僕は異世界で使い魔を召喚する ~とある高校生の異世界見聞録~

久我島謙治

第零章 ―八番目の使い魔―

第零章 ―八番目の使い魔―


 第零章 ―八番目の使い魔―


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 ――辺りは真っ暗だ。


 ここは陽光の届かない闇の世界。

 地球で言えば、極地方で見られる極夜きょくや――日中でも日が沈んだ状態、反対は白夜びゃくや――が年中続く地域だ。月も出ていないため、辺りは真っ暗闇だった。


【ナイトサイト】


 一時的にオフにしていた【ナイトサイト】の魔術を起動した。


 その暗闇の中に中世の城のような石造りの城がそびえ立っている。

 城の敷地内に雪は積もっていないが、城の敷地外は真っ白な雪景色だ。

【ナイトサイト】の魔術を起動したので、今の僕には、完全な暗闇でも曇った日の昼間くらいの明るさで周囲が見えている。


 僕の眼前には、巨大な門があった――。


 目の前にある門は、高さが5メートル以上ありそうだ。

 門の扉は両開きで、巨大な取っ手が3メートルくらいの高さに付いている。取っ手は、輪っかのようなリング状の金属が吊り下げられたタイプだ。


【フライ】


 僕は、【フライ】の魔術を起動する。

【フライ】は、その名の通り飛行魔法だ。

 魔法で空中に浮かび上がり、リング状の扉の取っ手を両手でつかんで手前に引いた。

 すると、思ったよりも簡単に扉が開いた。


 そのまま飛行して城の中へ入る。

 扉は、僕の背後で自動的にゆっくりと閉じた。


 中に入ると広い空間が広がっていた。

 左右の幅は30メートルくらいで、奥行きは50メートルくらいある。

 天井までの高さも20メートルはありそうだ。【スケール】の魔術を使えば、かなり正確な長さが測れるのだが、そこまでする必要はないだろう。


 エントランスの階段の奥には、幅5メートルくらいの赤い絨毯じゅうたんが奥まで続いている。

 奥には、玉座のような豪奢ごうしゃな椅子があり、女性が座っているようだ。

 その左右に部下だろうか、10人くらいの女性が並んでおり、更に絨毯の左右には蝙蝠のような羽根を持った女性が左右に合計30人くらい並んでいる。


【テレスコープ】


 僕は、【テレスコープ】の魔術を発動して視界を拡大した。

 そして、ゆっくりと絨毯の上を飛行して玉座に接近する。


 視界を拡大して観察すると、玉座に座った女性も左右に並んだ女性も頭に角と悪魔のような尻尾を持っているのが見える。

 中央の女性の左右に6人ずつ女性が並んでいるので、13人の女性たちが玉座の周囲には居るようだ。


 少し手前の絨毯の左右に並んだ羽根の生えた女性たちは、数えてみると片側16人だった。

 蝙蝠こうもりのような羽根を持ち、悪魔のような尻尾が生えている。角は生えていないようだ。ゲームなどで登場するサキュバスのイメージにそっくりだった。身に着けているのは、紐水着のようなデザインの黒い革のボンデージだ。大きな乳房が面積の少ない衣装からはみ出している。そして、その32人のサキュバスは、全く同じ姿をしていた。


 接近してきたので、【テレスコープ】をオフにする。

 サキュバスたちは、僕を興味深そうに眺めている。

 身体を見せつけるように挑発的なポーズをとる者までいた。


 玉座に近づく――。


 玉座に座る女王のような女性は、長い黒髪に羊のような角が左右の側頭部に生えている。酷薄そうな印象の凄い美人だ。身長は、170センチ弱の僕よりも高そうだ。

 サキュバスほどではないが、この女性も露出度の高い衣装を着ていた。

 肩紐のない黒革のボディコンスーツのような衣装でスカート部分には左右にスリットが入っている。組んだ脚の隙間からは、黒い革の下着が見えている。脚には、黒革のニーソックスと黒革のブーツ、背中には、裏地が赤色の黒いマントを羽織っている。


 更に接近すると、玉座に座る女性の前に左右から2人ずつ、4人の女性が出て来た。護衛だろうか?


「止まれ!」


 4人の護衛のうち、アダマンタイトらしき材質の青みがかった黒い金属鎧を身に着け、3メートルくらいのハルバードを持った女性が警告を発した。

 僕は、それに従い停止した。


 玉座に座る女王のような女性が僕に話しかけてきた。


「デーモンの群れを退しりぞけ、よくぞ此処ここまで辿たどり着いた」

「あなた達は何者なのですか?」

「我らは魔族じゃ」

「人間という種族をご存じですか?」

「見たことはないが、東のほうに多く棲息する脆弱ぜいじゃくな生き物じゃろう?」

「僕も人間なのです」

「何じゃと? 人間風情がわらわに話し掛けるとは無礼千万! やれ!」

「「ハッ!」」


 ――どうやら対応を間違えたようだ……。


 最初に警告してきた金属鎧を身に着けた魔族の女性が前に出た。

 かぶとは装備しておらず、ウェーブした長い金髪の美人で玉座に座った女性と同じような角が生えている。

 身長は180センチメートルを軽く超えていそうだ。もしかしたら、190センチメートルくらいあるかもしれない。


「私は、エリーザ様にお仕えする四天王が一人、カサンドラ」


 僕は、口上を述べるカサンドラを無視して、少し横に移動して背後に座る女性を見る。


「ねぇ、四天王を倒したら、僕のお願いを聞いてくれますか?」


 僕は、カサンドラの背後に座る女王エリーザに聞いてみた。


「よかろう。そのようなことは、あり得ないじゃろうがな……」


「参る!」


 カサンドラがハルバードを振りかぶって突進してきた――。


 危険を感じて意識がカチリと切り替わる。【戦闘モード】が自動的に発動したのだ。

 その瞬間、カサンドラの動きがスローモーションに見えるようになった。

【戦闘モード】により、意識が加速したためだ。


【ハイ・マニューバ】


 僕は、高機動飛行魔術の【ハイ・マニューバ】を起動した。

 同時に起動した【エアプロテクション】は、オフにする。【エアプロテクション】が掛かっていると、周囲の音が聞こえなくなるためだ。

 カサンドラが接近してハルバードを振るってきたので、【ハイ・マニューバ】の高速移動で右斜め前にかわしながら、抜刀斬りを見舞う。意識が加速した状態なので、体を動かすと抵抗のある水中で動くような感覚だ。


 ――ガキン!


 アダマンタイトの金属鎧を切り裂き、本体にダメージが入った手ごたえを感じる。

 次の瞬間、カサンドラは白い光に包まれて消え去った。


「な、なんということじゃ……。たった一撃でカサンドラを倒すとは……」


 エリーザが玉座で驚いている。


 残りの3人が前に出て来た。

 3対1で戦うつもりのようだ。

 今度は、口上をしてこなかった。


 3人の魔族を観察する――。


 一人は、金髪のショートカットに黒い革のボンデージのような服装でムチを持っている。

 二人目は、長い黒髪のポニーテールに濃い紫色のドレスを着て杖を持っている。魔術師タイプだろうか?

 最後の一人は、金髪のセミロングで黒い革のビキニのような物を着ている。

 魔族は、多くが黒い革のボンデージのような衣装を着ているようだ。

 黒ビキニの女性は、手にナックルと手甲を合わせたような篭手こてと足には金属で補強した革のブーツを装備している。格闘タイプなのだろうか?

 3人とも背が高く、玉座に座った女性と同じような角が生えていた。


 カサンドラと呼ばれていた金属鎧の女性を一撃で倒したせいか、3人は警戒して接近して来ない。

 杖を持った女性が、僕に向けて【ファイアボール】の魔術を放ってきた。

 魔法は、確かに速度が速く避け辛いのだが、【戦闘モード】を起動した僕にはスローに見えるため、余裕を持って回避できる。


 ――ドォーンッ!


 僕が居た地点に【ファイアボール】の火の玉が着弾して爆発した。

 ただ、これは高速移動できる飛行魔法を使っているから出来る芸当だった。

 地面に足をつけて戦う場合は、ジャンプをするしか回避する手段が無い。

 左右に避けるにしても、高速で移動しようとすれば、かなりの距離を跳んでしまうことになる。

 最小限の動きで高速に飛翔する物体を避けるのは難しいのだ。上半身を移動させるだけで躱せる攻撃ならともかく、【ファイアボール】のようなバスケットボール大の火の玉が高速で飛んできて、地面に着弾すると爆発するような魔法を戦士が避けるためには、大きく跳躍ちょうやくするしかないだろう。


 僕が避けたのを見て、鞭を持った女性が攻撃してきた。

 鞭の攻撃は、リーチが長く回避されにくいものの、あまり大きなダメージを与えられないため、冒険者の間では人気のない武器だ。持っていても牽制けんせいのためということが多い。


 僕が躱すと、連続で鞭を振るって攻撃してきた。

 僕は、攻撃に合わせて鞭の中ほどを刀で斬った。


 鞭が切断される――。


 短くなった鞭は、白い光に包まれて消え去った。彼女の『アイテムストレージ』へ戻ったのだ。

 それを見て呆然としている金髪ショートカットの女性に【ハイ・マニューバ】を使って間合いに飛び込み袈裟斬けさぎりに刀を振るう。

 女性は、驚いた表情のまま、白い光に包まれて消滅した。


 僕が間合いを詰めたため、近くに居た金髪セミロングの女性が僕に鋭い回し蹴りを入れてきた。

 僕は、その回し蹴りを屈んで躱した。屈む動作を飛行魔法でアシストしないと回避できないくらい高速な攻撃だ。

 そして、僕は魔族の女性の軸足を払った。


「くっ!?」


 ――ドサッ


 女性が転倒する――。


 僕は、倒れた女性に刀を突き刺した。

 女性は、白い光に包まれて消滅した。


 ドレスを着たポニーテールの女性を見ると、彼女はニヤリと笑みを浮かべた。

 彼女が後ろへ跳んだのを見て、僕は【ハイ・マニューバ】でバックダッシュをする。

 僕が居た地点に上から大きな岩が落ちてきた。


 ――ズドンッ!


 轟音と共に床が振動した。

 これは、【ロックフォール】の魔術だ。

 直径2メートルくらいの岩を出現させる精霊系の攻撃魔法だった。


 ――岩は、着弾したあと、すぐに消滅するはずだ。


 その間を狙って岩に向かってダッシュする。

 岩が消え、そのまま僕はポニーテールの女性に接近して横薙よこなぎの一撃を見舞う。

 女性は驚いた表情のまま、白い光に包まれて消え去った。

 おそらく、岩の中から僕が現れたように見えたのだろう。


 魔族の四天王を倒した僕は刀をさやに収め、魔族の女王エリーザの前に移動する。

 エリーザの表情は引きつり気味だ。


 外套がいとうのフードを上げて顔を見せた。


「僕の八番目の使い魔になってください」


 僕は、魔族の女王エリーザにそう告げた――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 第零章 ―八番目の使い魔― 【完】


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