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 その日の夜、フェリアの『倉庫』で寝ていた僕は起きて立ち上がる。


「ご主人さま?」

「ちょっと外に出てくる」

「お待ちくださいっ」


『装備2換装』


 僕は、魔術師風の装備に着替えて、『倉庫』を出る。

 フェリアは、僕の後に続きメイド服で出てきた。


『現在時刻』


 時刻を確認すると、【22:41】だった。いい頃合いだ。あのとき僕がコンビニに出かけたのも夜の十時半過ぎだったはず。


『ロッジ』


 入り口の扉を召喚して、外へ出る。

 フェリアが出たのを確認して、『ロッジ』を『アイテムストレージ』へ戻す。


【インビジブル】【トゥルーサイト】【フライ】


【フライ】で遮蔽物しゃへいぶつのあまりない上空まで上昇する。

 そこで、夜空を見上げたら、満天の星空が広がっていた。

 あのとき、帰省先の田んぼの真ん中で見たのと同じような星空だ。

 僕は、知っている星座や星を探す。

 月は出ていない。もし、ここが地球なら僕が知っている天体が見えるはずだ。

 北の方角を見ると、Wの形をしたカシオペア座も柄杓ひしゃくのような形をした北斗七星も見あたらない。

 確か、そのどちらかは必ず見えているはずなのだが……。


『これじゃ、北極星の位置が分からないな……』


 天頂方向の空を見てみる。あのときは、夏の大三角形が見えた。

 夏の大三角形を構成するベガ・アルタイル・デネブらしき星は見あたらない。

 あまり明るい星が無いようだ。東の空に一つかなり明るい星が見える。おおいぬ座のシリウスもこれくらいの明るさだったろうか……。


『これは僕の知っている地球の夜空じゃなさそうだ……』


 この星が地球という説が遠のいた。

 僕は、いくつかの星座や有名な恒星は知っているが、それほど詳しいわけではない。

 もしかしたら、地軸がズレた関係で南半球の空を見ているような状態なのかもしれない。

 そういわれてみれば、南十字星っぽい星も見えるが……正直判別はできない。

 月が出ていれば、地球の衛星の月かどうかは分かると思うが、生憎と月は出ていなかった。

 それ以前に月があるのかどうかも分からない。火星のように衛星が2つある可能性だってある。


「フェリア、月って知ってる?」

「はい」

「月は一つだよね?」

「はい、その通りでございます」


『今度、月の出ている夜空で検証するしかないな……』


 僕は、地上まで降りた。


『ロッジ』


 扉を召喚して中へ入る。フェリアが入ったことを確認してから扉を戻す。


「フェリア、明日の昼まで『倉庫』で睡眠を取りたいんだけど」

「畏まりました」


 フェリアは、『倉庫』の扉を出現させた。

 僕は、『倉庫』の中へ入り、


『装備7換装』『フェリア装備7換装』


 僕と続いて入ってきたフェリアの装備を寝間着ねまきに換装する。

 先ほどまで寝ていた毛布に再度くるまり横になる。

 フェリアも毛布を敷いて僕の隣で横になった。


「寝るときって時間指定したら、その時間に起きられるのかな?」

「はい、その通りでございます」

「じゃあ、明日の昼の11時30分まで寝よう」

「お休みなさい、ご主人様」

「おやすみ……」


『昼の11時30分まで睡眠』


 僕は眠った――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 目を開ける。


『現在時刻』


【11:30】丁度だ。


『いつも思うけど、まるでタイムスリップだな』


「おはようございます、ご主人様」


 フェリアは、先に起きていたようで、僕の横でこっちを向いて上半身を起こしていた。

 はだけた浴衣の胸元から大きな乳房が零れ落ちそうだ。


「おはよう、何時起きたの?」

「はい、わたくしは11時に起床いたしました」


 フェリアの家でしていたように徹夜で監視していたわけではないようだ。

 扉を消した『ロッジ』の中にフェリアの『倉庫』を召喚して、その扉も消した状態なので、完全に安全な場所と判断したのだろう。


「そうなんだ? 何かすることでもあったの?」

「いえ、ご主人様の寝顔を見ておりました」

「…………」


『愛が重い……』


「じゃあ、『ロッジ』に戻ろう」

「畏まりました」


 僕たちは立ち上がった。


『装備6換装』『フェリアの装備6換装』


 そして、装備を変更する。僕は普段着用の装備で彼女はメイド服だ。

 彼女が召喚した『倉庫』の扉を開けて、『ロッジ』へ戻った。

 そして、いつものテーブルのいつもの席に座る。


【グレーターダメージスキン】【グレート・リアクティブヒール】


 数時間後の戦闘に備えて、回復系のバフを入れておく。

『魔力回復薬』と『体力回復薬』のポーションも飲む。


「フェリアも回復系のバフとポーションを飲んでおいて」

「ハッ!」


 彼女の身体に回復系魔術のエフェクトによる光が2回起きた後、フェリアは、2本のポーションを取り出して飲んでいる。ちなみに『体力回復薬』は緑色の液体で『魔力回復薬』は青色の液体だ。『女神の秘薬』は確か赤色だったと思う。


 そして僕は、フェリアに今日の作戦のブリーフィングを行う。


「フェリア、本日【14:00】ヒトヨンマルマルから作戦を開始する」

「ハッ!」


 僕のほうも、ちょっと軍隊っぽく説明してしまう。


「昨日の雪辱戦だ。今日こそトロール共を殲滅せんめつして、『妖精の国』へ向かうよ」

「ハッ!」

「作戦内容だけど、まず最初にフェリアが一人で洞窟の中に入り、敵が出てくるポイントまで移動する」

「了解いたしました」

「僕は、洞窟の外の少し離れたところから見ているので、トロールが出てきたら、【マニューバ】を使って入り口のほうへ戻ってきて」


 僕が少し離れた位置に待機するのは、トロール達にこちらの意図を見抜かれないようにするためだ。ひょっとして、入り口付近に人が居ると誘いに乗ってこない可能性があると思ったのだ。


「ハッ!」

「フェリアがこちらに向かうのを確認してから僕も入り口へ向かう。そして君がトロール達に囲まれたら、君を帰還させる。そして、入り口で再召喚する」

「完璧な作戦ですわっ」

「そこで、昨日作成した魔法や装備の出番となる。おそらく、トロールたちは入り口付近に居る僕たちのほうへ殺到さっとうしてくるだろう」

「はい」

「背後に回り込まれない位置で戦えば足止めは十分にできるはずだ。そこで僕が最初に【ヘル・フレイムウォール】を使用する」

「ハッ!」

「この魔法は、僕のMPの8割を消費するはずなので、【ハイ・メディテーション】が発動して、HPが減って【グレート・リアクティブヒール】が発動するだろう。効果が切れたら、HPが7割を切った時点で『回復の指輪』が発動してMPは全快すると思う。フェリアは、【ヘル・フレイムウォール】が切れた後に同じように【ヘル・フレイムウォール】を発動して」

「畏まりました」

「倒せなかった場合、もう一セット同じことをしよう。問題は、【ヘル・フレイムウォール】何発でトロールが沈むかなんだけど……最悪、時間はかかるけど、全て斬り殺せばいいと思う。【ヘル・フレイムウォール】でかなりダメージを与えているだろうし」

「ハッ!」


【料理】→『レシピから料理を作成』


『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』


 僕の右隣の席と僕の席の前に『サンドイッチセット』を出す。

 フェリア、一緒に食べよう。


「……畏まりました」


『今の間は、給仕できない不満からだろうか……?』


 連続で『サンドイッチセット』は止めたほうがいいかもしれない。

 コース料理でも適当に開発して、順番に出すように命令してみたらどうだろうか。

 そういうのに詳しいわけじゃないので、適当に好きな料理を順番に出してきて貰えばいいし。フェリアも給仕らしい給仕ができて満足だろう。


 サンドイッチを摘みながらそんなことを考える。


 僕はサンドイッチを食べ終わった後、コーヒーを飲みながら目を閉じた――。


【料理】→『レシピ作成』


 作戦を決行する2時まで、まだ時間があるので、先ほど浮かんだアイディアを実行することにした。コース料理を作ってみるのだ。バリエーションは追々増やすとして、一品料理としても使えるから意外といいかもしれない。


「フェリア、新しい料理を作ろうと思うんだけど、作ったレシピを君に渡すことはできるの?」

「はい、『レシピをアイテム化』というメニューがございますので、それでトレードでお渡しいただくか、直接アイテムを操作いただければ……」


『「レシピをアイテム化」というのはそういう意味だったのか……』


 気を取り直して、コース料理を作成する。まずは、前菜だったかな。前菜っていうくらいだから、野菜がいいだろう。実際には、手の込んだ創作料理みたいのが出てくるんだろうけど、ここは野菜サラダでいいか。適当にイメージして作る。器も【工房】で作っておいた。マジックアイテムなので、器もフェリアに渡さないといけないだろう。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・野菜サラダ・・・0.32ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


『次は、スープ?』


 お湯を入れて作るようなのしか知らないけど、クルトン入りのコーンクリームスープを適当に作る。好みの味に調整して出来上がった。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・コーンクリームスープ・・・0.38ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


『次は何だろ? 面倒だし、もうメインディッシュでいいか……』


 ちょっと豪華にステーキにする。主食は、パンじゃなくごはんで。

 300グラムの最高級牛ヒレ肉に軽く塩胡椒を振って焦げ目がつく程度に両面焼く。あまり赤いのは好きじゃないので、焼き加減はウェルダンで。焼いた後にアルミホイルを被せて15分ほど寝かせるとおいしくなると聞いたことがあるのでそれを実行するイメージをする。

 ステーキソースは、醤油ベースで肉汁を混ぜて少し温めたものだ。付け合わせは、ポテトとニンジンで。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・牛ヒレ肉のステーキ・・・3.89ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


『やっぱり、肉は高いな……』


『後はデザートかな?』


 ケーキと果物とコーヒーあたりだろうか。


『フェリアを喜ばせるには、これも順番にしたほうがいいんだろうな。個人的には面倒だから、まとめて持ってきて欲しいけど……』


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・いちごのショートケーキ・・・0.48ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・フルーツの盛り合わせ・・・1.15ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・エスプレッソコーヒー・・・0.38ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


 最後に全てのレシピを『レシピをアイテム化』でアイテム化した。


 僕は目を開けて、冷めたコーヒーを飲み干す。


「フェリア、料理のレシピを渡すね」


 そう言って、僕はトレードでフェリアに『サンドイッチセット』も含めて全て渡す。


『現在時刻』


 時刻は、【12:28】だ。


「フェリア、2時までもう少し時間があるから、13時55分まで寝るよ。君も適当に睡眠を取っておいて」

「畏まりました」


 僕は、食器を片付けて、テーブルに突っ伏して睡眠を取った。


『13時55分まで睡眠』


 そう念じて目を閉じた――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 眠ったと思ったら、一瞬で目が覚めた。


『現在時刻』


【13:55】だ。作戦を決行しよう。


 僕は立ち上がる。


『装備1換装』


 戦闘用装備に換装した。


『ロッジ』


 入り口のドアを出現させて、扉から外へ出た。


『――――!?』


 危険を察知して【戦闘モード】が勝手に起動した。

 見ると、みすぼらしい格好をした男が殴りかかってこようとしていた。

 目が虚ろだ。


『ゾンビ……!?』


 反射的に居合い斬りを行う。

 軽い感触と共にゾンビは、白く光って倒れた。


 見ると男の死体が転がっている。

 ゾンビは、元々人間だったため、死ぬと死体が残るのだ。

 そういう意味では、モンスターよりも冒険者や僕たちに近い存在と言えるかもしれない。敵対的だが。


 フェリアが『ロッジ』の中からメイド服姿のまま出てくる。


「ご主人さまっ!」

「大丈夫だよ。扉を開けたらゾンビが襲ってきたんだ」

「ご無事で何よりです」


『フェリア装備2換装』


 フェリアの装備を防御力の高い盾持ち戦闘用装備に換装させてから『ロッジ』の扉を戻した。


【グレイブピット】


 ――ザザーッ……


 倒れている死体の下に【グレイブピット】で穴を掘る。


 ――ドサッ


 死体が穴の中へ落ちた。


 足で周囲の土砂を穴の中へ落としていく。フェリアも手伝ってくれた。

 僕は、埋め戻した墓穴に向かって手を合わせ冥福を祈る。


『じゃあ、作戦決行だ』


 そう言って、トロールの棲む洞窟のほうを見た――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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