てを着た栗色の髪の大柄な女性だった。前にこの店で会ったことがあるカナコという女性冒険者だ。
続いて、レイコが入って来た。その後ろには、カナコのパーティメンバーだろう。冒険者風の女性たちが5人続けて入って来る。
「あっ、
レイコが僕を見つけて、近づいてきた。
その後ろにカナコがついてきている。
レイコとカナコは、身長と体格が似ている。レイコが黒髪のポニーテールでカナコは栗色の髪を首の後ろで
「ユーイチ、本当にレイコたちを助けたのね!?」
「ああ、どうも」
アザミに後ろから抱きつかれているので、変な体制で挨拶をする。
「ふふっ……いいご身分ね」
「流石、主様だ……今度、私の胸も枕に使ってくれ」
「アザミ、そろそろ放してよ」
「ご主人様、あたしの胸枕が嫌なの?」
「そういう訳じゃないけど、恥ずかしいし……」
「気にする必要ないわよ。ここにいるのは、みんな貴方の奴隷なんですから」
「カナコさんのパーティが居るじゃないか……」
「彼女たちもそのうち奴隷になるわよ」
勝手なことを言っている。
「そう言えば、ユーイチに一杯
「じゃあ、葡萄ジュースでも奢ってもらおうかな」
「いいわよ。その前にあたしのパーティメンバーを紹介しておくわね」
「うん」
カナコは、パーティメンバーの一人を呼んだ。
「アキコ」
「はい、お姉さま」
『お姉さまって……まさか……』
「この子は、あたしの妹のアキコよ」
実の姉妹だったようだ。見れば、カナコと同じ栗色の髪をしている。髪型は、セミロングだ。カナコに比べると小柄で160センチメートルくらいだろう。革製の装備を身に着けているので軽装戦士のようだ。外見年齢は、
「タナカ・アキコです。よろしくお願いします」
「ユーイチです。よろしく」
カナコは、次のメンバーを紹介する。
「エリ」
「はい」
エリと呼ばれた女性は、長い黒髪の小柄な女性で上品な雰囲気がカオリに似ている。外見年齢は、二十歳くらいに見える。鎖帷子を着ているので、回復系魔術師かもしれない。
「ニシダ・エリと申します」
「ユーイチと言います」
「エリは、ウチのヒーラーなの」
やはり、エリは回復系魔術師だったようだ。
「ミドリ」
「ええ」
カナコと同じくらいの年齢に見える、身長170センチメートルくらいの女性が前に出て来た。
全身革製の装備に身を固めている。ミナと似た装備だが、身長がミナよりも高いのでスラリとした印象を受ける。ゲームだったら、狩人のような職業を連想する出で立ちだ。
「コンドウ・ミドリよ。よろしくね」
「ユーイチです。こちらこそよろしくお願いします」
ミドリが飄々とした雰囲気を漂わせていているためか、思わず丁寧に挨拶を返してしまった。
「ミドリは、精霊系魔術が使えるのよ」
「それは凄い。それでどのレベルまで使えるのですか?」
「レベル3までよ」
精霊系魔術のレベル3と言えば、【ファイアボール】や【ライトニング】が使える。【ウインドバリア】や【エアプロテクション】も使えるようになるが、パーティプレイだとどうなんだろう?
【ウインドバリア】の場合、逸れた矢が他のメンバーに当たる可能性がある。また、【エアプロテクション】は、僕にとっては便利魔法という印象だ。
「【ウインドバリア】や【エアプロテクション】の刻印は持っておられますか?」
「いいえ、あまり必要に感じていないから刻んでないわ」
「なるほど」
やはり、パーティプレイで【ウインドバリア】は、使いづらいようだ。【エアプロテクション】も戦闘で威力を発揮する魔法ではないので、金をかけてまで刻印を刻む必要はないと判断したのだろう。
「マミ」
「ハイッ!」
マミと呼ばれた少女が元気に返事をする。明るい性格のようだ。
マミの髪型は、黒髪を左右で括ったツインテールだ。見た感じでは、まだ10代のように見える。17~18歳といったところだろうか、外見年齢は僕と同い年くらいに思えた。身長は、160センチメートルくらいだろう。革装備を身に着けているので、軽装戦士だと思われる。
「タカノ・マミです。よろしくお願いします!」
「ユーイチです。こちらこそよろしく」
カナコは、最後に重装戦士風の女性を紹介した。
「ユリ」
「はい」
長い黒髪の女性だ。
身長は、165センチメートルくらいで、意志の強そうな瞳をしている。外見年齢は、20代前半くらいに見える。装備は、イリーナのような全身鎧ではないが、カオリのように金属製の鎧で身を固めている。
「初めまして、サカモト・ユリよ」
「初めまして、ユーイチです」
サクラコの娘と同じ名前だ。珍しい名前ではないのだろう。
カナコのパーティメンバーは、重装戦士のタンクが2人に軽装戦士が2人、回復系魔術師のヒーラーが1人と精霊系魔術が使える軽装戦士が1人という構成のようだ。
「じゃあ、ジュースを取ってくるから、待っていてね」
そう言って、カナコは、パーティメンバーと共にカウンターのほうへ戻っていった――。
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