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 家の中に入った僕たちは、玄関近くの4つの6人掛けテーブルがある部屋で並んで椅子に座った。

 僕は、フェリアに先ほどの戦闘について話しかけた。


「それにしても、コボルトがあんなにたくさん居るとは思ってなかったから、最初はビビったよ」

大凡おおよその数を伝えておくべきだったわね」

「あれって、どれくらいの数が居るの?」

「400~500体くらいだと思うわ。そのうちエルダー・コボルトの数は60体程度でしょうね」


 思ったよりも少なかった。脳内のイメージが割り増しされているのだろう。

 しかし、雑魚とはいえ、それだけのモンスターを倒せたのは僥倖ぎょうこうだったと思う。僕が戦士だったら、この戦果は無理だったかもしれない。戦士でも時間をかければ、500体くらい倒せるのかもしれないが、囲まれてフルボッコにされた可能性もある。重要なのは、安全に時間をかけずに倒せたということだ。


「明日になったら、復活するんだよね?」

「ええ、モンスターは死んでから約24時間で復活するわ」

「それって死んだと言えるのかな……」

「召喚魔法のような原理で復活していると考えられているわ」

「それは、どういう?」

「召喚された使い魔が死亡した場合、自動的に帰還して約24時間後に再度召喚可能となるのよ」

「そういえば、召喚魔法ってどの系統の魔法なの? 僕には使えないみたいだけど……」

「召喚魔法は、使い手がほとんど居ないため失伝してしまった魔術よ。あたしの母が最後の伝承者だったみたい。魔力系の魔術で使用時に物凄い魔力を使うから、刻印を持っていたとしても使える人は滅多に居ないでしょうね」

「じゃあ、僕には使えないってことか」

「いいえ。あなたなら、そのうち必ず使えるようになると思うわ。刻印は既に刻んであるから」


 僕は、『魔法リスト』と念じて魔法のリストを表示する。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・マジックアロー

 ・ナイトサイト

 ・スリープ

 ・トゥルーサイト

 ・シールド

 ・レビテート

 ・フェザーフォール

 ・テレスコープ

 ・ダメージシールド

 ・フライ

 ・インビジブル

 ・レーダー

 ・マジックシールド

 ・エクスプロージョン

 ・マジックミサイル

 ・グレート・シールド

 ・グレート・ダメージシールド

 ・グレート・マジックシールド

 ・ハイ・エクスプロージョン

 ・サモン1

 ・サモン2

 ・サモン3

 ・サモン4

 ・サモン5

 ・サモン6

 ・サモン7

 ・サモン8

 ・フレイムアロー

 ・アイスバレット

 ・エアカッター

 ・ストーンバレット

 ・ウィル・オー・ウィスプ

 ・ストレングス

 ・アジリティ

 ・ウインドブーツ

 ・リジェネレーション

 ・ファイアボール

 ・ライトニング

 ・ウインドバリア

 ・エアプロテクション

 ・フレイムウォール

 ・ストーンウォール

 ・エレメンタルヒール

 ・グレイブピット

 ・ファイアストーム

 ・ブリザード

 ・ヴォーテックス

 ・ロックフォール

 ・グレート・ストレングス

 ・グレート・アジリティ

 ・メディテーション

 ・ヒール

 ・ライト

 ・フラッシュ

 ・ダメージスキン

 ・ホーリーウェポン

 ・ミディアムヒール

 ・リアクティブヒール

 ・グレーターダメージスキン

 ・グレーターヒール

 ・エリアヒール


―――――――――――――――――――――――――――――


【サモン1】~【サモン8】というスペルが増えている。名前からして召喚魔法だろう。

 何で8個もあるのか分からないが、『装備1』~『装備8』のように複数ないとあまり意味がない魔法なのだろうか。


「今、リストを確認したら、僕も召喚魔法が使えるようになったみたいなんだ。【サモン1】~【サモン8】というスペルが増えてるから……」

「もう、召喚魔法が使えるようになったの? 凄いわ!」

「じゃあ、召喚魔法について教えてくれるかな?」


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『召喚魔法』――【サモン】――は、レベルが設定されていないランク外の魔力系魔術で、使えるようになったばかりの術者ではMPの9割とかを消費して発動する魔力消費が桁違いに大きな魔術だそうだ。

 魔法を発動する対象はモンスターで、一つの刻印につき一体のモンスターを使い魔にすることができるようだが、成功の確率が非常に低く、膨大な魔力消費と相まってエルフの歴史の中でも『欠陥魔法』と言われていたようだ。そのため、次第に伝える者が少なくなり、『エルフの伝承者』の間でも失伝してしまった魔法の一つらしい。

 フェリアの母親の部族では、失伝されずに伝承されていたようで、数人の伝承者が存在したようだ。

 フェリアは、伝承者の一人だった母親から刻印を受け継いだ。

 彼女自身は、母親から『召喚魔法』の刻印を一つだけしか刻まれていないらしい。

 しかし、何故か彼女は、僕に8個もの刻印を刻んでくれた。話を聞く限り、あまり有効なスペルではないようなのだが、彼女には何か考えがあるのだろう。


 馬の『アーシュ』は、フェリアの使い魔だが、これは彼女が『召喚魔法』が使えるようになったときに『アーシュ』に対して使ってみたところ、一回で成功したそうだ。

 そのことで、彼女は『召喚魔法』の真髄しんずいに気付いたと僕に語った。つまり、『召喚魔法』は対象が術者に対して好意を持っている必要があるというのだ。それも単なる好意ではなく、術者に対する絶対の信頼を持っていて初めて成功するという説をフェリアはとなえている。確かにそういう傾向はあるのかもしれないが、たった一つの事例で決めつけてしまっていいのかと僕は思う。


 テイム――これは僕が勝手に召喚魔法で対象を使い魔として取り込む行為について名付けた用語だ――した使い魔は、同じ刻印を発動することで、術者の近くに召喚できる。

 召喚にMPは消費しない。帰還もいつでも可能で、リキャストタイムもなくすぐに再召喚が可能らしい。

 これは、マジックアイテムを『アイテムストレージ』から出し入れするのと似ているようだ。ただし、マジックアイテムは、素材に『分解』したり、誰かに譲渡することが可能だが、使い魔はテイムしたときの刻印に結びついているため、一度テイムした使い魔を削除したり、別の使い魔と入れ替えたりすることはできないそうだ。

 つまり、召喚魔法でテイムしたモンスターは、【魔術刻印】につき1体のみで、削除も入れ替えもできないということだ。


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 なかなか夢が広がる魔法だが、実際には『欠陥魔法』と言われているほど使い勝手が悪いみたいだし、使うことはまずないだろうと、この時の僕は考えていた――。


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