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 僕は、フェリアに魔法の作成ができるかどうか聞いてみた。


「魔法の作成って、僕にはまだ無理かな?」

「いいえ、『召喚魔法』のほうがずっと難しいからできるはずよ」

「どうすればいいの?」

「【魔術作成】と念じてみて」


【魔術作成】


 そう念じてみると、視界の中央に【魔術作成】のメニューが開く。


『作成』『改造』『付与』


 というメニューがある。

 一から作り出すのは大変そうなので、『改造』を念じて選択してみる。


『改造したい魔法を入力してください』


 と出たので【フライ】と念じてみる。

【フライ】の改造では、『加速度』と『最高速度』という『変更可能項目』があり、それぞれの項目の横には青いバーが表示されている。

 つまり、【フライ】の改造のポイントは、加速性と最高速度の変更ということだ。おそらく、それらのバーを伸ばすことで通常の【フライ】に比べて高速移動可能な改良型【フライ】を作ることができるのだろう。『加速度』のバーは『最高速度』のバーに比べて半分程度となっているが、どちらも全体から見ると短く感じる。

 試しにバーを『加速を増やす』といった思考でいじってみたところ『加速度』のバーは、『最高速度』のバーを超えて伸ばすことはできなかった。とりあえず、今の『最高速度』は遅すぎると感じるため、10倍にしてみる。『加速度』はどうしようかと迷ったが、いきなり最高速に加速するのも使いづらそうなので、【フライ】と同様に『最高速度』の半分くらいに指定する。


[レシピ作成]


 というボタンがあるので、それをイメージで押す。

 そしたら、新しいウィンドウが出て『名前を付けてください』と表示される。

 魔法の名前にはカタカナとローマ数字と一部の記号しか使えないようだ。したがって『高機動飛翔』のような名前は使えない。

『ハイ・フライ』、『フライⅡ』、『フライ+』など、いろいろと迷ったが、【フライ】は蠅を連想してイメージが悪いので、【マニューバ】と名付けることにした。英語が苦手な僕には、英語としての意味が合ってるかどうか分からないけど、戦闘機の機動などで使われる単語らしい。軍事オタクの友達から聞いた単語だ。そのときにドッグファイトなどの空中戦機動をACM――エアリアル・コンバット・マニューバだかと言うという話も聞いた。


 作った魔法をどう使うのかフェリアに聞いてみる。


「ねぇ、フェリア、魔法を改造してレシピを作ったんだけど、これはどうやって使うの?」

「あなたが、その魔法の刻印を刻みたいのなら、【刻印付与】のスキルを発動してあたしに刻んでくれたら、そのあと、あたしがあなたにその魔法を刻んであげるわ」

「【刻印付与】で自分自身に刻印を刻むことはできないの?」

「【刻印付与】は、自分自身には発動しないようになってるのよ」

「いきなり【魔術刻印】を身体に刻んじゃっても大丈夫なの? 欠陥魔法かもしれないし」

「それなら、その魔法を刻んだ装備を作ってみたら?」

「そういった装備を作るのには、おいくら万円くらいかかるのかな?」


 ちょっとふざけてみると、彼女は笑ってくれる。


「くすっ、なにそれ? そうねぇ……例えば指輪なら、プラチナ鋼に『魔法石』で1万1千ゴールドといったところよ。装備者の魔力を使わずに発動するタイプのものだと、『魔法石』が更に必要になるから、魔力消費量によっては5万ゴールドくらいかかるわ」

「まぁ、実験だし安いのでいいよね」

「ええ」

「じゃあ、例によってその魔法の指輪の作り方を教えてくれるかな?」

「先に素材を購入する必要があるの。【商取引】の『素材購入』で『プラチナ鋼』と『魔法石』を購入してみて」


【商取引】


 と念じて、『素材購入』から『プラチナ鋼』と『魔法石』を買う。『プラチナ鋼』は千ゴールドで、『魔法石』は一万ゴールドだった。


『価格設定が適当だな……』


 そんな感想を抱きながら、テンションを上げてみる。


「買ったよーっ!」

「ふふっ、元気ね。じゃあ、【魔術作成】で『付与』を選んで『魔法石』に作成されたレシピを付与してみて」


【魔術作成】


 メニューから『付与』を選ぶと、『付与するレシピを選択してください』と表示されたので、【マニューバ】と念じる。画面が変わり、『「魔法石」が1個必要です。付与してもよろしいですか?』という表示が出たので了承する。

『「マニューバの刻印石」が作成されました』と出て、無事に作成できたことが分かる。


「刻印石というのができた」

「【工房】の『装備作成』で刻印石を追加した指輪を作成すればできるわ」


【工房】


 と僕が念じると【工房】のウィンドウが視界に開く。


『アイテム作成』『装備作成』『分解』


 というメニューが表示されたので、『装備作成』を念じて選択する。

『作成する装備をイメージしてください』という表示が出たので、『指輪』と念じる。すると、視界に指輪のイメージ映像のようなものが表示される。

 僕が思考するとそれに追従して変形するようだ。とりあえず、シンプルなデザインのプラチナリングを想像して画面上で3次元CGのようなイメージ映像を確認してから『決定』と念ずる。


[作成]と[装備に刻印を追加]というボタンが出たので『装備に刻印を追加』を念じて選択する。『追加するアイテムを選択してください』と出て、リストに『マニューバの刻印石』のみが表示されている。当然のことながら、これ以外に追加できるアイテムを僕は持っていない。


『マニューバの刻印石』を選択すると、元の画面に戻った。今度は、[作成]を選択する。そうしたら、『素材をいくつ使用しますか?』と聞いてきたので、『プラチナ1個』と念じると『装備に名前を付けてください』という表示が出る。

 僕は、適当に『マニューバの指輪』と名付けた。何故か装備品には、カタカナ以外も使えるようだ。


『このシステムを作った人に何でこうなったかクレームを入れたら『仕様です』って返されそうだな……』


最後に『「マニューバの指輪」が作成されました』と表示される。

こうして、僕が初めて作った装備が出来上がった――。


何となく感慨深い感情を感じながら、早速、魔法を試してみることにした。


『装備2』


 立ち上がって、『装備2』に『マニューバの指輪』を追加する。


―――――――――――――――――――――――――――――


 上着:コットンシャツ

 脚:革のズボン

 足:革のブーツ

 下着:魔布のトランクス

 指輪:マニューバの指輪


―――――――――――――――――――――――――――――


 そして、『換装』する。

 僕の身体が光に包まれ『装備2』の装備が装着される。


『マニューバの指輪』


 そう指輪に念じてみると、僕にとってはお馴染みの【フライ】と同じような無重力のような感覚に全身が包まれる。


【戦闘モード】


 念のため【戦闘モード】を起動しておく。そして、ゆっくりと移動してみる。

 僕の身体が空中をスーッと移動する。そのまま、少しずつ速度を速めていく。

 かなりの速度で移動するが、【戦闘モード】を起動している僕には十分にコントロールできそうだ。

【戦闘モード】をオフにしているときは、【フライ】でいいが、戦闘中はこれくらい速くないと実用的じゃないだろう。魔力ゲージを見ると、【フライ】のように全くMPが減らないということはなく、ゆっくり減っているのが確認できる。【フライ】に比べて約10倍の魔力消費だから当然だろう。そう考えるとMP消費は、思ったより少ないくらいだ。もしかしたら、魔力消費は移動速度に比例しているのかもしれない。

 僕は、着地して【マニューバ】をオフにし、【戦闘モード】も解除した。


 ――パチパチパチパチパチパチパチパチ……


「成功ね」


 フェリアが拍手をしている。


『この世界にも拍手があるんだな』


 などと思っていると、


「……ねぇ……大丈夫?」


 無視されたと感じたのかフェリアが僕に問いかけてくる。


「いや、ありがとう。実験は成功みたいだ」

「じゃあ、あたしに刻印して」

「どうすればいいの?」

「あたしがテーブルの上で横になるから、あたしの身体にまたがって【刻印付与】を発動してみて」


 フェリアは、白い光に包まれて裸になった。


「ちょ、服を着てよ」

「刻印する場所は、肌が露出していないと駄目なの。だから、裸が一番なのよ」


『そうなんだろうか? 服をめくればいいと思うんだけど……』


 僕はフェリアに言われたとおり、テーブルの上で仰向けに横になった彼女に跨る。


【刻印付与】


 そう念じると、【刻印付与】のウィンドウが視界の中央に開く。

 この状態では、普段は見えない【魔術刻印】が可視化された。

 フェリアの身体を見ると、シミひとつない綺麗な肌の上に淡く光った【魔術刻印】が浮かび上がっていた。

 刻印は、一円玉くらいのサイズの円形で、携帯端末で読み取るマトリックス型二次元コードのような幾何学模様が刻まれている。その模様は、よく見ると全く同じに見える。この模様に秘密があるのではないのかもしれない。

 もし、そうなら、魔術によって模様に微妙な違いがあるはずだ。例えば、ソフトウェアが書き込まれたROMも見た目は同じチップであっても書き込まれたプログラムによって動作が変わるわけで、【魔術刻印】も外から見ただけでは違いが分からないのかもしれない。


 視界には、『付与する魔法またはレシピを選択してください』と表示がされ、魔法のリストが表示されている。


―――――――――――――――――――――――――――――


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―――――――――――――――――――――――――――――


【サモン】はひとつしか表示されなかった。同じ魔法だからだろう。

【マニューバ】を選択して彼女の身体の刻印が施されていない、左脇の下あたりに手を置いて刻印を刻む。


「んっ」


 敏感な箇所を触られたからかフェリアが声をらす。


「どうかな?」

「ええ、無事に刻印が刻まれたわ。【マニューバ】という魔法が増えているから」

「その魔法は、さっき見ていたから分かると思うけど、【フライ】の上位魔法だよ」

「そうだと思った。【フライ】を気に入っていたものね」

「【戦闘モード】中だと【フライ】では遅すぎるように感じたから作ってみたんだ」

「流石ね。百年以上生きているあたしでも気付かなかった魔法を作ってしまうなんて……」


『単に必要性を感じなかっただけだよね?』


 心の中でツッコミを入れてから、話題を変える。


「じゃあ、次は僕にその魔法を刻んでくれるかな?」


 立ち上がり、フェリアの身体の上から移動する。


「ええ、今度はあなたがテーブルの上に寝て頂戴」

「うつ伏せでもいいかな?」

「いいわよ」

「そういえば、【刻印付与】ってMPを消費するの?」

「ええ、一種の魔法だから魔力を消費するわ。特に【エルフの刻印】や【冒険者の刻印】のような【大刻印】は、魔力消費が大きいわ」


 僕は、上半身裸になって、先ほどまで彼女が寝ていたテーブルの上にうつ伏せに寝ころぶ。

 この魔法は、自己強化型のスペルだから、何処に刻んでも発動するはずだ。

 だったら、背中に刻んでもいいだろう。


 裸のフェリアが僕の腰に跨るのは、ちょっと変な気分になりそうだったが、今は刻印の施術が終わるまで待とう。

 右の肩胛骨の下辺りに手が添えられる。

 そして、フェリアは、僕の上から身体をどける。


「終わったわ」

「ありがとう」


『魔法リスト』と念じて魔法のリストを表示する。


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 確かに【マニューバ】のスペルが増えている。これで、指輪を装備していなくても【マニューバ】が使えるようになったというわけだ。


「ねぇ、一緒にお風呂に入りましょ?」


 フェリアの表情は、真剣そのものだ。


「う、うん……」


『もしかして……?』


 僕も男なので、フェリアとしたくないわけじゃない。でも、なし崩しには嫌だった。

 物事には順序というものがあると思う。まずは、交際から始めるべきだ。


 そして僕たちは風呂へ向かった。


『装備8換装』


 脱衣所で裸になって、引き戸をあけて浴室に入る。そのまま、湯船に入って座った。

 湯船の中でお湯を堪能たんのうする。


「ユーイチ……」


 振り返るとフェリアが湯船の中で両手を頭の後ろに組んで立っていた。


「わっ、ちょ、隠してよ!」

「お願いがあります」


 フェリアの声は真剣そのものだ。


「な、なに?」

「お願いです、ユーイチ様。わたくしに召喚魔法をかけてください!」


 丁寧な言葉で爆弾発言をしてきた。


「本気で言ってるの?」

「勿論です。わたくしは、ユーイチ様の使い魔になりたいのです……」


【サモン1】


 召喚魔法の【魔術刻印】を起動する。

 成功しない確率が高いらしいので、彼女をターゲットにして『発動』と念じる。

 その瞬間、彼女は白く光って僕の前から消えてしまった。


 ――フェリア……?


 まさか、本当に召喚魔法が成功するとは思わなかった。

 しばらく放心していると、テイムした後に召喚できることを思い出す。


『確かテイムした刻印を作動させれば召喚できるはず……』


【サモン1】


 もう一度、念じると何処に使い魔を配置するかのガイドが表示される。さっきと同じ湯船の中で『フェリア召喚』と念じたら、白い光と共に裸のフェリアが湯船の中に現れる。


「良かった……消えちゃったから焦ったよ」

「ああ、ご主人様……」

「でも、どうして……?」

「そうしたかったからですわ」

「でも、使い魔だから僕に何を命令されても逆らえないんだよ?」

「ふふっ……望むところですわ……」


 この日、フェリアは僕の使い魔となった――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 第二章 ―召喚魔法― 【完】


―――――――――――――――――――――――――――――

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