プロローグ

プロローグ


 ――『使い魔』という存在ものをご存知だろうか?


 物語に登場する使い魔は、黒猫だったりフクロウだったりするが、あるじである魔法使いや魔女の忠実なしもべである点に変わりはない。

 はたから見れば、主に代わって雑務を行う哀れな存在だが、使い魔たちにとっては、それこそが誇りなのだ。

 契約で縛られ、主の命令に従うことだけが生き甲斐の者たち、それが使い魔である。


―――――――――――――――――――――――――――――


 僕の名前は、伊藤雄一いとうゆういち

 茨城県に住む16歳の高校生二年生だ。


 今日は、8月15日――。


 そう、お盆だ。


 僕は、一昨日おとついから家族と共に宮城県にある母方の親許おやもとへ里帰りに来ていた。

 毎年恒例の行事で、明日16日の朝には、車で出発して家に帰る予定だ。


 僕は夕飯を食べた後、客間で暇つぶしにスマホのゲームをしていた。インドア派の僕には、この里帰りは退屈な時間が多かった。妹の優子ゆうこは、買い物に連れて行ってもらったりして、それなりに楽しんでいたようだが、僕にはパソコンや据置型ゲーム機が無い生活は、たとえ数日でも耐えがたく感じてしまう。


 二時間ほどゲームをやっていたら飽きてきたので、僕はゲームのアプリを終了させた。

 アプリが閉じたデスクトップに表示された時刻は、夜の10時を過ぎたところだった。


『コンビニにでも行ってこようかな?』


 何となくアイスが食いたい気分だった。

 ハンガーに掛けてあったジャケットを取って羽織る。

 スマホを内ポケットに入れ、ふすまを開けて廊下に出ると、お風呂から上がってきたらしいパジャマ姿の優子が廊下を歩いてきた。優子は、僕の二歳年下で中学三年生だ。


「お兄ちゃん、お風呂空いたよ」

「コンビニに行ってくるから、帰ったら入るよ」

「こんな遅くからコンビニ?」

「遅いって、まだ10時過ぎだろ」

「田舎だから外は暗いわよ」

「お前、田舎を馬鹿にし過ぎ。LEDの街灯がそこら中にあるから大丈夫だって」

「ふーん、じゃあアイス買ってきて」

「分かった。どんなのがいいんだ?」

「いちごバーがいい」

「了解」

「いってらっしゃい、気を付けてね」

「ああ」


 僕は、玄関で靴をいて外に出た。両親や祖父母に見つからず外に出られてホッとした。

 両親に見つかったら、もう遅いから止めておけとか、こんな時間からアイスを食べたら腹を壊すとかやかましく言われるのが目に見えていたからだ。

 祖父母の家の前には、普通乗用車がギリギリすれ違えるくらいの道幅の道路が通っている。

 電柱に設置されたLEDの街灯が何十メートルか置きにあるので、その道路はかなり明るかった。


 しばらく歩くと片側二車線の大通りに出た。

 この大通り沿いには、交差点から右に行っても左に行っても近くにコンビニがあった。

 右に行ったところのほうが若干近いのだが、大通りを横断しないといけないので、左に曲がって大通り沿いに歩道を歩いていく。


 僕は、5分ほど歩いて目的地のコンビニに辿り着いた――。


 ◇ ◇ ◇


 アイスを2つ買い物かごに入れてレジへ向かう。僕の分は、チョコレートをたっぷり使った円錐形のコーンに入ったアイスにした。妹に頼まれたイチゴ味のアイスと一緒に購入する。

 支払いをスマホの電子マネーで済ませてから外へ出た。


 コンビニを出て、帰り道の方向に大通りに沿って歩道を道なりに移動する。

 少し歩くと車一台がギリギリ通れるくらいの狭い横道を見つけたので、少し散歩をして帰ろうと右に曲がりその道へ入った。道は一応舗装されていて、少し進むと両側に田んぼが広がっているので農道の類だろう。

 田んぼには、まだ青い稲穂いなほが一面に広がっていた。その農道は薄暗かったが、少し離れたところに街灯があるので道を歩くのに支障はない。地面から視線を上げると向こうに大通りから一本入った通りが見える。あの通りを左に行けば、祖父母の家の前の道へ抜けられるだろう。

 この時間でも大通りには車がそれなりに行き交っていたが、通りを一本中へ入れば車もあまり通らないようだ。


 空を見上げると都会ではまず見られないような星空が広がっていた。真上付近に夏の大三角形が見え、北東にはWの形をしたカシオペア座が見えた。


 ふと、風の流れを感じて背後を振り返ってみると、田んぼの中に光が発生していた。

 本能的に感じた危険信号かゾクッと悪寒が走ったと同時に光が大きくなり、物凄い勢いでその光に吸い込まれた。


「うわぁぁぁぁー!!」


 これまでの人生で上げたことのない悲鳴を大声で上げながら光に吸い込まれた先で目に入った光景は、草原と青空だった。


 錐揉きりもみ状態で、空中から放り出されて背中から地面に叩きつけられる。

 ドンッと全身に衝撃が走り、息が出来ない。


『僕は……死んじゃうのか……?』


 そして、僕は意識を失った――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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