5―14
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僕は、残ったコーヒーを飲み干してから食器を戻した――。
「では、一人ずつ順番にこちらへ来てください。そして、どんな装備が必要なのか教えてください。その装備を作成します。お金は、材料費だけで結構です。手持ちが無ければ、今すぐ払って頂く必要はありません」
僕は、立ち上がって、椅子を跨いで反対側へ移動し、テーブルを背に座り直した。
「では、私から行こう」
リーダーのレイコが率先して席を立つ。
そして、こちらに歩いて来て、僕の目の前に立った。全裸なのに腰に手を当てて、堂々とした仁王立ちをしている。
僕は、レイコの裸を見ないように目を逸らす。
「あの、隣に座っていただいて結構ですよ」
「いや、装備を作って頂くのだ、好きなだけ見てくれ」
『何で見る必要があるんだ……?』
似合うデザインをイメージしろということなのだろうか?
よく見るとレイコは、なかなか筋肉質だった。ボディビルダーというほどではないが、鍛えられた肉体ということは見ただけで分かる。刻印を施すとその時点で容姿が固定化されてしまうので、おそらく刻印を施す前から鍛えていたのだろう。
「かなり鍛えられた体をしておられますが、刻印を施す前から鍛えていたのですか?」
「うむ、私は可愛げがないから、嫁のもらい手がないだろうと自覚していた。だから、冒険者として生きていくために日頃から鍛えていたのだ」
レイコは、美人だがキリッとした印象で確かに家庭に入るようなタイプではなさそうだ。
「レイコさんは、戦士ですよね? どんなタイプの戦士ですか?」
「その前にユーイチ殿、私のことは、『レイコ』と呼び捨ててくれ」
「え? でも、僕のほうが年下ですし……」
「構わない。貴殿に呼び捨てにされたいのだ!」
「分かりました。では、僕のことも『ユーイチ』と呼んでください」
「いや、貴殿は私たちの命の恩人。敬意を持ってユーイチ殿と呼ばせていただく」
「分かりました。それでは、レイコがどんなタイプの戦士なのかを教えていただけますか?」
「ユーイチ殿、私に敬語は不要だ。罵ってくださっても結構なので、敬語は止めてくだされ」
「…………」
僕は呆れてレイコを見る。
「……ああぁ……そんな蔑むような目で見られては……」
仁王立ちをしたレイコが裸身をくねらせる。
「……レイコ、後がつかえているから、いい加減に先に進みたいんだけど?」
「ヒィッ! も、申し訳ない。私は、回復系魔術が使える戦士で盾を装備したタンクだ」
「君たちのパーティには、他にタンクは居るの?」
「カオリも盾を装備した重装戦士だ」
これは、結構意外だった。あの気品のあるお嬢様タイプのカオリがタンクだったとは。
レイコは、回復系魔術が使えるヒーラーでもあるので、MT(メインタンク)は、カオリの方だろう。
一番、戦士に向いてそうなイリーナはタンクではないのだろうか?
「イリーナさんは、どんなタイプの戦士なの?」
「イリーナは、全身鎧とハルバードを装備したアタッカーだ」
「なるほど。そういえば、レイコのパーティには、もう一人回復系魔術が使える人が居るんだよね?」
「ああ、アズサがそうだ」
一番小柄で若そうなアズサが回復系の魔術師らしい。彼女は、あまり直接戦闘には向いていなさそうなので、メインのヒーラーはアズサなのではないだろうか。
「2人は、どのレベルまで魔法を使えるの?」
「私がレベル2でアズサがレベル3だ」
「パーティを組んだ頃は、どうだったの?」
「2人ともレベル1だった。おそらく、アズサのほうが回復系魔術の適性が高かったのだろう」
「いや、たぶんレイコが戦士を兼任しているからだと思う」
「ふむ、つまりユーイチ殿は、私が戦士をやりながら回復系魔術師もやっているから中途半端だと言いたいのか?」
「戦士と回復系魔術師のコンボクラスだと、戦士を専業にしている人や回復系魔術師を専業にしてる人に比べると、どちらも成長が遅くなるんだと思う」
「な……なんということだ……確かにタンクとしてもカオリのほうが優秀だ……」
「どちらを先に成長させたいか決めて戦ったほうがいいと思うよ」
「貴重な助言、痛み入る」
「では、作りたい装備を教えて」
レイコが欲した装備は、以下のようなものだった――。
―――――――――――――――――――――――――――――
・素材にプラチナ鋼を使ったブロードソード
・素材にプラチナ鋼を使ったヒーターシールド
・素材にプラチナ鋼を使った胸当て
・素材にプラチナ鋼を使った篭手
・素材にプラチナ鋼を使った鎖帷子
・素材にプラチナ鋼を使ったヴァンブレイス
・素材にプラチナ鋼を使ったキュイス
・素材にプラチナ鋼を使ったグリーブ
・素材にプラチナ鋼を使ったブーツ
・素材にソフトレザーを使った丈の短いスカート
・素材にソフトレザーを使ったマント
―――――――――――――――――――――――――――――
ブロードソードは、日本語では
ヴァンブレイスは、二の腕など上腕部を覆う鎧だ。ちなみに全身鎧では、この部分のパーツをアッパーカノンというらしい。
キュイスは、脚鎧のことで、膝上から太ももの辺りを覆う鎧だ。
グリーブは、膝から向こう
兜を装備しないのは、リーダーとして周囲の状況をより確認するためだろうか。盾持ちなので、防御力が高いこともあるだろう。
「レイコ、下着は要らないの?」
「うむ、装備品として作るのは勿体ないからな」
「え? じゃあ、普通の下着を着けてから、装備をしていたの?」
「私の場合は、不要だから下着は着けていなかった。これだけの重装備だと見られることもない」
『後ろに転倒して脚を開いたら見えちゃうと思うけど……』
「そういえば、最初に見たときは、髪を下ろしていたよね?」
「むぅ? ユーイチ殿は、髪を下ろした女性のほうが好みなのか?」
「いや、そうじゃなくて、その髪留めはもしかして装備なのかなって思って」
「ああ、その通りだ。母上から戴いた装備品の髪留めだ。これだけは渡さなかった。オーク共も気にしていなかったようだしな」
レイコの髪留めは、思い出の品らしい。
「じゃあ、素材の合計代金は、2万6千50ゴールドになるけど、いいかな?」
「それは、安いな」
「素材を追加しなくてもいいんだよね?」
「うむ。あまり重いと装備できないからな。では、3万ゴールド支払わせてもらおう」
「別に素材代だけでいいよ?」
「それでは、私の気が済まない」
「分かった。そういうことなら3万ゴールドで」
「では、先に代金を払っておこう」
「いや、装備と交換でいいから……。デザインは普通のデザインでいいんだよね?」
「ふむ……。せっかくユーイチ殿に作っていただくのだから、ユーイチ殿が好むデザインにしていただきたい」
『レイコなら、ビキニアーマーとか好きそうなんだけど……』
それにレイコは、男前の喋り方をして騎士っぽい。
「オークに捕まったとき、『くっ……殺せ!』とかオークに言わなかった?」
「な、何故それを……!?」
言ったらしい……。
【工房】→『装備作成』
で、以下の装備を作った。
―――――――――――――――――――――――――――――
・プラチナのブロードソード
・プラチナのヒーターシールド
・プラチナの胸当て
・プラチナのガントレット
・プラチナの鎖帷子
・プラチナのヴァンブレイス
・プラチナのキュイス
・プラチナのグリーブ
・プラチナのブーツ
・革のミニスカート
・革のマント
―――――――――――――――――――――――――――――
デザインは、通常のものより聖騎士風にしておいた。
『トレード』
レイコに装備を渡す。
3万ゴールドとトレードした。
「どう?」
「助かりました、ユーイチ殿」
「着てみないの?」
「……ああ、それでは……」
レイコが白い光に包まれた後、銀色に輝く鎧姿となる。
『プラチナの鎧は綺麗だなぁ……』
スカートとマントは、デフォルトカラーではなく、黒色に変更しておいた。
殆どの部位がプラチナ装備なので、全身が輝いているが、腰の部分だけが黒いベルトで固定された黒い革のミニスカートとなっている。
このミニスカートは、ミナが履いているような裾が広がったデザインではなく、タイトスカートの両側にスリットを入れたタイプにした。こちらのほうが、レイコのキャラに合っていると思ったのだ。
ただ、
念のため、革のタイトスカートをつまんで捲ってみる。
パイパンの股間が丸見えになる。
「ああっ……そのようなことをされては……」
「ご、ごめん!」
慌てて元に戻した。好奇心に負けてしまったが、元の世界だったら完全に犯罪行為だ。この世界に来てから、貞操観念のおかしな
フェリアが軽装装備で履いているような布製とは違い、素材が重いので簡単には捲れないだろう。
また、胸当ての肩パッドに固定されたマントも黒色だ。
『そういえば、マントって何のために装備してるんだろ?』
冒険者の身体なら、寒さに対して耐性は高いはずだ。
だから、実用性よりファッション性が重視されたものなのかもしれない。
「では、次の方どうぞ」
――病院の診察室っぽく言ってしまった……。
すると、白い光に包まれてレイコが全裸に戻った。
「なっ、何で、裸に戻ったの?」
「屋内でこんな装備をしていると暑苦しいからな、それに私だけ装備を着ているのも他のメンバーに悪い」
「……なるほど」
レイコのパーティメンバーが座っているテーブルを見るとイリーナが立ち上がった。
「では、次は拙者でござるな」
レイコと入れ替わるように、こちらに歩いてくる。
僕の前で止まり、仁王立ちの姿勢から両手を頭の後ろで組んだ。
イリーナも筋肉質だった。人間だった頃に力比べをしていたら僕よりも力が強かっただろう。
「イリーナさんも、冒険者になる前から鍛えておられたのですか?」
「敬語は止めて欲しいでござる。拙者もユーイチ殿に罵って欲しいでござる」
『レイコを罵った覚えはないんだけど……』
「じゃあ、イリーナ。これでいい?」
「
「みんなそうやって鍛えてから冒険者になるのかな?」
「人によるでござるな。冒険者になることが決まっている者なら、多かれ少なかれやってると思うでござるよ」
突然、冒険者になることが決まった人間以外は、【冒険者の刻印】を刻む前に体を鍛えておくようだ。
確かに筋力などが少しでも上がるのならやっておくに越したことはないだろう。
そんなことを考えながらイリーナの身体を見ていると、小刻みに震えているようだ。
「ハァハァハァハァ……」
呼吸が荒い……。
「イリーナ、作って欲しい装備を教えて」
「ハァハァハァ……そ、そうでござるなぁ……」
そうして、イリーナが欲したのは、以下のような装備だった――。
―――――――――――――――――――――――――――――
・素材にスチールを使ったハルバード
・素材にスチールを使った全身鎧
・素材にスチールを使った鎖帷子
・素材にソフトレザーを使ったマント
―――――――――――――――――――――――――――――
ハルバードは、竿状武器――ポールウェポン――の中では特に有名なものだろう。先端に槍と斧とピックの機能を合わせた刃が取付けられた長い武器だ。
「素材の合計金額は、4030ゴールドになるね」
「分かったでござる」
「じゃあ、作るね」
【工房】→『装備作成』
―――――――――――――――――――――――――――――
・鋼のハルバード
・鋼のプレートアーマー
・鋼の鎖帷子
・革のマント
―――――――――――――――――――――――――――――
『トレード』
イリーナに装備を渡した。イリーナは、5000ゴールド渡してきた。
「店で買うともっと高いの?」
「1万ゴールドはかかるでござる」
素材代の倍以上の価格で販売されているようだ。
【商取引】の刻印を持った商人から、素材を割高に仕入れて、オーダーメイドで装備を作ることを考えたら、それで適正価格なのかもしれない。
「装備してみて」
「承知いたした」
全裸のイリーナが光に包まれて全身鎧の姿となる。
デザインは、フェリアに作ったものに合わせておいた。
スチールの装備は、やや黒っぽい銀色がデフォルトカラーのようだ。
ハルバードの長さは、2メートル以上ありそうだ。フルプレートの全身鎧を着たイリーナが持っていると、まるで衛兵のように見える。
これは、フェリアが全身鎧を装備したときに聞いた話なのだが、イリーナのような豊かな長髪の女性の髪が鎧の中でどうなっているのかと言えば、装備品で圧迫されるような場合には、その部分の髪の毛が一時的に消えるそうだ。
髪の毛は、剣で斬られてもHPは減らない。しかし、強力な攻撃を受けると部位切断が起きて、切り取られた部分が約24時間消失するそうだ。髪の毛の長さは、刻印を刻んだときから一生変わらないようだ。髪型に関しては、多少いじれるが、大きく変更することはできない。女性なら、括ってポニーテールやサイドテール、ツインテールにしたりはできるだろう。
「どうかな?」
「完璧でござるよ。この御礼は、後で身体で払わせてもらうでござる」
「いや、別にいいから……」
「お願いでござるよ。もう、我慢できないのでござる」
イリーナが装備を外して全裸に戻る。
僕は無視して続けた。
「では、次の方どうぞ」
「可愛い顔をして、その冷たい態度がゾクゾクするでござる……」
そう言ってイリーナは、その大きな裸体を震わせた――。
―――――――――――――――――――――――――――――
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