6―9
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一番奥のテーブルにレイコのパーティメンバーと一緒に座る。僕の左隣にはフェリス、右隣にはルート・ニンフが座った。フェリアとルート・ドライアードは、相変わらず、僕の背後に立ったままだ。
可哀想だが、二人にはそのままで居てもらおう。普通の人間と違って、飲まず食わずでも問題なく、トイレに行く必要も無い身体なので、僕としても多少は気が楽だ。二人の性格からしてニンフたちのように『密談部屋』へ入るように言っても受け入れなかっただろう。僕を護る
村人たち8人は、隣のテーブルに座った。この店のテーブルは、8人掛けだ。7人パーティや8人パーティの冒険者チームもそれなりに多いのだろうか。6人パーティでも依頼主などと一緒に商談を行う可能性もある。僕が『エドの街』で見た冒険者パーティは例外なく6人パーティだったので、統計を採ると6人パーティが圧倒的に多いのではないかと思う。フェリアが語ってくれた冒険者の話でも6人パーティが一般的と言っていたはずだ。
「ユーイチたちは、何を飲む?」
ミナが聞いてきた。
「葡萄ジュースはある?」
「勿論、あるわよ。ここのは自家製で余所とは違うのよ」
「じゃあ、それを。フェリスたちはどうする?」
「ご主人サマと同じものでいいですわ」
「あたしも」
フェリスとルート・ニンフが答える。
「フェリアさんたちは?」
「
「
ミナが困った顔で僕を見る。
「好きにさせてあげて」
「分かったわ」
ミナは、村人たちの注文も聞いたあと、カウンターのほうへ向かって行った。
アユミに話しかけているので、注文を伝えているのだろう。
レイコは、まだ合流していない。
テーブルの反対側には、僕から見て左からアズサ、カオリ、サユリ、イリーナが座っている。
こちら側には、左からフェリス、僕、ルート・ニンフが座っている。ミナの席は、ルート・ニンフの右隣だ。
僕の正面には、カオリが居る。黙っているのもアレなので、カオリに話しかけてみる。
「レイコ、遅いね」
「ご実家に行っておられるのでしたら、もう
「北門にあるの?」
「いえ、北門にあるのは、スズキ家が経営している店舗で、レイコさんはそこに下宿されています。ご実家は、この近くにございます」
「大きな商家なんでしょ?」
「はい、スズキ家は『エドの街』でも十指に入る名門ですわ」
「カオリのほうが、お嬢様っぽいけどね」
「
ミナがトレイに飲み物を載せて戻ってきた。
僕たちのテーブルにそれを置く。そして、またカウンターへ戻って行った。村人たちの分を取りに行ったのだろう。
イリーナが飲み物を僕たちに配った。
テーブルのこちら側は、洒落たグラスに入った葡萄ジュースだった。この容器はマジックアイテムかもしれない。こういった店では、割れたりしないので、少々割高でもマジックアイテムのほうがいいだろう。洗う手間も省けるし。
テーブルの向こう側は、アズサとカオリが同じグラスに入ったワインのような紫色の液体の飲み物だが、僕たちのものとは違う種類なんだろうか? サユリが注文したのは、湯呑みのようなグラスに入った飲み物だった。湯気が出ていて蜂蜜のような香りがしている。蜂蜜入りの温かいお酒のようだ。イリーナは中ジョッキに入ったビールを注文したようだ。
村人たちへ飲み物を配り終えたミナがテーブルに帰ってきた。
「では、乾杯するでござるよ」
イリーナが音頭を取る。
「「かんぱーい!」」
僕も手に取ったグラスを掲げた。
そして、葡萄ジュースを一口飲んでみる。
絞った葡萄をワインにしなかったもののようだ。
「イリーナ、そのビールは、どんなものなの?」
「これは、エールでござるよ。少し飲んでみるでござるか?」
そう言って、イリーナはジョッキを僕に渡した。見ると、帯を緩めているのか、白無垢の胸元がはだけて、黒い下着が覗いている。
僕はドギマギしながら受け取ったジョッキのエールを飲んでみる。
思ったほど苦みはあまりなく、フルーティな香りがする。果汁が混ぜてあるのだろうか。
ジョッキに入った見た目よりは飲みやすかった。
ただ、僕にはビールの何が美味しいのか分からない。元の世界でも少しは飲んだことがあるが、美味しいと思ったことはない。
「ありがとう、あまり苦くないね」
「そうでござろう」
僕は、ジョッキをイリーナに返した。
「サユリは、何飲んでるの?」
「お姉さんが飲んでるのは、
そう言って、サユリは湯呑みのようなグラスを差し出した。
僕は、それを受け取って飲んでみる。
アルコールの入った蜂蜜入りのゆず湯のような味だ。
何かの酒に蜂蜜とゆず果汁を入れてお湯で割ったものだろうか?
普通に美味しかった。女性に人気が出そうな味だ。
「ありがとう、これも美味しいね」
「でしょう?」
カオリのほうを見ると、彼女は赤ワインのような液体が入ったグラスを差し出してきた。
「ご主人様、これをどうぞ」
「ありがとう」
僕は、カオリからグラスを受け取って、一口飲んでみる。
一言で表すなら、甘い赤ワインだった。渋みもあるけど、葡萄ジュースのように甘い。
アルコール度数もかなり低そうだ。
これなら子供でも飲めるだろう。
「僕が注文した葡萄ジュースと似てるね」
「はい、お酒が苦手な
「……コクリ……」
同じものを飲んでいるアズサも頷いている。
普通の日本酒はあるのだろうか? 日本という国名が無いので何と呼ばれているかは分からない。
「ユーイチは、どんなお酒が好きなの?」
「僕は、未成年だからあまりお酒を飲んだことがないんだ。強いて挙げるなら、飲んでみたいのは、甘口の日本酒かな」
「日本酒ねぇ……聞いたことがないわ」
「僕の故郷のお酒なんだけどね。こっちにも似たものがないかなぁ……?」
「どんな製法で作っているの?」
「米を原料に
それにイリーナが答える。
「それなら、清酒やにごり酒という名であるでござるよ」
「吟醸酒は?」
「吟醸酒も売ってるでござるよ」
「大吟醸とかも?」
「あるでござる。毎日飲むには、ちと高いでござるが」
確か大吟醸は、精米でかなり削る必要があったはず。
製法が同じかどうか分からないけど、日本酒もいろいろな種類があるようだ。
「じゃあ、次は、大吟醸飲む?」
ミナが聞いてきた。
「この店にも置いてるの?」
「あるわよ」
「じゃあ、いただこうかな」
ミナは、飲み終わった僕たちのグラスをトレイに載せて、カウンターへ返した。村人たちのテーブルでも同じことをしている。
ミナは、意外とお節介な性格をしていると思う。我が儘そうな口調から、そんな風には見えないのだが。
「レイコさん遅いから、先に食事を注文しておきましょう」
ミナが僕たちのテーブルに帰ってきてそう言った。
この店では、定番メニューの他に本日のオススメというメニューがあるそうだ。定番メニューも多くはないようだ。【料理】スキルを使っているならともかく、女将が一人で調理している店で多種多様なメニューを準備するのは難しいのだろう。
「僕は、オススメでいいけど……あと、
「分かったわ」
「向こうのテーブルにも頼む」
「ええ」
他のメンバーにも注文を聞いていたが、みんなオススメだった。
ミナは、隣のテーブルでも注文を取って、カウンターのほうへ向かった。
アユミに注文を伝えているようだ。
そして、グラスの載ったトレイを持ってテーブルに帰ってきた。
トレイを置いて、またカウンターへ向かう。今度は、隣のテーブルの分を取りに行ったようだ。
イリーナがグラスを配っている。
全員が同じもののようだ。シンプルなデザインの小さめのグラスに入った無色透明の液体だ。大吟醸だろう。
僕は、グラスを受け取って、名前だけは知っている大吟醸を一口飲んでみる。
フルーティな香りの日本酒だった。初めて飲んだが美味しいと思う。
「美味しいでござる。しかし、これで銀貨1枚以上するのが難点でござるよ……」
この小さなコップ一杯の酒がこちらの価値では、千円以上するということだから、確かに高いのだろう。
チビチビと大吟醸を飲んでいたら、料理ができたようで、アユミがミナを呼んだ。
「ミナさ~ん!」
「ハーイ! みんなも取りに来て」
ミナと一緒にカウンターの方へ移動する。
フェリアとルート・ドライアードも付いてきたので、唐揚げとポテトフライの大皿を持ってもらった。
今日のオススメは、ビーフシチューのようだ。ビーフシチューにパン、ポテトサラダなどが載ったトレイを持って席へ戻る。
テーブルに戻り、ビーフシチューを食べてみる。元の世界のビーフシチューと似たような味だ。ユミコは、料理上手と言われるだけあって、この店のメニューはどれも美味しい。料理のセレクトも良いように感じる。女性冒険者が好きそうなメニューが多いのだ。
僕は、料理を夢中で食べた。
そして、食べ終わった後、空の食器が載ったトレイを持って、カウンターへ返しに行った――。
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